借金返済で弁護士に相談




5.  『S&M』  第4章  S



――官能的な電子音楽をフェード・アウトさせながら、
18禁アニメ 『マゾ奴隷 まゆみ』は、
終了しました。
新一にとって、その主人公は、大きな共感を抱かせる人物でした。
みずからを重ね合わせて想像できるほど、理想的と言える相手であったのでした。
パソコンの電源を落とすと、椅子へ座ったまま、じっと考え続けました。
新一の没頭する夜は、そこから始まるものと言えたのです。
思い高ぶらされる想像のままに、
いきり立たせた欲情を掻き立て、煽り立てられながら、
行くところまで行って果たし、それでも満足が得られなければ、
さらに、行くところまで行って果たし、結果は、明け方まで続くことになって、
ようやく、仮眠を取るような睡眠時間は、
朝食の支度ができたことを告げる母の扉のノックで、
終わりを迎えるものであったのでした。
やつれているように見えると言われても、まったく気になることではありませんでした。
そのようなことよりも、しなければならないこと、もっと重大なこと、
それが激しく自分を駆りやることであったからでした。
『マゾ奴隷 まゆみ』に登場した主人公、
名門女子高へ通う、学園一の美少女の評判高い、
美雪という名のひとつ年上の令嬢、
いまは インターネットがあって 女子だって その気があれば
男子に負けないくらいの情報を手に入れられる時代なのよ 問題は 使い方だわ
私は 女子が男子に比べて マゾヒズムの快感に優るとは思っていないの
サディズム・マゾヒズムという考え方以外の方法も 進められていることだからよ
そのように言い捨てて、それ以外の考え方の道へ向かった、
純潔に輝く至高の処女、
美少女美雪。
彼女は、これまで、新一が求め続けていた女性像に、ぴったりだったのでした。
男主人公・聖治のあくどい仕打ちに、こらえ切れずに失禁させてしまう可憐さ、
恥辱にあっても、女性であることの矜持を見事にあらわすことのできる気高さ、
そして、何よりも、自立した考えを抱いた美しい女性、
まさに、純潔に輝く至高の処女と呼ぶにふさわしい、
アイドルと言える存在と感じられたのでした。
あらわされた、溌剌とした輝きに満ちた、
純白の優美な生まれたままの全裸の姿で、
長い艶やかな髪をなびかせ、
清楚で可憐な美しい顔立ちを毅然とさせた少女が、
遥か天空から舞い降りてくる壮麗さ、
男たちは、ただ、地面へひれ伏して、崇め奉るばかり、
その光景をありありと思い浮かべることのできる、絶対の女性であったのでした。
美雪の言ったとおりでした、インターネットのサイトでも、
<わが日本民族における民族の予定調和>などという、
サディズム・マゾヒズムの考え方以外の方法も、進められていることはありました。
けれど、美雪は、
彼女自身の方法があることを示唆したように、感じさせたのです……
美雪にぼく自身を重ねることができるなら、
美雪の向かう道は、ぼくの道となること、
ぼくが、ぼくの道を歩くことは、ぼく自身となること、
ぼくは、ぼく自身になりたい、
それが本来ある、ぼく自身の姿なのだから……
新一は、中学校生活が卒業へ向かう頃から、
大きくなり始めたみずからの悩みに直面せざるを得なかったのでした。
その悩みは、答えの出ないまま、
悶々と引きずっていく以外になかったことだったのでした……
ぼくは、ぼく自身になりたい、
しかし、そのようなことを言ったところで、
いったい、誰が真面目に聞いてくれることであるというのだろうか、
ぼくは、本当は、美雪のような美少女になりたいなどということを!
ぼくには、わかっている、
ぼくが散々に悩み抜いたあげくにわかった、自分というものを、
自分という意識など、寄せ集められた意識をただ集合させたものにすぎないのだ、
その意識化されたぼくという情報をまとめることは、ぼくにできることではない、
だから、それを自分探しなどと称して、
さも、ひとつだけある真実を探すような振りができるのだ、
もとより、ないものを探す幻想夢物語であるのだから、
文学や映画やアニメやコミックが見事に表現しているようなものにしかならない、
所詮は、一時の暇つぶしのエンターテインメントにしかならないものなのだ、
けれど、それで、人間はやってきた、これからもやっていくのだ、
だから、ぼくも、エンターテインメントの主人公になるしかない、
実際の美少女になることは、不可能であるとしたら……
新一は、考えることが高ぶっていくばかりでなく、
官能までもが一緒になって掻き立てられていくことに思い余ると、
パソコンの前から離れ、椅子から立ち上がるのでした。
そして、身に着けているのがもどかしいとばかりに、
ためらいもなく、衣服を脱ぎ去って、一糸もまとわない姿になるのでした。
艶やかな黒髪の短い髪型をしていましたが、
瞳の大きい清楚な愛くるしさを漂わせた顔立ちは、
少女と見間違えるほどの美貌でした、
それを支えるほっそりとした首筋、柔和な感じのなでた両肩、
筋肉の薄い両腕と華奢な手首と小さな両手、
優美なくびれをあらわす腰付きは、伸びた両脚のしなやかさを際立たせ、
なめらかな腹部の形のよい臍の下、
つつましく茂らせた漆黒の和毛のなかから、可愛らしいと言えば、
小学生ほどの大きさの皮を被らせた陰茎を屹立させているのでした。
新一が、一度だって、嫌だと思ったことのない、みずからの姿態でした。
裕福なお坊ちゃん育ちでは、まわりから揶揄されることもなかった異形は、
母に頼んで自室へ取り付けてもらった、等身大の姿見に映し出される全裸は、
いつまで見続けていても見飽きない、みずからの特別な身体であったのでした。
しかし、その身体にも、悩みが生まれたのでした、
それは、かなうことなら、本当の女の子の身体になりたい、ということでした。
優美な男の子の身体であるよりも、美麗な女の子の身体であることの方が、
みずからの思いがしっくりいくことだと考えられるからでした。
ないものをあると考えることのできる、想像力を抱くということは、
それが激しければ、それだけ、<矛盾・苦悩・軋轢>を招くことでもあります。
十六歳という年齢が大人への自立の始まりであるとしたら、
新一の没頭する事柄は、
乳離れしようとしている男子の本能からのものなのか、
或いは、もとよりあった女子の本能が芽生え始めたということなのか、
いずれにあったにせよ、尋常ではない事柄を考えていたことは、確かでした。
少年は、華やかな花柄のシーツの敷かれたベッドへ、全裸を横たわらせると、
純潔に輝く至高の処女、美少女美雪を思い浮かべるのでした。
美雪は、ぼく自身である、と想像するのでした。
そうして思い巡らされる想像の羽ばたきは、
『マゾ奴隷 まゆみ』のアニメで、
美雪が聖治の家を去っていくところから、
始まるものであったのでした――



美少女美雪は、聖治の家を出て行こうとした
しかし 自分の着ていたセーラー服と下着は汚れたままにされていたから
バスタオル一枚の姿で 外へ飛び出すのは とても勇気のいることであった
玄関先で どうしたらいいか 決断に迷っていたときだった
突然 扉がばたんと 開かれたのだ
あらわれたのは 立派なスーツ姿のメタボリック症候群の実年男ふたり
美雪は 驚くなり それが自分をここへ拉致してきた 校長と教頭だとわかると
懸命に逃げようとしたが 相手は 大の大人ふたり
姿態を覆い隠していたバスタオルを掴まれ 剥ぎ取られるようにされれば
美雪も 羞恥を知る可憐な少女だった
ああっ いやっと悲鳴をあげて弱くなるばかり
淫欲にまかせた男たちの馬鹿力では ただ 剥き出しとされてしまうだけだった
必死なって 溌剌とした輝きに満ちた 純白の優美な生まれたままの全裸を
ほっそりとした両腕で覆い隠そうとしたが
それは 守るというだけの姿勢にすぎないことだった
男たちは 用意していた麻縄で 無理やり 少女の両腕を背後へまわさせると
華奢な両手首を重ね合わさせて 縛ってしまうのであった
それからは 縄掛けに慣れている者であったら いとも簡単の胸縄を施した
いやっ いやっ 縄を解いてと美雪は 姿態を悶えさせて 悲鳴をあげるが
その可愛らしい元気に 中年男たちは 淫らな笑みを浮かべるだけで
うるさいとばかりに 綺麗な形をした唇の間へ
豆絞りの手拭いで 猿轡を噛まさせていくのであった
おおっ! やはり 可憐な美少女の優美な全裸の姿にあっても、
日本の女には 縄による緊縛姿が最も似合うのだ!
そのように ふたりの男は 唱和すると
これまた 用意してきたベニヤ板の木箱へ
美雪の緊縛の裸身を収めようとしていくのであったが そのとき ご丁寧にも
優美なくびれの腰付きに巻かれた縄を縦に下ろされ 股間へともぐられされ
割れめにある女芽と花びらと菊門が刺激されるように締め込まれながら
美麗な尻の間から出させられた縄を腰縄へ絡められ
さらに 揃えさせられた両足首へと繋げられることをされたのだった
これでは 両脚を動かして身悶えすることは
股間の縄を責め立てさせる以外にないことだった
少女は ばたばたできず じっとしているほかなかったのだ
すると よろしいですかと 集荷物を待っていたように入ってきた
宅配業者の格好をした若者ふたりによって 木箱は丁重に閉じられて
贈答用の真紅の大きなリボンで飾られ 運び出されていくのだった
いったい 美雪は どこへ連れて行かれると言うのだろうか
誘拐まがいの行為を二度も行っているのであるから
校長と教頭は もう 絶対 犯罪者に違いなかった
しかし 教育者の頭には 別なことがあったのである
すべては 美少女みずからの意思によって行われたことであったとしたら
それは 穿ち過ぎれば 援助交際とも言えたことであったかもしれなかったが
誘拐でも セクハラでも 痴漢行為でもない むしろ 教育実習ということだった
被害者証言に重点が置かれる裁判でも 無罪間違いなしということだった
教育実習とは 言うまでもなく マゾ奴隷となる教育・調教・飼育のことで
マゾ奴隷となった自覚は 奴隷という自立した意思があってのことであったから
すべての行為は 隷属を意味しても 一切の強要はないことになるからであった
聖治という 少年ながら いっぱしの性の調教者もあったが
奴隷の教育・調教・飼育に失敗すれば ただの少年としか見なされないことは
ゴルフの世界であろうと野球であろうと プロの厳しい世界では どこも一緒だった
折りしも 百年に一度と言われる金融危機の時勢である
いずれの業界にあっても 厳しい経済状況を迫られていたことは同様で
暗黒の富裕な性の世界にあっても 例外とは言えなかった
美少女美雪にまだ商品価値のあることなら 放っておくのは 資産の腐敗だった
どこの世界でも一緒のことであるが 暗黒の富裕な性の世界にあっても
殿堂と呼ばれる窮めつけの場所があり そこからの指図で行われたことだった
少女が連れて行かれるのは
頭の上から足の下まで淫虐に責められるという意味しかあらわさない
その世界で <上昇と下降の館>と呼ばれている
三階建ての古めかしい洋館だった
赤い煉瓦造りに蔦の絡まる おどろおどろした古めかしさは
明治時代初頭に 有名西洋人建築家による由緒をあらわすものであったが
持ち主も 初代は いち早く 異常性愛の病理学という西洋の学術を導入して
日本の性的事象をその学術の解釈で塗り替えたという傑出者であった
続く二代目は 日本の歴史的事象を解釈し直すという偉大な貢献を果たした
現在の<財団法人 大日本性心理研究会>の創設資金を援助したのも
この人物であったが 長命で精力絶倫であったことも 歴代随一だった
日本の芸術を異常性愛の病理学で一切価値の転換をさせようと図ったのが
三代目だったが 惜しくも 時の太平洋戦争において 脳膜炎で病死した
その未完の事業を引き継いだ若い四代目であったが
文学・音楽・美術・伝統芸能の分野へ 助力と献金を惜しまなかった結果は
多額の散財と浪費を生んだことは 借金を残す結果にもなったことだった
現在の五代目にあっては 財政の建て直しが最急務の課題となり 加えて 
崩れかかってさえいる古めかしい洋館を最新の西洋建築へ改築するために
奮闘努力しているという状態あったが 状況は 厳しいばかりであった
それと言うのも これまで 資金はすべて この洋館において
教育・調教・飼育された異常性愛の奴隷の売買から得ていたことであったが
勿論 相応の税金を納付してのことであったから 違法の脱税とは無縁だった
インターネットが商用化されるようになった頃から 需要が激減し始めたことだった
理由は インターネットによる情報の平等・広範・深遠な共有によって
異常性愛の奴隷を一般家庭でも簡単に作り出すことが可能となったことだった
それまでにも 男尊女卑の社会的常識が薄れる傾向にあっては
異常性愛の奴隷を囲う富裕者が減少をたどっていたことがあったが
それへのまさに追い討ちとなったことだった
従って 美少女美雪のような商品価値を野放しにするなど もってのほかだった
若くて清楚で可憐で優美な姿態を持つ処女は いつの時代にも抜群の人気があり
眠れる美少女となって差し出される奴隷にあっては 老人の需要は最高値だった
富裕な高齢者が増加傾向にある昨今では そこが最後の牙城とも言えたのだった
校長と教頭も この殿堂にあっては 一学徒にすぎない存在だったのである
美少女美雪の運命は
異常性愛の病理学という西洋の学術によって教育・調教・飼育された奴隷
ここでは 愛奴と呼ばれているものとして 売買されるものだったのである
そして いま 洋館の大広間
玉座に腰掛ける五代目当主の前へ
黒い頭巾に黒いタイツの半裸の格好をした者たちによって
真紅のリボンで飾られたベニヤ板の木箱が運ばれてきて
その蓋が開かれようとしているのであった……



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