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2. 緊縛の手段




緊縛の手段を言及するにあたっては、
『環に結ばれた縄』と題された無名の作者による手記を参考にさせてもらう。
これは緊縛の対象となる女性を妻に選んだ男性が書き残したもので、
彼は明らかに縛る対象の女性をシャーマン的存在と意識していたところがある。
(彼については、『
☆はりつけにされたヴィーナス』に触れてあるので参照して頂きたい)
以下は、手記の中の「亀甲縛り」について書かれた部分の引用である。
原文の雰囲気をそこねないために、明らかな字句の誤り以外は手を加えていない。





 ……………
 妻を縛り始めて、まだ一ヶ月しか経っていない。
 たった一ヶ月だというのに、妻の成長ぶりにはおどろかされる。
 妻には初めから縄を受け入れる下地があったのだろうか、
 それとも、女というのはみなこのようなものなのだろうか。
 女を縛ることを実際やってみて、
 女というものの底知れぬ不思議さというものをあらためて気づかされた。
 女は縄によって成熟していくのだ。
 その成熟が自分の縄掛けの技術の未熟さを実感させる。
 自分も妻と一緒に成長していかなければならない。
 今日は、昨晩行った「亀甲縛り」について書いておく。

 素っ裸になって寝室へ入ると、妻が待っている。
 耳のピアスさえも取り外した正真正銘の全裸だ。
 床へ正座し、目をつむり、両手を後ろへまわして手首を重ね合わせ、縛られるのを待っている格好だ。
 まずは彼女の背後へ行って、重ね合わせた手首を麻縄でふた巻きして後ろ手に縛る。
 湯上りのシャンプーの香りがすでに興奮を感じて上気している肉体からむせるような匂いをはなつ。
 縄尻を取って立ち上がらせると、妻は恥ずかしそうな上目づかいでこちらを見る。
 彼女の全裸を見るたびに思うが、顔もきれいだし、本当にいいスタイルをしている。
 昨日、妻の承諾を得て、縄を掛けやすくするために彼女の陰毛を完全に脱毛してもらった。
 小さくふくらんだ箇所に深い切れ込みがあざやかに示されているありさまは魅力的な感じにさえなった。
 自分はこんな女と結婚できたことを幸せに思うし、緊縛行為がふたりの絆であることをうれしく思う。
 妻の顔を両手で押さえ、「愛しているよ」と言ってキスをする。
 そして、後ろ手に縛った妻の全裸を思いっきり強く抱きしめる。

 亀甲縛り、或いは菱縄掛けと呼ばれている縄掛けを行う。
 使用する縄は、麻縄で長さは7メートルのもの、麻のけばをロウソクの炎で焼いたあと、
 たっぷりとした水で煮て、オリーブオイルを塗布し、両端をほつれないように処理をしたものである。
 縄の両端をそろえて、二つ折にしたものを使用していく。
 縛る縄の本数がふえても、二つ折の縄として使用することは変わらない。
 二つ折にされた箇所を縄頭、そろえた両端を縄尻と呼ぶ。
 その二つ折にした縄へ結び目を五箇所こしらえる。
 縄頭の方は首に掛かるものであるから環を少し大きくして、
 結び目が首もと、乳房の谷間、胃の上、へその下、股の切れ込みのあたりへくるようにこしらえる。
 それを正面から女の首へ掛ける。
 波打つ艶やかな髪が芳香を撒き散らすようにすくい上げられ、
 荒々しい感じの麻縄がほっそりとした首筋へおさまる。
 飼い犬のようにつながれた首輪のようである。
 首に縄をかけられたことが女を緊張させている。
 首から身体の正面に垂れている縄を股間をくぐらせて尻の方へもっていく。
 女の白い太腿はぴったりと閉じあわされている。
 かげりを失ってあからさまになっている深い切れ込みがふっくらとしたなかにのぞいている。
 太腿を左右から押さえて割る、女はされるがままに両脚を開く。
 切れ込みの箇所にはたっぷりとオーデコロンがふりかけられてあって、その香りはぞくぞくさせる。
 開かれた股間へ縄をとおし、まるく引き締まった尻の間からたくし上げる。
 このとき、股間をくぐらせた縄はゆるやかにしておく。
 背中で引き上げて、縄尻を首に掛かっている縄へ下からとおし、垂れたままにする。
 正面は、首にかけられた縄が縦に下りて等間隔の五つの結び目をあらわして股間へと消え、
 背後は、尻の割れめから首筋まで這い上がった縄が首に引っかかって垂れているという姿ができる。
 次に二本目の縄を使って背後から縛る。
 背中へ垂れている縄をまとめるようにして縄頭の方を結ぶ。
 縄尻を右側のわきのしたへとおし乳房の上方へ掛けながら、
 身体の正面に下りた縄の最初の結び目と二番目の結び目の間を下からくぐらせて引く。
 かたちよく柔らかにふくらんだ乳房のいただきには、愛らしい感じの乳首がもう立っていた。
 引いた縄をもとの縄と合わせて背中へ戻し、今度は左側のわきの下から乳房の上方へ掛けて、
 正面に下りた縄の最初の結び目の間までもっていって、右側で行ったと同じに下からくぐらせて引く。
 結び目と結び目の間が左右にひろがり、菱形がひとつ生まれる。
 縄が強く引かれて菱形が浮き上がると、うっ、と女はかすかなうめき声をもらした。
 ふたつの乳房は、高鳴りだした心臓の鼓動を伝えるかのようにふるえて見える。
 きれいな菱形を作るには、縄を少し強く引かないとならない。
 そうすると、首もとから股間まで下りている縄が必然的に緊張させられる。
 最初からゆるめにして余裕をもたせておかないと、菱形が全体にわたってきれいにできない。
 背後へ垂らした縄を流したままにしておくのはそのためだ。
 第一の菱形ができあがったら、その縄を背中へまわし、
 右側から乳房の下へ掛けて第二と第三の結び目の間を下からくぐらせる。
 くぐらせて引いた縄をもとへ戻し、背後へ強くまわして左側の乳房の下まで掛ける。
 結び目の間をくぐらせて引くと、第二の菱形ができる。
 くぐらせた縄を背後へ戻したところで、二本目の縄が終わり近くになるので、
 背中で交錯している数本の縄をまとめるようにして、きれいに縄留めする。
 乳房の上へ掛かる縄が最初の菱形を作り出したときから、縄の拘束感が生まれている。
 縄をくぐらせて引くたびに、女は小さなうめき声をもらすのでわかる。
 乳房の谷間とみぞおちの間に二つ目の菱形が浮き上がると、
 左右に引かれている縄がふたつの乳房をせりあげるような具合に突き出させている。
 女のまなざしは落ち着きがなく、その突き出させられた乳房を見るとはなしに見ている。
 締め上がってくる縄の感触に戸惑いを感じ始めている様子である。
 次に三本目の縄で第三と第四の菱形を作る。
 縄頭を背中に交錯している数本の縄の下から斜め上へ差し込み、まとめるようにしてひと結びにする。
 それから、右側へ向けて正面へまわし、第三と第四の結び目の間を下からくぐらせる。
 しっかりと引いてもとへ戻しながら背後をつたい、左側へまわして結び目の間へ引っかける。
 すでにでき上がっている菱形と縦にきれいにそろうように整えながら締めていく。
 この縄掛けがされていくと、女はみるみるうちにこわばった顔つきに変わっていく、
 視線だけを不安そうにちらちらと掛けられていく縄の方へ落としている。
 菱形が新しく作られていくごとに、引き締まってくる股間の縄が気になっているのである。
 みぞおちとへその上の間に三つめの菱形が浮き上がったときには、
 女は唇を引き締め両眼を閉じ、密着してくる縄の拘束感に注意を集中している感じになってきた。
 第三の菱形を作った縄をそのまま背後へまわし、右側の腰のあたりへかけて正面へもっていく。
 第四と第五の結び目の間をくぐらせて、縦縄の並びを揃えるように強く引き、
 もとへ戻して反対側へまわし、左側の腰からかけて結び目の間へ差し入れて、
 四つの菱形全体が整うように引きながら締め上げる。
 菱形の並びがきれいになるように締め上げられるたびに、
 ううっ、ううっ、という女のうめき声は切なそうに高まってくる。
 菱形すべてが完成したときには、
 ふっくらとした丘の切れ込みへとおされた股間の縦縄は埋没するくらいに深く収まっていた。
 正面を向いている女の表情は、両眼をしっかりと閉じていたが唇は半開きになって、
 垂らされたままでいる両手は固く握り締められていた。
 すべてをあらわにされた全裸の上に、恥ずかしい箇所にまで施された縄の緊縛が、
 締め上がる拘束感で羞恥心をあおり立てている様子だった。
 第四の菱形を作った縄尻を背後へまわし、
 交錯している数本の縄を腰のところできれいにまとめて整理する。
 縄の残りで後ろ手縛りを行う。
 その腕に縄を触れただけで、女は求めるかのように自分から両手を背後へ差し出してきた。
 かさねた両手首の下から上へと縄を掛ける。
 縛り上げた手首がだらしなく垂れないように縦縄へ巻きつけながらしっかりと縛る。
 女のすらっと伸びている両脚には、踏ん張るような力が入っている。
 女はがっちりと後ろ手に縛られると、観念していくように首をうなだれ、艶やかな髪で顔を覆った。
 女は恥ずかしい姿に拘束されている境遇へ閉じこもろうとしているようだった。
 後ろ手縛りにした状態をさらに固定するために両腕を拘束する。
 流したままにしておいた第一本目の縄を使う。
 縄尻を引き上げて、背中の真ん中あたりでひと結びする。
 それから右腕の上部へ引いて、下から右腕へ巻きつけてふた巻きする。
 縄尻をそのまま背後へ引き戻して左腕までもっていって、同じようにふた巻きする。
 縄尻を背後へ戻して、背後の縄全体をまとめるように縄留めする。
 これで亀甲縛り緊縛姿の完成である。
 ……………




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