13.縄による緊縛という結びの思想・四十八手 (29) 折原珠江夫人の示唆 借金返済で弁護士に相談



縄による緊縛という結びの思想・四十八手

(29)  折原珠江夫人の示唆





『花と蛇』という物語には、絶世の美女・静子夫人に負けずとも劣らない、魅力的な既婚女性が登場する、
医学博士夫人、折原珠江、三十一歳である、その卓抜な容姿端麗は、次のように描写される。

≪白地のように透き通った美貌の珠江夫人ももの憂げな風情を見せてソファから立ち上り、
そっと窓の外に眼を向ける。
 藤鼠の繊縮緬に唐織の黒帯をしめた珠江夫人のあでやかな容姿と艶麗さは一種の輝きさえ持って、
美術品的な美しさを感じさせる。もう三十を一つか二つ越していると思われるが、
永年の秩序立った生活できたえた肌は、驚く程若く見えるのだった。
…………
容貌にしても肉体にしても、珠江夫人と静子夫人とが異質のものを持っているのが、また面白い。
 気品と優雅さに満たされているのは両夫人の共通点であったが、珠江夫人は、色白で細身の艶麗な体つき、
 容貌もどちらかといえば細面の硬質陶器のような冷やかさを含んだ繊細な美しさであった。
 それに対して、静子夫人は絹餅のようにふっくらした美しい瓜実顔。肉体的に見ても、静子夫人の場合は、
 胸も腰も、見事な曲線を持つ両肢もムチムチ成熟して、ねっとりとした官能味を盛り上げている。
 静子夫人がバラの華麗さを持つ美女とするならば、
珠江夫人は牡丹の艶麗さを持つ藹たけた美女であった。≫

異質とされるものは、外観ばかりではない、品性と教養と社会的地位に裏付けられた、その論理的思考は、
主体意識として毅然とした態度を如実とさせて、大東亜・太平洋戦争敗戦後、
日本史上初めてとなる参政権を取得した、女性という存在の輝ける未来を開拓する、
日本の伝統である華道に携わる者であり、キリスト教者でもある、有能な知性の持ち主にある、
邪悪で卑劣な<蛇>に対しては、清廉潔白な対抗をあらわす<花>ということにある。

≪「貴方と千代さんが、共謀して、遠山家の奥様をここへ監禁したのね。きっと、そうに違いありません」
 珠江夫人は、怒りに美しい眉を神経質にぴりぴり震わせ、顔色は青かった。
「そこまで読まれちゃ仕様がないな」
川田は苦笑した。
 じゃ、後はよろしく、と順子が意味ありげな微笑を残して地下から出て行くと、
川田は、ふと口元に凄味を浮かべて、鉄格子から珠江夫人を見つめた。
「こうなりゃ奥歯にもののはさまった言い方をしたって仕方がねえ。はっきりと教えてやるぜ」
川田は、ポケットから、何枚かの写真を取り出し、せせら笑うとそれを無雑作に鉄格子の中へ投げこんだ。
「よく見な。それが遠山家の奥様の近況だ」
 珠江夫人は投げこまれたその一枚に手を触れたが、瞬間、あっと声をあげ、さっと首を横へそむけた。
 珠江夫人の顔も頬も、みるみるうちに真っ赤に燃え上る。
そしてそれを美沙江の眼に触れさせてはならぬとばかり、
 あわてて拾い集めると珠江夫人は、憤怒に眼をつり上げ、川田めがけて投げたのだ。
…………
それ(写真)は、三階の広間で、満座の中で捨太郎と実演を演じた静子夫人のみじめな姿であった。
 均整のとれた優美な身を緊縛され、しかも一本のロープにつながれて立ち、
後ろより捨太郎の攻撃をまともに受けている。
 夫人の豊満な胸には、背後にまといつく捨太郎の毛むくじゃらな両手が襲いかかり、
 その上、夫人の姿は背後の捨太郎を見事に受け入れたことを示しているのだ。
 それだけではなく夫人は、首を仰向かせるようにねじって、
背後の捨太郎の醜悪な唇にぴったり紅唇を押しつけている。≫

しかしながら、<田代屋敷>という国家にあっては、
その<体制と制度>に依る施政の加虐・被虐の状況へ置かれることは、
どのように一個人の毅然とした尊厳があらわされようとも、落花無残となるものでしかない、
珠江夫人は、全否定の必死の思いから、<田代屋敷>から美沙江と共に逃亡を企てようとした、
だが、奪った拳銃を思わず発射してしまった事態は、
川田の頬にかすり傷を負わせるということになった、従って、再び囚われの身となったとき、
珠江夫人を待っているのは、支配権力者である<蛇>の淫虐な復讐ということになる、
傷の治療代がわりに、身に着けている豪華な着物を全部奪われるという裁定が下される。

≪「約束は約束だからな。川田の治療代がわりに身ぐるみ脱いで頂きますよ」
ひきつった表情になる珠江夫人であった。恐怖のあまり、その美しい額を汗が流れた。
「それじゃ少し気の毒だから、二人を一緒に裸にせず、奥様の方から脱いで頂きましょうか。
その豪著な着物を一枚一枚、うちの連中へ競売するんです。それなら少し時間稼ぎになる。
 女中二人がその間に戻れば、このお嬢さんは我々の眼に肌を晒さなくてすむってわけです」
田代は、珠江夫人の監禁された鉄格子の中をのぞきこみ、相談を持ちかけるような調子で話しかけた。
「わかりましたわ」
珠江夫人は陶器のように冷たく蒼ずみながら、濃い睫を怒りにふるわせ、
田代をキッと睨みつけるようにしていった。
珠江夫人には哀泣して憐憫を乞うというようなところは微塵もなかった。
敵の挑戦を受けて立とうとするような、はっきりした敵意を、
ありありとその妖しく燃えるような両の瞳に滲ませている。
珠江夫人の横顔に滲み出ている、驕慢の傲りや自尊心の高さといったものを感じとった銀子や朱美は、
何かカチンと頭にきて、ムラムラと珠江夫人に対し、敵愾心をわかせたのである。
「貴方がたが私に対し、どのような紳士的振舞いをなさるのか私にも興味がございます」
皮肉をこめて冷やかにそういい放った珠江夫人を、銀子達は憎々しげに見て、
「そうかい。じゃ、葉桜団の作法を教えてやるよ。出て来な」
銀子は川田から鍵を受け取って珠江夫人の牢舎の扉を開けた。≫
珠江夫人が向かわされた場所は、静子夫人と京子が羞恥地獄へ叩きこまれた土蔵部屋であった、
祭壇として作られた台の上には、以前に、静子夫人と京子が揃って、
陰部の剃毛という屈辱を受けた二本の丸木柱があった、
≪じっと眼をつぶった珠江夫人の長い睫から遂に大粒の涙が尾をひいて、
その白磁のように白い頬を濡らしたのを見た田代は、心を浮き立たせて煙草を口にした。
珠江夫人の手は、屈辱に慄えつつ、帯じめを解き、ついでに綸子の帯あげを解き始めている。
 小粋な黒地の丸帯がスルスルと解けて、とぐろを巻くように床に落下していくと、
川田の眼も森田の眼も粘っこくギラギラ光り出した。
珠江夫人の着物の競売を始めるという名目で呼び出しを受けた
葉桜団のズベ公達はそのあたりにゴロゴロし、
「そんな勿体ぶった脱ぎ方をせず、さっさと素っ裸におなりよ」
と盛んに弥次りまくっている。
身内に走る嫌悪と屈辱の戦慄をぐっとこらえて、
珠江夫人は、腰紐を解き、支えのなくなった着物を静かに肩から脱いでいった。
絹の綸子に蝴蝶が飛び交う派手な長襦袢姿になった珠江夫人は、
そのまま、恐怖の胸の慄えをおさえるかのように、 そっと両手を胸元に当てて立ちすくむのである。
その色香あふれる艶美な珠江夫人の容姿に川田はごくりと唾を呑みこんだ。
珠江夫人には静子夫人の持つ妖艶な官能美というものはなかったが、
男性を恍惚とさせる雅と清麗さというものがあった。清美で、精緻な肌理の細やかさがある。
「さ、早く長襦袢も脱がねえか」
 川田は、焦燥めいたものを覚えて、その場につっ立っている珠江夫人に声をかけた。
「お前さんの願いを聞いて、美沙江の方は後廻しにしてやったんだ。
モタモタすると、美沙江の方を先に剥ぐぜ」
 川田に叱咤された珠江夫人は、唇を噛みしめ、悲痛な表情になって、伊達巻に手をかけた。
……友子さん、直江さん。早く、早く救いに来て頂戴……
珠江夫人は胸の中で祈りながら、くるくる長襦袢の伊達巻を解いていく。
カチンと硬質陶器のように硬化した表情のまま、
華美な長襦袢を脱ぎ出した珠江夫人は周囲に陣どる野卑な男女に、
蔑みを帯びた冷淡な瞳を時折、燐光のように光らせて差し向けた。
さすがに肌襦袢までは取りかねて、珠江夫人は、体を丸くして、その場にちぢかんでしまったが、
「モタモタするなといったろ」
川田は吉沢と眼で示し合い、身も世もあらず、俯伏している珠江夫人に襲いかかったのである。
「あっ、何を、何をするのですっ」、
「令夫人のおしとやかさが頭にくるんだよ」
川田は、珠江夫人の上体をひっぺがすようにし、強引に肌襦袢を剥ぎとった。
「あっ」
珠江夫人は、ひきつったような声を出し、あらわになった乳房を両手で抱きしめる。
突然、獣の本性をむき出しにした川田達の残忍さで、
珠江夫人は忽ち湯文字一枚残すだけに剥がれてしまったのである。
水色に白菊を散らした湯文字一枚にされた珠江夫人の素肌は、思った通り、
眼に沁み入るばかりの冷たい白さと清麗な滑らかさを持っていた。
「さ、触らないでっ」
上へ引き起こそうと川田と吉沢が、その美麗な肩や背に手をかけると、
珠江夫人は二人の手の中で、狂ったように体を揺さぶるのである。
「おい、朱美、縄をかせっ」
「あいよ」
朱美は、部屋の隅に用意しておいた麻縄の束を川田に投げつける。
「そら、おとなしく両手を後ろへ廻しな」
川田と吉沢は、必死に胸の隆起を押さえている珠江夫人の雪のように白い、
陶器のように冷たい二つの腕を、 強引に後ろへねじ曲げていく。
珠江夫人は苦痛と屈辱に美しい眉を寄せ、うめきつつ身悶えしたが、
 二人の男の力には勝てず背中の中程まで手首をねじり上げられてしまった。素早くそれに縄がかけられる。
「友子さんっ。ああ、直江さん!」
珠江夫人は、川田と吉沢にヒシヒシと縄をかけられながら
望みの綱の救援者である二人の女中の名をうわ言のように呼ぶのだった。
「たまらねえな。きれいな肌をしてるじゃねえか」
がっちりと後手にきびしく縛り上げた珠江夫人の縄尻を、力一杯ひいて立ち上らせると、
その幻想的なまでに色白の夫人の美肌に眼を見はった。
「ひとまず、そこの柱に」
田代はゆっくりと煙草の煙を吐きながら、土蔵の奥の一番高い祭壇のようになっている所を指さした。
そこには、静子夫人と京子が数々のいたぶりを受け、苦悩の汗と脂を滲ませた二本の柱が立っている。
「あ、あなた達に、こんな辱しめを受ける理由はありませんわっ」
珠江夫人は、祭壇の上へ押し上げようとする川田と吉沢に抗って、必死に身を揺さぶっている。
「プツブツいわず、早く上らねえか」
川田と吉沢は、身を折りつづける珠江夫人を叱咤し、
水色の湯文字に覆われたふくよかな腰のあたりを足で蹴った。
「あなた達は、け、けだものだわっ」
珠江夫人は、ひきつった声をあげて、がっちり左右から体を押さえこむ川田と吉沢を罵倒したが、
遂に背を丸木の柱に押し当てられる。
川田と吉沢は馴れた手さばきで、別の縄を使い、珠江夫人を柱へ縛りつけるのだ。
珠江夫人は、憤怒と羞恥の入り混った悲痛な表情で血の出る程かたく唇を噛みしめていた。
まるで絹餅のように柔らかそうな二つの乳房の上下に、数本の麻縄をからませた珠江夫人は、
陶器のように冷やかな裸身を口惜しさのため一層硬くさせ、
白蝋のような頬を昂奮のため、わなわな慄わせているのだ。
「や、やめて下さいっ」
川田がニヤニヤしながら、珠江夫人の湯文字の紐に手をかけると、
 彼女はまるで火でも押しつけられたように狂おしく優美な腰を揺さぶって、
絹を裂くような悲鳴を上げるのだった。
「こ、これ以上、淫らな真似をなさると舌を噛みます」
川田は珠江夫人の激しい怒気にはじかれたように手を引いたが、すぐに笑い出した。
「静子も最初はお前さんと同じように気位の高い女だったぜ。
それが今じゃ身も心も俺達に捧げ尽して一生懸命ここで働いているんだ。
 そのうち、きっとお前さんも……フフフ」
川田は、舌で唇をなめながら、白い頬をひきつらせている珠江夫人にいった。≫

珠江夫人は、遂に、一糸まとわぬ全裸の姿態に晒される立場へ置かれる、
それは、<体制と制度>に依る施政に従うことを明確とする身上が示されるということだった。

≪大塚順子が、二人を押さえて、珠江夫人の前に立った。
「悪く思わないでね、奥様。このお湯文字、私が頂戴致しますわ」
順子は腰を低めて、珠江夫人の腰布の紐に手をかける。
「大塚さんっ」
順子が結び目をゆっくり解き始めると、珠江夫人は、さすがに狼狽し、上ずった声をはり上げた。
「あなたって方は、何という卑劣な人なの。
ここにいる悪党達と一緒になって、私を笑いものになさろうというのね」
順子は、平然とした顔つきで、
「ま、何とでもおっしゃるがいいわ。
千原流生花を応援して、湖月流を馬鹿にした罰だと思って下さればいいのよ」
順子の手で、遂に結び目が解かれ、たった一枚、
珠江夫人の身を守る布はハラリと夫人のぴったり合わせている足首の上へ落下する。
うっと珠江夫人は羞恥に悶えて、美しい顔を横へ伏せた。
珠江夫人は、その下に和服用の薄いパンティをはいていた。
「こんなもの脱がせて頂戴」
順子は、傍に控えている川田と吉沢にいった。よし来た、と二人の男は左右よりゴム紐に手をかける。
 優雅な線を描く腰部より、それがずり下げられて行き、艶美な雪白の下肢の下まで引き落とされて行くと、
珠江夫人は火のついたように真っ赤になった顔を左右に振りながら、
切なげな身悶えにすすり泣きの声を混じえるのであった。
反射的に珠江夫人はぴったりと太腿を閉じ合わせた。
 その付根に絹のような柔らかさでふっくらと盛り上る漆黒の繊毛は思いなしかかすかに慄えていた。
「へへへ、どうだい。むしろ、さっぱりした気分だろう」
川田は眼を細めてすすり泣く珠江夫人を見上げるのだった。
珠江夫人の全裸像はどの部分を見ても、男心をうずかせるような煽情的な匂いに満ちていた。≫

身を守る術を一切剥ぎ取られて、全裸の姿態を縄で緊縛された、珠江夫人だった、
次に待ち受ける<蛇>に依る処遇は、性奴隷となるための門を開かされることにあったが、
見られたくない者の眼の前へ醜態をさらけ出すというその方法は、木馬責めに晒されることにあった、
木馬は、丸太に角材の脚が四つ付いただけの簡素なものだったが、
丸太の中央部に大きな穴がくり抜かれていて、そこへ跨れば、便器となる仕組みにあった。

≪上下に数本の麻縄をからませたふっくらとした乳房から、
スベスベした白磁の腹部までねっとり脂汗を浮かべて、
 珠江夫人は、限界に到達した生理の苦痛と必死に戦っているのだ。
木馬の上で、左右に割り開いた、すらりと伸びた肢の線は、
華奢で繊細で、心を溶かせるような優雅な美しさを含んでいる。
川田と吉沢はダブルベッドの上にあぐらを組み合って、花札を引きながら、
時々、楽しそうに、木馬の上で苦悶する珠江夫人の方を見るのだった。
「随分と辛抱が続くじゃないか、ええ、折原夫人」
「何時までも痩我慢をはらず、さっさとすましちまいなよ。
その後、このベッドに縛りつけて、とても楽しい思いに浸らせてやるからな」
 川田と吉沢は、顔を見合わせて笑った。
 雪白の脂肪で靄がかかったような美肌の珠江夫人は時々、
震えが来たように木馬に乗った腰部と左右へ割った優美で悩ましい太腿あたりを揺さぶり始め、
切なげな吐息を吐きつづけているのだ。
「そんなにモジモジすりゃ、的から外れてしまうじゃないか」
川田と吉沢はベッドから降りると、木馬に近づき、
むっちり引きしまっている珠江夫人の腰部に左右から手をかけ、
木馬の背にくり抜かれた穴の上へ押しすすめるのだ。
割られた太腿の柔らかな翳りを眼にした川田と吉沢は、
身内の中に甘ずっぱい官能がこみ上がってくるのを感じながら、同様に敵愾心のようなものをも感じ出す。
今に見ろ、うんと吠面をかかせてやるからな……
川田は、狂暴な血をわき立たせて、そっと手をのばしかけたが、
途端に珠江夫人は電気にでも触れたように滑らかな腰部をぶるっと揺さぶった。
「な、何をなさるんですっ」
きっと、美しい柳眉を上げて珠江夫人は、川田に憎悪のこもった視線を向ける。
「淫らな真似をなさると、舌を噛みます」
「ああ、噛みたけりゃ、噛みな。
鉄格子の中にいる千原美沙江がお前さんの代役をつとめるだけさ」
川田は、せせら笑うのだ。珠江夫人は今にも泣き出しそうな顔をして、さっと眼を横へ伏せる。
吉沢は、腕時計を見て、
「ぐずぐずすると、夜が明けちまうぜ」
と舌打ちして、珠江夫人の木馬に乗った双臀を平手打ちした。
「おい、やらかさねえのか、やるのか、はっきりしろい。
まだか、まだかとベッドの方が愚痴をこぼしてるぜ」
光沢を持った繊細な珠江夫人の白い頬に大粒の涙が糸をひくように流れていく。
「お願い、ね、お願いですっ」
何分かたって、珠江夫人は、上気した顔を上にあげた。
「どうしたい。とうとう辛抱し切れなくなったというのかい、折原夫人」
吉沢が珠江の腰に手をかけて、意地悪く揺さぶった。
「しばらくの間、お願い、外へ出て、ね、お願いです」
珠江夫人は、美しい眉を八の字に寄せて、川田と吉沢に哀願するのだ。
「俺達の見ている前じゃ、教養が邪魔をしてやらかすことが出来ねえというのだな」
よし、と川田は、うなずいて、
「十分以内にすまさねえと、折檻がきびしくなるぜ。わかったな」
川田と吉沢は、淫靡な笑いを残して部屋を出て行った。
二人の姿が視界から消えると、珠江夫人は木馬の上で、ひときわ激しい涕泣を洩らした。
そして、心の中で、必死に夫の源一郎に救いを求めるのである。
……あなた、珠江はいったいどうしたらいいの。ね、助けて、早く助けに来て頂戴……。
「うっ」
 と、珠江夫人は、再び、急激にこみ上って来た生理の苦痛に顔を歪め、
歯ぎしりをして力一杯、太腿で木馬を緊め上げた。
「もう、もう駄目だわ」
珠江夫人は、べっとり脂汗を浮かべた額を上げ、白い歯を噛みしめた。わなわなと唇が痙攣す。
ついに堰は切れた。
ああー、と珠江夫人は狼狽して、火がついたように真っ赤になった顔を、狂おしく左右へ揺さぶった。
木馬の下のブリキのバケツを激しく水の叩く音。
「へへへ、奥さん、入ってもいいかね」
一旦、外へ出ていた川田と吉沢が、ドアを開けて入って来る。
「……いけないっ。入っちゃ駄目っ。後生ですっ。入って来ないでっ」
木馬の上の珠江夫人は、激しく動揺して、
火柱のようになった身体を木馬の上で揺り動かし、悲鳴に似た声を張り上げた。
一旦、切れた堰は、止めようにも止められるものではなく、
珠江夫人は、ニヤニヤして闖入して来た二人の男にヒステリックな声を投げつけたのである。
「そう水くさい事いうなよ。俺達と奥さんとは、もう間もなく、他人じゃない間柄になるんだぜ」
川田と吉沢は、断続的に木馬の上で慟哭する珠江夫人を楽しそうに眺めて、近寄ってくるのだ。
恐怖と羞恥の戦慄に木馬の上で両肢を震わせる珠江夫人は、
身も世もあらず、麻縄を巻きつかせた、優美な胸を揺さぶり、
必死に顔をそむけて、妖しいばかりの号泣をその口から洩らすのだった。
やがて、放水は次第に弱まり、水滴となって、バケツの中へ落下するようになったが、
その頃には、珠江夫人は、完全に打ちひしがれたように木馬で身動きもせず、がっくりうなだれていた。
「へへへ、やっとおすましになりましたね」
吉沢が、珠江夫人の妖しいばかりに白い、滑らかな太腿を手で撫でさする。
「およしになって……」
珠江夫人は、先程までとは違って、力のない、か細い声を出すと、
 上気した顔をねじるようにそらせて、シクシク肩を慄わせて嗚咽するのだ。
 木馬にまたがったまま、そういう醜態を演じたという、血が逆流するばかりの羞恥と、
それを野卑な男二人の眼に晒してしまったという、
 息の根も止まるような屈辱とにさいなまれて、まともに頬を上げられぬ珠江夫人であった。≫

羞恥の排泄行為は、珠江夫人から反発・抵抗・反抗する力を奪い取る恥辱を認識させたことは、
主体意識として毅然とした態度を如実とさせてきた、品性と教養と社会的地位に裏付けられた、
夫人の論理的思考は、荒唐無稽へ引きずり込まれるということにある、
人前へ全裸であり続けることがもたらす、羞恥が高ぶらせる性的官能にあっては、
如実となってあらわれ始めるのは、人間として存在することの生への欲求である性欲である、
<花>が<花たる所以の貞淑>を<蛇>に依って奪われる段階へ導かれる事態になることにある。

≪「一つだけ聞かせて下さい。大塚さん」
珠江夫人は、ふるえる頬に大粒の涙を流しながら、順子の方へ視線を向けた。
「何なの、奥様」
順子は、ゆっくりと煙草に火をつけ、面白そうに珠江夫人の泣き濡れた顔を見る。
「貴女達は、お嬢さんと私をここへ監禁し、これから先、どうなさるおつもりなの」
「フフフ、それは幾度も申し上げてある筈じゃありませんか」
順子は、うまそうに煙草の煙を吐きながら、
「私が主宰している湖月流生花は、貴女達のために、
これまで随分と煮湯を呑まされてきましたわ。私は、その復讐をするため、
千原流家元のお嬢さんとその後援者である折原夫人をこうして誘拐したのですからね」
順子は、珠江夫人が世にも哀しげな顔になったのを楽しげに見つめて、更に続ける。
「お二人の命までもとろうとはいわないわ。その代り、
野蛮な人間達のお座敷ショーに出演するような、最低の女にまで落としてやろうと思うのよ。
詳しい事は、ここにいる鬼源という人間調教師からお聞きになるといいわ」
ベッドに乗ってから説明してやるぜ、と鬼源は、珠江夫人を横抱きにしようとした。
「な、何をするのっ、やめてっ」
端正な象牙色の頬にパッと朱を散らして、珠江夫人は身を捩り、昂った声をはり上げたが、
「今更、悪あがきはみっともねえぜ」
と、川田も吉沢も、そして、先程からニヤニヤして眺めていた銀子や朱美も手を貸して
珠江夫人をベッドの上へ押し上げる。
川田と吉沢は、後手に縛った麻縄を解くと素早く珠江夫人の両手を割り開かせ、左右の皮紐に縛りつけた。
「嫌です。ああ、お願い……」
気丈な珠江夫人も、遂に悲鳴を上げた。
「生娘でもあるめえし、大袈裟な声を上げるねえ」
鬼源は、のたうち廻る珠江夫人を見て、笑いながらいった。
銀子と朱美が、楽しそうに、暴れまくる珠江夫人の両肢をからめ取ろうとする。
珠江夫人は両手首に喰いこんだ皮紐を引きながら、
両肢を縮めたり、のたうたせたり、狂気じみたように暴れるのだ。
「貴方、ああ、貴方、助けてっ」
と、夫の名を無我夢中で口走り、一方に腰をねじったり、
また反対側に腰を歪めたりして、悶え、狂乱するのだ。
「いい加減にしねえか」
吉沢は、そんな珠江夫人の頬をいきなり激しく平手打ちした。
「まだ、観念することが出来ねえのかい。おめえはもう今日から森田組の商品なんだぜ」
珠江夫人の美しい瞳から、どっと熱い涙が溢れ出る。
「人間、諦めが肝心だ。
おめえは、やがて、第二の静子夫人になるべく俺達の調教を受けることになってるんだからな」
川田は、そういって、珠江夫人の抵抗の意志がくじけ出したことに気づくと、
銀子達に早く仕上げろ、と眼くばせを送った。
優美で繊細で、高貴な美術品のような白い下肢に銀子と朱美の手がかかる。
「さ、奥様、思い切って、うんと大きく開いて頂戴」
一瞬、嫌悪の戦慄がブルっと珠江夫人の身内に走ったが、もうそれ以上、頑なに抵抗する気力はなかった。
ぴったり閉じ合わされていた妖しいばかりの白さを持つ美麗な珠江夫人の太腿が
銀子と朱美の手で左右に割り開かれていく。
「ああ、そ、そんな……」
珠江夫人は、全身の血が逆流するばかりの羞恥と恐怖に再び絹を裂くような悲鳴を上げたが、
すでにおそく、川田や吉沢も手伝って、
左右へ引き絞った珠江夫人の細工物のような華奢な足首へ皮紐をきびしく巻きつかせてしまった。
「やれやれ随分と手こずらせてくれたけど、
こんな風にされっちまえば、すっかり諦めがついたでしょ」
銀子と朱美は、ベッドの上に固定されてしまった珠江夫人を見て哄笑する。
雪白の美麗な珠江夫人の肉体は、俎の上に載せられた美しい人魚のように、
しかも、身動きも封じられて、ベッドの上に仰向けに縛りつけられてしまったのだ。
しかし、何という優雅で艶めかしい珠江夫人の裸身だろう
三十歳になったとは思えない艶々しい輝くばかりの乳色の肌、
ふっくらと柔らかく盛り上った胸の隆起、腰のあたりの官能味のある艶めかしい曲線、
そして、無残にも、左右へ大きく裂かれて縛りつけられた両肢の線の美しさ。
かすかに内股に青い綺麗な血管を浮かび上らせて、
ぐっと削いだように割り開いた太腿は、象牙色に冷たく輝いて、
何ともいえぬ悩ましい高貴な官能美に包まれている。
男達の射るような視線を辛く感じてか、珠江夫人の麗しい両頼の筋肉は硬直しているようだった。
「こ、このような辱しめを私に加えて、更に何をなさろうというのです」
珠江夫人は羞恥のため、真っ赤になった美しい顔をねじるように横へ伏せながら、
しかし、反撥をこめた口調で、ニヤニヤして凝視する卑劣な男女達にいったのである。
この不気味で、淫猥な空気にがまん出来ず最後の敵意を示すかのように、
わなわな唇を慄わせる珠江夫人であったが、
 銀子と朱美は友子と直江を隅へ呼び寄せて、何か、ひそひそ打合わせをして、鬼源の方を向くと、
「ね、鬼源さん、最初は、この二人に、珠江夫人の感度のテストをさせりゃどう。
その方が面白いと思うんだけど……」
そういった銀子は楽しそうにペロリと赤い舌を出した。
…………
友子と直江は何となく照れ臭そうな顔をしてベッドに縛りつけられている珠江夫人の傍へ近寄る。
「奥さん、悪う思わんといてや」
 珠江夫人は、二人の女中が近づくと、大の字に固定された裸身を狂おしげに反り返らせたりして悶えながら、
血を吐くような思いで叫ぶのだった。
「貴女達までが、私を笑いものにしようというのっ。きっと、きっと、貴女達、後悔する日が来るわ」
女中二人の眼に、このような浅ましい姿を晒すだけでも、気が狂うばかりの屈辱であるのに、
更に、彼女達は自分の身にどのようないたぶりを加えようというのか。
珠江夫人はあまりの口惜しさに胸が張り裂けそうになるのだ。
「ね、何を、何をしようというのっ」
友子と直江は、狼狽してわめきつづける珠江夫人を無視し、ニヤニヤしながら、ベッドの上へ膝を載せてくる。
「奥さんの感度を、調べろという命令ですねん。おとなしくしてんか」
直江は、そっと珠江夫人の柔らかい胸の隆起を両手で包むように支えると、
その頂点の可愛い薄紅色の乳頭に唇を軽く押しつけるのだった。
「あっ。やめてっ、何をするのっ」
女中の手で嬲られるという屈辱、その虫ずの走るような感触を乳房に受けた珠江夫人は、
悲鳴に似た声を張り上げたが、一方、友子は、身動き出来ぬ両肢の方へ廻り、
直江なんかに負けるものかといたぶりをしかけたものだから、
珠江夫人は、逆上したように両手首、両足首にかかった縄目を引いて悶えまくるのだった。
「馬鹿な真似はよしてっ、よして頂戴!」
身動きもならぬ五体を揺さぶり、のたうたせ、
舌足らずの悲鳴を上げつづけるベッドの上の珠江夫人を、遠くから見つめながら、
 銀子と朱美達は肩を動かせて笑い合い、ウイスキーを飲み合っている。
…………
その時、ベッドの珠江夫人が、けたたましい悲鳴を上げた。
友子の攻撃が、珠江夫人の最も恐れていたことに切り替えられたようだ。
「……やめてっ、やめて頂戴!」
皮紐につながれた両手首を狂ったように振り、双臀を揺さぶり、
両足首をつないだ皮紐を引いて必死に悶えまくる珠江夫人である。
右や左に身を伏せようと狂気したように暴れ、腰を揺さぶり、
友子のいたぶりを避けるための悲痛な努力をくり返すのだったが、
「いくら悶えても、もうどうにもならんわ。いい加減に諦めたらどうやの。奥さん」
友子は、少々もて余し気味らしい。
「……後、後生ですっ、やめて。ね、友子さんっ」
珠江夫人は、もうどうにも身を防ぐ術がないと悟ると、
切れ切れにあえぐような熱っぼい声で友子と直江に哀願し出すのだ。
「顎で使っていた女中の私達に、こんな事されるのが口惜しいのやろ。
どや、奥さん、何とかいうてみいな」
友子は、直江と顔を見合わせて、ニヤリと笑い合い、更に攻撃を続行するのだった。
「あ、ああ、友子さん、許して。か、堪忍して……」
珠江夫人は、ポロポロ涙を流しながら、
若奥様風に美しくセットされた艶々しい黒髪を左右へ揺さぶるのだった。
「今更、何をいうてんの、奥さん。
それよりそろそろ、おとなしゅうなってくれたらどうなのよ」
珠江夫人の哀願などには頓着せず、嵩にかかって責め上げる友子だったが、
恐怖と屈辱の極に筋肉を硬化させ、屈服を示さぬ珠江夫人を感じると、
友子は、いらいらしていうのだった。
「いくらがんばっても、降参するまで責めてやるのや。ええか、奥さん」
しかし、珠江夫人は歯を喰いしばった表情で、負けるまいと必死にがんばっている。
「のいてみな。あたい達がやってやるよ」
銀子と朱美が、もて余し気味の友子達を退ける。
「全く意地っ張りね、この奥さん」
しかし、銀子の自信も崩れかけた。珠江夫人は、依然として美しい眉毛を苦しげに曇らせるだけなのだった。
全身で息をつめ、打ち砕かれまいと悲痛な表情を見せている。
「どうしたんだよ、銀子」
川田が酔いの廻った眼で、珠江夫人をいたぶる銀子を見た。
「不感症なのかしら、この奥さん」
銀子は、口をとがらせて川田の方を見、珠江夫人が屈服しないことを告げた。
「まさか。そんな馬鹿な筈はねえ」
おめえ達の責め方がまずいんだ、と男達は笑うのだ。
「このウイスキーの瓶を空にしたら、俺達が交代してやるぜ。しばらくそのまま待たせておきな」
銀子と朱美は、くやしそうな表情で珠江夫人を見つめていたが、
「今度は、ベテランが勝負を挑むってさ。どっちが勝つか、あたい達は見物へ廻るよ」
と舌打ちしながらいうのだった。
珠江夫人は、硬質陶器のような白い頬を横に伏せ、さも哀しげに固く眼を閉じている。
今まで、友子や銀子達に受けた屈辱の洗礼に夫人の乳房は怒りを含んで波打ち、
割られた太腿も口惜しさに、ブルブル痙攣を見せていた。
そして、今度は、野卑な男達に……。
そう思うと、珠江夫人も、もうこれ以上、耐え得る自信はなく、大粒の涙を流し始めて、
「お願いです。大塚さん……」
と、ウイスキーを飲む順子に声をかけるのだ。
「何なの、奥様」
順子は、グラスを片手に含み笑いしながらベッドの珠江夫人に近づく。
珠江夫人は、哀しげな色を湛えた視線を気弱に順子に拘けて、
「私が悪うございました。どのような償いも致しますわ。
千原流生花を崩壊させよとおっしゃるなら、その通りに致します」
「ホホホ、随分と気弱になったのね、奥様」
「ですから、お願いです。
もうこれ以上、このようなむごい責めはお止めになって。ね、大塚さん」
珠江夫人は、喉元にこみ上って来たものをぐっとこらえて、
憎い大塚順子にすすり上げながら哀願しつづけるのだ。
…………
順子は、服を脱いで、玄人っぼい黒いスリップ姿になると、珠江夫人をのぞき込む。
「フフフ、いいわね、奥様、今度は私の受持ちよ」
順子は、子供が好きな玩具を愛撫するような仕草で、
夫人のイヤイヤをする顔を両手で挟みこみ、頼ずりし、次にそっと唇を押し当てるのだ。
その瞬間、珠江夫人は、火傷でもしたような激しい声を張り上げた。
「な、何をなさるのっ、大塚さんっ」
ひどく狼狽し、顔面一杯に羞恥の紅を散らせて縛られた美肌を大きくのたうたせる珠江夫人であった。
「いいのよ。そんなに羞ずかしがらなくたって」
順子は、悶え泣く珠江夫人を楽しそうに眺め、
夫人の顔を押さえていた手を、のけぞった喉から胸へと這わせ始める。
処女であれ、人妻であれ、相手が美人であれば、
こうしたレズボスの悪戯に引きこみたいという衝動に順子はかられるらしい。
まるで、桃源境に浸るかのようにうっとりとした表情に変ってゆく順子を、
川田と吉沢は、自分達のすべき仕事も忘れて呆然と見つめるのだ。
ふと、顔を上げた順子は、こっちを見つめる川田達を睨んでいった。
「ぼんやりしてちゃ、駄目じゃない。
いいわね、この奥様の体を私達は今、治療しようとしているのよ」
川田と吉沢は、順子に叱られ、首をすくめて顔を見合わせるのだった。
「フフフ、奥様、敵方の私に、こんな事されて口惜しい?
ねえ、ねえったら、何とかおっしゃってよ」
順子は珠江夫人の抵抗が次第に弱まって自分の運命を悟ったように、
責め手に翻弄されるまま、シクシクとすすり泣くだけとなるとようやく唇を離した。
「まあ、奥様ったら、フフフ、不感症が聞いてあきれるわ」
順子は、わざとらしく頓狂な声を張り上げる。
珠江夫人は、美しい端正な顔に一層の紅を散らして、繊細なすすり泣きの声を洩らすのだ。
口惜しくも意志とは逆に、屈服の兆しを責め手に感知させてしまったのである。
順子もまた嗜虐美の酒に酔い痴れたように陶然となった表情で、椅子に坐っている鬼源の方を見る。
「鬼源さん。心配なさらなくてもいいわ」
「それで安心しましたよ。商品として適用しねえと俺の貴任になりますからね」
鬼源は、黄色い歯をむき出して笑った。
…………
珠江夫人は、ますます熱い息を吐きながら時折、
上の空のような無気力な、ねっとりした瞳を開いたり閉じたりする。
麗わしい太腿が、もどかしげに揺れるのは、責めを拒否するためだけの悶えではなさそうに察せられた。
同時に、ふきこぼれるばかりの甘美な脂汗。
珠江夫人は、今や、理性の一切を奪い取られて得体の知れない苦悩の波に揉み抜かれ、
妖しいばかりの涕泣を洩らし始めた。
「鬼源さん、そろそろ支度にかかって頂戴」
順子は、鬼源に声をかけたが、
すでに鬼源は奥のガスストーブで温めたミルクをゆっくりと、責具に注ぎこんでいる。
「フフフ、手廻しがいいわね」
順子は鬼源からそれを受け取ると、懊悩の極にある珠江夫人の鼻先へ近づけた。
ふと、眼を開いた夫人は、はっとし、思わず眼をそらせる。
「そう驚くことはねえよ。そいつは静子夫人で実験ずみだ」
鬼源がせせら笑った。
「これで、いくら頑張っても駄目だってこと思い知らせてあげるわ。いいわね」
順子は、面白そうに珠江夫人の頬を突いていうのである。
「やがて奥様は、静子夫人達と一緒にニグロと見世物に出なきゃならないのよ。
少し、きついようだけど、これも修業のためね」
珠江夫人のひきつったような顔を見て、順子は笑いこけた。
無情な順子の手にある責具に、あっと、珠江夫人は声をあげたが、
「フッフフ、暴れようたって駄目。さ、いい子だから」
順子の巧妙な手さばきにつれ、
「貴方、ああ、貴方、許してっ」
珠江夫人は、熱病におかされたように夫を連呼し、
このような責めに負け、嬲りものにされる自分を詫びるのだった。
思ったよりもスムーズに珠江夫人が屈服しかけたことに、
順子は川田や吉沢達と勝鬨でもあげるようにはしゃぎ出す。
「もうこれで奥様は私達のものよ。
これから腕によりをかけ、見世物に出られるような体に仕上げてあげるわ」
順子は、もうこうなればしめたものだとばかり、
倒錯の荒々しい飲望も加わって、いよいよ攻撃を開始したのである。
…………
このように全体が細い線で取り囲まれたような優雅な体つきの女は、
感度が鋭敏だということは、川田にもわかっていたが、それにしても彼女の見せる狂態には舌を巻いた。
硬質陶器のような艶々しい美肌にねばっこい脂汗を滲ませて、珠江夫人は、舌足らずの悲鳴をあげ、
端正な美しい顔を苦悶にひきつらせて激しく左右に揺さぶっている。
適度のふくらみを持った形のいい二つの胸の隆起は
川田と吉沢の掌の中でゆさゆさと波打ち、優美なか細い腹部から腰のあたり、
そして、足首にきびしく皮紐を喰いこませている妖しいくらいに悩ましい
雪白の太腿がゆらいだり、硬直したりして、
順子の容赦のない責めから逃れようと懸命の努力をくり返しているのだ。
「フフフ、いくら悶えたって駄目よ。もうこうなりゃ諦めることね」
順子は責めに一段と力を加え始めた。
火のように紅く染まった美しい顔を狂気したように振る珠江夫人は、
しかし、その意志とは裏腹にその責めを甘受し、
順子の巧妙な攻撃につれて、すすり泣きを混じえたうめきを口から洩らし始める。
「フフフ、こういう風にした方がいい。それともこんな風にしてあげようか、奥様」
順子は懊悩の極にある珠江夫人を凝視して含み笑いしながら、更に巧みに攻めていく。
「ああ、ど、どうすればいいの。ね、私、どうすればいいのっ」
珠江夫人は、わなわな唇を慄わせながら、譫言のようにそんな事をいうので、
乳房をいたぶる川田と吉沢は、顔を見合わせて苦笑した。
順子もくすくす笑いながら、わざと優しい口調で、
「心配しなくていいのよ、奥様。あとの事は私達に任せておけばいいわ」
というと、最後の圧倒にかかるべく追いこんでいく。
珠江夫人は、先程までの激しいあがきはもう見せず、
自分の運命を知悉したように固く眼を閉ざし、順子の責めるままに身を委ねてしまった。
「そうよ。そんな風に素直にならなきゃ。
じゃあこれから腕によりをかけて、すばらしい気分に浸らせてあげるわ」
順子は、調子に乗って珠江夫人に攻撃を続行する。
「ね、あんた達、ちょっとよく見てごらんよ」
順子は、珠江夫人を責め上げながら、友子と直江を傍へ呼んだ。
「まあ、凄いわあ」
先程、自分達が責めた時、あれほど頑強な拡抗を示し、
かなり強烈にいたぶってみたつもりだが、屈伏のかけらも示さず、
気質的にこういう凌辱を嫌悪し、肉体そのものが受けつけぬのではないかという、
つまりマゾ的には不感症では、という疑いも起こったのだが、これは何ということか。
まるで、悦楽の蕾を満開させたように一切を変貌させ順子の責めを甘受しているのだ。
ベテランの手にかかれば、貞淑な女も、こんな風に落花微塵になるものなのか、
と友子と直江は呆れたような顔つきになる。
何よりも二人の女中が驚いたのは、秩序立った優雅な生活に明け暮れし、
美貌と貞淑さと気位を兼ね備えていた珠江夫人が、
悦楽の極致に立ったように拗ねて悶えるよう固定された四肢を慄わせたり、
さも切なげに荒い鼻息を立て始めていることであった。
「こりゃ立派に静子夫人の後任が務まるぜ」
鬼源が眼を細めて、媚めかしい身悶えをくり返す珠江夫人を眺めている。
「たいしたもんだ」
急に珠江夫人は、べっとり脂汗を浮かべた美しい額を切なげに曇らせて、
むずかるように首を振り始めた。同時に麗しい太腿の筋肉がブルブルと痙攣し出す。
「遠慮しなくたっていいのよ、奥様」
順子は嗜虐の興奮に酔い痴れながら、残忍な眼を光らす。
……ああ、神様。
……珠江夫人は、卑劣な男女の環視の中で敗北することの恐ろしさに、
思わずカチカチと歯を噛みならし、ぐっとこらえた。
だが、順子や川田達の攻撃には、いちだんと拍車が加わる。
「ゆ、許して……」
ほざくように叫んだ珠江夫人、ベッドに固定された全身を硬直させ、引き裂かれている両肢を反り返す。
苦しげに何か言葉にならない言葉を口走った珠江夫人に対して、順子は責具のボタンを押した。
肉体が炸裂するばかりの衝撃に全身を激しく痩攣させた夫人は、大きく首をのけぞらせる。
相ついで起こる発作に翻弄された珠江夫人は、肉体をブルブル震わせ、
そのすさまじい光景に友子と直江は唖然とした表情になっている。
「すさまじいフィナーレね」
順子は、銀子や朱美と並んで、珠江夫人を指さしながら笑いこけているのだ。
「だが、随分と手数をかけさせやがったな。え、折原夫人」
川田と吉沢は、がっくり顔を伏せている珠江夫人の頬を指で突く。
珠江夫人は、自分の意志を裏切って、これら野卑な人間達の眼前で
みじめな敗北の姿を露呈させてしまった口惜しさと羞ずかしさで生きた心地もなく、
ただ、シクシクと、すすり上げているだけだ。
順子は静かに責具を離し、そのおびただしい珠江夫人の敗北のしるしに改めて眼を向けると共に、
一度に溜飲が下がる思いで、
「随分と我慢なさっていたようね、奥様。
でも無理ないわ。三十歳といえば、女盛りなんですものね」
そして順子は次に、ねじるように顔を伏せている珠江夫人の熱い頬を両手ではさみ、
「フフフ、よく顔を見せて頂戴。奥様」
と、夫人の顔を正面にすえ、柔らかい睫に涙を一杯浮かベた、
さも口惜しげな表情をしげしげと見つめるのである。
口惜しい屈伏の余韻が遠ざかり、やがて、珠江夫人は熱っぼく潤んだ瞳をぼんやり見開いた。
「御気分はいかが。何とかおっしゃってよ」
順子は、品位のある繊細な珠江夫人の鼻先を面白そうに指で押す。
「お願いです。縄を、縄を解いて……」
珠江夫人は、物悲しげに睫をそよがせながら、声を慄わせて順子に哀願する。
「あら、このぐらいで何をいってんのよ。
これから明け方まで少なくとも五回はスパークして頂くわ」
珠江夫人は順子にそう浴びせられると、再び眼を哀しげに閉ざし、
顔を伏せ、白い肩を慄わせて嗚咽し始める。
「ああ、いっそ、ひと思いに殺して。ね、殺して頂戴っ」
これ以上、卑劣な男女の眼前で嬲りものにされる気力もなく、珠江夫人は哀泣しながら口を開いた。
「何いっているんですよ。
千原家のお嬢さんだって、間もなく、こういう特別調教を受けるんですよ。
先輩の方がそう取り乱しちゃ、みっともないじゃありませんか」
順子がいうと、続いて鬼源がどすのきいた声を珠江夫人に浴びせかけた。
「俺達はな、お前さんの肉と心をここで完全に作り変えて、
立派な商品に仕上げようと努力してるんだ。まだ、わかんねえのかよ」
…………
銀子はそういって、今度は、友子の腰をつついた。
「さ、グウの音も出ない程責め上げてやんなよ。
あんた達の次はあたい達が責めることになってんだから」
友子と直江は愉快そうにうなずいて責めを続行する。
苦悩とも悦楽ともつかぬうめきをあげ、珠江夫人は固定された四肢を反り返らせた。
美沙江と自分とを奈落の底へ突き落とした憎い二人の女中の責めで、
崩壊して行く姿を晒さねばならぬ珠江夫人の苦悩は如何ばかりか。
それを思うと大塚順子は痛快でたまらず胸を轟かすのである。
「ねえ、大塚夫人、ちょっと、見て」
朱美はクスクス笑いながら、順子を手招きして呼び、夫人を指さした。
友子の残酷な責めに反応している女……
そこにはもう貞淑で教養のある博士夫人の面影など微塵もなく、
被虐の妖気にむせた一匹の雌に過ぎなかった。
見物に加わる鬼源の口元に意地の悪い微笑が浮かぶ。
見世物に引き出しても、この女は充分、男客達の官能を痺れさせるだろう。
また今後の調教次第では静子夫人同様、森田組の優秀なタレントになるかも知れぬ。
そう思うと鬼源は無性に楽しくなるのであった。
やがて、珠江夫人は、先程よりも更に激しく、つんざくような声を張り上げた。
恨みでも返す気分で、友子は血走った眼つきになり、責めの仕上げボタンを押す。
珠江夫人は、全身をのけぞらせるようにして、
絶息する時みたいな異様なうめきを上げると、がっくりと首を落とした。
ついに自分達の軍門に珠江夫人を降したと感じると友子と直江は歓声を上げた。
甘酸っぱい濃厚な体臭を発して、優美な太腿を何時までも波打たせている珠江夫人を
好奇な眼で貪るように見つめる順子は世にも嬉しそうな顔つきになる。
「フフフ、今まで使っていた女中さん達に、こんなぶざまな姿をみせるなんて、全く奥さんもいい気なものだわ」
しかし、珠江夫人はもう口をきく気力もないまでに打ちのめされている。
もう口惜しさも恥ずかしさも、そこにはなく、友子や直江の射るような視線の前に
屈伏を余儀なくされた肉体の一切を投げ出しているのだ。
鬼源も川田も、珠江夫人の感受性の豊かさに改めて驚くのだ。
「まだ明け方までにゃ、大分時間があるぜ。こってりと呻かせてやるからな」
鬼源は、がっくりと首を横に落とし、放心したように小さく口を開き、眼を閉じている珠江夫人にいったが、
「これじゃ、ちっとかわいそうだな。一度、きれいにしてやんな」
と、友子と直江の顔を見る。
珠江夫人は、その時、深い溜息をつくようにして蘇ったように柔らかい睫をそっと開く。
いまだに夢の中を、さ迷っているような朦朧とした瞳を上げると、
そこに友子と直江のニヤニヤした顔がのぞきこんでいるのだ。
珠江夫人は、白い頬を桜色に上気させて、さも恐ろしげに、彼女達の視線から眼をそらせた。
ついに、この女達の手にかかり、再び、生恥をかいてしまった屈辱感が、じわじわ胸にこみ上って来て、
珠江夫人は、頬を慄わせ、絹糸のような繊細なすすり泣きを始めるのだ。
友子と直江は、楽しそうに口笛を吹きながら鬼源に命じられた仕事にかかる。
敗戦したみじめさを一層みじめにさせるような友子達の仕事ぶりに珠江夫人は、
魂まで震わせるような哀泣を洩らすのだった。
「こんな風に親切にしてあげてんのに、何も泣くことないやないの」
「そやけど、奥さん。そんなきれいな顔してるくせに、相当なものやわね」≫

貞淑を奪われる、性欲と性的官能の炸裂は、珠江夫人に本能の悦びを教えることになった、
そのような女性にあることの自覚を確固たるものとされるために、
夫人は、縄で緊縛されたみずからの全裸の浅ましさを認識の根拠とさせられる処遇に晒されるのである。

≪津村義雄の寝室であった二階の一室で、徹底したいたぶりを受けた珠江夫人は、
二本のロープに支えられて、立鏡の前に立たされている。
 一昨日までの大理石のように硬い美しい容貌もがっくり髪は乱れ、
半開きになった口からは熱い吐息が洩れ、白磁の艶やかな肌には、
ねっとり脂汗が浮かんで、如何にも微塵に打ち砕かれた感であった。
つい先程まで珠江夫人が大の字に縛りつけられていた大きなベッドの上では、
川田と吉沢が花札遊びをしているのだ。
ふと、立位で縛られている珠江夫人の方を見た吉沢は、不快な表情になってベッドから飛び降りた。
「よ、どうして前の鏡から眼をそらすんだ。
いわれた通り、しっかり鏡を見てなきゃ駄目じゃねえか」
吉沢は、珠江夫人の顎に手をかけて、ぐいと顔を持ち上げた。
珠江夫人は、おどろに乱れた黒髪を頬の半分にもつらせたまま、
妖艶さの滲んだ表情で前の鏡にねっとりした頬を向けるのだ。
もう反抗する気力も喪失した珠江夫人であったが、それをいい事に吉沢は、後ろからぴったり体を押しつけ、
珠江夫人と頬を合わせて一緒に鏡の方へ眼を向けるのだ。
「昨夜は随分と乱れてたじゃないか。覚えているかい」
珠江夫人は肉体がどろどろに溶け潰れたその余風の中で
いまだ意識が元へ戻らぬような、うっとりした表情を鏡の中へ向けている。
「明け方までに七度も泣いたぜ。いやはや奥さんも嫌いな方じゃないようだな」
吉沢に頬を突かれて、羞ずかしげに身をよじった珠江夫人は、顔を伏せてシクシクすすり上げるのだ。
「鏡から眼を離すなといったろう。
こちらがよしというまで、自分のみじめな姿を何時までも眺めているんだ」
今度は川田がベッドから降りて来て、もじもじする珠江夫人を叱咤した。
「まだ、まだ、私に、これ以上、生恥をかかせるおつもりですの」
珠江夫人は、白々と冴えた繊細な顔を鏡へ戻しながら、滴るように美しい、潤んだ黒眼をしばたかせていった。
ふっくらした胸の隆起にきびしく巻きついている麻縄以外、何も身につけることを許されず、
その鏡にうつる、生まれたままの姿を見ねばならぬ屈辱は、耐えられないものだったが、
それよりも、この男達はまだ自分に対するいたぶりを続ける気なのかという恐怖で、
珠江夫人の心臓は高鳴りつづけているのだった。
「何をいってやがる。生恥をほんとにかいて頂くのは、これからなんだぜ、奥さん」
川田は象牙色に輝く珠江夫人の緊縛された美肌を舌なめずりでもするような顔つきで眺めていった。
 品位を帯びた妬ましいばかりに繊細な珠江夫人の下肢は、
川田が近づくとぴったりと閉じ合わされ、かすかな慄えを見せる。
固く緊まった珠江夫人の程よく脂肪を乗せた悩ましい、瞼に染みるような色艶をニヤニヤ眺めていた川田は、
「間もなく奥さんは、大塚女史に長年、千原流生花を後援したことの詫びを入れ、
それから剃り落とされることになっているんだ。覚悟は出来ているだろうな」
川田のその言葉に、珠江夫人の端正な顔は見る見る紅潮する。
「こうして鏡の前に立たせるのは奥さんにお名残りを惜しませてやるためだからだぜ」
川田がそういって笑うと、珠江夫人は、耐えられなくなったよう、
さっと赤らんだ頬を横に伏せ優美な肩を慄わせて嗚咽し始めるのだった。≫

<田代屋敷>という国家にあっては、品性と教養と社会的地位に裏付けられた、論理的思考を持つ、
医学博士夫人の折原珠江でさえ、<性奴となる家畜>となるほかないのである、
珠江夫人があらわす存在理由以上に、<隷属することは、悦びである>を教育する、
<静子夫人の教導>が施政の力をあらわすことにあるからである、
以下は、珠江夫人が<教導>される過程として示される表現である。

≪調教柱に縄尻をつながれて静子夫人と珠江夫人は互いに肩を寄せ合うようにし、その場に正座している。
二人ともかっちりと後手に縛り上げられている裸身を時々、
腰を宙に浮かせるようにしてもじつかせているのだが、
それは腿と腿との柔らかい媚肉の間に強く喰いこんでいる淫らな縦縄が原因だった。
それはずいき縄といって、ずいきの繊維をよじり合わせて作ったささくれ立った縄で
二人は羞ずかしい股間縛りにされていたのである。
「少ししたら痒くなるが、辛抱しな。後でこいつを使って互いに慰め合えるわけだからな。
痒さがつのればつのる程、熱烈に愛し合えるというわけさ」
川田はもじもじ腰のあたりをもじつかせている二人の令夫人の眼前に
相対張形を見せつけてニヤリと笑っている。
珠江夫人は川田の示したそれからあわて気味に目をそらせ羞恥の紅を顔面に散らせながら
静子夫人の乳色の艶っぼい肩先に顔を押しつけていくのだった。
まるで仲のいい姉妹のように緊縛された一糸まとわぬ素っ裸を寄せ合い、
身を縮め合っている両夫人を川田と吉沢は頼もしげに見つめている。
…………
「お前さんが先輩としてコーチしてやるんだ。どんなふうにして舐めさすりすりゃ、男が悦ぶか、
それが一番わかっているのはお前さんだからな」
川田がせせら笑ってそういうと、
静子夫人は抗し難い悪魔の命令を受けた心地で哀しげにうなずいて見せるのだった。
「珠江さま。私達は性の奴隷なのです。娼婦になったつもりで羞じらいを捨てなければなりませんわ」
 と、声を慄わせていうと、
「ね、私のする事、よく御覧になって」
静子夫人は川田に鼻先まで押しつけられている筒具に花びらのような唇をそっと触れさせていくのだった。
「そら、静子夫人が実演して見せてくれているぜ。よく参考にするのだ」
と、吉沢は珠江夫人の赤く染まった頬を両手で押さえて無理やり静子夫人の方に向けさせるのだった。
珠江夫人が半分ベソをかいたような表情をこちらに向けさせられると静子夫人は、
「いい、珠江さま。こんなふうに最初は何度も舌を使って……」
と、くなくなさすりつけていた唇をそっとそれから外して今度はわずかに舌をのぞかせると、
その先端をゆっくりと舐めさすり出したのだ。
珠江夫人にこのような舌先の愛撫を教えなければならぬ苦悩と恥ずかしさに
夫人の柔媚な頬も真っ赤に上気している。
しかし、これから鬼源を相手にその汚辱の液を飲み乾すため、
汗みどろの努力を強制される珠江夫人の事を思うと
相手の自失を早めるためこの技巧を珠江にすぐ覚えさせねばと思うのだった。
男に緊張状態が訪れなければ、この悲惨な行為を珠江夫人は長時間続けなければならないのだ。
それがいかに辛い、恐ろしい作業であるかという事を静子夫人は知っている。
唇と舌先だけを使って男をリードし、極限にまで持っていって一気に放出させなければならぬ朝の日課……
果たして珠江夫人がその酸鼻な作業に耐え得るだろうか、いや、耐えさせねばならぬのだ、
と静子夫人は次第に激しく舌先を動かせながら、悲壮な気分になっているのだった。
「ね、珠江さま、よく見て。こんなふうに……」
静子夫人は時々、チラと珠江夫人の方に哀しげな眼差しを向けて注意をうながすようにし、
再び、象牙色の頬を赤く染めながら、
更に積極的に舌先を責具の先端から柄にかけて這わせていたが、
溜息のような吐息と一緒に薄く唇を開いてそれを柔らかく押し包み出したのだ。
「さ、大体の要領はわかったろう。珠江奥様も始めてみな」
全身が痺れ切ったように筒具に熱っぼい口吻を注いでいる静子夫人を
ぼんやり見つめていた珠江夫人は吉沢に催促されて、ふっと我に返った。
…………
「さ、二人ともここに坐るんだ」
と、鬼源は二つ並んだ椅子の前に静子夫人と珠江夫人を坐らせる。
ぴったりと両腿を密閉させて椅子の前に正座した二人の夫人は
股間を緊める鎖とその部分に喰いこむ鈴の刺戟に忽ち美しい眉をしかめて双臀をもじつかせ、
緊縛された裸身をうねらせて中腰になるのだった。
そんな静子夫人の前の椅子には川田が坐り、珠江夫人の前の椅子には鬼源がどっしりと腰を落とす。
 川田も鬼源も下半身は裸であった。
珠江夫人は鬼源の股間の醜悪なものを眼にした途端、
線の綺麗な頬を忽ち真っ赤に染めて、あわて気味に視線をそらせるのだった。
「そら、始めないか」
鬼源は椅子の上で両股を開き吉沢に手渡された週刊誌を開げて読み始めるのである。
川田も静子夫人に向かって両腿を割り、新聞を広げ出している。
「何をぼんやりしているんだよ。早く始めないか」
川田は翳の深い美しい瞳を床に向けて身を縮める静子夫人に
荒々しい声をかけ乳色の艶っぼい肩先をいきなり足で蹴り上げたのだ。
思わず腰をくずした夫人は、しっとりした頬にもつれる髪をそよがせて立膝に身を持ち直し、
静かに眼を閉じ合わせながら川田の股間にゆっくりと身を乗り入れて行くのだった。
川田はすでに火のように熱くなっていた。それに気品のある夫人の象牙色の顔は近づいたが、
その時、ちらと夫人は哀しげに潤んだ瞳をしばたかせて珠江夫人の方に顔を向けるのだった。
鬼源の醜悪なものを前にしてガクガクと膝のあたりを慄わせている
珠江の恐怖心を何とか取り除き、
この酸鼻な行為を死んだ気持になって演じさせねばならぬと思ったのか、
静子夫人は臈たけた艶っぼい頬に無理に柔らかい自嘲的な微笑を作り、
「珠江さま。私が先にお手本を示しますわ。御覧になって」
というと、再び、川田の方に向き直り、
うっとりと柔らかい睫を閉じ合わすようにするとすぐに紅唇を開いていったのだ。
静子夫人が川田のを唇で愛撫し始めたのに気づくと珠江夫人の引き締まった端正な頬は硬化する。
静子夫人はうっとりとした表情になって幾度も念入りな愛撫をくり返しているのだった。
「そら、お前さんも静子夫人を見習わねえか」
何時まで待たせる気なんだよ、と鬼源は週刊誌を投げ出して、
珠江夫人の麻縄を巻きつかせた柔らかい乳房を、足の裏で押し上げるのだ。
珠江夫人は腰のあたりをガクガク慄わせながら
後手に縛り上げられた雪白のしなやかな裸身を鬼源の股間ににじり寄せていく。
珠江夫人の細い線の端正な頬は心臓の緊めつけられる屈辱と汚辱感で真っ赤に火照り出した。
鬼源に催促され、珠江夫人は死んだ思いになってそれに唇を触れさせようとするのだが
グロテスクとしか形容のしようがない醜悪な肉塊が眼に入ると、
珠江夫人の全身には嫌悪の戦慄が走るのだった。
ふと、珠江夫人はおびえ切った表情で川田を愛撫している静子夫人の方へおどおどした眼を向ける。
静子夫人は男の性の妖気に煽られ、むせ返ったように恍惚とした表情になり、
柔媚な頬をふくらませて愛撫するようにしゃぶりつづけている。
そんな静子夫人に千代と銀子が左右からぴったり寄り添って盛んにからかいつづけている。
「まあ、とてもおいしそうね」
銀子はおくれ毛をもつらせた頬をふくらせて軽く右に左に揺すりつつ
酸鼻な接吻を続ける静子夫人を嘲笑し、
背後から今度は麻縄に緊め上げられた乳房を揉みほぐしたりするのだ。
すると今度は千代が夫人の量感のある双臀を撫でさすり、
その削いだような亀裂に喰いこんでいる銀の鎖に指をかけたりしながら
クスクス笑っていたぶりを開始している。
しかし、夫人は銀子や千代達のそんないたぶりを無視したように
薄紅に染まった柔媚な顔を斜めにしたり正面にしたりして
くなくなと頬を揺さぶり、甘美な愛撫をくり返しているのだった。
川田は段々と激しさを加えて来た静子夫人の口吻に心を蕩けさせ、
両手で夫人の柔軟な肩を抱くようにする。
放心忘我の状態になり、上気した頬に垂れかかる乱れ髪を時々、
はね上げるようにしながら激しく唇と舌先の奉仕をしていた静子夫人はふと、
情感に蕩けた仇っぼい瞳で川田を見上げ、
「今日は凄くお強いのね、舌が疲れてしまいましたわ」
と、甘くすねたような口調でいうのだった。
「それに今日は何時もよりたくましいわ。何だか息がつまりそう」
しっとり滴るような情欲的な潤みを持つ瞳で夫人は川田を艶っぼく見上げ、
今度は緊縛された裸身をぴったりと川田にすり寄せて行く、
麻縄を上下にきびしく巻きつかせた豊満な乳房を川田のからだにすりつけ始めるのだった。
薄紅色の可憐な乳頭でコリコリくすぐられる川田は切なく甘い快感がぐっとこみ上げて来て、
思わずうめいてしまうのだったが、
すると静子夫人は腰を据え直したように大きく舌先をのぞかせるのだった。
千代と銀子は静子夫人の巧妙な舌さばきを見て悦ぶというより、驚異を感じ出している。
夫人の技巧のうまさに驚いたのではなく、
夫人がよくぞここまで娼婦的に成長したものだと讃嘆に近い感情を持ったのだ。
川田もまた、かっては自分の女主人であった静子夫人にこのような愛撫を受ける嗜虐の悦び、
それと同時に夫人の卓絶した技巧に全身が酔い痴れ、
ふと自失しそうになるのを歯を喰いしばって耐えている。
俺がこの夫人の雇われ運転手だったのは本当にこの世の出来事なのか……
川田が身体の芯にまでうずく快美感に酔い痴れながら思った時、
静子夫人は上気した頬に垂れかかる乱れ髪を再びさっと振り払って、
「お願い、静子に飲ませてっ」
と、昂った声で叫び、武者振りつくように紅唇を開いた。
妖気めいて乱れ髪を揺さぶりながら川田を自失に追いこもうとする静子夫人……
背中の中程でかっちり縛り合わされている夫人の華奢な手首は汗を滲ませ、
その仇っぼい双臀に喰いこんでいる銀の鎖は振動する。
川田は遂に耐え切れず、自失してしまったが、
すると、夫人は美しい眉根を切なげに寄せながら、
川田の発作をゴクン、ゴクンと喉を鳴らして受け入れていくのだった。
千代も順子も吉沢も驚嘆した表情で静子夫人の壮絶な愛撫行為を凝視している。
キラリと情感に潤む瞳を光らせた夫人の横顔は
男の生血を吸った妖婦のような凄艶さが滲み出ていた。
情念を充分満足させて川田が身を引こうとすると、
「まだ、駄目ですわ、川田さん。ちゃんと後始末をしておかなきゃ」
と静子夫人は膝を動かしてつめ寄り、すっかり萎れ切って力を失ったそれを
舌先でペロペロ舐めさするようにして優しく後始末するのだった。
静子夫人のそうした至れり尽せりの愛撫にむしろ川田の方がたじたじとなっている。
「ホホホ」
と、千代はようやく自分を取り戻し、口に手を当てて笑い出した。
「遂に完全な娼婦におなり遊ばしたわね」
しかし、静子夫人は千代のそんな哄笑は無視して川田を舌で拭い取ると、
情感に濡れた美しい黒眼で川田を見上げ、
「御満足なさって、川田さん」
と、甘い声音で囁くようにいうのだった。
…………
「待、待って下さいっ」
静子夫人は珠江夫人と同じくきびしく後手に縛り上げられた裸身を泳がせるようにして
順子の振り下ろそうとする青竹から珠江夫人を庇おうとするのだった。
「珠江さま。さっき私がいいましたように、
この人達は自分の思った事は必ず実行するのです。
 いくら頼んでも許して下さるような人達じゃありませんわ」
静子夫人は滑らかな頬に大粒の涙をしたたらせながら、
「珠江さまも私も今は性の奴隷に転落した身の上なのですわ。
死んだつもりになってどのような辱しめも耐えていこうと先程、お約束したではありませんか」
涙で喉をつまらせながら声を慄わせてそういった静子夫人は次には心を鬼にする思いで、
「さ、これ以上、ここにいる人達を怒らせてはなりませんわ。
思い切って今、私が演じたような事をなさって頂戴」
と、強い口調になっていうのだった。
珠江がいくら拒否しても無駄だという事は静子夫人が一番よく知っている。
拒否を示せば鬼源達は一層、狂暴性を発揮して
あらゆる責めの手を考え出す事を夫人はよく知っていた。
「わ、わかりましたわ、静子さま」
珠江夫人は静子夫人のその言葉は自分を庇うためであるのに気づくと、
「一旦、覚悟を決めておきながら、駄々をこねてしまって、ごめんなさい、静子さま」
と、嗚咽にむせびながらいい、
涙に潤んだ黒眼勝ちの瞳をおどおどしながら椅子に坐っている鬼源の方に向けるのだ。
「ハハハ、静子奥様の説得でとうとうやる気になったというんだな。よし、来な」
鬼源はゲラゲラ笑って椅子に乗せていた両腿を割って見せるのだった。
椅子の脚の傍には薄汚ない鬼源の褌が脱ぎ捨ててあり、
それを踏みしめるようにしている鬼源の毛むくじゃらの黒ずんだ脛、
また、垢じみた腿のあたりには色あせた刺青が見え、
その腿と腿の間の一物も薄汚なく垢じみて何とも醜悪無残の姿を露呈させているのだ。
珠江夫人はさも苦しげに細い眉をしかめ、固く眼を閉ざし、
鬼源の下腹部へ膝を使ってすり寄っていったが、
それだけで異様な臭気が珠江夫人の鼻にツーンと突き刺さってくるのだった。
「何をそこでもたもたしているのよ。早く始めないか」
順子と吉沢がまるで首斬りの介添人みたいに左右から
後手に縛られた珠江夫人の肩を強くつかみ、ぐいっと鬼源に向けて首を押し出させる。
「うっ」と、珠江夫人は骨まで砕かれるような汚辱の戦慄で全身を痙攣させ、
唇を固くつぐむのだった。
「何よ。それ。奥様には舌がないの」
「唇を結んでいたんじゃあ何にもならないじゃない」
順子と朱美は声を立てて笑いながら珠江夫人の艶やかな白磁の肩先を揺さぶるのだった。
鬼源も笑い出し、投げ出した週刊誌をもう一度取り上げて開きながら、
「ま、気長に待ってやるさ。
俺が発射するまで丸一日かかっても続けさせるからな。そのつもりでいな」
といい、椅子の上にどっしり腰を落着けさせるのである。
「珠江さま。我慢なさって。死んだ気になって耐えて下さい。ね、珠江さま」
静子夫人はそのすぐ傍で後手に縛られた裸身を慄わせながら悲痛な声を出している。
…………
「今度はうまくやるんだぜ、いいな、おい、わかったか」
椅子に坐った鬼源は、
打ちひしがれている珠江夫人の乳色のしなやかな肩先を軽く足の裏で押すのだ。
「さ、奥さん、今度はもっと上手に舌を使うのよ」
再び、銀子と朱美が左右から夫人の肩に手をかけ、
ぐいと鬼源に泣き濡れた顔を押しつけていく。
それを少し、離れた所から面白そうに眺めている千代と順子は、
鬼源の残していった一升瓶の酒を茶碗に注ぎ合っていた。
「今の話、気に入ったわ」
と、順子は再び鬼源を愛撫し始めた珠江の涙をしたたらせた美しい横顔に見惚れながら
千代にいうのだった。
「私も珠江に子供を作らせてやるわ」
そんな二人の言葉は珠江夫人の耳にはとどかない。
珠江夫人は無我の境地に浸るかのように固く目を閉ざしながら膝頭で上体を充て、
遮二無二舌先で鬼源を愛撫している。
「そうよ、その調子で責めてごらん」
介添人の銀子は次第に積極性を帯びて来た珠江夫人の熱っぼい口吻を見て
励ますように声をかけるのだ。
珠江夫人の捨鉢になったような必死の努力でようやく鬼源にも緊張度が近づいたようだった。
鬼源に指示されて唇で覆い込んだ珠江夫人はこのような淫虐行為を強制する鬼源に対して
恨みを晴らすかのように挑戦的になった。
激しく舌を使って熱気を帯びた生肉を舐めさすり、次に雁首をしっかりと口中に咥えこんで、
狂おしく前後に顔面を揺さぶりながら吸い上げる。
「ようやくコツがわかったようだな。そら、ゆるめずにしっかりやりな。もう間もなくだぜ」
間もなく、鬼源は、遂に頂点に達し、
ブルッと椅子に据えた腰のあたりを痙攣させて自失したのである。
珠江夫人はその瞬間、
相手をようやく自失させたという歓喜で涙が出る程の高ぶりを感じたが、
すぐに反吐を催すような痛烈な嫌悪と汚辱感がこみ上がり、反射的に顔を引こうとする。
「駄目よっ」
と、夫人の白磁の肩を支える銀子が鈍い声で叱咤した。
「吐き出したりすると承知しないから。全部有難く頂戴するのよ」
珠江夫人は失神状態に陥るのを必死にこらえながら
反吐に似た汚辱の流れを全身を痙攣させながら耐えている。
ぎゅっと細い美しい眉根をしかめながら歯を喰いしばった表情になっている珠江夫人……
それは何とも凄艶な光景であった。
「よくやったわ。これで奥様も一人前の奴隷になったというわけね」
珠江夫人の肩を支える銀子はそういって哄笑する。
ようやく、唇を離す事を許された珠江夫人は前のめりになっていた上体を元へ戻したが
強い臭気と濃い酸性の何ともいえぬ不気味な味わいに喉元が刺戟され、
ぐっと吐き気が生じるのと同時にクラクラと目まいが生じ、
その場にがっくり額を押しつけてしまうのだった。≫

日本民族は、<自主・独立・固有の知覚>にある人間存在として、
<体制と制度>を超克して、人間存在の可能性を邁進する人類にあるという目的を掲げたところで、
縄による緊縛の全裸にあるという状況は、容易な事態にはさせないということである、
<アメリカ合衆国の核の傘>の下に生活するからこそ安泰が守られる、
<日米同盟>へ隷属するありようがあるように、
西洋思想である<サディズム・マゾヒズム>を翻案した<和製SM>の下に生活があるからこそ、
<田代屋敷>の安泰は、その将来を保障されるということにある、
珠江夫人は、<静子夫人の教導>に従って、人間調教師・鬼源の企図するように、
<静子夫人の後任>としての位置付けを定められるだけのことにある、

≪「性の奴隷だなんて、私がそんな罰を受ける程の罪を犯したというの。ひどいわ。ひどすぎます」
珠江夫人は、おどろに乱れた黒髪を揺さぶり、口惜しげに身悶するのだ。
田代は懊悩する珠江夫人を愉快そうに見つめながら、順子の手より契約書を受け取って音読し始める。
……折原珠江(三十一歳)は長年、千原流生花の後援会長として横暴に振舞い、
湖月流生花の発展を妨げたる罪によって、
本日より性の奴隷として当屋敷に監禁、森田組の商品として一生涯飼育されるものとする……
田代が読み上げると、横に伏せた珠江夫人の白い頬に大粒の涙がしたたり落ちる。
田代は、そんな珠江夫人を楽しげに眺めて更に読みつづけるのだ。
「一つ、性の奴隷、折原珠江は森田組の許可なしに身に布をまとうことを許さず……
つまり、遠山静子と同じく、この屋敷内では素っ裸のままで暮して頂く、いいですな、奥さん」
 田代は口を歪めて笑った。
「一つ、商品化するための如何なる調教にも不平をいわざること。
 一つ、定期的に行われる秘密ショーには、特別な事情のない限り、出演するものとす。
 一つ、森田組の資金源である秘密写真、その他の仕事にも積極的に協力するものとす」≫

全裸を後ろ手に縛られ、柱へ立位へ繋がれた、珠江夫人は、無理やり、
明文化された奴隷契約書に、足の指先へペンを挟まれ署名させられ、足の親指で捺印させられる、
<第二の静子夫人の誕生>である、
これが折原珠江夫人に依って示唆される事態である。


*上記の≪ ≫内は、団鬼六著『花と蛇』より引用


(2017年2月5日 脱稿)




☆13.縄による緊縛という結びの思想・四十八手 (30)

☆13.縄による緊縛という結びの思想・四十八手 (28)

☆縄による日本の緊縛



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