アクメエラール |
このフランス語の洒落た響きを持つ名称であれば、 薔薇の芳香を立ち昇らせ、芳醇とした官能のまどろみへ漂わせる趣きがあります。 アクメ(性的官能のオーガズム)を得られることは間違いないと感じさせる甘美な誘いです。 このような名称は、よくあるように誰でも安直に思い付くということでは、大衆性があるものだからです。 大衆性というのは、その中身の良し悪しはともかくとして、売れる良い商品には付きまとうものであり、 宣伝効果というのは、それを如何にして正しいことである、と示すことにあります。 この商品を考案製作した社長の言説によれば―― 「百万の言辞よりもその効果をひと目見てもらえればわかる」と言い、女性事務員へ合図した。 女性事務員は隣室へ立ち去り、しばらくすると、「よろしいですわよ」という甘ったるい声が聞こえてきた。 社長を先頭に啓介、元経理課の男と連なって隣室の六畳間へ入った。 この場合の六畳間という表現は正しい、そこは実際畳敷きの部屋で夜具まで整えられていたのだ。 啓介は靴を脱いで部屋に入るということにもびっくりしたが、それ以上に驚かされたのは、 夜具の上に女性事務員がピンク色のネグリジェ一枚の姿でしなをつくるように横臥していたことだった。 社長も元経理課の男も、事務員が啓介に流し目をくれることさえ見慣れているという様子で平然としていた。 啓介はどきまぎしていた、薄いピンクのネグリジェからは柔肌が透けて見えていたのだ。 豊満な肉体のふたつのふくよかな乳房は大き目の乳輪と乳首をはっきりと確認させていた。 社長は事務員に「アクメエラールをご覧に入れなさい」と言う、商品はアクメエラールというのだった。 女性事務員は腰を覆っていたネグリジェを緞帳を引き上げるようにそろそろとたくし上げていった。 白くむっちりと脂肪のついた腰にあらわれたのは、太い縄のような山吹色の褌のようなものだった。 その山吹色の褌のような縄のようなものが女性の股間へしっかりとはめ込まれていた。 この場合のはめ込まれていたという表現も正しい、 その縄褌は女のわれめへあからさまに埋没しているのであった。 啓介は見知らぬ女性の陰毛を見せられた衝撃もさることながら、埋没には目を奪われるばかりだった。 社長の商品説明が始まったが、啓介には半分しか聞こえていなかった、 もっとも、聞こえていてもその十分の一もわからないような話だったが…… 量子力学にトンネル効果というものがある。 ミクロの世界ではエネルギー的には行けない場所に粒子が現れることがある。 ラジウムなどの放射性元素はアルファ粒子が原子核の内部から表面を通って外へとびだす。 表面は粒子にとっては壁のようなものであり、 原子核内部の粒子は表面張力をこえて外へ出るだけのエネルギーを持っていないはずだが、 粒子は波動の性質を兼ねそなえていて壁を通して外へしみ出すため、粒子が外へ出てくるのである。 山に掘ったトンネルを通して粒子が外へ出るように見えるので、この現象をトンネル効果とよんでいる。 つまり、接しているふたつの金属の間にわずかな隙間があると、 そこを通るには電子は一度金属から外へ出なければならない、 エネルギー的には不可能なはずだが、 実際にはトンネル効果により、電子が移動し金属間に電流が流れる。 この電流というのが人体にとって特別な効果を持つことを発見した。 ただ、微弱な電流であるために、人体への効果がこれまで確認されなかった。 DNAというのが螺旋の形状を持っていることから霊感をえた。 自然の植物繊維である麻にミクロの金属粉を織り込み、それを撚って縄の形状にする。 ただし、何の金属粉でどのように撚るかという方法に発見があるから、研究秘密でそれは明かせない。 いずれにしても、その縄の形状の装置を人体へ装着するとアクメへ至らせる効果がある。 それは、この被験者にあらわれる効果が証明している…… 小学生以来、母親に鞭打たれるようにして長きに渡る受験勉強を耐え、国立大学の物理学部へ入学し、 受験から開放された喜びに女狂いを経験した果ての一大発見であるという社長の言うとおり、 横臥してしなをつくっていた女性事務員は次第に腰をくねらせ始め、 はめ込まれている山吹色の縄褌が我慢のできないものであるかのようにしきりと手をやりはじめた。 だが、それは例のトンネル効果のせいかわからなかったが、ますますわれめへ食い込んでいくのだった。 ついに、女性の口からは、「ああ〜、ああ〜」と悩ましげな甘い声音がもれはじめ、 ネグリジェをはだけさせた両手でみずからの豊満な乳房を揉み上げ、腰をいっそう悶えさせた。 「ああっ、ああっ」と声を高ぶらさせていくと、もう周囲に気を配る余裕などなくなっていた。 もっとも、最初から羞恥心の薄い感じのする女性には違いなかったが、 ついに本領発揮とでも言うように、大股開きにして股間の箇所をこれ見よがしにさらけだすと、 「いくっ、いくっ、いくっ〜」と叫び声を上げて、全身を上気させ痙攣をあらわしながら昇りつめたのだった。 この様子は、社長の話をほとんど聞かずに女性のありさまを見つめ続けていた啓介を説得した。 男性用のタイプは陰茎と睾丸を二本の縄で挟み込むもので、効果はまったく同様であると聞かされても、 眼の前で本気で気をやる女性を生まれてはじめて見せられた啓介には、 猥褻な現象は論理的な言葉より納得がいくことだった。 妻と二十五年来連れ添ってきたが、幸江には一度も見たことのない恍惚とした女の表情だったのである。 『緊縛の因縁』 「愛のゆくえ」 より |
淫靡な責め道具の妖美な奇想 |