第12章 序章 入口 借金返済で弁護士に相談




第12章  序章  入口




<三十二歳になる、由香には、固有の身上があった、
その身上を小説として書いた作品があり、冴内谷津雄と知己の関係になった経緯も、
その小説が切っ掛けであったことは、
いずれは、読者へ提示されることにも充分な必然性があることだと考えられる>と述べられた、
『緊縛の因縁』という作品を皆様にご覧にいれたいと思いますが、その前に、
<固有の身上>について、少々、語らなければなりません、
その<固有の身上>なくしては、『緊縛の因縁』という作品は生まれなかったからです、
<固有の身上>とは、私は、叔父の性奴隷であったという事実です、
それは、両親を一九九五年の阪神・淡路大震災で失った私が叔父に引き取られ、
中学一年の十三歳のときから叔父が肝臓癌で亡くなる二十三歳の十年間に及ぶ期間のことにありました、
叔父は、私の父の二歳下の弟で、東京の大学を卒業した後、上野で本屋を営んでいました、
考えに固執する性格があると父が言っていたことが理由かも知れませんが、四十歳の独身でした、
叔父は、実家へ顔を見せるようなことは一度もなく、音信不通であったとさえ言えることにありました、
兵庫県西宮市で代々の小さな酒造業を継いでいた実家の一人娘であった私には、
将来の婿取りまで予定されていて、楽しく穏便な生活が続いていたことにありましたが、
自然災害の猛威というのは、日常の意識を遥かに超えた現実にあったことでした、
大地震で、製造所は倒壊し、同じ場所にあった母屋も倒壊して、両親も圧殺死を遂げました、
二階に居住していた私だけが運良く命を救われたという事態に遭ったことでした、
すべて倒壊し失った実家、家業の再建は、唯一の直系である、叔父に託されたことでしたが、
叔父は、私を引き取ることを条件にして、家業を廃業させ、私と遺産を分与したのでした、
中学一年の私には、ただ、両親を失ったという絶望感があるだけで、
代々続いた酒造業の経営が如何なる状況にあるかなどということは、まったく分りませんでした、
私は、身辺の整理を済ませると、叔父に従って東京へ行くしかなかったのでした、
それは、振り返って見れば、必然的な状況を感じさせる出来事にあったことかも知れませんが、
そのときは、突然、襲い掛かってきた事態であるとしか感じられないことにありました、
私は、叔父に導かれるままにあるだけの少女でしかなかったのでした、
叔父の家は、台東区北上野に所在する商店街にあって、一階は、店舗・居間・台所・浴室・便所、
二階は、個室二間、そして、書庫として使われている地下室があるという造りのものでしたが、
私の生まれ育った、広々とした庭のある家と比べると、
密閉されているという感じが第一印象としてありました、
二階にある個室の二間のうち、階段に近い方は、叔父がすでに使用していたことで、
商店街通りに面した窓のある、明るい部屋が私の部屋とされたことは嬉しいことでしたが、
狭い階段を通らなければ下へ降りることはできず、その階段も、家の最奥にあって、
そのまま地下室へ降りて行くことができたことは、
閉塞感も異様さえ感じさせることにあったことは事実でした、
その家は、造りの異様があらわすように、異常であったのです、
そして、その異常は、私がその家へ入った晩に、早速、あらわされることにありました、
私は、風呂に入るように言われて、浴室の使い方を教わり、裸になって身体を洗っている間は、
努めて新しい環境に慣れることが両親を考えられずにいられることだと思いながら、
来週からの新しい学校のことや、先ほど通ってきた街の風景などのことを思い浮かべていました、
浴室から出たとき、驚いたのは、脱衣籠には、私の脱いだ衣服や下着の代わりに、
私のセーラー服の一式と新しい白いソックスと下着が置かれていたことでした、
私は、これから中学校へ行くわけでもないのに、そのようなものがあることに、
ただ、戸惑うばかりで、バスタオルで裸身を覆って立ち往生するだけでした、
衣服を始めとして、私の身辺の品は、先立ってこの家へ届けられていましたから、
セーラー服を置いた、叔父は、私に断りもなしに勝手に荷物を開いたことになります、
両親でさえプライバシーを守ってくれていたことに比べると、
私は、下着に手を触れられたということに恥ずかしさを覚えましたし、
随分と横暴な身勝手をされると感じました、そのとき、扉越しに叔父の声が聞こえてきたのです、
「由香、脱いだものは洗濯しておくから、そこにあるものを着なさい、
夕食の支度はできているから、早く、居間へ来なさい、冷めてしまうよ」
私は、言われる通りにするしかなかったのでした、
私がおずおずと居間へセーラー服姿をあらわすと、テーブルに着いて、すでにビールを飲んでいた、
叔父は、私をまじまじと見つめながら、赤ら顔に笑みを浮かべて言いました、
「可愛いねえ、由香は……美人だと言ってもいい、
きっと、お母さんそっくりの美人になるね、
さあ、今晩は、由香の歓迎会だ、遠慮なく、食べなさい」
テーブルの上には、私の大好物である、ハンバーグ・セットとジュースの出前が置かれてあり、
私は、言われた通りに席へ着きましたが、お母さん似ということの意味がよく分かりませんでした、
叔父は、実家へ顔を見せたことなど、私の記憶には、まったく、なかったからでした、
私がナイフとフォークを使って食べ始めると、叔父は、私の仕草を眺めながら、
「今日から、この家が由香の家だ、
わしは、亡くなったおまえの両親に成り変って、おまえを養育していく父親なのだから、
わしに、隠し事をしたり、不埒なことをしたり、逆らったりすることは、絶対に許さないよ、
見れば、きちんと躾されて育っているようであるし、頭も悪くはなさそうだし、
言って聞かせれば分かる娘だと思うから、くどくは言わない、
わしの言うことが分かるな、由香」
と語られたことに、私は、恐々とした思いで、食事の手を止めて、叔父を見たのでした。
酒の入った赤ら顔の叔父は、にやけた笑みを浮かべている表情にありましたが、
そのまなざしは鋭く、私を睨みつけているようにさえ感じられたことは、
はい、と返事をする以外に私の選択肢はないということがあらわされていました、
その<はい>がそれから始まる待遇の承諾を意味していることなど、
私の想像の及ぶことでなかったことは、私は、まだ、十三歳の中学生の世間知らずだったからです、
食事が終わると、叔父は、家の中を案内するからと言って、付いて来なさいと私を従わせて、
家の最奥にある、階段のところまで向かわせました。
その日は、店舗は休業していました、すでに、夜の八時頃にあったせいか、
商店街の通行人の数も少なくなり、ひっそりとした雰囲気が漂っていました、
しかし、それ以上に、私が案内された地下室というのは、恐ろしいくらいの静寂の場所にあったのです、
その扉が閉められれば、外部にさえ音の漏れることのない、密閉の空間にあったのです、
地下室の入り口から半分までは、書棚の並ぶ書庫として使われていました、
残り半分は、十畳くらいの広さの空間とされていて、
板張りの床から天井までの高さは四メートルくらいありました、
その天井からは、滑車がぶら下がり、縄が不気味に垂れ下がっていたばかりか、
丸太を組んだ木馬が置かれ、隅には、白木の柱が一本立っているという異様な雰囲気にあったのです、
私は、見たこともない光景に震えさえ感じるほどの怯えた思いにありましたが、
並んで同じ光景を眺めている、叔父からは、次のように言い聞かされたことにあったのです、
「由香、 わしは、おまえの父親である以上、
おまえが一人前に育ってくれることがなりよりのことなのだ、
おまえが女として世の中へ出ても、恥ずかしくないような考え方や行儀を教えていくつもりだ、
ここは、おまえがその躾を教えられる、教室のような場所だと思えばいい、
わしは、おまえのことを思えばこそ、しっかりとした考えに基づいて行うことにあるのだから、
おまえはわしを信頼して、わしに言われる通りに従えばいい、分かったな、由香」
叔父の言葉に逆らえる理由はありません、ここは、叔父の家です、
たとえ、遺産があったとしても、私は、叔父に面倒をみてもらう以外には、行くところはないのです、
落ち着いた照明と静かな空調設備は整えられていましたが、
その決め付けられた言葉は、閉塞感をますます募らせていくものでしかありませんでした、
私は、思わず泣き出したくなるのを懸命にこらえながら、はい、と答えるしかなかったのでした、
それは、叔父の命ずるままになる、奴隷のようなものにあることを宣言した言葉とされたのは、
早速、命令が下されたことにあらわされるのでした、
叔父は、床に置かれていた麻縄の束のひとつを手に取ると、
由香、両手を背中へまわせと言ったのです、
私は、はっきりとした言葉で言われたことにありましたが、意味がつかめずに愚図愚図していると
早くしなさい、と強い口調が飛んできました、
おずおずと背後へまわす、私の両手は、待ち構えている叔父の手で両手首を重ね合わされ、
するすると巻き付いてくる縄によって、声を出す間もなく、縛り上げられていったのです、
私は、余りの衝撃の思いから、どうしてこのようなことをされるのかという疑問も湧き起こらず、
縄尻を取られて引き立てられるようにされながら、隅の白木の柱まで歩かされたのでした、
その柱を背に直立した姿勢で縄尻を繋ぎ留められたときには、
私も、抑えている思いが力を失って、しくしくと泣き始めていました、
両足首も揃えさせられて縄で縛り付けられると、叔父は、ポニーテールに結っていた私の黒髪を解いて、
私の全身を正面にして、床へ胡坐をかいて腰掛けたのでした、
頭から足元に至るまで、まじまじと見つめ続ける叔父のまなざしを受けた、私は、
紺地のセーラー服に純白のリボン、白いソックスを履いた姿を後ろ手に縛られて柱へ括り付けられ、
晒しものとされている境遇に置かれていることがようやく理解できるようになりましたが、
どうして、どうして、どうしてという疑問が膨れ上がるばかりのことにありました、
それが言葉にはならなかったのは、叔父の食い入るような鋭い視線が眼の前にあったからでした、
見つめられていているという思いは、心臓をどきどきと高鳴らせることにあるばかりか、
顔立ちを火照らせて、恥ずかしい思いをのぼせ上がらせることにありました、
そして、訳の分からなさは、ただ、泣きじゃくることしかできなかったことにありました、
しかし、女は、ひとしきり泣くと根性が座る、という言葉があるように、
私も、十三歳ではありましたが初潮も終えて、女の門口に立っていたことは、
俯かせた顔立ちへ長い黒髪を掛けながら泣き終わると、おもむろに上げた口元からは、
「おじさま、そんなにみつめないで、由香は恥ずかしい……」
と言い返すことができたことにあったのでした、
私は、ませた文学好きの少女にあったことは、確かだったのです、
私に掛けられた初縄は、後ろ手に縛られたことだけで終わりました、
晒しものという境遇から解放された、私は、押し黙ったままにあって、叔父に導かれるままに、
個室とされた二階の部屋まで向かわされると、
「今日は、初めてだったので疲れただろう、ゆっくりとお休み、
来週から新学年も始まる、本格的な由香の生活が始まる」
そのように告げられて、薄笑いを浮かべた叔父の顔付きは、眼の前から消えていくのでした、
私のほっそりとした両手首にうっすらと浮かんだ縄の痕を残して……
私は、扉にしっかりと鍵を掛けて、恐ろしいばかりの孤独の中に閉じこもり、
いったい何があったのかを考えることをしましたが、
取り結ばせる答えというものがまったく見つかりませんでした、
ただ、縄で縛られる女性というありさまは、週刊誌に掲載された写真を見て知っていました、
しかし、それが叔父と私との関係を結ばせるということが理解できないことにありました、
さらに、不思議だったのは、縄で後ろ手に縛られたときに始まった、経験したことのない異様な感覚は、
泣きじゃくることしか反応をあらわせなかった私に、思わず、
見つめないで欲しい、恥ずかしいともらさせたことにあったことでした、
その異様にあることをはっきりと自覚させたことにあったことでした、
私の気がつかない、私の知らない何かが私の中にあることを感じさせたことにありました、
しかし、それがどうにかなるという思いへ至らせるものでなかったことは、
驚きや戸惑いや哀しみに擾乱された思いの方が優っていて、茫然となることで精一杯だったからでした、
そして、そのどうにかなるという思いは、もはや、私の手の中にはなかったことは、
新学年の始まるわずか一週間の間で思い知らされたことにありました、
地下室の行為は、毎夜続けられたことにあったのです、
叔父の飼育と教育は、身に着けている衣服が一枚ずつ剥ぎ取られていくことで、
衣服の代わりに、身体へ掛けられる縄が一本ずつ増えていくことにありました、
何故か、叔父は、セーラー服姿にこだわりを持っていましたが、
セーラー服が一枚ずつ剥ぎ取られ、更には、下着が一枚ずつ剥ぎ取られれば、
第五夜の終わりには、一糸も身に着けることを許されない、全裸がさらけ出されたことにありました、
身を覆い隠す衣服がなくなるのに併せて、叔父の口調や態度も強いものとなっていくことにありました、
始業式を控えた前夜の第七夜は、性奴隷としての旅立ちのときでもあったのでした、
「叔父と姪の間柄で恥ずかしいことなんか、あるか、
わしは亡くなったおまえの両親に成り変っておまえを養育している父親でもあるのだぞ、
おまえに三度の飯を食わせ、学校に行かせ、こうして躾まで行なってやっているのだ、
おまえが女として世の中へ出ても、恥ずかしくないような行儀を教えてやっているのだ、
ありがたく思われることはあっても、うらまれるようなことをしているわけではない、
それはおまえもよくわかっているな、由香、
どうした、返事は」
白い靴下とセーラー服を羽織らされただけの裸姿に乳房を剥き出しにされた縄をかけられて、
私は、込み上げてくる恥ずかしさと悔しさを抑えるように、「はい」と小さく答えるばかりでした、
どうして、自分はこのような目にあわなければならないのか、
大きな疑問がその「はい」という言葉から波紋となって広がっていくけれども、
だれにも打ち明けられない苦悩は、この家のなかにあっては、哀しみにしかならないのだった、
そして、不思議なことに、本当に不思議なことに、その哀しみの思いに心が満たされていくと、
浅ましい全裸姿をおぞましい麻縄で縛られている自分が感じているものが、
恥ずかしさや悔しさよりもずっと深いところからくる胸騒ぎのような甘美な疼きであることでした、
叔父に初めて縄で縛られたときは、ただ泣きじゃくることしかできなかった、
二度目、三度目と度重なると、涙はすすり泣きに変わりました、
いまは、もう泣きはしませんでした、
叔父に縛られるということがあたりまえのこととなってしまったのです、
三度の食事をとるように、学校へ毎日行くように、
叔父に行儀を躾けられるということが生活になってしまっていたのでした、
どうして、自分はこのような目にあわなければならないのか、
大きな疑問は依然としてありますが、
答えの出せる疑問など、世の中には限られているのかもしれません、
「人が人としてどうにもならない生きざまを因縁に縛られていると言う」
西宮の中学で国語の先生がおっしゃられた言葉が思い出されました、
いま、自分が置かれている、どうにもならない境遇も、自分では想像もつかない、
わけのわからない何かに導かれていることだとしか思えないことにありました、
そう思うと、叔父がじっと私を見つめ続けていることがあたりまえのことのように思えてくるのでした、
思えてくるだけではありません、私は、見つめられ続けているだけで、
胸騒ぎがますます甘美に疼いてくるのを意識しないではいられなかったのです、
叔父は、そのような私の心を見透かしてでもいるように、頃合いよく、私の方へ近づいてくるのです、
そして、後ろ手に縛った縄や立て膝にさせた縄を解いていくのでした、
しかし、私は、縛めから解放されたことで安堵の気持ちなど感じていませんでした、
むしろ、縄を解かれたことで、それまでは身体を縛りつけていた縄が抑えていたものが、
胸騒ぎにあった甘美な疼きが一気に戸惑うくらいの胸の高鳴りへと変化するのを感じていたからです、
わけのわからない何かが向かわせている先の期待のようなものを意識させるのでした、
叔父はわたしの身体からセーラー服を剥ぎ取り、靴下を脱がせました、
私は、逆らうことなどしませんでした、されるがままになるばかりでした、
私は、生まれたままの全裸の姿にさせられました、
恥ずかしかった、けれど、その恥ずかしさは、ますます顔を赤らめさせ、身体を火照らせるのでした、
叔父のにやにやしている顔が間近にありました、タバコ臭い息が吐きかけられ言われました、
「女はなあ、素っ裸になった格好を縄で縛り上げられた姿が一番美しいんだ、
それはなあ、男がみんな望んでいる女の愛すべき姿なんだ、
由香も縄の似合う女に成長すれば、男はみんなおまえの可愛らしさをほれ込むに違いない、
だが、まだまだ、おぼこだ、
わしがおまえを立派な女に育ててやるからな」
それから、あらためて縄を掛けるのでした、
今度は股を開かされ、柱を背に両膝をつかされて縛られました、
乳房があらわになっているばかりではありません、もっとも恥ずかしい箇所もあらわにされました、
両手は柱の背後で縛られ、覆い隠すことをまったくできなくさせていました、
立て膝に開かされた太腿にはしっかりと固定するような縄を掛けられ、晒しものにされたのでした、
叔父は、私を身動きが取れないように幾重にも縄を使って柱へ繋ぎ留めると、
近くへ寝そべって、まじまじと私の全身を観察し始めました、
眺め続ける叔父から顔をそむけずにはいられないほど、屈辱的な思いでいっぱいでした、
「いや、見つめないで……」
自分でもわからないままに、そうつぶやいていました、
しかし、もっとも恥ずかしい箇所をじっと見られているのかと思うと、
胸を熱く高鳴らせている動悸があの箇所へ飛び火したかのような微妙な疼きが感じられるのでした、
それは、やがて、悩ましいくらいのうねりをおびて下半身へ広がっていくものにありました、
「いや、いや」
恐ろしいようなその緊張感を打ち払う思いになろうとすればするほど、
悩ましさは胸をときめかせるような気持ちのよい興奮をあらわにさせてくるのでした、
「いやっ、いやっ」
思いとは正反対の言葉をつぶやいている自分がよくわからなくなっていました、
ただ、胸をときめかせる悩ましさが気持ちのよい興奮に変わっていくことだけはわかるのでした、
生まれたままの恥ずかしい全裸姿を縄で縛られて、しかも、こんな淫らな格好をさせられて、
本当は嫌だと思いたいことが気持ちのよい興奮を感じさせてくれる、
こんなわけのわからないことがあるのだろうか、
けれど、この興奮に浸っていられるなら、恥ずかしさも哀しさも、何でもないと思えたのです、
どのくらいの時間、柱に繋がれた格好でいさせられたのか、わかりません、
どのくらいの時間、叔父は、私の身悶える姿を眺め続けていたのか、わかりません、
叔父が柱に縛りつけた私の縄を解き始めたとき、
私は、もっともっと大きな興奮が訪れる期待を意識していました、
それほどに、私は、私自身に夢中になっていたのでした、
改めて、私は、後ろ手にがっちりと縛られました、
ふたつの乳房が突き出すように胸の上下へ縄を掛けられました、
それから、夜具の上へ仰向けに寝かされると、膝を折り曲げさせられて双方の脚を縛られました、
私は、何をされても、どのような格好にされても、抵抗などしませんでした、
叔父の掛けていく麻縄のひとつひとつがまるで生き物のように身体にまとわりついて、
身体を締め上げる拘束感が息づいているように、私をますますの興奮へと駆り立てていたからです、
折られた双方の脚は縄で繋がれ、私の首へと掛けられて結ばれました、
「こんな格好、いやっ」
私は、思わず叫んでいましたが、叔父は、用意していた豆絞りの手拭いでその口を猿轡しました、
私は、猿轡をされたことで、むしろ、安堵のようなものを感じていました、
思ってもいない言葉をわめき散らすのは嫌だったのです、
「幸恵、とても、綺麗だよ」
縄留めを終えた、叔父は、布団の上に仰向けに転がされた私の姿をまじまじと見ながら言いました、
幸恵? 私の名前は、由香、私の知る近親者で、幸恵と言えば、母の名前でした、
しかし、そのような疑問に答えを求める思いの余裕はありませんでした、
叔父は、自分自身も身に着けていた浴衣や下着をすべて脱ぎ去ると、
男性自身も露わな全裸姿となったからでした、
私は、赤々と剥き晒した陰茎を反り上がらせた、その姿を見て、胸が詰まらされる恐れを感じました、
両脚を大きく開かされた、私の姿にしても、
私の最も恥ずかしい箇所をこれ見よがしに剥き出しとさせているのでした、
それは、死ぬほど辛い羞恥と屈辱の姿でありました、
だが、その羞恥と屈辱はこらえようとすればするほど、悩める興奮に変わってくるものだったのです、
叔父が私のあからさまになった箇所を凝視し続けている貪欲な顔を直視することはできませんでした、
叔父が興奮して赤々と反り上がらせている黒々とした欲望を見るのは恐ろしいことでした、
何故なら、このように浅ましく情けなく酷い格好をさせられている私にしても、
叔父と同じような高ぶらされた貪欲な顔をして、恥辱の箇所を興奮させているに違いなかったからです、
「幸恵は、感じているんだね、
てらてらと光っているあそこがとても綺麗だよ、
縄で縛られて、男に見られているだけで、
こんなにも敏感な反応を示す、幸恵は、いい女になれる素質がある、
わしがこれからその具合をもっと良くしてあげるからな」
私のありさまを決定付けた、叔父の言葉がぐさりと心に突き刺さった宣告でした、
叔父は全裸の身体をかがめると、私の羞恥の箇所へ顔を近づけて、指で触れ始めるのでした、
拒絶をしたくても、どうにもならない姿にさせられていました、どうにもならない思いにならされていました、
叔父の指先が触れた瞬間から、私の肉体は、定められたことのように突き進まされていくばかりでした、
指先で弄ぶと、今度は舌先でと、繰り返される叔父の飽くことない執拗な愛撫は、
降りようと望んでも降りられない階段を昇らされているという思いへ満たされていくだけにありました、
恥ずかしさと情けなさと不安と恐れが渾然一体となって思いをねじらせ上へ上へと向かわせるのでした、
それが本当に私が期待していたものなのかどうか、私には、もうわからなくなっていました、
ただ、身体が熱く火照り上がり、震えがくるくらいの快感にまで高まってくると、
もう、思い悩むことなど馬鹿らしいだけのことに過ぎないと感じるようになるのでした、
どうして、自分はこのような目にあわなければならないのか、
そのような疑問は、もはや、「因縁だ」というひと言で、私にとっては、当然のことだと思えました、
避けようにも避けられない、避けたくても避けられない、私の因縁なのだと……
叔父がてらてらと光らせている恥ずかしい箇所がとても綺麗だと言われたことは、
そのとば口へ、銀のしずくが尾を引いて、赤々と反り上がらせた陰茎があてがわれたことにあって、
受け入れることがもっと強烈な快感へ導かれることにあるならば、
望むところにあるという挑戦的な思いにまで高ぶらされていたことにあったことでした、
叔父の挿入は果たされ、放出は果たされ、私は、破瓜されて、性奴隷となったのでした、
性的官能の絶頂をこの上のない快感をもって極めさせられたことは、
それが白々と醒めたときに、近親相姦で破瓜されたことに対して、大きな衝撃にありました、
死にたいと思うくらい、自分は、異常な状態にあると思わざるを得ませんでした、
しかし、新学年が始まると、今度は、金曜日と土曜日の夜が待っていたのです、
新しい学校に友人もなく、このような不埒を先生に相談することもできずに、孤独の極みにありました、
私は、自殺を考えました、しかし、それを実行させなかったのは、
私がませた文学好きの少女にあったことにあるのかもしれません、
性の牢獄へ収監された囚人のような日々は耐え難くありましたが、
叔父は、私が処女を喪失して以来、愛すべき女は、私以外にないというほどの心遣いが示されました、
私が望めば、何でも買ってくれました、外出も自由でした、
但し、金曜日と土曜日の夜は、地下室の行為を求められることにあるのでした、
この家を地下室を叔父の下を飛び出したところで、
十三歳の少女がまともな生活のできる見込みのないことは明白であることは理解できました、
麻薬中毒の売春女に納まるのがせいぜいということは考えることができました、
私は、状況を受容せざるを得ないことにあったのです、
しかし、高校へ進学する、十六歳になる頃には、女性としてあることの本性に立った自意識からは、
文学的比喩を用いるならば、私がいま居住する叔父の家は、地下室という体制において、
叔父の作り出す制度に置かれているに過ぎない我が身と考えることができたことにあったのです、
そのような国家に生活することであれば、革命や反逆があり得ても不思議はないということでした、
では、私にできることは、何なのか?
それが問われることにありました、
叔父の作り出す体制と制度は、私という国民を馴致させることに働きがあることです、
生まれたままの全裸にあるという、これ以上にない、羞恥と屈辱と悲哀にある体制に置かれて、
縄で緊縛されるという制度は、天井にある滑車から吊るされること、
白木の柱へ繋がれて晒しものにされること、丸太を組んだ木馬へ跨がされて責められること、
こういった執政を可能とさせることにあることでした、
それが可能であったのは、制度に拘束されて自由を奪われる身体にありながら、
その緊縛に対する意識は、高められることによって、
自由を奪われたことにあるからこそ、高ぶらされる官能が快感の絶頂をもたらすという倒錯を認識させ、
人間の本性を明らかとさせるというものにあったことでした、
私は、女性、しかし、男性にあっても、このありようは、同様にあると思います、
何故ならば、性的官能が高ぶらせる快感は、
これ以上にないという喜びをもたらすことにあるからです、
それこそが人類が維持継承される原動力と言える力動にあることだからです、
このような理解を持つと、叔父が私に対して行っていることが矮小に見えたのです、
或いは、叔父の場合の事情として考えることができたのです、
私は、叔父の場合の事情を認識することができました、
私と叔父との関係に因縁にあったとすれば、それが答えであるということでした、
人間同士の関係が理解のできない因縁に縛られていることにあるとしたら、
日々共に暮らしている相手の振る舞いや言動から、相手が何を考えているのかを理解することは、
それほど難しいことではないように思われます、だが、実際はそうではありません、
お互いが共有する常識というものがそれを阻んでいるからです、
その常識の相違ということは、信じ難いことですが、世の中には、みずからの思いの成就のために、
使われるかどうか分からない装置に多額の金銭を費やす人間がいるという現実があることです、
無駄になることなど一切考えずに、みずからの願望を強烈に信じられるというありようにあることです、
天井から垂れ下がる滑車、晒しものにするための白木の柱、丸太を組んだ木馬、責め道具の数々、
叔父の地下室の調教室にあった装置とは、そのようなものであったのです、
私という存在があらわれなければ、
その生涯のうちには、決して使われることのなかった調教室の装置にあったことでした、
叔父は、その場所を私に<教室>と言いましたが、
私は、その目的からは、はっきりと<調教室>であると言います、
人間が飼育されながら調教され、淫靡な装置で馴致されながら、
思想教育によって生まれ変わるための場所という<調教室>です、
では、そのような尋常でない<調教室>が造られた目的とは、いったい、何だったのでしょう、
叔父の性欲と変態的な趣味を満足させるためにあったと言えば、そうかもしれません、
しかし、それであれば、私があらわれるのを待つまでもなく、
同様の性向や趣味を持つ女性を<調教室>で馴致すればよかったことにあります、
それは、まったく、あり得なかったことなのです、
叔父には、目的の対象として、一人の女性しか考えられなかったことにあったからでした、
それは、とても、信じ難いことにあるとしか言いようがありませんが、
その女性とは、私のお母さんだったのです、
兄の妻、義理の姉、由香の母だったのです、
最初の夜に、叔父が感極まって叫んだ女性だったのです、
私は、大学へ進学する、十八歳になる頃には、金曜と土曜の夜に行われる淫靡な性行為において、
そのありようをはっきりと把握することにありました、
それは、私が叔父と<緊縛の因縁>の関係にあるという意味を言うとすれば、
私は、母の生まれ変わりとして、叔父の性奴隷になったということがあらわされていることでした、
この認識に至ったことは、私は、叔父の支配を超脱したことにあると思わせたことでもありました、
隠すものを一切奪われた、一糸も許されない、生まれたままの全裸をさらけ出せて、
言われるがまま、行われるまま、成されるがままに、麻縄で縛り上げられて、
自由を奪われた拘束された状態に置かれて、ただ、高ぶらされる性的官能に導かれるままに、
快感と喜びの極みへ向かうことを強いられる存在、
その悩ましくも美しくも発情させるばかりにある存在に対して、
母の幸恵に対する固有の愛を実感するために、懸命に責め立てる叔父の存在、
私は、天井の滑車から吊るされた全裸の緊縛姿で叔父の陰茎の挿入を受け入れ、
白木の柱へ全裸の緊縛姿で晒される姿で叔父の陰茎の挿入を受け入れ、
丸木を組んだ木馬へ跨がされて、官能の極みにおいて、
叔父の陰茎の挿入を受け入れさせられたことは、
性奴隷としてあるみずからを明確にあらわしたありようにありました、しかし、
日常の生活では、私の自己主張は、ますます、強まっていったことも事実だったのです、
そのような叔父と姪の関係は、十年間の最後の二年間では、
私が積極的な媚態をあらわすことで、叔父が触発されるという逆転したものとなっていました、
叔父が亡くなるときには、私が叔父を支配しているという関係にまでなりました、
叔父の最後の言葉は、幸恵、ありがとう、というものでした、
そして、叔父が亡くなった後、私が家と書店と地下室を引き継ぐことになりましたが、
そのとき、みずからの自立の意思を確認するために、十年間で経験した事柄を根拠として、
それまで勉強してきた文学的手法を用いて、小説作品を書こうと決意したのでした、
それが『緊縛の因縁 ―鬼婆伝説―』という作品です、
『緊縛の因縁 ―鬼婆伝説―』の導入部には、
冴内谷津雄氏の『平成墨東奇談』の原文が全文引用されています、
私は、この作品に強い啓発を受けました、
そこで、冴内氏に申し出て、原文の引用とそこに登場する<鬼婆>の使用許可を戴きました、
それでは、ごゆるりとご賞味くだされば、幸いです。





『緊縛の因縁 ― 鬼婆伝説 ―』


安達由香







次回へ続く


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<章>の関係図


上昇と下降の館