そして、突き当りの場所にたどりついた。 そこでは、天井にある入り口へ向かって、 何人もの人形が垂れ下がった縄をよじのぼっていた。 Yも同じようにして昇らなければならなかった。 だが、どのようにしたら、できることなのだろう。 後ろ手に縛られている、 ブラウスとスカートの下は剥き出しの身体でいる。 彼女は昇り続ける者たちを下から眺めながら、 ただ、途方にくれて立ち尽くすだけだった。 どのくらいの時間、そうしていたかわからなかったが、 突然、背後から両肩に手をおく者があらわれたことを彼女は感じた。 その仕方から、それが誰であるか、わかった気がした。 「あなたが私から下着を取り去って、後ろ手に縛ったこと、 そんなふうにあなたからされたこと、 私は決していやではなかったわ。 けれど、このような不自由なありさまでは、上へは行けないわ、 もう、いいでしょう、 縄を解いてください、下着を入れたハンドバッグを返してください」 そう言いながら、Yは肩越しに振り返った。 確かに、恋人がそこに立っていたのだ。 だが、それは彼と瓜二つの人形であった。 その人形が優しく微笑みながら返事をした。 「嘘ではなかったろう、ぼくは待っていると言った。 でも、君が見てのとおり、ぼくは人形だよ。 人形のぼくに、どうして人間の君をどうこうできると言うんだ。 ぼくにできることは、せいぜい君の肩に触れることぐらいだ」 生き生きとした表情を浮かべていたが、所詮は人形である彼だった。 「いいわ、人形でも……あなたは、あなただわ」 Yは恋人の身体を抱きしめると、相手の唇へみずからの唇を寄せた。 しかし、恋人は微笑を浮かべていても、まったく身動きをしなかった。 彼女はみずから求めるように相手の不動の唇へ唇を重ねるのだった。 長いキスだった。 人形を相手にたわむれに行うにしては、あまりに真剣なものだった。 だから、Yもその深い思いから、人形に変容する時がきたのであった。 |
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