13.縄による緊縛という結びの思想・四十八手 (5) <初期の段階 ―和製SMの終焉―> 借金返済で弁護士に相談



縄による緊縛という結びの思想・四十八手

(5) <初期の段階 ― 和製SMの終焉 ―>



人間存在には、生存のための四つの欲求、食欲・知欲・性欲・殺傷欲の存在がある、
この認識に立てば、<サディズム・マゾヒズムの概念>は、
殺傷欲があらわす暴力的現象を、
性欲の属性である性的官能を絡めて見ていることに過ぎないことがわかる。
性的官能が視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚と同様に、
常時活動しているものとして理解することができれば、
その<絡めて見ていること>に複雑な様相が際立つことは、
<心理過程>を重ね合わせていることにあることがわかる。
この<心理過程>というのは、どの程度において、
科学的観察として見られていることにあるかに依っては、
<サディズム・マゾヒズムの概念>を<宗教性の概念>以上のものとはさせない。
人間に殺傷欲があるか否かという認識は、
人間は動物存在の一種であると見なすことにあれば、
哲学的理由も、宗教的理由も必要なく、自然な認識となることにある。
しかしながら、<人間性>は、<神的存在>の創造に依ることにあれば、
地球上に棲息する他の動物と人間は、同じ動物でありながら、区別されるものになる。
人間は、他の動物と区別される、特有の進化を遂げた固有の動物と見なすことになる、
<人間様>は<畜生>とは違う、という自覚に置くことをする。
<畜生>があらわす殺傷欲のありさまと同様のありさまが行われても、
人間は、独自な存在であるという自負は、他の動物を家畜にしたり、屠殺して食物にしたり、
利益優先に無際限に殺戮すること等で示される、権力と支配の行使が確認させることにある。
人間には殺傷欲があるという認識は、人類の創始からの自覚にありながら、
他の動物と区別すべき<人間性>の創出は、それを容認することはしても、
人間存在の認識の前提とすることは避けられてきた。
その理由は、殺傷欲を前提とすることは、
人間における、すべての殺傷・殺戮行為を必然的と見なすということにあって、
群棲する人間を<社会>という集団へ結束させるには不都合が生じることにある。
個人としての殺傷・殺戮の自由意思が肯定されることは、結束を<一義>とさせる、
健全としてあるべき<社会>の構成の統一を阻害し、
生と死を司る、<神的存在>と同格が示されることにあるからである。
しかし、それは、<神的存在>を<絶対>として始める思考にあるからであって、
<絶対>の概念を<神的存在>に置くことをしなければ、成立しないことでもある。
<神的存在>が<絶対の概念>である、<キリスト教の概念>へ根拠を置く限り、
<反SM>ということはあり得ても、<SMの概念>から超脱することができない理由は、
<神的存在>が<一義の概念>とされることに依って、統括されていることにある。
<一義の概念>という基礎を否定することは、体系全体を揺るがすことになる。
<サディズム>の語源となった、マルキ・ド・サドがその文学表現において示そうとしたのは、
その<神的概念>を四つの欲求、食欲・知欲・性欲・殺傷欲の放埓を通して否定することで、
国家の革命を超えて、人間の革命を願望して、
<自然へ帰れ>と同様な人間の本然を提唱することにあったことを見れば、
現在の<SMの概念>の存在とは、みずからの首へ縄を掛けてしまったことでさえある。
何故ならば、<SMの概念>からの超脱が必要とされるのは、
家庭内暴力、幼児虐待、学校内いじめ、セクシャル・ハラスメント……
どのような場合の事象にも、人間が性を所有する動物にある以上、学術が定義する限り、
加虐嗜好・被虐嗜好が<肉体という性><精神という心理>の属性として見なされることは、
それ以外にはあり得ないという、<必然的な行為>として理解せざるを得ないことにあり、
虐待・強姦・殺害の明確な根拠を確認できる方法として用いることを可能とさせることにある。
加虐・被虐のあらわされる、すべての暴力の事象へ適用できることは、
加虐・被虐の暴力は、みずからでは統御できない、<性と心理>の結果として、
当然としてある、<人間の行動>として正当化させることになる。
<いじめ>というありようが根絶できることでないことは、
人間は個として誕生し成長し死滅するという過程にあって、個と個の相対としてある関係は、
言語による概念的思考に依って作り出された、それぞれに固有の価値観をもって、
それぞれが求める整合性を見い出すことにあるということでは、
その整合性の一致は、言語の未発達にある以上、完全にはあり得ないことから、
その整合性を言語における偏執表現や暴力の実際表現によって獲得することになることにある。
従って、言語による概念的思考とその表現力に、脆弱の傾向が示される場合は、
<いじめ>という整合性の表現へ導かれやすい状況が作り出されることは、
<いじめ>が<社会>に蔓延することを減少させるためには、
<多義・多種・多様>にある、言語による思考過程を常態とすることへ向かわせる以外にない。
しかしながら、<多義・多種・多様>の思考過程による言語表現というものは、
<創造的行為>を含むことにあれば、容易にはいかないことにある。
<一義の概念>の有用性は、そこに発揮される所以である。
どのような形態の時代にあっても、主流の多数に対しての少数の反対意見は、
<社会>における、<一義の概念>に支配されるありようの実態を判断させるための必要不可欠である、
対立概念が生じない、容認されない、棄却されるというありようにあれば、専制である。
<一義の概念>の有用性は、群棲する個を集団としてまとめ、
集団となった大衆をひとつの方向へ向けることに効果があり、
脅威となる他者の存在があれば、その相手と戦闘する大義を作り出すことも可能であり、
ひとつの方向へ向けられた消費を大衆が容易とする状況を作り出すこともできる。
大衆が特定の<一義の概念>へ<模倣・追従・隷属>をあらわす傾向は時代の風潮にあるが、
<模倣・追従・隷属>をあらわすように強制されることにあれば、国家主義の圧制となる。
現在、六十九億余の人口にある、
人類のひとりひとりが<多義・多種・多様>の思考過程による<創造的行為>にあることは、
人類の創始以来、これまであり得なかったように、これからもあり得ないことは、
人間は群棲する動物という存在に過ぎないことからである、
どのような夢や希望や願望が語られても、各自は、
誕生し成長し衰退し死滅していく、ひとつの動物の個体としてあることに過ぎないからである。
<創造的行為>は、群れから離れるような考えを抱く、限られた人間において行われることでしかない、
人類史はそのように教えている、それは決して変革できないありようであるとさえ見える、
その切実とした実態から眼をそむけるために考え出されたものとしての<娯楽>である。
<娯楽>は、楽観の<似非現実>を作り出すことによって、悲観の<現実>を生き抜くための方法である。
従って、<娯楽>の観点から<現実>を考察していることにおいて、
語られる夢や希望や願望は説得力を持つことがある、ということでしかない。
<非現実的夢想>を作り出すことが<娯楽>の存在理由であれば、
<非現実的夢想>として享楽していることが実態であり、それ以上の事柄がないことは、
<娯楽>は、大衆の夢・希望・願望に応じての同伴者となるように作り出されることにある。
大衆の人気に応じて、大衆の人気が向くように、大衆を向かわせる、<創造的行為>のあることである。
<SMの概念>も、<娯楽>の立場から取り扱われることにおいては、
他愛のない一時の性欲の満足、という有用としてあることのように見受けられる。
しかし、人間存在にあっては、動かし難い、性欲と性的官能へ働き掛けられる表現としては、
それが<娯楽>であってさえも、心理へ及ぼす影響は避けることができない点が問題になる。
ひとりの心理へ及ぼす影響は、<社会>にあっては、相関する、もうひとりへ波及する、
<娯楽>の立場からは、<SMは、市民権を持った>などと言われることも、
<実態>は、<SMは、いじめに行為の正当化の権利を与えた>と言えることにもなる。
<娯楽>の果たした有用性からすれば、その経済効果において、称揚されることにあっても、
それ以外の場合へ及ぼした影響が金銭ほど明確な数値となってあらわれなければ、
もとより、<社会>的には、<猥褻>とされることにあり、
<性の事象>の忌避・無理解・不可解として見過ごされることは、
良識が働いているときでさえも、性的官能は活動していることが実際であったとしても、
良識は、<性欲>と無関係にあってこそ、品性のあかしとなることにある。
問題は、眼に見えるほど、単純ではない、問題は見えるようにあらわれるとは限らない、
同一の事物や事象を眺めていても、何処にその見地を置いて始めるかに依っては、
白も黒となり、黒も白となることがあり得る。
<SMの概念>が抹消された、<現段階>において、
それまでの<日本>の事情も、<初期の段階>となることは、以下のように示されることにある。


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最初に、<初期の段階>の適応範囲を定めることにあるが、
それは、西洋の<SMの概念>に準じたありよう、それから、
<模倣・追従・隷属>をあらわした時期にあたるという観点から見れば、
<SMの概念>が示される、クラフト=エビングの『性的精神病理』は、『色情狂編』として、
日本法医学会と春陽堂により、明治27年(1894年)の刊行が最初であるとされているから、
明治政府により発禁処分とされた経過にあるが、これを始まりとすることができる。
大正2年(1914年)、『変態性慾心理』として、再度刊行されたときは、
<大正デモクラシー 1910年代〜1920年代>と称される、政治・社会・文化に渡って、
民主主義・自由主義の思潮・運動が風潮を作り出していた時期にあたり、
その著作を契機に、<変態性慾>の流行というものが生まれて、
文学者から民俗学者に及んで、<変態>について、活発な論考があったとされている。
<変態>の語は、精神医学用語から俗語へ、大東亜戦争後は、法律用語にまで用いられて、
欧米からは、日本の<SM性風俗>を<HENTAI>と表現されるまでに至っていることにある。
伊藤晴雨が妊娠の妻を逆さ吊りにした演技は1921年、『責の研究』は1928年にあたり、
江戸川乱歩の小説にあらわれる<SMの概念>は、始まりの『D坂の殺人事件』は1925年、
有名な『陰獣』は1928年、後に詳述される、『盲獣』は1931年である。
須磨利之の全裸を縛られた母の目撃という<幼少体験>も、昭和初年(1926年)とされることにあり、
男性が女性を縄で縛って行う性行為は、江戸時代の<江戸四十八手>から存在していることにあれば、
<縄による緊縛>によって、男性の加虐から女性が被虐に晒されるありようが<変態>として、
<SMの概念>へ結び付けられたことも、この時期にあたると見て差し支えない。
大正末期から昭和初期は、 <エロ・グロ・ナンセンス(扇情的・猟奇的・荒唐無稽)>という表現が流行したが、
死者・行方不明者が10万5千余とされる、関東大震災は、大正12年(1923年)のことにあり、
<大正デモクラシー>以降の風潮は、国家が帝国主義・軍国主義へ導かれて、
文化統制の行われるまで、扇情的・猟奇的である、<SMの概念>を育んだ経過と言える。
この経過を西洋の<SMの概念>に準じたありようとして見ることは、
<模倣・追従>にはあっても、<隷属>にまでは至らなかったことは、岡倉天心を先人として、
政教社の三宅雪嶺などの<欧化主義>に反対する立場の存在が明確にあったことを考慮している。
<欧化主義>とは、日本の文物・制度・風俗・習慣を西洋化して、国際法の適応として、
日本が近代化した文明国であることを欧米諸国に認知させる、明治政府の政策にあったが、
その<文明国>の意義は、あらゆる学術の分野へ及んだことは、
認識・考察・分析・生産・製造の方法として、<西洋思想>へ模倣・追従することは、
それが時代の先端思想にある以上、当然のありようとなることは、避けられないことにあった。
対立して競争する相手と同等の兵器や軍備を所有することは、
帝国主義・軍国主義へ向かう以上、必至となることでしかなかったということにある。
前面に出された民族主義の国粋にあっては、言葉の意味で<欧化主義>は影をひそめたが、
実態は、<西洋思想>の産物と同等のありようを獲得するために邁進する、という矛盾がある。
それが矛盾と言えるのは、大東亜戦争の敗戦によって、
その<欧化主義>は、<戦後民主主義>と言葉を換えられて、見事に再生されたことで、
明治維新以来の日本の志向は、依然として、変化がなかったと見ることができることにある。
アメリカ合衆国の日本研究は、<欧化主義>を認識していたはずであるから、
連合国占領軍ではあったが、アメリカ主導の<GHQ>の戦後処理には、
日本の志向としての<欧化主義>と<アメリカ主義>を重ね合わさせる手管が含まれていたことは、
<WGIP 戦争犯罪を自責するための情報計画>という存在があったことまでを考慮すると、
<戦争罪悪の認識>は<大東亜戦争に至るまでの国粋の日本思想の否定>となり、
<アメリカによって形作られた民主化>の指導により、
<アメリカによって形作られた政治・経済・文化>を模範として、
<西洋思想>へ<模倣・追従・隷属>を行うことすれば、
戦後復興は成し遂げられるという道筋の引かれたことであったと見ることができる。
すでに受容されていた、<SMの概念>も、同様の道を歩むことになるのは、
大東亜戦争の敗戦を境に、<初期の段階>は、前期・後期として分けられる意義をあらわすことになる。
従って、1894年を始まりとして、1945年に至るまでの51年間を前期、
後期は、1946年から2011年の65年間となる。
2011年は、<最後の花火>となった、団鬼六の表現活動の終わりである、
作家の死の平成23年(2011年)5月6日をあらわしている。
これは、また、<縄による日本の緊縛>において、<現段階>の開始された、
<縄による緊縛という結びの思想・四十八手 1〜4>の掲載日にあたる、
2011年4月9日と交錯することにあるが、それは、因縁と言うよりは、<同時代性>であることは、
岡倉天心や政教社の三宅雪嶺などを先人とする、<欧化主義>への反発表現は、
<縄による日本の緊縛>において、新たな形態で繰り返された、連綿とした流れをあらわしていることだと言える。
日本民族の居住以来、その地形は、首をもたげる龍の勇壮な屹立をあらわす、美しい日本列島は、
歴史的に地震・津波・台風の自然災害に晒され続けて来ている、
2011年の年も、東日本大震災という大きな被害に晒されたことにあるが、
それでも、この地形にしがみついていくことにあれば、
この場所は、先人から継承する、縄文時代以来の一万六千五百年に渡っての<祖国>でしかない、
この<祖国>を土台として、日本民族の独自の創造的表現があることが当然のありようであって、
それは、<右翼・左翼>といった相対論にあることよりは、
<人間の陰茎と膣は中央に位置してあるものだ>と主張できる立場にあることからであって、
<人間の全体性>を探求することは、人類の重要課題としてある、という認識に立つことに依る。
団鬼六を<最後の花火>としていることは、<SMの概念>に準じた表現において、
今後、作家活動として、この小説家を超える者の存在はあり得ないこと、
<模倣・追従・隷属>が閉じられたことの象徴があらわされた、という位置付けの観点からである。
従って、 1894年から2011年の117年間が<初期の段階>となることである。


******


次に、<SMの概念>に準じた、典型的な小説作品を取り上げて、前期と後期の比較が行われるが、
前期は、江戸川乱歩の1931年の『盲獣』(春陽堂書店刊)、
後期は、団鬼六の1986年の『生贄姉妹』(勁文社刊)が選ばれている。
これらの作品は、代表作にはないが、<盲人>を主人公に設定している点が共通している。
人間存在にあって、四つの欲求―食欲・知欲・性欲・殺傷欲―と等しく重要である、
七つの官能―視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・第六感・性的官能―のなかで、
<視覚>の機能を喪失している<盲人>は、<視覚>を奪われている分だけ、
他の官能が鋭敏になるという設定にあることになる。
乱歩作品の団鬼六小説への影響は、『花と蛇』にあっては、文体に始まり、女性像の造形、
物語の構成などに散見できることにあるが、『生贄姉妹』においては、作風は自立したものとなっており、
両者の相違ということも、明確にあらわされていることを見ることができる。


***


『盲獣』は、<三十四、五歳の分別盛り>とされる、生来の盲目の男性が主人公である。
みずからの語るところによれば、<実をいうと、わしはある明治の大富豪のひとりむすこなのだ。
おやじが死んで、恐ろしいほどの財産が手にはいった。だが、めくらでそれがどう使いこなせよう。
おれはそこで、一つの念願を起こしたのだ>とあるが、その語られる相手は、最初の犠牲者になる、
<みずみずしい肉体と美しい声の鬼に金棒、浅草レビュー界の女王とうたわれていた>、
三十歳を越した、<あらゆる意味で今を盛りと輝きわたる爛熟の花>、水木蘭子である。
盲獣は、蘭子がモデルになって製作された、全裸体姿の大理石像の展覧会展示室で、
執拗に手で撫でまわして鑑賞している姿を彼女から見られることを仕組むことを発端として、
三日後には、彼女の自宅へ、あんまに化けて近付き言葉を交わす、それから数日後、
送り主不明の立派な花束を楽屋へ届けさせて、観客席から、蘭子の陶酔的な舞台を見物するが、
この間の出来事に不審と不安を募らせていた彼女は気付き、顔を見合わせてしまう、舞台は中断して、
楽屋でようやく気を取り直した蘭子に、若いパトロンから電話が入る、そこで今夜の逢瀬が決まり、
迎えに来た自動車へ乗り込むが、それは、盲獣が先駆けた罠であった。
連れられた麹町の立派な門構えの屋敷へ入っても、若いパトロンの悪戯好きと信じ込んでいた蘭子は、
女中に案内されるままに、大きな鏡の奥にある暗闇の通路を独り歩まされて、
行き止まりとなったところで、落とし穴へ落とされる、その地下室で、盲獣とのやり取りが始まるのである。
<その奇怪な地下室の構造を、どう説明したらよいか。おそらく、この世のことばでは、
完全に語りえない種類のものであった>と表現される室内は、女性の肉体の各箇所、
眼、鼻、口、耳、乳房、乳首、腕、手、腹、尻、太腿、足などがそれぞれに大小不統一の大きさで群がり、
色彩もでたらめで、作られている材料も、ゴム、象牙、紫檀、黒檀、ビロード、金属などとばらばらで、
<しかも、それが一つ一つ人間の肉と同じあたたかみと、弾力を持っていて、
さわってみるとブルブル震えだす>という気味の悪さとなって部屋一杯を満たし、
<色彩の雑音。色の不協和音だ。人を気違いにする配色というものがあるならば、きっとこのようなもので>、
<種々雑多で、それがうごめき、おどり、乱れて、形と音の不協和交響楽をかなでていた>ばかりか、
<心ときめくジャスミンと麝香のかおり、香油のにおい、それに、
むせ返るほど誇張された甘い女性の体臭さえもまじって、なまあたたかく鼻をつく>という状況にあった。
盲獣が彫刻家を雇って、<頭の中に残っている過去の女のからだの中から、すぐれた部分を選び出して、
彫刻家に詳しく話して、架空の思想から具体的の彫刻をこしらえさせた>ことであったが、
視覚を除いた、聴覚・嗅覚・触覚・性的官能による、創作表現ということである。
盲獣は、狼狽して自棄気味になる、蘭子を前にして、相手に対する思いの丈とみずからの身上を語るが、
彼女は、同情は感じたが、余りの執念と嫌らしい顔付きを嫌悪して、迫られた口づけの拒絶をきっかけに、
部屋中を逃げまわり、執拗な追い掛けごっことなり、ついには、もつれ合って気を失ってしまう、
そのふたりの上には、壁に群がる無数の乳房の千の乳首から、暖かい乳汁が滝つ瀬と注ぎかけられる。
<さすが強情我慢の水木蘭子も、身も魂もしびれるようなこの大刺激には、ヘトヘトになって、
ついに凶暴なる盲獣の意力に屈伏してしまった。いや、屈伏したばかりではない。
彼女はおぞましくも、このたぐいもあらぬ地底の別世界に、人外境に、限りなき愛着を覚え始めた。
いまわしい盲獣さえも、今は何かしら不思議な魅力をもって彼女の感覚をくすぐるようになった。
蘭子はついに怪盲人の妻たることを承諾したのである>。
愛人同士の地底生活は、やがて、盲獣を真底から熱愛し始めた蘭子に視覚を放棄させて、
暗闇で生活ができるようにまで変化を及ぼさせたことは、盲人の触覚世界を理解し得たことであった。
<おお、かわいそうな目あきさんたち。おまえさんがたは、このなんともいえぬ不思議な、
甘い、快い、盲目世界の陶酔を味わったことがないのだ。………
ああ、わたしは今こそ、触覚ばかりで生きている目のない下等動物どもの、異様な、甘い、
なつかしい感覚がわかるような気がする。かれらはけっして不幸ではないのだ。
不幸どころか、かれらこそ、この世をお作りなすった神様の第一番の寵児なのだ>。
この認識は、下等動物にある意識と超絶する神の意識が生ある人間の思考でひとつとされていることで、
ここから、盲獣と蘭子が展開させる情痴の極は、<SMの概念>の表現となる。
<お互いの心から、肉体から、あらゆる秘密を知り尽くしたふたりにとって、
なみなみの触覚生活は、実にたいくつきわまるものとなった。………
今までの微妙な触覚遊戯を廃して、思いきりどぎつい刺激を求め合った>
それは、<やみの中の二匹の猛獣のように、お互いにお互いの肉体をかみ合い、なぐり合い、
傷つけ合うことを楽しむまでになった>ことに始まり、
<やみの中の盲獣夫妻は、かくして、最後の血のはだざわりという無上の快楽を発見した。
傷つけられるものは、いつも蘭子であった。
彼女のなめらかな太ももからほとばしるなま暖かいねっとりとした血潮の感触が、
盲獣を喜ばせたのはもちろん、傷つけられた彼女にも、
こよなき快楽であったとは、なんという驚くべき事実であろう。
彼女は、痛みを感じないではなかった。悲鳴を上げて、のたうちまわるほど、激しい苦痛を感じた。
だが、その苦痛そのものが、とりも直さず快楽であった。
ドクドクと脈うちながら吹き出す血潮も快かった。彼女は傷つけられることを望んだ。
その傷が大きければ大きいほど、苦痛が激しければ激しいほど、彼女は有頂天になった。
盲目の夫も、最初の間は、妻の血のりを喜んだ。望むがままに、あるいは歯によって、
あるいはつめによって、あるいは刃物によって、妻を喜ばせてやった。
そして、流れる液体に顔をうずめ、それをすすって地獄の悦楽にふけったものだ>となる。
そして、<しかし、かれはやがて、それにもたいくつを感じだした。
蘭子の予期だもしなかった執拗と貪婪にほとほとあきれ果ててしまった。
蘭子の存在がうるさく感じられた。いとわしくなった。はてはあのように恋い慕った彼女を憎悪し始めた。
かれは、どんなすみずみまでも知り尽くした蘭子の肉体には、もう用がなかった。
もっと別の触感が望ましかった。違った女性がほしかった。
「さあ、もっと、もっとひどく、傷をつけて! いっそ、そこの肉をえぐり取って!」 
身もだえする蘭子を前にして、かれはとうとう恐ろしい計画をたてた。
「そんなに傷がつけてほしいのかね。そんなに痛いめがしたいのかね。
よし、よし、それじゃ、おれにいい考えがある。
お待ち、いまにね、おまえが泣きだすほど、うれしいめに会わせてやるからね」
かれは刃物を蘭子の腕に当てて、ぐんぐん力を込めていった。
「アッ、アッ」 蘭子は悲鳴とも、快感のうめき声ともつかぬ叫びをたてて、激しく身もだえした。
「もっとよ、もっとよ」 「よしよし、さあ、こうか」
彼女はついに泣きだした。痛いのか、快いのか見境もつかなくなって、わめき叫んだ。
盲目の夫は、刃物に最後の力を加えた。メリメリと骨が鳴った。
そして、アッと思う間に、蘭子の腕は、彼女の肩から切り離されてしまった。
滝つ瀬と吹き出す血潮、まるで網にかかったさかなのようにピチピチとはねまわる蘭子の五体。
「どうだね。これで本望かね」
夫はやみの中で、薄気味悪い微笑を浮かべていた。………それから、数十分の後、やみの中で、
手は手、足は足、首、胴とばらばらに切り離された蘭子の五体の上に倒れ伏して、
号泣している盲獣の姿を、幻に描いてくださればよいのだ>という作者の言葉となる。
ここで完結していれば、<異常性欲にある夫婦の事例>の見事な物語表現となっていることは、
<SMの概念>は、精神医学の学術の提唱に準じているまでのことで、一方で、乱歩には、
人間は動物存在として殺傷欲を持っているという<残虐への郷愁(随筆名)>の明確な認識があることは、
<裸女吊るし切り>などの月岡芳年の凄惨な絵画をこの五体切断に重ねていることでもある、
この点は、後に詳述する。変格の<探偵小説>の体裁としては、ここから、<殺人淫楽者>として、
目あきよりも盲人の方が優れている、という盲獣の社会に対する自己顕示が始められることになる。
蘭子の片足は、盲獣が銀座通りの交差点にこしらえた雪だるま、断髪裸体の雪女郎の足から発見され、
もう片方の足は、浅草公園、観音さまのお堂の近くへ、二、三十もある風船に結ばれて舞い降りてくる、
手は、日比谷公園裏の官庁街を歩く青年が不自由している振りをしたの盲獣の手を取ってあげて、掴まされる、
首は、両国国技館裏にある見世物小屋の奇怪なクモ娘の首として、代わりに置かれる、
残る胴体と片手は、或る屠牛場の血みどろの牛の臓物の桶に、切り刻まれて入られているのである、
そして、事件の現場には、盲獣が騒ぎを確認するように、見物人に紛れて、事の次第を尋ねる姿があった。
それから、盲獣は、新宿の盛り場の大きな銭湯に<あんまの三助>となって職を得る、
<奇怪な地下室>を製作するために財産を使い果たして金がなく、同時に新たな生贄を求めてのことであった。
その生贄は、<女湯の客のなかに、真珠夫人と呼ばれるきわだって美しいからだの持ち主>がいて、
盲獣に揉まれる快感から常連客となり、ついには逢瀬を承諾して、<奇怪な地下室>へ連れ込まれる。
蘭子同様に、<そこでありとあらゆる情痴の遊戯を尽くした>後は、
<相手が完全にわが物となったとわかると、その瞬間から、相手に興味を失い、
あれほどの執念をさらりと捨てて、反対に殺人魔の本性を現わし、情痴の絶頂において、
相手のなまめかしき肉体を傷つけ、わめき叫ぶいけにえをながめて喜ぶのが、
盲獣の恐ろしきならわしであった>、ほとんど裸体の真珠夫人は、腰へ太い麻縄を巻き付けられて、
その縄尻を盲獣に取られながら、蘭子を殺害した告白を楽しそうに語り出す相手に震え上がる、
それから、ドキドキ光る短刀が抜き放たれたときには、無我夢中で逃げ出すのであった。
しかし、<まっしろな、大きなサルまわしのおサルでしかなかった>夫人は、
縄尻を引っ張られて揶揄の言葉を投げつけられて、女の口をあらわした造形物の中へ追い詰められる、
<巨人の白歯の間から、真珠夫人のかがめた両足と、丸いおしりが、
頭隠してしり隠さずにちょっぴりとのぞいているのだ………盲獣はもうよだれをたらさんばかりに喜悦して、
メスのような短刀の先で、チクリチクリ夫人の足とおしりを突いた。
突かれるたびごとに、まっしろな皮膚に、美しい紅の絵の具がにじみだした>。
その五体は、蘭子と同様に切断されて、小石川の呉服屋と大森の質屋の玄関先で両腕が発見される、
首と膝から下の両足は、鎌倉由比ガ浜の海岸で、砂風呂風に埋められて見せしめられた。
更なる犠牲者となるのは、二十五歳になる、美人寡婦大内麗子である。
彼女は、四人の<淫蕩な未亡人たちのクラブ>に所属していて、<あんまの三助>の存在を知り、
クラブの会合へ呼び寄せて身体を揉ませると、盲獣は、蘭子や真珠夫人と比べての美しさを得々と語る。
その後、度々、ふたりだけで会った麗子は、三番目の犠牲者になるという第六感を感じたと、
クラブの夫人のひとりに打ち明けて、退屈しのぎに、あんまに一泡吹かせてやろうという一計を話す。
巣鴨にある麗子の持ち家の立派な湯殿で、しこたま酔わせたあんまに揉んでもらって、
充分に興奮した頃合に精巧に作られたゴム人形と入れ代わり、湯殿の様子を外の覗き穴から眺める、
クラブの三人が後から合流して、一緒になって、盲人の醜態を楽しもうという計画であった。
しかし、狡猾な全裸の盲獣は、その手には乗らず、実際は、ゴム人形と三人の未亡人が覗き穴から、
馬乗りに跨られた全裸の麗子が<絞殺され、せめさいなまれ、侮辱のかぎりを受け>、
大きな出刃包丁で、<みるみる、首も、手も、足も、コロコロとちょん切られて>いくのを眺めさせられる。
<盲人は切り離した五体を、一つ一つボールのようにほうり上げては、
ドブンドブンと浴槽の中へ投げ込んだ。………浴槽の湯は、血潮のためにまっかに染まっている。
その中へ、血に狂った盲獣は、ザンブとばかりに飛び込んだ。………「へへへ……世間のやつら、
このなまぐさいぬるぬるした死骸ぶろの楽しみを知らぬとは、かわいそうなもんだなあ。
へへへ……ああ、たまらねえ。からだじゅうがぞくぞくして、心臓をしぼられるようだ」………
こんどは、それらの手や足や首などを湯の中からつかみ上げては、
めちゃめちゃに流し場へたたきつけ始めた。それから、酔いと活動のためにへとへとになった盲獣は、
浴槽をはい出して、タイルの上をぬめぬめとすべっている五体の山の中へ、ぺチャンと腹ばいになった。
「へへへ……イモムシごーろごろ、イモムシごーろごろへへへ……」
えたいの知れぬ歌をうなりながら、かれは五体の山の中を、ゴロゴロゴロゴロ、
ほんとうに断末魔のイモムシのようにころがりまわった>。
さすがのモサ連の未亡人たちも、余りの醜悪な光景にへとへとになって、帰ろうと合図し合った、
そのとき、覗いている麗子がゴム人形であったことに気付くのだった、入れ替えられていたのだ。
事実を知った未亡人たちは、地獄の亡者の悲鳴を上げて逃げ出したが、その気配を感じたのか、
<湯殿の中では、突然、けだもののほえるような、なんともいえぬぶきみな笑い声が爆発した。
盲獣がこざかしき目あきどもをあざわらっていたのだ>。
この麗子未亡人は、美味上等のハムにされて、東京から離れた汽船の上で、盲獣の手で安売りされる、
十五あったハムはたちまち完売して、彼が次の港で降りると、開かれた包みに船内が騒然となる、
<足が出てきた。ももが出てきた。あばら骨が出てきた。なかにも、顔面を切断して、
鼻と口と半分ずつついている肉片を発見したおかみさんは、あまりの恐ろしさに、
アッと叫んだまま気を失ってしまったほどであった>。
<殺人淫楽者>の逃避行は、更に、非情に寂しい漁村へたどりつかせ、
そこにいた海女たちに、採ったアワビを言い値で買い上げるから、後ほど来るようにと誘惑を仕掛ける、
貧しい村で、お金欲しさに、二十歳くらいの海女がひとりやってきて、切断の第一の犠牲者となる。
その後も、殺人は続けられていくが描写はなく、物語は、盲獣の最後について語る、<結末>を迎える。
準じている<SMの概念>は、物語の進展に伴って、
<性的官能>を<絡めて見ていること>の表現が<殺傷欲>を如実とさせるばかりになっている、
<欲求>だけが示される物語では、<起・承・転・結>の整合性からすれば、未完となるほかない、
従って、探偵小説の作者は、<結末>をこのようにする。
美術展覧会の有力な審査員で、奇癖をもって聞こえている彫刻家首藤のもとへ、
盲目の一彫刻家より手紙が送られて来る、そこには、七人の女の生き血と命のこもった、
触覚の芸術よる彫刻を出品したいので、アトリエまでひとり来て欲しいという依頼が記されている。
風変わりな嗜好にあった首藤は、示されたアトリエの道順に従って出向いていった、
そこは、盲獣の<奇怪な地下室>であった、人気はなく、その異様な彫刻の部屋に首藤は感動を覚え、
やがて、問題の盲人の<彫刻品>を発見する。
その見た目の異様に比べ、両手で触れたときの触覚の美に感動を発見すると、
他の審査員の反対を押し切って入選させ、展覧会へ展示されることになるのである。
その<彫刻品>は、<奇怪な地下室>の造形を単体にしたようなもので、
その素材は、切断殺害した七人の女の肉体の各所が触覚のままに用いられていて、
視覚のある鑑賞者には、化け物彫刻と見なされて、嘲笑と軽蔑を惹き起こしたが、
その後、多数の盲人が訪れて、手触りの鑑賞として盛況となっていく。
首藤が大新聞に載せた、<触覚芸術論>が反響を呼んで、入場者は激増して、
一般の人も、盲人同様に、手触りの鑑賞で美の所在を確かめようとするのであった。
<触覚芸術論>とは、<この世には、目で見る芸術、耳で聞く芸術、理知で判断する芸術などのほかに、
手で触れる芸術が存在してしかるべきである>ということで、
<触覚>を通して美を創造表現できることを<触覚>で鑑賞することができる、
それは、<視覚あるがゆえにさまたげられて気づきえなかった別の世界があるのだ>という趣旨にある。
そして、盲獣の最後は、次のようにしめくくられる。
<盲獣はあらゆる女性の肉体をあさり、その美を味わい尽くした。
そして、ついに殺人淫楽にも飽き果てたのであるか、それとも、かれの罪業の数々はすべて手段にすぎなくて、
盲目の世界の芸術をこの世に残すことが、かれの最終の目的であったのか、
作者はそのいずれであるかを知らぬけれど、ともかく、
罪業の半ばをつぐなうに値するほどのすばらしい贈り物を残して、
それに対する輝かしい賞賛の声を耳にして、なんの思い残すところもなく、
盲獣はかれの作品を愛撫しながら、楽しき毒薬自殺をとげたのである。
だが、次の一事は、おそらくなんびとも気づかなかった。
あの彫刻の一つの顔と、一本の腕と、一つの乳ぶさは水木蘭子を、一つの顔と、一本の足は真珠夫人を、
二つの乳ぶさと、一つのおしりと、腹部とは大内麗子を、ある部分は漁村の海女を、
またある部分は読者の知らぬ美しき被害者を、それぞれにモデルとして、
その触感がそっくりそのまま再現されていたこと。それゆえにこそ、あの彫像の手足が、
あるいは太く、あるいは細く、異様に不均整であったのだし、また、盲獣の手紙の中に、
七人の女の命がこもっているなどと、異様な文句がしるされていたのだということを、
なんびとも、当の首藤氏さえも、少しも気づかなかった。
そして、おそらくは、あの彫像がいつまで保存されようとも、いかにもてはやされようとも、、
永久の秘密となって残ることであろう>。


<SMの概念>が<性的異常>を意義するものとして認識されることは、<特殊な場合>を意味している、
従って、<SMの概念>が思考において、更には、行動においてあらわされるものとしてあれば、
それは、<正常>の<特殊な場合>を示す、<異常>ということにある。
<正常>の定義が社会生活を営む上で、人間としてあることの倫理・道徳・規律の遵守に従うことにあれば、
<異常>とは、それを不履行・逸脱・破壊する思考と行動にあることである。
<性的異常>の定義とは、人間としてあることの<正常>の性に対して、
不履行・逸脱・破壊の思考と行動にあることで、社会の倫理・道徳・規律が遵守されないありようである、
或いは、健全な肉体活動が阻害されて、器官が機能不全となる臨床的事象にあることである。
従って、法律が同性愛を認めなければ、同性愛者は異常で、かつ犯罪者ということにもなるし、
自慰行為でさえ異常とされれば、人間としてあることの正常は、倫理・道徳から認められることにはない。
<性的異常>は、<人間性>の倫理・道徳・規律に依存して価値評価が行われる、概念としてあることであり、
時代のあらわす<人間性>の価値観の変遷に従っては、柔軟性をあらわす概念と言えることにある、
<異常>が<正常>となることはあり得ないが、<異常>は<特殊な場合>ではなくなることがあるのである。
<異常>が<特殊な場合>でなくなったとき、その<異常>の概念が与える影響は、
<正常>の概念をあやふやなものとさせることがあり得ることを<SMの概念>は示唆してくれる。
江戸川乱歩にあって、<SMの概念>は<性的異常>をあらわす概念でしかなかったことは、
<西洋思想>としてある<SMの概念>という学術の提唱に従っているまでのことで、
乱歩が日本における<探偵小説>の可能性の追求において、
<西洋思想>の<探偵小説>の模範を積極的に日本へ紹介したなかの<ひとつ>の事例でしかなかったことは、
乱歩にとって重要な認識は、<残虐への郷愁>にあったことに依る。
『盲獣』は、全体の長さの半分近くが<盲獣と水木蘭子のやり取り>に当てられている、
<奇怪な地下室が形と音の不協和交響楽をかなでていた>と言うならば、
『盲獣』交響楽の第一楽章と言える部分にあたる。
この第一楽章が次の<起・承・転・結>を示していることは、それだけを取り出しても成立する完結性があり、
この表現を<SMの概念>の事例として見ることは、最先端の<西洋思想>の表現にあることでもある。
蘭子に惚れた盲獣が様々な手段を使って彼女に接近していく経過の<起>、
盲獣が蘭子を地下室へ招き入れ、彼の事情を打ち明けて相手の同意を得るまでの経過の<承>、
同意を持った蘭子が盲獣と地下生活をしていくなかで盲獣の触覚世界と同化する経過の<転>、
同化した盲獣と蘭子が最終に見い出す、加虐と被虐の悦楽の到達である殺人の経過の<結>。
<SMの概念>である、加虐嗜好・被虐嗜好、肉体的及び精神的苦痛を与えること・与えられることの快楽、
それは、死に至ることにおいて最上の悦楽と見なされるという論理が示されていることでは、見事な表現である。
しかし、この第一楽章の<SMの概念>がそれ以上の思想の<展開>をもたらさないことは、
第二楽章スケルツオの真珠夫人、第三楽章アダージョの大内麗子、第四楽章ワルツの若い海女の経過において、
盲獣の<殺人淫楽者>としての行動があらわされるだけで、女体をバラバラに切断して公然と晒す、
というその繰り返しの単調さは、作者の一番気付いているところで、最終楽章の<盲目の彫刻家>の書き出しは、
<作者は、盲目の殺人淫楽者について、あまりにも長々と語りすぎたようである>となる。
従って、この最終楽章は、第一楽章の<SMの概念>の<展開>として示されるものにはならない、
<盲人の触覚芸術>という、盲獣が蘭子と地下生活を始める以前の思想の開陳となるだけにある、
言い方を換えるならば、<奇怪な地下室>の感動的な造形を果たしている盲人が敢えて殺人まで犯して、
みずからの手で造形した彫刻作品を<SMの概念>を根拠とした最高の芸術にあると言うのだとしたら、
説得力がまるでないことは、結末の作者の言葉の曖昧さに見事にあらわされている、
<永久の秘密となって残ることであろう>。
これは、<西洋思想>の<SMの概念>を模倣・追従しているだけのありようにある、矛盾の露呈である。
『盲獣』が失敗作と見なされることがあるとしたら、この矛盾の露呈にある。
だが、この矛盾は、乱歩の<本来の認識>の点から見ると、
『火星の運河』『鏡地獄』『芋虫』『蟲』(これらは『盲獣』以前の作品である)などにおける、
人間の<七つの官能>に依存する世界の認識方法からすれば、盲人が主人公になることは必然にある。
乱歩の<本来の認識>とは、<残虐への郷愁>(河出書房新社刊 江戸川乱歩コレクションW所収)
という随筆で示されている見解である。それは、月岡芳年の絵画作品に対する評価をあらわしたもので、
<芳年の血の絵は道化者ではない。生真面目な顔をした可愛らしい残虐の部屋の玩具の一種である。
しかし玩具とはいえ、あれには狂人的稟質を持つもののみが覗くことの出来る、
遥かなる太古の夢がある。何千年抑圧された残虐への郷愁がある。
「魁題百選相」の中の冷泉隆豊切腹の図では、腹部の切り口から溢れ出す血の百尋のすさまじさ。
もう半分地獄を覗いている顔の大写し、顔面は鼠色がかった薄緑、目はまっ赤に充血して、
唇と舌とは紫色だ。芳年は死のお化粧が何と巧みであったことか。
「英名二十八衆句」では「鮟鱇をふりさけ見れば厨かな」の稲田新助裸女つるし斬りの図。
「紅逆に裁つ鮭の手料理、包丁嬲切にす西瓜の割方」。ああ西瓜が割れている、
天井から逆さまに縄でつるした全身が火星の運河である。その漆をまぜた血の色の光沢。
だが彼女はまだ死に切ってはいない。下の方、畳とすれすれにぶら下がった青ざめた顔が、
逆さまに刀におびえて細い横目を使っている。
同じ「二十八衆句」の直助権兵衛、顔の皮剥ぎの図。「あたまから蛸に成けり六皮半」
額に切り口をこしらえて置いて、そこを掴んでメリメリと、頸の辺まで顔一面の肉を剥ぐと、
下には血まみれの骸骨が、まんまるになった目を引きつらせ、長い長い歯を食いしばっている。
グッと握りしめて、青畳の上に芋虫のようにころがっている両手の構図。あの腕の表情の恐ろしさは、
別の「東錦浮世稿談」の蝙蝠安の斬りつけられてヨロヨロと逃げ出している手と足の、
あるにあられぬ表情と共に、芳年構図の圧巻であろう。
神は残虐である。人間の生存そのものが残虐である。そして又、本来の人類が如何に残虐を愛したか。
神や王侯の祝祭には、いつも虐殺と犠牲とがつきものであった。社会生活の便宜主義が宗教の力添えによって、
残虐への嫌悪と羞恥を生み出してから何千年、残虐はもうゆるぎのないタブーとなっているけれど、
戦争と芸術だけが、それぞれ全く違ったやり方で、あからさまに残虐への郷愁を満たすのである。
芸術は常にあらゆるタブーの水底をこそ航海する。そして、この世のものならぬまっ赤な巨大な花を開く。
芳年の無惨絵も、その幻影の花園の小さい可愛らしい一つの花だ。
芳年の無惨絵は、優れたものほど、その人物の姿態はあり得べからざる姿態である。しかし、
あり得ないけれども真実なる姿態である。写実ではない。写実ではないからこそレアルである。
ほんとうの「恐怖」が、そして「美」がある。>とされることである。
ここには、人間があらわす<残虐>は理念ではなく、
<殺傷欲>の存在に依るものであるということが見事に把握されている。
この認識からすれば、盲目という固有の感覚器官を持った人間がそれを発揮させて、
触覚から昇華される芸術の目的にために、女体を知り尽くす犯罪を重ねていくこと、
バラバラにされた五体が公然と晒される所以は、みずからの最終芸術の為の部分開示という必然性が生まれる、
つまり、乱歩は、<SMの概念>などを用いなくても、<触覚芸術論>を正当化させることができたことにある。
矛盾は、<触覚芸術論>を正当化させるために、<SMの概念>へ根拠を置いたことにある。
何故、矛盾となるか、それは、<SMの概念>は、<西洋思想>の宗教的理念を滲ませるものがあり、
乱歩の<本来の認識>は、人間の因習に基づく見方、特定の宗教性に縛られない見方にあるからである。
ここから、人間の因習に基づく特定の宗教性に縛られない、日本の<加虐・被虐理論>が展開されたとしても、
少しも不思議なことではなかったが、<SMの概念>を選択させた<欧化主義>が優っていたのである。
処刑・刑罰・切腹・斬首といった事柄を加虐・被虐にあるから、<SMの概念>にあると見なすというだけでは、
その<西洋思想>へ模倣・追従をあらわす考察は、そこに含まれる矛盾を据え置きとさせることでしかない。
その矛盾が引っ張り続けられれば、大東亜戦争の敗戦という契機は、それを変質させていく。
明治維新の内戦・戊辰戦争に始まり、日清・日露・支那事変と対外戦争が続き、
『盲獣』は、満州事変が勃発した年の発表にあたり、国家は、更に大東亜戦争へと突き進んでいく。
戦争で人体が損傷・破壊されて、五体がバラバラになるありさまは、
戦場の報道写真などなくても、戦場から引き揚げてきた軍人が身近にいれば、理解できる時代にあった。
戦争が終わり、平和とされる時代にあっては、バラバラにされる女性の五体の意義も変るということになる。


***


『生贄姉妹』は、<年は二十五六だろうか。その象牙色に冴えた気品のある頬は、
しっとりと憂いを含んだ翳りを滲ませて、気高い美しさに満ちている>、
古風な深窓の令嬢とされる、大月雪路という女性が主人公である。 
彼女は、数年前の追突事故が原因で盲目となり、
また、<お琴は名取りの腕前、それに鼓だって相当なもの>とされている。
筋立ては、伊豆の辺境にある古い旅館月影荘を営む父親が亡くなり、財産を受け継いだ雪路であったが、
眼の不自由な身の上では、経営に無理のあることから、番頭の三郎の求婚を承諾する。
この三郎は、<何か組で不始末なことをしでかして、指をつめなければならぬ破目になり、
直江を連れ出して逃げた>という過去のあるチンピラやくざで、住み込みで働いていたところ、
父親の信頼も得て、自分にも良く尽くしてくれるということで、
雪路は、外国に留学している妹の雅子の反対はあったが、三郎に将来を預けたのである。
しかし、夫婦となったことは、三郎の本性をあらわとさせたことであった。
貯金や有価証券類、所有する山林や旅館の権利書などの莫大な財産を剥奪するばかりでなく、
雪路を<国際ポルノ業者に売ってブルーフィルムなんかに出演させよう>と情婦の直江と計画していたのだ。
古い従業員はすべて解雇され、<私、女ながらサディストなの>という直江がベテランの女中として入り込み、
親戚筋の年若い節子を女中に雇い入れ、風俗業の同僚であった町子を呼び寄せるのだった。
月影荘の地下には、戦時中に作られた防空壕と営倉があった、ポルノ業者の岡田社長は、そこを改装して、
撮影用のスタジオとして利用していたが、最後となった山林と旅館の権利書を取り上げることができたら、
その営倉を牢獄として、雪路を閉じ込める計画ができていた。
すでに貯金と証券類を奪われ、節子は同情的な立場にあったが頼りにはできず、敵ばかりの孤立した状況に、
ついに、雪路は決心して、権利書を渡すから、月影荘を出て自由にさせて欲しいと行動に及ぶ。
三郎は、喜んで承諾するが、父親が作った彫刻の芸術作品が防空壕にあるから、出て行く前のはなむけに、
<手で形だけでも味わってみればどうだ>とでまかせを言う、雪路はそれを信じて、彼に従う。
地下室の道すがら、直江がこれからの生計はどうするのかと尋ねると、三島で筝曲の先生になるつもりであり、
当座の生活に困れば、着物類をかなり持っているし、母の形見の指輪もあると素直に答える雪路であった。
そうして連れていかれ、触れさせられた父親の芸術作品とは、営倉の鉄格子だったのである。
<それは何だか教えてやろうか、雪路。お前を永久に閉じこめるための牢獄なんだ>と三郎から告げられ、
<私達は最初から奥様の骨までしゃぶり抜く計画を立てていたのよ。………
奥様の個人的な所有物まで一切私達のもの。あなたは人間の権利まで没収されて、
私達の奴隷になったというわけよ。わかった>と直江から宣告を受ける、雪路だった。
直江は、雪路の指から母の形見のダイヤの指輪を奪い取り、手首の銀張りの時計を町子にくれてやる。
それから、二人は、嫌がる雪路の身体から豪華な着物を剥ぎ取り始めるが、これには三郎も加わり、
湯文字一つになった雪路の<これだけはせめて肌身につけさせて下さい。後生です>という哀願も空しく、
一糸まとわぬ素っ裸に剥き上げられる、<雪路は情感を湛えて、ふっくらと盛り上った美しい二つの乳房を、
陶器のように白い両手で覆い隠しながら、乳色に艶々と輝く女っぽい両腿を立膝に組み、
白磁の滑らかな肩先を屈辱と羞恥にブルブル慄わせているのだ>。
それから、牢獄へ入れられるが、<よろめいて腰がねじれるたび、雪路のその太腿の付根にふっくらと密生する、
絹のように柔らかそうな繊毛がチラチラ三郎の眼に映じるのだ。 「長い間、俺と寝るのを拒みつづけた罰だ。
丸出しのままにしておいてやる」 三郎は倒錯した復讐心理がこみ上がり、
自分も雪路のしなやかな肩に手をかけて邪険に石牢の中へ押しこんでしまったのだ。………
激しく嗚咽する雪路――それを眺める三郎は、嗜虐のうずきで全身が痺れたようになっている>。
<「………フフフ、これで奥様は文字通り裸一貫になったわけよ。
さっき三島へ行ってお箏の先生になるとおっしゃったけど、素っ裸では三島にも行けないでしょ。
私達の可愛いペットとなってここで暮らした方がよさそうね」 直江はわざと冷酷な言葉を吐きかけ、
雪路が白磁の肩を揺すって、ひときわ激しく泣きじゃくるのを楽しげに眺め入るのだった>。
三郎、直江、町子は、雪路の部屋へ戻って、酒を酌み交わしながら打ち合わせをする、
<私達が雪路の構造を早速、今夜にでもよく調べてやるから>という直江の言葉に、
<岡田さんと取引する前に、雪路を男好きの身体に磨いておく必要はあるぜ。
岡田さんに味見させて、雪路の値段が本当にきまるってものだからな>と三郎は答える。
三人の酒宴が盛り上っているすきに、節子は、石牢の雪路に会いに行く。
雪路の手を取って、自分にはどうすることもできない思いから、泣いて同情心をあらわとさせる節子に対して、
<妹が帰ってくるまで、きっと生き抜いてみせます>と雪路は、自分に言い聞かせるように言い、
ヨーロッパへ美術の勉強に出掛けている妹へ希望をつなぎ、傍にいてくれる節子の励ましを乞うのであった。
そこへ三人が戻ってきて、直江は、<退屈しのぎに面白いことをしてあげるわ>と言うと、
雪路を石牢から出させ、三郎は、麻縄で後ろ手に縛り胸縄を掛ける、
<美しい豊満な乳房の上下をきびしく麻縄で緊め上げられている雪路は、
しいんと凍りついたような表情を前方に向け、爪先をすり合わせるようにして、ゆっくりと歩き始めている。
美麗な太腿が動く度に、その付根にふっくらと盛り上がる絹のような柔らかい繊毛が悩ましく揺らぐようで、
それを見つめる直江はムズムズと胸をしめつけられるような気分になっているのだ。
間もなく雪路に、その漆黒の美しい繊毛をしどろに濡らせ、喜悦の声を嫌というほどあげさせてやる、
といった変質的な女の欲情が直江にこみ上がってくるのだった>。
地下室の中に作られた秘密のスタジオに立つ鉄柱を背にして、縛り付けられた雪路は、
三人から、その晒された全裸を鑑賞される、<底まで冴え渡るような肌の白さは、育ちのよさを匂わせ、
麻縄を二重三重に巻きつかせている乳房のふくらみは眼に泌みるような美しさで、
その乳頭の可憐な薄紅色は、抒情的な乙女の匂いさえ感じさせている。
滑らかで艶やかな鳩尾から腹部、そこから腰にかけての優美な曲線など、
ほとんど家に閉じこもりで運動などしたことのない雪路なのに、見事に均整がとれているのだ。 
「素敵よ。実に美しい身体だわ」と、町子も溜息をつくようにいい、
緊縛された雪路の身体に見惚れているのだった。
それに、ぴったりと閉じ合わせている雪路の乳色に輝く太腿は、蠱惑的なカーブをえがく上半身と同様に、
女っぽい成熟味をムンムンと発散しているようだ。とくに女の羞恥の中心地の艶のある漆黒の繊毛――
それは何という美しさだろう。まるで手入れがほどこされているように多くもなく少なくもなく、
夢幻的な柔らかさでふっくらと盛り上がり、風吹かば散らずの悩ましい風情を示しているのだ。
直江は、女のその部分がこんなに美的なものにうつることを始めて知った思いになった。
男心を痺れさせるとはこのことかと思い、
同時に、琴を弾くだけの明け暮れを送っている雪路がこのように美しい身体を持ち、
情感的な羞恥の茂みを持っていることがねたましくもなってきたのである>。
<形だけがよくたって駄目よ。岡田さんの気に入られるには喰い締め方が肝心だからね>と吐き捨てる、
直江の言葉を皮切りに、ポルノ業者へ売り渡される身の上が雪路に告げられて、
その足元へ、三郎が声に出しながら、バイブレーター、ずいき、こけし、肛門拡大鏡、膣圧計などを並べる。
それから、おびえ切っている節子を呼ぶと、責具のなかで、<雪路のサイズに合ったのを選んで、
その先にこのずいきクリームをたっぷり塗っておくんだ>と命じる。
鉄柱へ縛り付けられた縄を解かれた雪路は、後ろ手に胸縄の緊縛はそのままに、三人掛かりで、
木製のベッドの上へ仰向けに寝かされて、上半身を縄でがっちりとつなぎ留められる。
ブラジャーとパンティだけの姿になった直江と町子がシクシクすすり泣く雪路の両脚を左右から取って、
無理やり開かせようとすると、狂気したように首を左右に振って、雪路は頑強にそれを拒む。
直江は、<気長にやりましょう>と言って、<ぴっちり閉じ合わせている雪路の、
成熟した肉感的な両腿のあたりから滑らかな下腹部にかけて、パウダーを薄くふりかけ出し、
羽毛のような軽さで撫でさすり始めた>、臍から爪先まで、指先の淫靡で執拗な愛撫を受けると、
雪路は、嫌っ、嫌ですっと叫んで、<ぴったり重ね合わせた二肢を腰と一緒にうねらせるのだった>。
すると、<今度は町子が雪路の上半身に横からぴったりまといつき、
麻縄に固く緊め上げられいる雪路の、豊満な乳房にそっと両手をからませるのだ>、
やがて、<唇を使って町子がうなじをくすぐり、乳房から乳頭にかけて熱い接吻の雨を降らし始めると、
得体の知れぬ不思議なうずきがじーんとこみ上げて来て、雪路はそれに狼狽を示すのだ。
直江もまた唇と舌とを使って足首から脛、腿のあたりを万遍なく愛撫し始めている>。
ふたりから、粘っこい愛撫をくり返され、興奮状態へ追い込まれていく雪路は、
<悩ましいすすり泣きの声を洩らし、真っ赤に上気した頬を横に伏せているだけである>。
直江に、女の源泉へ指先をくりこまれ、深くまさぐられていくと、<繊毛におおわれて、
やるせなく息づいていた縦の亀裂が、見る間にふっくらと量感をもって割れ開き、
ねっとりとおびただしい粘液性をおびだしてきた>、雪路の下肢は、ずるずると割り裂かれて、
ベッドの両脇の鎖へ足首をつながれてしまう。ふたり掛りで左右から、太腿へ接吻の雨が降らされると、
直江の舌先は、雪路の最も敏感な部分へと向かい、<熱く熟した奥深い肉層の間を這いずり回り………
ついには急所の蕾を深く口に含んで強く吸い上げ始める。雪路の全身は完全に火柱のように燃えさかった>。
<しとど果肉をむき出した雪路の股間から唇を離した直江は、
熱っぽく喘ぎつづける雪路の上気した美しい横顔を見つめて言うのだった。
「さて、次はお道具を使いましょうね、奥様」>、
イボのついたものと渦巻型の筒状玩具が眼の見えない雪路の頬の肌触りで確認させられると、
<これはフランス製の高価なものですの>と媚薬クリームを肉芯に深く塗りこまれる、
甘美な肉層が再び開花されて、嗚咽の声が一段と高まり、火のような鋭い快感が下腹部を痺れさせる。
三郎は、<おびただしい女のもろさを浴びせかけてくる雪路の狂態を眼を細めて眺めながら、
激しい啼泣を口から洩らす雪路の汗ばんだ頬に頬ずりして、
麻縄に緊め上げられている乳房を強く掌で愛撫した。 「さ、奥様、これを深く呑みこんで頂戴ね」
直江がその責具の先端をぴったり押しつけた瞬間、心臓まで痺れるような、
名状のできない快感がぐっとこみ上げ、雪路は我を忘れて、ひきつった声をはり上げた。
雪路にとっては生まれて始めて味わう、眩暈まで伴った激烈な快美感であった。
「まあ、もう往生しちゃうの、まだ、早いじゃない、奥様」………
美麗な淡紅色の襞をふくらませて、いま極めた悦楽の余情を示すように、
ヒクヒクと双臀まで痙攣させる雪路を挟んで、直江と町子は、勝利に酔った気分になっている。………
シクシクとすすり上げている雪路の顎に手をかけて、直江は無理やり雪路の顔を正面に向け直した。
「よかった? 奥様」 雪路は初花のような羞じらいの色を見せて、睫毛を固く閉じ合わせている>。
<どう、節子、あんたの尊敬している雪路奥様のこの浅ましい姿>、
直江は、怯えている節子に向けて、<しどろになっている淡紅色の肉層を愛撫しながら、
毒っぽい仇花を大きく開かせて、雪路のおびただしい反応を示すのだった>、
それから、すすり泣く雪路に再びまといついていく。
雪路は、気力を振り絞るようにして、緊縛された全裸をくねらせて、はっきりとした拒絶の言葉を示すが、
<ポルノ映画の主役を演じてもらうからには、一晩中続けたって平気な身体が必要なのよ>と言われ、
ふたりから、身体のあちこちを指先と唇の愛撫で揉みほぐされていくと、切なげな鼻息を洩らすようになる。
直江は、<この奥さんにすげなくされた恨みを返したらどうなの>と三郎をけしかける。
初夜だけの名ばかりだった夫は、イボのついた筒具を取り上げ、ぴったりと雪路に押し当てた。
<「あ、ああー、だめ、もう……」 「つれない態度をとったことを、俺にわびろ、わびないか」
激しくすすり上げる雪路に、筒状の責具をゆっくり呑みこませていきながら三郎は、
嵩にかかって雪路をいたぶっている。
幾重にも畳まれた美麗な肉層は、甘美な収縮を示しながら責具を深く包み出し、
雪路は背骨まで貫かれるような鋭い快感に気もそぞろになりつつ、
「つ、つれない態度をとって、御免なさい」 と、嗚咽と一緒に小さく口に出していうのだった。
三郎は、雪路の乳房を揉みしごく直江達と顔を見合わせ哄笑する>。
深く沈みこませた責具が三郎の手で操作されていくと、
<雪路は、自分の意思はすっかり失って妖しい性の恍惚境に浸り切っている。
まるで命まで三郎に投げ出したように、薄紅色の美しい花弁を大きく開いて深くそれを咥えこみ、
次第に激しさを加え出した三郎の責めに呼応して、
開股に縛りつけられた下腹部をさも切なげにゆさゆさと揺さぶり始めるのだった>。
三郎のもう一方の手は、可憐な菊花へ伸びていたぶりを始め、<こんなにも喜悦の涙を流す雪路が、
今まで自分を拒みつづけたことに真底、腹が立ち始め>、遮二無二に責め立てていくと、雪路は、
<激しい啼泣を洩らしながら、気が狂ったように人の字につながれたしなやかな裸身を悶えさせ>、
あっ、あなたっと鋭い悲鳴を上げると、<扇のように割り裂かれている雪路の太腿が、
先程と同じようには激しい痙攣を示し始める。………「う、う、う、うーん」 三郎は、
雪路がついに二度目の絶頂に到達したことを知ると、何ともいえぬ嬉しい表情を見せるのだ>、
雪路は、<淫情に破れた自分の浅ましさを詫びるつもりか、 「あ、あなた、御免なさい」
と、わなわな唇を慄わせてすすり上げるようにいった>、直江は、雪路の頬を指先で突きながら、
<「よかったなら、よかったとおっしゃい。それが愛してくれたものに対するエチケットよ」 というと、
雪路は熱い頬を哀しげにそよがせて、 「よ、よかたったわ」 と、むせび泣くような声でささやくのだった>。
それから、口を使う技巧を教えておく必要があるとされ、町子が太い長大なこけしを持って下半身へ回る、
直江は、下半身裸になった三郎を呼び寄せると、雪路の唇へ、<鉄のような固い肉>を触れさせる。
雪路は顔をねじって、激しく嫌悪を示す、<そんな醜悪なものを唇で愛さねばならぬという、
呼吸も止まるような汚辱感。だが町子の淫虐な愛撫を受けて口惜しくも再び、
全身の肉が燃え上がり始めると、雪路はそれから逃れようとする力が稀薄なものになってくる。
町子の操作する責具がその部分から腰を伝わって、背骨にまで鋭い快美感を響かせ始めると、
雪路は眼がくらみ、直江に強制されるまま………妖気にむせたように静かにそれを含み、
頬をふくらませながら、ゆっくりと愛撫し始めたのだ>、町子が<内股深くに秘められた菊座を、
指先で優しく愛撫しながら小刻みに責具でえぐり始めると、
ついに雪路は三度目の絶頂を極めてしまうのだった。雪路の激しい痙攣に引きこまれたように、
三郎もたまらず絶え入ってしまったが>、三郎からあわて気味に唇を離そうとする雪路を、
直江と町子は、唇を指でこじ開けさせて、相次ぐ三郎の発作を受け入れさせるのだった。
<直江も町子も、そして三郎も倒錯した嗜虐の悦びに浮足立っていた。
雪路は、この世のものとは思えぬ、激烈な快美感と恍惚感に浸っているのか、
人の字に縛りつけられた優美な裸身を、まるで瘧にでもかかったように幾度もブルブルと慄わせている。
雪路は、自分はこれで今までの自分ではなくなったのだ、
という哀しさを胸にあふれさせ、次第に気が遠くなっていくのだった>。
雪路の美麗な二肢は、足首に鎖を巻かれて、宙に向かって割り開いた形で、
奥に秘めた二つの羞恥の源泉を生々しいばかりに晒け出されていた、これから浣腸が行われるというのである。
<直江は含み笑いしながら、露わに晒け出された可憐な菊花の部分に、そっと指先を触れさせる。
「あ、ああー、どうか後生ですから……」
途端にがっくりと顔を横に伏せていた雪路は、蘇ったようにブルっと緊縛された裸身を慄わせ、
鋭い悲鳴を上げるのだった。 「そんなに嫌なの、ここをいじられるのは」>。
<雪路の浅ましいばかりに羞恥の源を露出させている姿態を前にして、
羞恥というよりも恐怖の戦慄をおぼえて、全身をガクガク慄わせている>節子に支度を手伝わせて、
直江と三郎は、雪路の下半身へまといついていき、町子は、のたうつ上半身を押さえ込んで、
麻縄をきびしく巻きつかせている豊満な乳房をゆっくりと揉み上げ始めている。
<三郎の持つ浣腸器の嘴管が強くそこに触れ、たちまち体内深くへ沈み始めると、
雪路はつんざくような悲鳴を上げる。キリキリと、その部分の深奥に焼けた針を突き立てられるような、
激烈な痛みと恐怖の戦慄と一緒に、ぐっとこみ上がって来る得体の知れぬ妖しい快美感。
雪路は呼吸も止まりそうな衝撃と、胸も張り裂けるばかりの汚辱感で、
傷ついた獣のようにうめき続けるのだった。悪魔達は、雪路の苦悩と懊悩が激しければそれだけ一層、
残忍な欲情に狂い出し、「それじゃ奥様、最高の感激を味あわせてあげるわ」>と言う直江は、
先端が渦巻状の責具をいきなり上層に含ませようとする。
<町子に粘っこく乳房を揉みほぐされ、三郎に浣腸され、直江に急所をえぐられる、
この一種異様な愛撫の中で、雪路はたちまち絶頂感に到達してしまったのである>。
雪路は再び失神状態に陥り、たまりかねた節子が泣き腫らした眼で三郎を見ながら、
<「どうしてそれほどまでこの奥様をいじめ抜くのです。この旅館の権利書も、
いえ、それだけではなく、一切の財産を奥様は差し出されたじゃありませんか」 
旦那様達のなさっていることはあまりにむご過ぎます>という非難に対して、直江が答える、
<「こういう美人をいためつけるのが私の趣味なんだよ。間もなくこの奥様は、
こんな風に扱われる事がきっと楽しくなってくるのさ」 直江の狙いは、この深窓に生まれ育って来た雪路を、
邪悪で変質的な愛撫を悦ぶ一種のマゾヒストに磨き上げるのだということが節子にも理解されて来たのである。
「この奥様が私の思い通りにならなかったら、死んで頂くより方法はないわ」 と、直江はいい、
「それは節子、あんたにだっていえることよ」>と底光りのする冷酷な眼で相手を睨みつけるのだった。
<失神している雪路に、三郎は二度目の浣腸をほどこしている>、
正気づいた雪路だが反撥の気力はない、合わせて四百CCの石鹸の溶液を注ぎ込まれるの甘受している、
<たちまち、雪路の美しい額は歪み、木台の上の双臀はさも苦しげな悶えを見せ始めて、
雪路に生理の苦痛がこみ上がって来たことが直江の眼にはっきりとわかった>、
雪路は、御不浄へ行くことを嘆願するが拒絶され、節子におまるで面倒を見てもらうことを強いられる。
両足首の鎖が解かれて、下肢の自由を得た雪路であったが、生理の苦痛は限界に達して、
緊縛された裸身を縮みまらせてしまう、直江は、<奥様はこのまま洩らしてしまうわ、
早くおまるの所まで連れていっておやり>と節子に命じる、<「ここですわ、奥様」
節子は雪路の足元にある便器を手にして、雪路の白い脛に触れさせ、位置を教えるのだった………
「節子さん、お願い、あの人達の眼から私を隠して頂戴」 雪路は血を吐くような悲痛な声音でいうと、
くずれるようにブリキの便器の上に跨がり、身を縮みこませるのだった>、背中で庇うようにして、節子は、
これ以上、雪路の羞恥の姿を見せてなるものかとばかり、キッとした表情をむけるが、
<三郎は、節子を突き飛ばして、便器の上にかがみこむ雪路の乳色の美肌に左右から手をかけるのだ。
「嫌っ、節、節子さんっ、助けてっ」 一瞬、迸り出ようとするものを最後の気力で持ちこたえた雪路だったが、
もう、自分の意思の力ではどうしようもない状態に追い込まれ、 「あっ」 と、悲鳴を上げるのと同時に、
たっぷり注ぎこまれた石けん水が奔流の勢いで迸り出、激しくブリキの便器の底をたたき始めたのだ。
それに気づいた三郎は直江と一緒に哄笑する>。
今日はこれくらいにしてと直江は、雪路を緊縛した縄尻を節子に取らせて、牢屋へ向かわせる。
三郎は、歩きながら雪路の股間を悪戯するが、<雪路が心身ともに綿のように疲れ切って、
反撥の気力をすっかり喪失してしまっているのはたしかだが、それでも三郎の手でその部分をいたぶられ、
悲鳴一つ上げなくなった雪路を感じると、節子はふと嫉妬めいたものを感じてしまうのだった。
それでわざと雪路の縄尻を持つ手に力を入れ、早く歩いて、
という風に雪路の滑らかな白い背筋を手で強く押してしまう>。
鉄格子の前までたどり着くと、三郎は、町子に持ってこさせた、銀色に輝く大小二つの玉を見せる、
<これはな。女悦丸といって、こいつを前と後に一時間もつめこんでおくと、じーんと身体が痺れ、
男が欲しくてならなくなるんだ>と言って、<雪路に腰縄をかけた三郎は、
笑いながら小箱の中の銀の玉を取り上げ、それをいきなり雪路の秘所へ含ませようとする。
雪路はさすがに狼狽して、身を縮ませようとしたが、
直江は肩先にまで垂れかかる雪路の乱れ髪をつかんで引き起こし、
大小二つの銀玉を、強引に雪路の前門と後門に押しこもうとするのだ。
町子も手伝って、身悶える雪路の後手に縛り上げられた裸身を押さえつけるのだった。
雪路が一瞬見せた反撥はすぐに力なさを帯び始め、どうとも好きにして、とばかり投げやりな態度に変っていく。
「少し肢を開きな」 と、三郎が命じると、雪路は固く眼を閉ざしながら、
閉めていた両腿をわずかに開いて三郎と直江に前後より銀玉をつめさせている>………
「よし、股縄をかけよう」 雪路の肉体の奥深くに、ようやく銀玉をつめこんだ三郎と直江は、
それに蓋をするような要領で、腰につないだ麻縄をたぐって雪路の腿の間に通し、強く緊め上げるのだった>。
<三郎も直江も町子も、そして、節子もすべて地下道から引き揚げて行き、
暗い檻の中には後手に麻縄できびしく縛り上げられた雪路だけがぽつねんと坐りこんでいる。
雪路の乱れた髪を、煙のようにもつらせた象牙色の頬には、幾筋もの涙がしたたり落ち、
屈辱に打ちひしがれて深くうなだれる雪白の肩先は、小刻みに慄えていた。
三郎と直江の異常なばかりの残忍さ―― 一体、あの二人は人間なのかと疑いたくなる。
そして、今、ここにこうしてきびしく後手に縛り上げられたまま監禁されている自分もまた、
人間なのかと雪路は自分で自分がわからなくなってしまっているのだった。
(ああ、神様、私は一体、どうすればいいのです) 
雪路は冷たい石の壁に、美しい富士額を押しつけてすすり泣く。哀しさに身悶えすれば、つい先程、
残忍な女達の手で股間に通された麻縄がうごめき、体内に呑まされたおぞましい銀玉が、
肉芯に刺戟を加え始めるのだ。 「あ、あっ、いやっ、いやっ」
雪路は、その銀玉のために知らず知らず自分が悦楽を感じ出したことを知覚し、その淫情を払い捨てようと、
激しく左右に首を振る。しかし、雪路がふと身動きするだけで、口惜しくも情念にやぶれた甘美な果汁が、
急所を緊めつける麻縄を濡らし始めるのだった。………父から受け継いだこの旅館も卑劣な三郎に奪われ、
衣類まで一切剥ぎとられて素っ裸にされた自分に、更に加えられるこの淫虐な拷問――
雪路は、自分のあまりのみじめさにひきつった声で泣きじゃくるのだった。
何時の間にか、下腹部の方には突き刺すような鋭い快感がこみ上げるようになり、
雪路は緊縛された優美な裸身を媚めかしくよじらせながら、更に昂ぶった嗚咽の声を洩らすようになった。
繊毛のあたりがしどろに汗ばんでいるのが、雪路にももうはっきりとわかっている>。
そこへ雪路を思いやる余りの節子が忍んで来て、直江がポルノ業者へ連絡を取ったことを話すが、
<「もう私には、あの人達の暴力を防ぐ術など何一つもないのよ」
自分の肉体を、情婦のそれに作り変えられていくのをただ黙って甘受するより方法がないのだわ、
と雪路はすすり上げながらいい、「それよりも、今の私に一番苦しいのは――」
と、雪路は腰のあたりをもじつかせて、「この身体に喰いこんでいる縄なの。ああ、節子さん、
これ、何とかしてしてほしいわ」 と、上ずった声をはり上げるのだった。………雪路には、
これからの自分にどのような恐ろしい運命が待ち受けているかなど、考えるゆとりもなくなっている。
股間に喰いこみ、肉芯を喰い緊めて五体を溶かしていくこの恐しい感触から何とか脱しようと、
それが今の最大の悩みになっているのだった>、節子は、おろおろするばかりで見守るしかなかったが、
そこへ直江と三郎があらわれて、<まるで節子とこの奥様はレズ関係みたいね、
何時もぴったり寄り添っていないと落ち着かないようじゃないか>と直江から哄笑され、
雪路は、しとど濡らしている股縄を確かめられると、<「これでよくわかったでしょ、奥さん」
直江は雪路の乱れ髪をほつらせた頬を指でつつき、「奥さんは人一倍、敏感な方なのよ。
映画スターになる素質は充分あるってわけよ」>と決め付けられて、更に大きな銀玉を示される。
<「や、やめて下さいっ、ああ、もう堪忍してっ」 股間に強く喰いこんでいる麻縄をぎゅうと締めつけるようにして、
雪路は腿と腿とを密着させながら必死に哀願するのだった。 「フフフ、ね、節子、見てごらんよ。
なんてみじめな恰好なんだろうね」 直江は小刻みに慄えている雪路の下腹部を指さして哄笑する。
深く麻縄を喰いこませているその部分からは、可憐な花の蕾が哀れっぽくのぞき、
サーモンピンクの美麗な花層までが、花弁をわずかにふくらませて晒け出ているのだ。………
三郎は雪路の身体深くに喰いこんでいる縦縄を、直江と一緒に素早く外しとり、銀の玉を指先を使って摘出する。
それをえぐり出されてほっとする間もなく、雪路は別の玉を無理やりに呑みこまされようとするのだ。………
再び、三郎と直江に左右から身体を支えられながら銀の玉を呑まされていく雪路は、
ブルブルと腰のあたりを震わせながら、しかし、眼は固く閉じ合わせ、
艶やかなうなじを浮立たせるようにして自分で自分の抵抗を封じようとしている>。
次の朝、直江と町子と三郎が来ると、
<檻の中の雪路は一枚のむしろの上に正座し、両手で乳房を覆い隠しながら、
哀しい落着きを得たように薄く眼を閉じ合わせていた。
二度にわたって体内に銀の玉を沈められるという淫虐な拷問を受け、
一種の肉の洗脳を受けてしまった雪路は、昨日までのようなあがきや慄えは見せず、
白い華奢な手で形のいい胸の隆起を押さえながら身動き一つ示さない。………「ね、こっちをお向きよ。
奥様は奴隷、私達は主人、主人の言うことには今日から絶対に服従して頂くわよ」 直江がそういうと、
雪路は情感に満ちた、面長の顔を静かに上げて、気弱な視線を鉄格子の外にそっと向けるのだった>。
直江と三郎は愉快そうに、三日後にやって来る岡田社長のために、
緊め方、しゃぶり方、アナルセックス、よがり泣きのコツを教え込む調教計画を雪路に語り、
支度が出来るまで休んでいな、と雪路を独りにさせる。
しかし、迎えに来る気配がまったく感じられない、眼が見えないために、
狭い牢舎の感覚が一層寂寥として感じられ、ついには、<卑劣で残忍な三郎でも直江でもかまわない。
誰か、近くにいてくれねば息のつまりそうな恐しい孤独を雪路は感じ出すのである>、
節子の名を呼んで、<「お、お願い、ここから出してっ。ここから私を出して頂戴っ」 
と、雪路はついにおびえ切って鉄格子に取りすがり泣きじゃくるのだった>。
そこへ、<おい、どうしたんだ>とやって来た三郎が面白そうに声をかける、
眼が見えないから余計に恐い、ここから出して下さいと嘆願する雪路に、
三郎は、<牢屋につながれるより、緊め方の練習をしている方がいいというわけだな>と言って、
雪路の素肌へ麻縄を触れさせると、<それじゃ、磨きをかけてやる。両手をうしろにまわしな>と声を掛ける、
<雪路は、濡れた美しい瞳を哀しげにしばたかせながら、しかし、一切を観念した従順さで、
ゆっくりと華奢な両手を背後にまわしていく>、それから、全裸を後手に縛られた縄尻を三郎に取られて、
<昨夜、徹底していじめ抜かれた地下のスタジオへ>向かわされると、直江と町子と節子が待機していて、
<ね、奥様を柱につなぐ前に、しばらくあの木馬の上へ乗せて頂戴>と直江が言う。
丸木に四本の脚を取り付けだけの簡単な木馬へ、天上の滑車から吊り上げて、三人掛かりで乗せようとするが、
緊縛の裸身が宙へ上がっても、両脚を開こうとしない雪路に、三郎の青竹が成熟した双臀を打ちつける。
ようやく木馬へ跨らせた三郎は、再び青竹で雪路の双臀をひっぱたき、涙に濡れた顔をこじ上げると、
<雪路は忠実な女奴隷として皆様にお仕えします――さ、いうんだっ>と迫る、
雪路は、涙で喉をつまらせながらやっと復唱すると、三郎は声をあげて笑う。<直江も嗜虐のうずきで、
全身をぞくぞくさせながら、木馬に跨っている雪路のしなやかで華奢な白磁の裸身に見惚れつつ、
あとはお色気の修業ね、といって、木馬の上に乗った雪路の仇っぽい双臀を掌で撫でさするのだった。
「さ、お尻をうねらせて、女のお色気を発散して頂戴」 雪路はひきつった表情になりながら、
丸太に乗っかった悩ましい肉づきの双臀をうねらせ始める。………直江がぐいっと雪路の乳房をこじった。
「さ、早く、お尻を揺さぶらないか」 更に強く直江に催促されて、くねくねと双臀をうねらせる雪路は、
次第に不可思議な被虐性の情感がジーンと体内の深い所からこみ上げて来るのを知覚する。
それに加えて、最も敏感な部分を油に濡れた丸太にこすりつける内、
身内には妖しい欲望の炎が燃えさかってくる。雪路は何時しか、被虐の性の恍惚度に浸り切り、
更に自分の性感を昂ぶらすべく、積極的に双臀を丸太の上でくねらせ、
絹のような柔らかい感触の繊毛を強く丸太に押しつけるようになったのだ。
つまり、雪路は完全に直江達の術策にかかってしまったのだ。………
「今度はね、そうしてお尻を揺さぶりながら、甘くささやくのよ。自分が今、どんな気分なのか、
私達に教えて頂戴。いいわ、とか、とても素敵な気持、とか、何とでもいえるでしょ」
それは一種の催眠術であった。完全に被虐の性のエクスタシーに追いこまれてしまった雪路は、
双臀を更に媚ましくうねらせ、麻縄で後手に縛り上げられた上半身を右に左に揺さぶりつつ、
すすり泣きに似た甘い声音で、「ああ、いいわ。と、とても素敵な気持ち」 と、ささやき、
全身の官能という官能が激しく掻き立てられていることを、
木馬を取り囲む三郎や直江達の眼にはっきりと晒け出すのだった。
雪路は今はもう恥も外聞もないという風に、今にも絶え入りそうな鼻息を洩らしながら腰を左右に揺すったり、
前後に悶えさせたりしている。………「ああ、ああ、もう、私、どうなったっていいのです」
雪路はうめくようにそういい、丸太の上から左右に垂らした太腿を海草のようにうねらせた>。
雪路の嬌態を写真撮影していた三郎が終わりを告げた。
<ようやく木馬から降ろされた雪路は、しかし、
身内にすっかりたぎった欲望の昂ぶりを押さえかねているかのような昂奮状態に陥っていた。………
直江は肉芯を痺れさせてしまっている雪路を、今度は節子の手管で崩潰させようと考え出している>。
緊縛された裸身をベッドの上へ仰向けに寝かされた雪路は、本能的に両腿をぴったりと密着させたが、
左右へ割り裂こうとする直江と町子の手が触れると、女達の手を借りるまでもないといった調子で、
自分から閉じ合わせていた二肢を左右に開いていった。 <まあ、お利巧さんね>と直江に言われ、
片隅で震えている節子が呼び寄せられる。<今度はあんたが奥様を天国へ送りこんであげるのよ>、
直江に差し出される先端に粒状のゴムがついている責具を、節子はぞっとしたように激しく拒絶する。
三郎がやれっと怒鳴りつけて青竹で節子をひっぱたくと、大人しくしていた雪路が悲痛な声音を出して言う、
<節、節子さん。この人達にさからってはいけないわ。私からもお願いします。
ね、私の身体を可愛がって頂戴。ね、お願い>、思いがけない雪路の言葉に、節子は、
ぶたれる自分をかばう気でそう言うのか、直江達の淫虐な責めよりはむしろ自分に愛撫されたいと願うのか、
どちらともわからなかったが、雪路の哀切な声は、胸をジーンと痛ませ、ベッドへ歩み寄らさせるのだった。
<一糸まとわぬ素っ裸のまま人の字の形でベッドに縛りつけられている雪路――
その陶器のように冷たい光沢を放つ雪路の、夢幻的な肌の白さと身体の優美な線を改めて目撃した節子は一瞬、
夢に誘われたように恍惚とした気分になってしまったのである。
大胆なばかりに左右に割り裂かれている雪路の匂うような官能味を持つ太腿、
その付根を覆い隠す濃密な繊毛、熟したサーモンピンクの美麗な肉層を毒っぽく露出させている花園、
わずかにのぞかせている薔薇色に上気した蕾。節子の全身は妙に息づまり、胸苦しささえ覚えるのだった。
………節子は直江の差し出す責具を無気力に受け取った。………
直江と町子は左右からベッドの上に縛りつけられている雪路に寄り添っていき、
麻縄に緊め上げられている豊満な乳房に掌をかけてゆっくりと揉み上げるのだ。
「そら、節子、奥様が腰をモジモジさせて欲しがっているじゃないの」>、
直江は、雪路の乳房を揉みしだき、可憐な乳首をつまみ上げ、耳たぶからうなじへ甘い接吻を注ぎかける、
雪路が切なげに熱っぽい喘ぎを口から洩らし始めると、赤らんだ耳たぶへささやきかける、
<奥様からもう一度、節子におねだりしてやってよ。まだ、そこで節子はモジモジしているのよ>、
<「――節子さん、お、お願い、雪路をいじめて。うんといじめて頂戴」 うめくようにそういった雪路は、
開股に縛りつけられている優美な二肢をさももどかしげに悶えさせるのだった。
生々しく美麗な花層を露わにしている部分は、更に花弁を柔らかく収縮させ、
節子の手で料理されることを待ち望んでいるように見受けられる。節子の額からはタラタラと汗が流れた。
全身が桃色の雲に乗っかったような恍惚とした気分がこみ上がり、妖しい花に魅了されたよう、
もう耐えられない思いになって雪路の下腹部に身を乗り入れると、
雪路の大きく左右へ割り開いた太腿の付根のあたりに指先を触れさせていったのだ。
絹の柔らかさを持つ繊毛の感触と、水に濡れた綿のような奥深い肉の感触が指先に伝わって来た時、
節子の呼吸は一瞬、絶えて心臓は激しく高鳴った。「ああ、節子さん」
雪路は乱れ髪を左右に揺さぶって大きく喘ぎつづける。「奥様、許して、許して下さいっ」
節子はわめき立てながら、大粒の涙をポロポロと頬に流すのだ。
「いいのよ、いいのよ、もっと、いたずらをなすって頂戴」 雪路もほざくようにいいながら泣きじゃくっている。
雪路の美麗の花層の部分は節子の指先でいたぶられ、微妙な甘い収縮を見せるのだった。
おびただしい樹液と一緒に甘い百合の花に似た女の体臭が匂い立ってくる。
「ああ、節子さん、もっと、もっと淫らなことをして頂戴。雪路はもう今までの雪路ではないのよ」
雪路は完全な錯乱状態に陥って唇をわなわな慄わせながら、そんなことを口走るようになっていた。
「見てっ、ねえ、もっと奥まで見て頂戴っ」 
狂気したように緊縛された上半身を右に左に揺ぶりながら我を忘れて口走る雪路――狂気した雪路に対し、
節子もまた狂乱して眼をつり上げ、うろたえ気味に責具を雪路の秘密の源泉に当てるのだった。
「許して、許して、奥様」 と、節子は泣きながら押しつける。花弁は柔らかくふくらんで、
ねっとりとそれを深く覆い包んでしまうのだった。 「そんなのいや。もっと深く、ねえ、節子さんたら」
雪路は鼻をならしてむずかって見せ、それに対し節子は、「じゃ、こう、こうしてもいいのね、奥様」
と、おろおろしながら更に深く沈みこませていく。それはまるでレズに耽溺する女同志であり、
直江と町子は呆然とした表情で顔を見合わせるのだった。
筒具は水底の藻草のような柔らかい花層を奥深くえぐり、すると、
雪路は左右に割られた官能味のある太腿の筋肉をブルブル痙攣させながらすすり泣く。
「いやよ、そんなにじっとしているなんて。激しく使って頂戴」 雪路は五体の肉という肉をすっかり溶けさせて、
更に自分を絶頂に追い上げるために節子に指示を与えているし、
節子もまた妖しい異次元にすっかりのめりこんで、雪路に激烈な快美感を与えるために懸命になっている。
「こう、こうすればいいの、奥様」 節子は雪路にねだられるまま、責具を激しく操作する。
「強すぎますわ。小刻みにしてほしいの。そう、そうよ、節子さん」 と、雪路は次第に呼吸を荒々しくし、
次にはもう耐えられなくなったように昂ぶった声で、「ああ、雪路は、どうすればいいの。ねえ、節子さん」
と、叫び上げ、口から泡を吹き上げながらカチカチと白い歯を噛み鳴らす。「あー、あー、いいわ、いいわよ」
燃え上る劫火が雪路をつつむ。 「ああ、節子さん。雪路は、雪路は……」
一途になって責具を操作する節子に、絶え間なく官能の芯を掻き立てられた雪路は、
脂汗をねっとり滲ませた白磁のうなじを大きくのけぞらせ、ひきつった声をはり上げた。
「ああー、もうだめー」 雪路は遂に陶酔の絶頂を極めたのだ。 
「節、節子さん、ごめんなさい」 雪路は心ならずも、
浅ましい狂態を露呈した自分を詫び入るように声を慄わせると、艶々しい咽喉首を大きく浮き立たせ、
左右に割って縛りつけられた肉づきのいい両の太腿をブルブルと痙攣させるのだった。
責具を深く含んだ甘美なサーモンピンクの肉層が柔軟な収縮を示し、おびただしい樹液があふれ出す。
節子は、雪路の慄えが感染したように自分もまたガクガクと慄え出し、
「奥様、奥様」 と、半泣きになってがっくり横へ汗ばんだ顔を伏せてしまった雪路に声をかけるのだった。
雪路はうっとりと眼を閉ざし、薄紅く染まった端正な頬を横に伏せ、
節子の作業で溶けくずした悦楽の残り火をじっと噛みしめているようだった。
節子は慄える手で静かに筒具を引き揚げていった。
まるで生物のように美麗な薄紅色の筋肉は柔らかい収縮を示しているのだ。
「お願い、節子さん、こんな浅ましい雪路を笑わないで下さいね」
雪路は上気した頬を横によじってシクシクとすすり上げるのだった。 「奥様」
節子もすすり泣きながら開股に縛りつけられている雪路のムチムチした太腿に額を埋めるのだ。
「私こそ、調子に乗ってこんなことをしてしまいました。ああ、許して下さい、奥様」
「何をおっしゃるの、私、はしたなくもあんなにおねだりなんかして、ああ、羞ずかしくて私、気が狂いそう」
雪路は一時の情欲にただれ切った後、その余韻がおさまりかけると白々しい自意識がこみ上げてくるのか、
節子に対し、初々しい羞らいを見せて嗚咽するのである>。
ベッドの上で、節子に後始末された雪路は、後手の緊縛姿のまま、
三郎に縄尻を取られて、直江が調教柱と呼んでいる鉄柱を背に縛り付けられる。
三郎と直江は、岡田社長へ売り渡す意思を伝え、
社長の機嫌を取って気に入られるために、身体も態度も根っから色の道が好きなことを演技しろと迫る、
さもないと香港へ売り飛ばされることになると話す。
<雪路は、乱れ髪を慄わせて、赤らんだ顔をさっと横へよじりながら、「どんなことでも致しますわ。
ですからお願いです。雪路を外国なんかへ連れ出さないで」 と、嗚咽と一緒に愁訴した>。
それから、節子をひとり残すと、三郎達は三十分の休息を取りに地下室を出て行く。
節子は、すぐさま雪路に駆け寄って、少しの時間でも楽になれるように、雪路を縛った縄を解こうとするが、
雪路は、<いいのよ、節子さん、この縄を解いたりするとあなたが叱られますわ>と言って、
顔を伏せて小さく嗚咽する。その姿に、節子は、胸がつまり、思わず、雪路の両肩に力一杯抱きついてしまう、
それから、甘えるように、さっきはあんな淫らなことをしてごめんなさい、
直江さんの命令で仕方がなったと詫びると、いいえ、私、嬉しかったわと雪路は答え、
<私ね、三郎や直江さんにいたぶられる時は、何だか無理やり頂上へ追い上げられる感じ、
とても口惜しい思いになるのです。でも、さっきは節子さんに愛されているのだと思うと嬉しかったわ。
羞ずかしいことをいうようですけど、さっきは私、真底から気をやってしまったのよ>と打ち明ける。
節子は一瞬、信じられない思いになる、<三郎や直江達の淫虐な責めで、
雪路の人間性が一変したことは事実である。しかし、
淑徳で温良な雪路が情欲を覚える事になったといって節子が幻滅を覚えたのではない。
むしろ、自分と同等の立場になったという親近感が節子は嬉しかったのだ。
「ほんとですの、奥様。それなら私も嬉しいわ」
節子は有頂天になって鉄柱に縛りつけられた雪路にかじりつき、
「道理で、こんなことをいっちゃ失礼ですけど、後始末が大変でしたわ。ずいぶんと紙を――」
「いや、そんな羞ずかしいことをおっしゃらないで」 
雪路は節子に抱きつかれた裸身をすねるようによじらせて、節子の馬鹿、と頬を紅潮させていい、
ふと熱い頬と熱い頬がじかに触れ合うと、まるで磁石のようにどちらからともなく、
ぴったりと唇と唇を触れ合わせるのだ。節子の全身はすっかり痺れて、その瞬間、呼吸が止まり、
額からタラタラと汗が流れた。雪路の甘美な舌先が節子の歯の間をくぐってくる。
その柔らかい雪路の舌に舌をからませた節子は揉み抜かれるような陶酔に浸り、
自分の身が奥深い肉色の霧の中へ吸いこまれていくような気分になった。
これが同性愛というものなのか――
節子は、もしそうなればこんな美しい奥様を自分の相手に選んで下さった神様に、
大いに感謝しなければならないと夢うつつに思うのである。「奥様っ、好きよ、好きなのよっ」>、
と緊縛された雪路を抱きしめ、激しく頬ずりしながらわめく節子に、雪路は、あなただけが頼りなのよ、
あなただけは私の傍にいて下さいねと約束させる。
それから、三郎達が戻って来て、直江は、買ってきたバナナを雪路の羞恥の丘に触れさせながら、
岡田社長の前で、バナナ切りのお披露目をするときは、
あなたも心強いでしょうから、節子を介添人にしてあげると告げる。
三日後、岡田社長が秘書を伴って月影荘へ乗りこんで来た。
奥座敷の床の間の前へ陣取った二人に、直江や町子は酒や肴をどんどんと運んだ、
二人の前の畳には、引き出物を晒すために、白木の柱が立てられていた。
次の間の床柱へ縛られている雪路は、町子に化粧をほどこされていたが、
初々しい若奥様風の髪型に、ストリッパーの銀色のバタフライを着けさせられていた、
気品に満ちた容貌と扇情的なバタフライのアンバランスが岡田社長に喜ばれるということだった。
直江が要領はわかっているわねと言うと、
<わかっていますわ。教えられたようにやりますから>と雪路は小さく答える。
引き立て役とされた節子と二人にされると、恐ろしい社長と嫌な秘書の人物像を聞かされて、
自嘲的な微笑を浮かべる雪路だったが、自分を勇気づけるために、強く接吻して下さらないと節子に甘え、
雪路と節子はすすり泣きながらぴたりと唇をあわせるのだった。
ぐずぐずしている二人に、待ちかねた三郎が入ってきて、
麻縄できびしく後手に縛り上げられた雪路は、三郎に縄尻を取られて、次の間へ引き立てられていく。
岡田社長は、ひと目見るなり、なるほど、美人だと言って、
白木の柱を背に縛りつけられて晒される雪路を、秘書と共に見惚れるようにして眺め続ける。
直江が節子をけしかけて、雪路に挨拶を促すと、<雪路は静かにうなずいてゆっくりと顔を起こした。
「大月雪路と申します。年は二十四歳、結婚の経験がございます。
自分の肉体について申し上げます。バスト八十六、ウエスト六○、ヒップ九○――
………私は数年前、事故により失明致しましたが性行為には自信があり、
女の武器も決して殿方を失望させるものではないと思っております。
あとでごゆっくり御賞味下さって私の買値をつけて頂きとう存じます」
やっと雪路はそこまで口上をのべ、張りつめていた気が抜けたようにほっと息をつくのだった>。
岡田は、気に入った、商談は成立しそうだなと言い、酒の入ったコップを手にして、
雪路の間近に立つと飲ませようとするが、それを拒絶した雪路は無理やり咽喉へ流しこまれる。
岡田が雪路の前へあぐらを組んで座り、酒の酔いに変化をあらわす雪路を眺め始めると、
直江は、後を続けなきゃ駄目とけしかける。<全身に酒の酔いがまわり、
頬を火照らせる雪路は熱い吐息と一緒に挑発的なバタフライでぴっちり覆われた腰部をうねらせている。
妖しい悩ましさを持つ成熟した太腿がすり合わさるようにうねり出し、
それは酒気を帯びた岡田の眼には正に刺戟的であった。
「岡田様、いかが、雪路の身体、お気に召しまして」 
雪路は鼻にかかった声と身のこなしで岡田を煽り立てようとしている>。
媚態を振りまくストリッパーさながらの雪路を岡田社長が顔も身体も初めて見た美しさだと褒めると、
<「嬉しいわ。それじゃ、腰のものをとりますから、雪路の生まれたままの姿を御覧になって下さいます?」
雪路は三郎に指示された通り、自分を淫婦めかして媚びを含んだ声音を出すのだ。
「でも私、こうして後手に縛られているでしょう。自分じゃこのバタフライをとることが出来ないの」
雪路は情感に潤んだ眼差しを注いで、「脱がせて下さいます、岡田様」 と、甘えかかるようにいうと、
岡田はすっかり雪路に煽られた形で、雪路の腰部に吸いこまれていくのだ>。
岡田の手によって取り去られたバタフライは、雪路を生まれたままの素っ裸とさせ、
スラリと伸びた下肢から官能味を持つ両腿、そして、悩ましく密生する漆黒の繊毛を凝視させるのだった。
脚を開けという岡田の言葉にも、素直に従う雪路は、<悪戯なすってもかまいませんわ。岡田様>とさえ言う。
三郎と直江から充分に教えこまれた、岡田の劣情を一層燃焼させるための媚態の演技。
岡田は、その評価によって雪路の肉体の買値をつけることになっているのだった。
そこへ節子がバナナを運んで来る、直江は、
社長の為に雪路が名器の証のバナナ切りを披露するので、社長の手で切らせてやって欲しいと言う。
岡田がバナナを手にして、それじゃ、切って頂こうかと迫ると、雪路は、切る前に一度、オナニーがしたい、
しかし、後手に縛られているので、岡田様にやって頂きたいと初々しく羞じらいながら申し出るのだった。
<そうした雪路の媚態は、彼女自身の体内に巣くっていた妖婦性が発散されたのではないかと思われるくらい、
単なる技巧とはいえないものがあった>。
岡田が下半身にまとわりつき、秘書の内田が上半身へ絡みついた。
二人から、甘美な肉層への指先の愛撫と揉み上げられる乳房の愛撫を受けると、
おびただしい樹液をあふれさせて反応の敏感さをあらわし、内田にもっと激しく揉んで頂戴とねだり、
深く指先で探り出した岡田には、もっと強く指を使ってほしいのと甘える、
<その内、雪路は狂気したように首を左右に振り回しながら、もどかしげに、
「ああ、何かお道具を使って頂戴」 と、わめくような声をはり上げるのだった>。
<その先端がねじりた筒具を岡田が拾いあげて雪路に押し当てると、
美麗な淡紅色の花弁がたちまちふくらんで、それを深く受容していくのだった。
「ねえ、小刻みに使って。お、お願い」 それは直江や三郎に教えこまれた技巧ではなく、
雪路は完全に性の恍惚境に浸り切り、そこから自然に発生する女の妖気であった。
岡田はすっかり雪路に煽られた形で、欲求されるままに責具を操作し始める。
そして、奥深い溶けるような甘美さと粘りのある吸引力に眼を瞠るのだった。
雪路は官能の痺れで狂態を示しながらも、どこか深窓に育った女の優雅さが感じられ、
「はしたないおねだりばかりして、ご免なさい」 と、激しい啼泣と一緒に詫び入る所など、
岡田の気持ちをうずかせる。そして、情感が燃えさかり、絶頂近くへ追いこまれると、
「ね、のぼりつめてもいい? 岡田様」 とすすり上げながら念を押し、
岡田を身も心も痺れるような恍惚感にひき入れるのだった。
絶息するようなうめきと一緒に頂上に達した雪路は、筒具を深く挟みこんだ両腿をピタリと閉じ合わせ、
ヒクヒクと優美な腰を痙攣させてぐったりと頭を前に垂れさせる。
やがて、その陶酔の余韻から覚めた雪路は、上気した美しい顔をそっと起し、
うっとり眼を閉ざしながら、「素敵だったわ。岡田様」と溜息をつくような口調でいい、
「切ってお見せしますわ。最初はそこにいる節子さんに手伝ってもらいます。
よく御覧になっていて下さいね」 と、岡田に告げるのだった>。
月影荘の二階にある六帖の奥座敷が岡田の寝室として当てがわれていた。
そこには、媚めかしい夜具が敷かれ、床の間の竹柱に縄尻をつながれた雪路が緊縛された素っ裸のまま、
ぴっちり腿を揃えさせて正座していた。階下で行われている三郎と岡田の商談が終わるのを、
雪路はじっとそこで待っているのだった。<先程、岡田達の酒席で自分が演じたあの卑猥な浅ましい演技――
それが今、白々しい自意識と共に、痛烈な汚辱感となって雪路の胸を緊めつけてくるのだった。
あの時の自分は本当の自分であったのか。まるで悪魔がのりうつったとしか思えないあの浅ましい媚態――
いや、如何に三郎達に強要されたこととはいえ、自分の体内にはもう一人の自分がいて、
被虐性の快感に酔い痺れ、あの媚態を発生させたのかも知れぬと、雪路は狂おしい気持になるのである>。
そこへ上機嫌に酔った三郎と直江があらわれる。
商談は言い値で決まり岡田が引き取ることに決まったと話す、
今夜はそのしめくくりになるから、絶倫の岡田社長に好かれるようにがんばってと哄笑する。
二人の残虐な言葉に耐えられず、雪路がブルブルと肩先を慄わせて嗚咽し始めると、直江は、
そんなに泣いたら綺麗な顔が台無しになるわ、節子を来させて寝化粧してあげると言い捨てて部屋を去る。
しばらくして、おろおろした表情の節子が部屋に入ってくる。
節子は、岡田社長の女泣かせの好色を聞いて、ポルノ業者の人身御供になるだけでなく、
雪路が社長の技巧の虜になることを考えると嫉妬の思いに駆られる。
<「奥様、あのいやらしい男に愛されて燃え上ったりはしないでね。いやよ。そんな風になっちゃ」
と、節子は雪路の肩に再び顔を埋めてすねるように身体を揺さぶるのだった。
「大丈夫ですわ、節子さん。雪路はただ死んだ思いになって耐えているだけよ。あなたを自分の守護神として、
その間ずっと思いつづけていますわ」 雪路のその言葉に節子は胸を痺れさせて、奥様、奥様、
と叫びながら泣きじゃくり、雪路の艶々しい肩先にポタポタと熱い涙をしたたらすのだった>。
入ってもいいかねという岡田の声が襖の外からして、
雪路はハッとして全身を硬化させ、立膝に身を縮めた。
酒に酔った岡田と秘書の内田があらわれて、節子を下がらせると、
岡田は雪路の傍にあぐらを組んで座りこみ、先程の雪路のショーを褒め、<商品価値は充分だね。
あとはセックスということになるが、念のためわしの秘書を今夜傍におくことにしたよ。こちらも商売だからな。
奥様の緊め具合、しゃぶり方、声の出し方などすべて調べ上げておく必要があるんだ>と言って、
秘書を傍へ呼び寄せる、二人は全裸になると、股間のものを誇示するように突き出し合って、声を立てて笑う。
竹柱から縄尻を解かれた雪路は、左右から二人に抱きしめられて、夜具の上へ運ばれ正座させられる。
<「どうだい、肌の感触で大きさが大体、わかるかね」 岡田と内田はその鉄のような固さで硬直したものを、
膝を揃えて坐っている雪路の肩先へ押しつけたり、薄紅く上気した頬に触れさせたりするのだ。
その度に、雪路は熱い刃を肌に押しつけられたような衝撃をうけてブルッと身慄いし、
ぴったり揃えさせている太腿を恐怖と羞恥でガクガク痙攣させている>、
内田が後手に縛られた雪路の手に自分の硬直を無理やり握らせると、岡田はそれを雪路の唇へ触れさせる、
雪路は昂ぶった声を上げ羞恥と狼狽で激しく身を揉んだが、それもわずかの間の抵抗に過ぎなかった、
<麻薬を嗅がされたように次第に全身から力が抜け始めた雪路は、遮二無二、
押しつけて来る岡田の強引さに負けて、熱い喘ぎと一緒にそれを唇で受け止め、
岡田の欲求を果たすために熱気を帯びたそれを優しく舌で愛撫し始めたのである。
岡田は有頂天になって強く雪路の肩先を押さえこみ、激しい息づかいになったが、
雪路も男の性の匂いに五体が痺れ甘美な感覚に浸り出している。やはり、女は男に弱い動物なのか――
雪路は朦朧となっていく神経のなかで節子に詫び、静かに唇を開いて、深く咥えこんでいくのだった>、
そして無意識に、背後にまといつき麻縄に緊り上げられた両乳房を揉み上げている内田の硬直を、
雪路は指先をからませゆるやかにしごいて、内田を悦ばせるのであった、
<まるで妖婦から娼婦に変貌した自分がわからなくなっている――
自分にこんな魔性が発生するということが、雪路には不思議でならなかった>。
雪路の妹の雅子がパリから帰国して、明日、月影荘へ戻るという電話が入った。
三郎と直江は、その突然の連絡に対策を立てる暇もなく、対面せざるを得なかった。
<雪路に似て、雅子も気品のある美しい容貌をしていた。身体の線もスッキリと均整がとれ、
ぴったりと着こなしている黒の上下のシンプルなスーツがよく似合った。軽くウェーブのかかった黒髪が、
象牙色の冷たい容貌を引き立てて、長い間フランスに留学していたという感じが服装や髪の形に現れている>。
結婚に大反対され、ごまかしのきかない手きびしさのある雅子を三郎はいなそうとするが、
雅子は姉に会わせて欲しいと二階へ上がろうとする。二階には、雪路が岡田と内田と籠り切りになっている。
ついに、三郎は本性をむき出し、旅館を乗っ取る目的で入り婿になり、雪路はポルノ業者へ売り飛ばした、
こうなれば、妹のお前も同じコースをたどらせてやる、と雅子に襲いかかる。
フランスで柔道を習っていた雅子は、三郎を投げ飛ばし腕を逆にとって、
姉の所在を問い詰めるが、背後から直江の麻酔薬のハンカチで口を塞がれる。
三郎は、地下牢へ入れてしまおうと直江と一緒になって、
気を失った雅子から衣類を剥ぎ取っていくのであった。
<岡田と内田の嗜虐的ないたぶりを受け、それからどれ位の時間が流れたか、
雪路は全くわからなくなっていた。
雪路の肉体は二人の男の手管にすっかり順応させられて、激しい波に揺さぶられ、
まるで一匹の性獣と化してしまったように男達を代る代る受け入れている。
今、雪路は夜具の上にどっかりあぐらを組む岡田の膝の上に乗せ上げられて、
緊縛された裸身を岡田の両手で抱きすくめられ、岡田の動きに合わせて激しく双臀を揺さぶり続けているのだ。
………何をされても雪路はもう自分の意志はなく、喜悦にのたうち続けて、
男達の動作で引きずり上げられるように絶頂感を味あわされているのだった。
「ねっ、ねっ、私ばっかりがこんな、岡田様っ、あなたも、あなたも雪路と一緒に登りつめて下さいっ」………
また、絶頂に引きずり上げられる。雪路が今、必死に望んでいるのは岡田も内田も早くその頂上を極めて、
このくり返しに終止符を打ってほしいということであった。
そうでなければ際限がないではないか。この愛欲のただれの中で、
自分は骨も肉もバラバラにされてしまうのではないかと雪路は段々と恐しくなってきたのである。………
雪路は再び、絶息するようなうめきを洩らす。眼がくらみ、五体の筋肉が震えて、
下半身が切なさを伴う快美感でカッと熱くなった。
「ああ、また、こんなことになるなんて、口惜しいわ」 雪路はひきつった声でそういうと、
幾度目かの絶頂に到達したことをはっきりと岡田に示すのだった。
………内田に催促されて、雪路はふてくされた覚悟をきめたように、
そこにあぐらを組んでいる内田の下腹部へ緊縛された裸身を折り曲げていった。
それを頬をふくらませて口に含んだ雪路の眼から、熱い涙がしたたり落ちる。
雪路の肉体は重い鉛がぶちこまれたように節々が痛み、全身、綿のように疲れ切っているのだ。
それでも、男の体液を放出させるための努力をこれからも続けなければならない。
雪路はここで情事の極限を思い知らされた気分になり、
同時に自分は完全に性の奴隷になり果てたというみじめな思いを味あわされたのである>。
地下の鉄格子で仕切られた牢舎の中に、
パンティひとつにされた雅子が閉じ込められていた、
白い華奢な手で胸のふらみを覆い隠しながら、憎悪のこもった瞳を三郎と直江に向けている。
直江は、お姉さんも素っ裸でそこに入れられていた、そろそろお勤めを果たして、戻って来る頃だと嘲笑する。
やがて、<地下の通路を、後手に麻縄で縛り上げられた素っ裸の雪路が、
ガウンを着た岡田と内田に縄尻をとられ、肩や背筋を押されるようにしてフラフラ歩いて来たのだ。
身も心も無残に打ちくだかれた雪路は、蒼ざめた表情を凍りつかせ、歩くのがやっとという有様である>。
お姉さんと悲鳴を上げる雅子の声に、雪路は妹の存在を知る。
緊縛を解かれて牢舎へ押し込まれると、姉妹は裸の身体を抱き合って嗚咽し合う。
雪路は三郎に、雅子だけは許して下さいと哀願するが、美麗な雅子の姿に惚れた岡田は、
妹も買い上げると言って、雅子にポルノ映画に出演することを申し付ける。
<お姉さんをなぶりものにして、今度は妹の私まで毒牙にかけようというの。
あなた達は人間の皮をかぶったけだものよ>と憤怒をぶち当てるように声をはり上げる雅子だったが、
そのじゃじゃ馬馴らしには一番効き目のある、浣腸責めが決められる。
雪路は止めて下さいと悲痛の哀願をするが無視され、牢舎に二人だけで取り残される。
雪路は、泣きじゃくりながら雅子に詫び、妹だけは何としても逃げてくれることを切願する。
地下のスタジオには、日本人離れした豊満な胸へ縄をまわされて後手に縛り上げられた雅子が縄尻を取られ、
木製の寝台の前へ引き立てられてくる。
傍らの鉄柱には、雪路が立位で縛り付けられている、
三郎はナイフの刃で雪路の肌をさすり上げながら、言うことをきかないとお姉さんに悲鳴が上がるぞと脅す。
雅子は口惜し泣きしながら、岡田の手でパンティをずり降ろされると、ベッドへ仰向けに寝かされる。
三郎は雅子の悩ましい下腹部を眺め、投げ飛ばされた腹いせにくわしく観察してやると言って、
その淡い繊毛へ触れると、雅子は裸身を硬直させて、な、なにをするのっ、悪魔っ、けだものとわめきだす。
三郎が内田と左右から雅子のしなやかな両肢を天上から垂れる鎖へ繋ごうとすると、やめてっ、
いやっとすさまじいばかりに抵抗を示す。三郎は雅子の火照った頬を平手打ちし、直江と町子が手伝って、
雅子の白い艶やかな太腿は、宙に向かって左右に大きく割り開かれ、高々と吊り上げられる。
<雅子は呼吸が止まるばかりの汚辱感で狂気めいた悶えを演じている。
自分が今、憎い男達の眼前にどのように淫らで屈辱的な姿態を露呈させているのか、
それがわかると強烈な汚辱感で心臓は高鳴り続け、血の気は消えて、気が遠くなるのだ。………
両肢を吊られ、双臀には木枕、そんな淫靡な体位をとらされてしまったために、
女の羞恥の花園は繊毛をくっきり浮き立たせ、その奥底の薄紅色の美麗な花肉まで、
露わにぱっくりと晒け出されてしまった。それだけではなく双臀の内深くに秘められた可憐な菊の蕾まで、
逃げも隠れもならず生々しくも、もろに晒け出されているのだ。
雅子は肉が切り刻まれるより辛い屈辱感と汚辱感を、キリキリ歯を噛み鳴らしながら耐えている>。
岡田が姉さん同様に上つきに出来ていると言って、最も敏感な羞恥の蕾や可憐な菊花へ指先を触れると、
緊縛された雪白の裸身をのたうたせ、自由を奪った女をなぶりものにするなんて、恥、恥を知りなさいと叫ぶ。
岡田は一度最高にいい気分にさせて浣腸しようと促すと、三郎は鳥の羽毛を手にして下腹部へまわる、
くすぐられ始めると雅子は逆上したように狼狽を示す。緊縛の裸身へ左右から寄り添った直江と町子が、
乳頭と乳房を指先で揉み上げ唇を押し当てて甘く吸い上げる。宙づりの両腿を岡田と内田が押さえ込み、
三郎の羽毛は絹のような柔らかい繊毛の上をさすり始めている。
<「いやっ、いやよっ」 と、昂った声をはり上げ続ける雅子であったが、女二人の巧妙な乳房責めに加えて、
三郎の淫靡に動かす羽毛のため、身体全体が次第に甘く痺れ出して来た。嫌悪と恐怖と屈辱にのたうちながら、
生身の肉体は抗し切れず、被虐性の妖しい快美感を知覚せねばならぬその苦しさ――>。
さすり上げられ、悩ましい繊毛のふくらみを浮き上らせて、幾重にも畳まれた美麗な花肉があらわにされると、
<三郎は、もう毒づく気力もなく、そのかわりにすすり泣きに似た甘い声で喘ぎ出した雅子を、
さらにいっそう駆りたてるべく、羽毛を捨てると雅子の内腿の亀裂にずぶりと中指を突き立てた。
「ああ、な、なにをするのっ」 その途端、雅子は木枕の上に乗せられた双臀をブルッと痙攣させ、
鋭い声で叫んだが、それも一瞬で、もう身体の芯まで情感に溶けくずれた雅子は、
三郎にすっかり全身をゆだね、甘くて鋭い快美感の中に自分を沈みこませていくのだ。
三郎はおびただしい粘液をはく美肉の湿地帯から指をぬくと、次はその甘美な肉層に唇を押しつけた。
………最も敏感な部分を吸い上げられて、
耐え切れず苦悩のうめきとも喜悦のうめきともつかぬ声を洩らしてのたうつ雅子を、
直江と町子は北叟笑みながら眺めつつ、更に情感が迫るようにじわじわと乳房を揉み上げるのだった。
ようやく唇を離した三郎は、もうこうなればこちらのものだとばかり指先を使って遮二無二愛撫する。
するともう雅子は全身から衝き上げてくる情念の痺れに身も心も溶かされて、
おびただしい樹液をとろー、とろーと絶え間なくしたたらせてくるのだった。三郎は両手の指先を器用に使って、
生々しいばかりに花層を開花させた粘っこい部分とその下層の甘美な収縮さえ見せ始めた菊花の部分とを
同時に激しく愛撫するのだった。雅子の嗚咽はますます昂っていく。
三郎に対する憎悪と嫌悪の感情はあやふやなものになり、もうどうにもならない諦めがこみ上げて来て、
どろどろに溶かされた泥のように三郎の手管で押し流されていくのだ。
すぐ傍らの鉄柱を背にして立位で縛りつけられている雪路は、激しい嗚咽をくり返していた。
(ああ、雅子。姉さんを許して) 雪路は胸の中で幾度も叫びつづけている。
「さて、こいつで仕上げにかかるか」 三郎はおびただしい果汁を溢れさせ、
もう快楽の頂上近くに追い上げられてしまっている雅子に気づくと、
再びベッドの下の木箱に手を差し入れて、筒状の責具を取り出した。
その先端がそっと触れてくると今まで陶酔の火照りで喜悦にむせび泣いていた雅子だったが、
最後の気力を振り絞るように木枕の上に乗せ上げられた双臀を揺さぶり、
「いやっ、いやですっ。やめて、お願いっ」 と、激しい声をはり上げ、拒否を示すのだった。
蛇蝎のように卑劣で狡猾な三郎の手管に煽られ、
すっかり燃え上ってしまった自分の浅ましさがふと白々しい自意識となって雅子の魂を緊め上げてくる。
しかし、もう肉体は自分の意志ではどうしようもないくらい、のっぴきならぬ状態に追いこまれているのだ。
「ああ、三郎さん、もう勘、勘堪して」 三郎はせせら笑いながら、ゆっくりとそれを押し進めていく。
「うっ、うっ、うっ」 と、雅子は自分の体内におぞましいものが含まれていくのを知覚すると、
美しい眉根を寄せて、うめくように喘いだ。強烈な快美感に打ちのめされるように、
雅子は汗ばんだ美しいうなじを浮き立たせ、白い歯をカチカチと噛み合わせている。
「あ、あっ」 筒具を含んだ花層は美麗な彩色を見せてふくれ上がり、それは蟲惑的な花が開くよう、
妖しく悩ましく映じるのだった。三郎は小刻みに筒具を操作し、
もう一方の指先で粘っこい潤みを持ち始めた菊花を激しく愛撫する。
ここぞとばかり手練手管を発揮し始めた三郎――
「あっ、あっ、あ――」 雅子は完全燃焼を示して、絶頂を極めてしまった。絶息するように悲鳴を上げ、
激しく筋肉を収縮させて、がっくりと汗ばんだ顔を横へ伏せてしまった雅子を見ると、
三郎は直江と眼を見合せ、してやったりとばかり淫靡な微笑を口元に浮かべるのだ。
三郎は雅子の筋肉が弛緩したのを見計らって、ゆっくりと矛先を引き揚げ、
甘美な山百合の匂いに似た体臭と一緒に溢れ出る樹液の豊かさに眼を瞠るのだった。
「よし、これで少しは女らしくなったろう。すぐに浣腸責めだ」>。
すると、岡田は鉄柱に縛りつけられて泣きじゃくっている雪路を指して、雪路にも付き合せろと言うのだった。
雅子は、気を取り戻した時、姉が隣に置かれたベッドにいて、
自分と同じように木枕の上に双臀を乗せ、開股吊りの淫虐な体位をとらされているありさまにあることを知る。
周囲に三郎たちの姿はなかった。
雪路は、雅子を酷い目にあわせてしまった自分の不手際を詫びる。
泣きじゃくる雅子は、姉と自分が取らされている惨めで淫猥な姿態を見ると、いっそ舌でも噛み切りたかった、
<だって、お姉さん、私、あんな生恥をかかされて、もう生きる望みを失ってしまった>と言うと、
雪路は叱るように、<私はあの岡田と内田の二人に陵辱され、いえ、それだけではなく、
口ではいえない羞ずかしめを連日受けて来たのです。
それでも、こうして生き続けたのはあなたが私のたった一つの望みだったからなのよ。
二人がここで命を断つような事をすれば、あの悪魔に負けたことになるじゃありませんか」
「でも、でも、お姉さん。私はこうして悪魔に捕らわれてしまったのよ」
「ですから、こうなればどんな羞ずかしめを受けても耐え抜いて、救援者が現われることを祈るのです。
ね、短気は絶対に起さないと姉さんに約束して、雅子」
雅子は雪路の悲痛な声音を耳にすると、胸が張り裂けそうな思いになる。「わ、わかったわ。お姉さん」>。
この二人のやり取りを影で聞いていた節子が姿をあらわした。
節子は自分が抜け出してその筋に通告する決心をしたと雪路に話す、
雪路は、<「恩に、恩にきますわ。私はどうなってもいいの。ただ雅子さえ救うことが出来れば私、
もう死んだっていいのです。後生です。節子さん、雅子を救ってやって」
「ここを抜け出すことをあの人達に見破られればもう望みはありません。でも、私、一か八かやってみますわ」 
節子の言葉を聞いて雪路は胸をつまらせ、幾度も恩に着ますわ、と涙声でくり返すのだった>。
節子は、今夜一晩の辛抱だと思ってあの人達に逆らわずにいて下さい、
雪路は、死んだつもりになって姉さんと一緒に歯を喰いしばって頂戴と励ますと、
雅子は、<ええ、耐え抜きますわ>と決意を示すのだった。
酒に酔った三郎、岡田達は、地下室に戻ってくると、
二肢を宙づりにされ生々しく開花している雪路と雅子の羞恥の源泉とその下層にある菊の蕾を見比べて、
可愛いだの、大きさも開き加減も同じ位だなどと哄笑しながら、揶揄の言葉を浴びせかける。
それから、直江が雪路を三郎が雅子を受け持って、美人姉妹の<菊花の舞い>が始められるのである。
コールドクリームを掬い取った指先が菊花の蕾を柔らかく揉み上げて深く塗りこんでいく。
雅子が悲鳴を上げ大粒の涙をしたたらせて苦悩のうめきを叫ぶと、雪路は我慢するのよと励ます。
三郎の執拗な指先の愛撫を受けて、<雅子は、汚辱の中から被虐的な情念を掻き立てられて、
上層の花弁は自然に微妙な収縮を示し出し、早熟の甘い果汁を溢れさせてくるのだった。
雪路の方も情念のこみ上った花園をねっとりと開いて、遮二無二、
愛撫する直江の指先に女のもろさをしたたらせてくる>。
三郎と直江の手にした石鹸水二百CCを注入したガラス製の浣腸器が一気に同時に突き立てられていくと、
雪路と雅子は傷ついた獣のようなうめきを口からもらし、脂汗を滲ませた艶っぽいうなじをぐっとのけぞらせる。
姉妹はお互いを呼び合うが、更に力一杯、嘴管を喰いこまされ、<焼火箸を突き入れられたような苦痛と、
魂も凍りつくような汚辱感、それと同時に不可思議な被虐性の快感が妖しくこみ上げて来て、
雪路と雅子は咆哮に似た声を同時にはり上げるのだった。
体内深くに生温かい溶液がわずかずつ注ぎこまれているのを狂乱の中で知覚した雅子は
おびえ切った表情になり、いやよ、いやよ、と泣きわめき、
真っ赤に上気した顔を右に伏せたり左に伏せたりして激しい狼狽を示し出す。………
三郎と直江はそんな美しい姉妹の狼狽ぶりを愉快そうに見つめながら、わざとポンプをゆっくり押し、
ひと呼吸を入れてまた続行したりする。「お、お願い、早く、早くすませてっ」
雪路は一寸刻み五分刻みに自分達の肉を引き裂こうとする悪魔の冷酷さに耐え切れず、
切れ切れの悲鳴を上げるのだった。………そんな淫靡な愛撫を雅子も受けて、熱っぽい啼泣を洩らし始める。
嘴管を含んでいるその部分の感覚はすっかり麻痺して、
次第にそれは頭の芯まで痺れ出すような妖しい快美の感覚にかわっていった。………
二人の体内に注ぎこんだ直江と三郎は、ようやく嘴管を引き抜いて岡田達と一緒にどっと哄笑する。
………雪路は下腹に鈍痛を感じて美しい眉を寄せ、唇を固く噛みしめた。
浣腸のあと当然、起ってくる生理の苦痛が早くもその恐ろしい徴候を見せ始めたのである。
雅子も美しい顔を苦痛に歪めてキリキリ奥歯を噛みしめながら、
吊り上げられた優美な二肢をうねらせ、木枕の上の双臀をモジモジ動かし始めている。
雅子も雪路と同じく下腹にキリキリこみ上がって来た苦痛を何とか耐え切ろうとし、
荒い鼻息を洩らしながら黒髪を揺さぶり出している。しかし、その生理の苦痛は急速度になり、
下腹部一杯に不快な膨張感がこみこみ上げてきたのだ。
ますます雅子の喘ぎは激しくなり、遂に悲鳴を上げ始めたのだ。………
「お、お願い、縄を解いてっ、お手洗いへ行かせてっ」
雅子はうわ言のようにくり返しながら汗ばんだ美しい額をさも苦しげに歪めるのだった。
「駄目だ。もっと我慢しな。俺をコケにしやがった罰だ」………
「ああ、もう駄目、洩、洩れてしまいます」 ついに限界に近づき、
もう耐え切れなくなった雪路は艶やかなうなじを反り返らせ、ひきつった声を張り上げる>。
こんな所へ洩らしてもらっちゃ困るわと直江は苦笑して、節子に雪路の世話を命じる、
三郎は雅子の世話を買って出て、姉妹の双臀へそれぞれ洗面器があてがわれる。
<「雅子、これを最後と思ってお互いに生恥を晒しましょう。もうそれより方法はないのよ」
雅子が姉の雪路と呼吸を合わせるようにして排泄行為を開始すると、
悪魔達は再びどっと哄笑するのだった>。
<地下の牢舎で雪路と雅子は一糸まとわぬ素っ裸を互いに抱き合うようにして眠っている。
何時あの地獄の饗宴が終わり、何時自分達姉妹がこの薄暗い牢舎へ投げこまれたのか、
雪路も雅子も覚えていなかった>。
雪路は節子がきっと私達を救ってくれると雅子を励ますが、雅子は、
もう朝になっているのなら助けを求めに行っているはずだ、本当にあの人を信用できるのかと問い返す、
雪路は眉を曇らせて、もう自分達二人は節子に望みを託す以外に方法がないと思うだけだった。
それから一時間が経ったが、地下室は不気味なくらいに静かであった。
雪路と雅子は次第に不安と焦燥に駆り立てられ、節子が心変わりをしたのではないか、
或いは、抜け出すことに失敗したのではないかと苛立たしく心臓を高鳴らせた。
地下の階段を降りて来る足音が聞こえ、姉妹は緊張したが、現われたのは三郎だった。
三郎は、<それにしても昨夜は愉快だったね。美人姉妹の同時浣腸、同時排泄、
岡田社長は涙を流さんばかりに悦んでいたよ>と言い、<今朝は岡田社長の希望で、
まずお前さん達の前の毛を剃り落とすのだ>と声を上げて笑う。
そこへ直江と町子が入ってくるが節子の姿はなかった、雪路は、<雅子、きっと私達は救われるわ。
あとしばらくの辛抱よ。とにかく時間を稼ぐことだわ>と雅子に囁きかける、
わかったわ、お姉さんと雅子はうなずく。
姉妹は牢舎から出される。
<雅子は三郎の手に麻縄の束が握られているのに気づくと、「縛るのでしょう」
と冷やかにいい、胸を抱くようにしていた両手を解いて背中へまわしていくのだった………
雅子は薄く眼を閉じ合わせ、身動き一つ示さず三郎にヒシヒシと縄がけされている。
「こういう風に柔順になってくれるといい気分だね、全く」 
三郎と直江は次に雪路も雅子と同じくかっちり後手に縛り上げ、
「さ、行くんだ」 と縄尻をとって背中を押すのだった>。
雪路と雅子は、岡田の寝室へ連れ込まれる、
すでにシャボンや刷毛、西洋剃刀などが盆に乗せられて、床柱の前に用意されていた。
岡田は、俺にはこういう趣味があってねと照れ笑いし、どちらから先に剃り上げようかと言うと、
雪路が私が先にお仕置きを受けますわと三郎に声を掛ける。
三郎は雪路を押し立て、床柱を背にさせて縛りつけたが、雪路は節子に剃らせた方が面白いと言い出す。
その場にいない節子を町子に呼びにやらせようとすると、雪路はハッとなって、待、待って、あなたと止める、
<「あなたに、そ、そこを剃って頂きたいの。だって、あなたは私にとっては初めての男性じゃありませんか。
何でも節子さんばかりに頼むのはいやですわ」 「へえ、嬉しいことをいってくれるじゃないか」
雪路は何とか時を稼ぐために、三郎に対して媚態をふりまくのだ。
「よし、じゃ。俺が仕上げてやる」 三郎がシャボンの中に刷毛を浸した時、
直江が不安な表情になって窓の方へ眼を寄せていった。
「ね、どこかでパトカーのサイレンが聞こえるわ」>。


ここに、団鬼六固有の<定型>を読み取ることは、難しいことではない、
むしろ、その<定型>が明確にあるために、その作品が一般化したと言えることにある。
<定型>と言う以上、同一作者の同様な作品のすべてに適応が可能であるという措定となることで、
また、その<定型>は、閉じた構造にあるものなのか、或いは、開かれているかを問われることでもある。
<定型>の第一は、<血と殺人>がまったく表現されない、ということである。
<SMの概念>は<性的異常>をあらわすものである、
加虐嗜好・被虐嗜好、肉体的及び精神的苦痛を与えること・与えられることの快楽、
それは、死に至ることにおいて最上の悦楽と見なされるという論理にあることである。
<SMの概念>にあって、<血と殺人>は、必要不可欠の成立要件にある。
江戸川乱歩の作品においては、この要件は、充分に満たされている。
だが、団鬼六の<定型>においては、この<血と殺人>は、完全に排除されている。
大東亜戦争敗戦後の状況には、<カストリ雑誌>と称された、性風俗雑誌の氾濫があった、
種々雑多の性表現があり、そのなかには、<SMの概念>をあらわすものもあった、
当然、 <血と殺人>をあらわすものとして捉えられていた。
須磨利之が『奇譚クラブ』(1946年創刊)の編集長となったことは、
<SMの概念>を方向付ける大きな役割を果たしたことにあるが、団鬼六の『花と蛇』の掲載もこの雑誌であった。
『花と蛇』において、<血と殺人>は、すでに排除されている表現となっているが、それには、
須磨利之固有の<SMの概念>、縄の緊縛による虐待という美意識の影響があったことは確かである。
しかし、それ以上に大きく働いたのは、読者が<血と殺人>の表現を望まなかったことにある。
『花と蛇』は一度終了されたが、その再開を熱望した読者の存在が<団鬼六>という作家を作り上げた、
<団鬼六>は、読者の要望に応えて、読者の最も喜ぶ表現を精進した、その意味では、
優れた大衆小説家であったが、そこに生まれ育っていく<定型>こそは、作者の独創であると言うよりは、
<読者>がその時代を生きるために必要とした表現にあったということである。
この<読者>の主体は、敗戦と同時に生まれ、復興期に幼少を過ごし、経済成長期に思春期を向かえ、
高度成長期に第一線の労働の担い手となった、<団塊の世代>と称される人々にあたる。
<団鬼六>が一般化していく過程と<団塊の世代>が社会の中心となっていく時間経過が符合することは、
決して偶然ではないことは、作者と読者の共同作業で成立した<定型>は、社会性をあらわしたことにある。
1945年、日本国家は、ポツダム宣言を受諾し無条件降伏をして<戦争>に負けた、この事実は、
その<戦争>が正しかったか、間違っていたかを問う以前に、<負けた>という現実のあることである。
国家が戦争に負けた、という現実は、屈辱であり恥辱であり、惨めな悲哀にあることである、
これは、その民族にあれば、当然として抱く感情にあれば、それが出発点となることである。
ましてや、被占領国家として、連合国軍の統治下に置かれ、その命令の下に復興する状況にある。
アメリカ合衆国が中心となって行われた<GHQ 連合国最高司令官総司令部>の統治は、
日本が今後戦争をもたらす脅威となることのないように、平和を目的とした民主主義を推進させたが、
そこには、<戦争を罪悪とする認識><大東亜戦争をもたらした日本民族思想の否定>という条件があり、
<アメリカによって形作られた政治・経済・文化>を模範として、
<西洋思想>へ<模倣・追従>することが奨励されることにあった。
これは、明治以来、連綿と続く<欧化主義>が<戦後民主主義>と名称を変えただけにあると考えると、
日本にとっては、違和感のあるありようではなかったから、戦争の荒廃から復興することが第一の目的にあれば、
批判や反発のあることだとしても、取って代わる経済成長の方法がなければ、充分に受容できることにあった、
国家が戦争に負けたという事実は、変えることのできないものとしてあったからである。
両親がその<負けた>戦争の経験者である<団塊の世代>は、
その<GHQ>の影響のある<戦後教育>を最も強く受けた世代と言えることは、
その誕生から成長過程が戦後の歩みと同調していることにある。
<血と殺人>が<戦争を意識させる>ものとしてあれば、<戦争を罪悪とする認識>からは、
表現から排除されることが正しいことになるのは、『生贄姉妹』においては、
雪路の父親が作り、彼女が監禁されることになる地下の営倉を三郎がこのように評価することに示される、
<大月は、敵が本土上陸してここまで押し寄せて来れば、
近くの村の若い衆を皆、ここに集めて本気で戦う気でいたんだ。
しかし、長期戦の間には敵に降伏しようとする者や脱走しようとする青年だって現れる。
そういう不心得者を懲罰の意味でここに閉じこめる胆だったんだ。………
俺達にゃ正気の沙汰とは思えぬ話だがね>。
戦争状態は正気の沙汰ではない、チンピラやくざでさえ、<戦争を罪悪とする認識>を持っているのである。
その三郎に見事な背負い投げを喰らわせた雅子の<柔道>は、フランス留学中に習得したものとされている、
フランス製の<柔道>は、日本の武術継承者に習うよりも効果のあることが示されるのである、
戦争に<負けた>のであるから、<伝統の武術>が<西洋の日本武術>に勝てるわけがないという論理である。
従って、雪路の羞恥の花園に塗り込められる媚薬クリームは、<フランス製の高価なもの>でなくてはならない。
<西洋思想>へ<模倣・追従>することが奨励されることにあるが、作者の意図的表現にあるというよりも、
<戦後教育>が浸透した結果から生み出された価値観の<定型>と言えることにあるのは、
<大東亜戦争をもたらした日本民族思想の否定>ということも、明確に示されている点にある。
主人公の雪路は、箏の名取・鼓の名人である、雪路の高貴・優雅・美麗を象徴させる、<芸道の継承者>にある。
日本の伝統思想である<芸道の継承者>が屈辱・恥辱・汚辱の極みに晒される筋立てにある。
作者の他の作品、時代劇、現代劇を問わずに、主人公の女性の設定は、茶道、華道、香道、書道、邦楽、
武術等の師匠、名取、家元といった、<芸道の伝統継承者>にあるという<定型>にある。
真摯・清純・素直な性格の<芸道の伝統継承者>が<戦後教育>された<外道>にある者たちから、
所有財産と所持品の一切を剥奪され、全裸とされた姿態を自由を奪った縄の緊縛姿で、
嫌悪・憎悪・屈辱・恥辱・汚辱とされる、様々な性的行為を強要されることになる。
その極みにおいて、肉体がもたらす性的快感の最高潮を実感させられることは、
嫌悪・憎悪・屈辱・恥辱・汚辱にある、最悪の感情において、最高の悦楽があることが示される、
<芸道の伝統継承者>は崩壊して、<マゾヒスト>という、
<西洋思想>である<SMの概念>の自覚が生まれるということになる。
この<日本民族思想の否定>という筋立ては、<性的事象>の分野で行われていることにあって、
<戦後教育>された<読者>にとって、<性の解放>という自由な表現において、
<左翼思想>のあらわれとも受容できることにあったことは、
主人公の<被虐>に晒される女性は、ことごとく、上流階級、資産家の妻、或いは、娘という立場にあり、
相対する<加虐>の立場にある者は、外道、失業者、社会不適応者とされる、<定型>にある。
<加虐>の必然性・正当性は、資産や名声のある支配階級を崩壊させる、
抑圧された一般民衆の<革命>に比喩されることにある。
<戦後教育>や<戦後民主主義>に疑問や反発を抱いたとしても、<左翼思想>を抱いたとしても、
それが実際に果たし得ない、<改革>や<革命>を成就できない、という鬱積とした心理が生まれたとしたら、
<団鬼六>の小説は、<精神的>にも<肉体的>にも、自慰行為を満たしてくれるものとしてあったのである。
<猥褻>な事象であるから、公然と言えたことではなかったが、<団鬼六>という呼称は、
<司馬遼太郎>の存在と同等の<教育効果>があったとする見解があるとしても不思議ではない、
<偶像>としてさえあったのである。
従って、団鬼六の<定型>としての<SMの概念>とは、それを望んだ<読者>のために作り出された、
<特殊な意義>にあることで、支持する<読者>の増大は、
<読者>が社会の担い手になっていくのと歩調を合わせて、一般化の傾向へ向かわせるものとさせたのである。
その<特殊な意義>は、<奴隷への調教過程>という<定型>を見ると、
それが<団鬼六>の真骨頂とされている、決定的な表現となっていることがわかる。
主人公の<女性>は、『生贄姉妹』の場合、美人姉妹とされている。
同じ美しいと言っても、外見の相違、或いは、性格や考え方に固有があるのは当然のことにあるが、
そうした相違が<女性>という性的及び肉体的、そして、精神的条件においてさえも、
<女は女である>とされることで、<SMの概念>として、<一義>に表現されるものとなっている。
主人公の<女性>、即ち、<被虐>に晒される<女性>は、
次の<定型>で示される、<奴隷への調教過程>を歩まされるのである。
1)<主人>となる<調教者>から、所有財産と所持品の一切を剥奪された<女性>は、
生まれたままの全裸という<文字通り裸一貫>の身上にされ、<奴隷>となることを宣告される。
着衣した<女性>は、日常の自意識にあって、社会的常識を逸脱しない判断の基にあるが、
素っ裸とされた<女性>は、非日常の状況へ置かれることで、社会的常識の逸脱へ向かわされることになる。
<女性>の自意識の混乱・狼狽・不安は、決して逃れようのない状況にあることを認知させられるために、
身動きの自由を奪う、牢舎へ押し込められたり、身体を縄で緊縛されたりすることへ置かれる。
この場合、縄は、拘束するための道具でしかなく、緊縛とは、自由を奪うという意義以上のことにはない。
2)<被虐>に晒されるという非日常の状況へ置かれた<女性>は、反発・拒絶・抵抗を必死に試みる。
しかし、それが甲斐もなく空しい結果となることを自覚させられる。惨めな悲哀の心境にあって、
緊縛された裸身の羞恥の箇所をすべてさらけ出されて、嫌悪感は屈辱・恥辱・汚辱感にまで及ぶことになる。
その最悪の感情にまで昂ぶらされたとき、<女性>の肉体へ<一方的に成される><調教者>の愛撫が始まる。
指先や舌先の愛撫は、性的官能の高揚という快感へ導かれることで、最悪にある自意識と対峙させられる。
全裸を縄で緊縛されているという恥辱を感じさせられる身上にあって、
その上に<一方的に>恥辱の箇所を愛撫されることは、屈辱や汚辱の心境を増大させることにあるが、
肉体の恥辱の箇所への執拗な愛撫は、それに匹敵するくらいの強烈な快感を感じさせるものがある、
つまり、<被虐>に晒されている状況にあることは、快感を感じさせることにある、ということになる。
3)<女性>の肉体への愛撫が乳房や羞恥の蕾に留まらず、肛門や膣へ及んで、その快感が最高潮とされたとき、
性的快感は、惨めな悲哀・恥辱・屈辱・汚辱の自意識を上回って、悦びさえ感覚させるものとなる、
<被虐>に晒されることは、悦びを生じさせるということである。
従って、最高潮の感覚が減退すれば、最悪の自意識が蘇って、<白々しい自意識がこみ上げてくる>となる。
4)その<白々しい自意識>は、<被虐>に晒される状況が持続されることにおいて、
性的快感の最高潮を<一方的に成されること>は、道具さえ用いられて、幾度も感覚させられることにあれば、
悦びは、惨めな悲哀・恥辱・屈辱・汚辱の感覚にあるからこそ、より強烈にあると思うようになっていく。
<女性>の社会的常識として、肉体と精神は相対するものである、という考えにあるとされることは、
肉体の持つ力に精神が及ばずに<負けた>、という自意識へ置くことをさせる。
この<負けた>という<白々しい自意識>は、反発・拒絶・抵抗を意味のないものに考えさせる、
自棄な、投げやりな、自嘲的な、自主性を放棄する態度へと向かわせる。
自主性を放棄する、つまり、相手に隷属するようになるということである。
5)<女性>へ施される浣腸責めは、生理としてある排泄行為を見られることの嫌悪・拒絶・恥辱さえも、
<一方的に成されること>の前にあっては、自主性の及ばないことが教えられるものとしてある。
陰部の毛を剃り上げられる状況にあっても、もはや従順となることでしかない。
<奴隷>というのは、精神も肉体も、他者へ依存し隷属するありようであるということは、
<女性>は、隷属するからこそ、最高潮の性的快感を持つ悦びがあるという<定型>となり、
<隷属することは、悦びである>という命題が生まれる。
<女性>を<日本>、<主人>を<GHQ>に喩えて見ると、
この<定型>としての<奴隷への調教過程>は、
<GHQ>の統治に始まる戦後過程が<一方的に成されること>であったことの比喩となり、
浮かび上がってくるのは、惨めな悲哀・恥辱・屈辱・汚辱に置かれても、それは仕方のないことで、
反発・拒絶・抵抗には意味がなく、むしろ、その<被虐>の状況にあるが故に、
世界に輝ける、<高度経済成長>という最高潮の肉体的な享楽があることであれば、
たとえ、日本民族にあることの主体性・自主性・独立性を言うことができなくても、
奴隷の身上に置かれていることだとしても、
生き抜くことを納得することを可能とさせる、という論理になる。
作者がその意図で作り上げた<教育効果>と言っていることではない、そのまったく逆で、
作者にその意図がないにもかかわらず、これほど見事に<戦後教育>が刷り込まれたことにある。
それは、雪路が節子や雅子に対してあらわす態度の自己犠牲的な愛の表現、
<自分の身はどうなっても構わないから、あなただけは救われて>ということは、
<キリスト教的>ですらあると感じさせることにあるのは、
<神>や<悪魔>や<祈り>などが心情表現の用語として示されているからで、
その精神と肉体の明確な二元論にあることは、
作者がキリスト教徒になければ、<欧化主義>にある<西洋思想>への憧憬と感じられ、
<戦後教育>を強烈に受けた世代が<欧化主義>という<戦後民主主義>を受容する照応となり、
<多義>を本筋とする<日本民族思想>は否定され、
<一義>へ向かわされる傾向があらわとされるようになるということにある。
これは、人間存在の一般論として見ることができれば、特殊であるとは見なせないが、
特定の時期の特定の読者を対象として表現されたことに本質があることであれば、
閉じた構造をあらわしている、<特殊性>と見なさざるを得ない。
団鬼六の<奴隷への調教過程>を<GHQ>の統治に始まる戦後過程の比喩と見ることは、
<SMの概念>を抹消した立場から見れば、終わったことであるに過ぎない。
しかし、そうではない立場にあれば、依然として引き摺り続ける、<戦後教育>の問題としてあることになる。
そのなかで、団鬼六の<SMの概念>という<定型>は、
<団塊の世代>の<読者>にとっては、見い出すことのできた<意義>にあっても、
<戦後教育>の希薄になっていく世代になれば、その固有の<意義>が差し引かれていくことにある、
<欧化主義>にある<西洋思想>への<模倣・追従・隷属>は当然のありようであって、
もはや、批判や考察の対象にはならない、では、そこに残るのものは、何か、
<いじめ>である、
<奴隷への調教過程>という<いじめ>の<定型>である。
それを依然として<SMの概念>と<一義>に一般化していることにあるとしたら、
<SMは、市民権を持った>などと言われることは、
<SMは、いじめに行為の正当化の権利を与えた>ということでしかならなくなる、社会性である。
<団鬼六の定型>は、<SMの概念>にあって、<特殊な意義>をあらわすものにある、
その閉じられた構造からは、<展開>が導き出せない、
<初期の段階>の終焉があらわされたことにある、と結論する所以である。
<初期の段階>の再評価は、そこに<多種・多様>にある表現が人間の全体性の問題として、
どのような事柄が<展開>をもたらすものとしてあるかを問い続ける、
大きな<土蔵>と見なされるものにある。


☆参照 <女性の縄>と<男性の縄>


(2011年9月1日 脱稿)




☆13.縄による緊縛という結びの思想・四十八手 (6)

☆13.縄による緊縛という結びの思想・四十八手 (1)〜(4)

☆縄による日本の緊縛