見つめている。 そこに打ち捨てられた縄を見つめている。 幾十本もの細い植物の繊維が撚り合わされてできている縄。 なまめかしく螺旋をえがくその姿は、 ひとの細胞にあるとされるわれわれの歴史を遺伝するDNAと同じ形状をしている。 その縄をひとは結ぶ、 その縄でひとは結ばれる。 |
驚異的体験とは、普通には起こらないことが起こることである、 それまでかくあると思っていた価値観が根こそぎ問い直されることである。 驚異的体験が日常起こりにくいのは、普通と思っている慣れた意識が日常性を支えているからで、 その日常性にも裂け目というようなものがあるとしたら、その裂け目があらわれたとき、 驚異的体験は一気にわれわれの前へ流出することになる、望むと望まないとに関わらずである。 この世界では、われわれがそれが普通であると思っていることよりも遥かに普通でないことを考え、 かつ実行している人々がいる、そうした人々の行動と遭遇したときなどは、ひとつの裂け目である。 同じように、この世界では、われわれが住み慣れた普通のものとして考えている場所よりも、 遥かに普通とは思えない場所があるが、そこへ立たされることになれば、ひとつの裂け目である。 従って、どのように驚異的なひとや考えや場所があろうと、そのなかにいれば普通のことにすぎない。 とまあ、このようなことをわれわれは常に考え続けているわけではない。 一糸まとわぬ全裸姿を後ろ手に縛られ、 その乳色に輝く柔肌にも赤色の縄で目もあやな緊縛を施され、 逃げることのできないように天井から繋がれた上に、 ベッドの鉄柵へ渡された金属棒を跨がされ股間へ食い込ませ続けている女も、 同じように驚異的体験の何たるかをそのときは考えていなかった。 彼女にとって差し迫って考えなければならないことは、 一度は昇りつめさせられた官能を弛緩させたとき、 意思はその安楽の波間に漂うことを望んでいるのに、 身体が勝手に昇り出そうとしていくことであった。 翳りを取り去られくっきっりとした割れ目をあからさまにされている股間が挟み込んだ金属棒は、 一定の温度が加えられるとその箇所が熱く膨張し、さらに振動を加えられると、 波型の小さなうねりをあらわすというものであったが、伝導する体温がまさにその一定の温度だった。 これだけ敏感に一定の温度に反応するものであるのだから、多目的の用途へ使えそうなものである。 しかし、その用途の何たるかを考えることも、跨がされた者には考えの及ばないところであったし、 それはむしろ、この女の主人とされる者が考えるべきことであった、 何しろその新商品の研究開発には多額の投資があったのだ。 女にとってみれば、従って、多目的用途の問題もどうでもよいことであった。 彼女にとっては、その熱く膨張する作用は官能を刺激されるという唯一の用途しかなかったからだ。 金属の触れている直接の箇所であるクリトリスと陰唇は、激しく圧迫されると同時に熱せられ、 特にクリトリスの触覚の敏感さはしこりを帯びるほどの反応をもたらされていた。 それはうわずってくるような快感があると同時に発熱させられたような苦悶を引き起こすものだった。 思わずうめき声をもらし、それで足りなければ、逃げられない下半身を無理やり悶えさせ、 それでもどうにもならなければ、泣き声を上げ、全身から発汗させて耐えねばならないことだった。 金属棒に開かされた陰唇からは双方の太腿へ流れ落ちるくらいの花蜜があふれだしていたが、 快感と苦痛の同時性はふたつの乳首をどれだけ突っ立っせたからといって矛盾を解消するものではなく、 むしろ、金属棒の触れているもうひとつの触覚である肛門へさえも刺激を広げるものであった。 すでにふたつの穴のとば口とされる箇所への刺激はその内奥へも波紋を投げかけていて、 眉根をしかめ真一文字に結んだ唇を噛み締め、悩ましさと苦悶の入り混じった表情を浮かべながら、 その相反・矛盾する感覚に翻弄されて、せめてもと柔らかな髪を打ち震わせて振り払おうとする。 女にとっては、解放される場所にまで昇りつめる以外に逃れるすべはなく、 そうして至ることのできる喜びの絶頂への登攀は、耐え続ける産みの苦しみに似ているのであった。 その速やかな一助となるために、膣が異物を挿入されることを強く望ませていたことははっきりしていた。 従って、そのような夢中な状況の真っ只中にあって、由美子がまわりへ無関心になるのも無理はなかった。 寝室の扉口に立っている人物に最初は気がつかず、 気がついたときも、それが日常的あらわれであれば驚きはなかった。 しかし、それは、喜びの頂上へ向かう登攀をふもとへ転げ下ろされるほどの驚異的体験だったのだ。 扉口に立っていたのは家政婦のよし子だった。 家政婦のよし子がそこにあらわれることはあたりまえのことであった、 家政婦はこの家の主人の不在のときに、妻である由美子の主人としての役割を担っていたからである。 主人というのは、女という家畜の役割を担う由美子を飼育・調教できる立場の者だった。 この家で女は全裸で生活することを定められていたが、主人はそうではなかった、ましてや家政婦は。 その家政婦が一糸もまとわぬ生まれたままの全裸姿だったのである、 生まれたままとは言っても、身体の大きさに違いはあるものの、割れ目に覆うものがないことは同じだった。 女の深々とした亀裂をあからさまにさせていたのである。 家政婦が家人の前で全裸をさらすということはありえないことだった、 ましてや、女の家畜が誇示としてさせられている恥毛を剃られた姿にあるということは。 普通には絶対起こりえないことであった、由美子には眼を疑うばかりのことだった。 「よし子さん……」 彼女は思わずつぶやいていたが、眼は釘付けとなったままだった。 家政婦は一念を思いつめたというような蒼ざめた表情を浮かべながら近づいてきた。 それから、床へ跪くと、ベッドの上で金属棒を跨がされた晒しものの姿にある女を仰いで言うのだった。 「奥様、本当に申し訳ないことをしてきました…… これまでのわたしの仕打ちをどうかお許し下さい。 わたしはもうどうなってもよいという覚悟でいます…… こんな不恰好な姿を奥様にお見せするのも、わたしの覚悟だからです。 家政婦の分際で、このような真似をするわたしをご主人様は首にします…… でも、その前に一言だけ、奥様にわたしの気持ちをわかってもらいたくて……。 わたしは奥様とお会いした日から、ずっと奥様のことを思い続けていました、 奥様にはずいぶんとひどいことをしてきました、 家政婦の役割とは言え、それはわたしの本心ではありませんでした。 しかし、行わなければこの家にいることはできません、奥様のそばにいることはできません……。 奥様はわたしが思いを寄せた初めてのひとであり、唯一のひとです……。 ずっと悩み続けていました、でも、今日覚悟をきめたのです」 詰まりながら吐き出された言葉は、跪いた裸身同様にぶるぶると震えていた。 由美子にとっては、家政婦の姿が驚異的であった以上に、 告白された事柄は混乱させらるばかりのものだった。 しかも、その相手は立ちあがるとベッドの上へおずおずとあがってきて、 家畜の女の縛めを解き始めたのである。 「いけないわ、よし子さん、やめて」 飼育のために全裸を緊縛されている女は思わず叫んでいた。 「あなたは首にされてしまいます、 あなたはそれをよく知っているはずです。 主人が戻って来るまでこの姿でいることは、わたしに与えられた役割なのです、 どうか、やめてください」 由美子は縄にかかって離れようとしない手を振り解こうと身悶えさえするのだった。 「……わたしのような者に思われているなんて言われても……奥様には迷惑なだけでしょう。 でも、わたしは、奥様がそのようなひどい姿にさらされているのをもう見ることができません。 わたしは覚悟しているのです。 どうか、わたしの手で最後の縄を解かせてください」 じっと自分の方を見つめるまなざしに、由美子ははっとするようなものを感じながら言い返した。 「だめっ、だめです、あなたはわたしの縄を解いてはいけないのです」 駄々をこねるように縄で緊縛された裸身を揺さぶりながら否定をあらわすのだった。 「奥様から思いをかけてもらえるとは思っていません、 嫌われることになったとしても、わたしは自分の思いを打ち明けられたことだけで満足です。 いままで、一度だって、本心からひとに言えたことはなかったのです……」 由美子もよし子を真剣に見つめていた。 「よし子さん、そうじゃなくて…… わたしはよし子さんにこの家を出てもらいたくないから…… あなたにそばにいてもらいたから……主人にそむかないで欲しいと言っているのです、 あなたを嫌いだなんて、そんなこと…… 何もかも……恥も外聞もなく……あなたにさらけ出してしまっているわたしです、 女として最低だとさえあなたに言われたわたしです、そんなわたしを…… わたしは、あなたから思われていると言われて、うれしかった、 だから、あなたにこの家を出ていってもらいたくないのです、 お願いです、わかってください」 叫ぶようなその言葉に、よし子は由美子の顔を見続けるばかりだった。 家政婦の瞳には涙が浮かんでいた、家畜の女の瞳にも輝くものがあった。 よし子は思わず由美子の両肩へ手を置くと顔を近づけていった。 近づいてくる顔に、由美子は顔をそらすようなことはしなかった。 よし子が軽く唇を触れさせると、由美子の唇はされるがままに感触を受けとめるのだった。 よし子の唇が押しつけられて互いの唇がぴったりと重ね合わされると、 ふたりは眼を閉じて触角になろうとしていた。 重ね合わされた唇の柔らかで甘美でかぐわしささえ感じられる感じは、 胸を痛いくらいにときめかせ、そのままじっとしているがもどかしいくらいの胸騒ぎに変えるのだった。 全裸の女は身体さえも押しつけて緊縛の女と柔肌を触れ合わせると腕をまわして抱きしめていくだった。 夫婦の寝室の立派なベッドの上で、 全裸を緊縛され金属棒を跨がされた女を同じく全裸の女が抱擁し熱いキスを交わしていた。 よし子にとって生まれて初めての経験だった、由美子にとってもそれは同様だった。 この家にとっても、家政婦において初めてのことだった、家畜の女にしても同様のことだった。 白いシーツの上へ跪いた全裸の女ふたりが絡み合って長いキスを続けていた。 ついに離れるような身悶えを示したのは由美子の方だった。 彼女はその行為が嫌だったわけではなかった、むしろ、もっと続けて欲しいと感じていた。 生まれて初めて女性同志でキスをしたことが呼び覚ましことは、いままでにない思いだった。 そのわくわくさせるような気持ちのよい動揺がどのようなものへ展開していくのか、 その答えを知るためにもっと続けたいと思わせるものだった。 だが、求める思いは、驚異的体験によって冷めさせられた官能を再び焚きつけるものでもあったのだ。 もとより官能を高められるために施されている縄の緊縛と股間の責め具である、 官能を焚きつける思いが明確であればあるだけ、高める役割を存分に発揮するというものだった。 ああっ、と甘いうめき声をもらしながら唇を離していく由美子に、よし子は戸惑った。 やはり、このようなことをした自分を嫌だと思っているのかもしれない、という恐れが浮かんできた。 いままで慣れ親しんできたこと、あたりまえだと思われていること、常識だとされていること、 そのようなことを一気にくつがえすなんてことは、そう簡単にはできっこないのである。 股間の恥毛まで剃り上げて奥様と同様な姿になって見せても、家政婦は家政婦にすぎない、 ただ金で雇われているような者の言い分など、本心としてわかってもらえないのかもしれない、 よし子はそんな思いにまでなるのだった。 「奥様、身勝手な振る舞いをして、ごめんなさい…… わたし、たまらずに……」 由美子はかすかな笑みを浮かべながら、柔らかな髪を揺らせてかぶりを振っていた。 「いいえ、あなたがあやまることなんか、少しもありません、 そうじゃなくて、わたしのこの姿勢が辛いんです…… あなたが気持ちよくさせてくれるだけ、棒が食い込んできて苦しいのです……」 よし子ははっとさせられたように緊縛された女の姿をまじまじと見つめるのだった。 「それじゃ、奥様はわたしのことを……」 「もちろんですわ、わたしだって、もっと続けたいと思っているのです……」 ふっくらとした白い小丘は痛々しいくらいに割れ目を裂いて盛り上がっていた。 家政婦は家畜の女の縛めを解き始めるのだった、 今度は何のさまたげもなく行われていった。 それは覚悟のいることだったから、 されるがままになっている女も相応の覚悟を感じていることだった。 いつこの家の主人が帰宅するか、わからないのである。 ふたりの女のその姿を見たら、それこそどのような言葉を吐き、振舞うか、わからないのである。 いままで、三年間の暮らしのなかで一度もありえなかったことなのである。 天井から繋がれた縄を外し、股間へ食い込ませて跨がせていた金属棒から解放すると、 後ろ手に縛っていた縄を解き、白い肉体へ赤い意匠として掛けられていた縄からも自由にするのだった。 由美子は疲労のせいで横座りの姿勢になっていることもできす、ベッドの上へ横臥していくのだった。 よし子はその間に、役割の本分を発揮するように金属棒や縄をクローゼットへ手際よく片付けていった。 「これで、わたしは首ですね、 でも、思いが果たせて、よかったと思っています」 ベッドの縁へ腰掛けたよし子は明るい笑顔を浮かべていた。 由美子はそれにつられるように微笑みを浮かべながら答えていた。 「いいえ、あなたひとりが悪いのではありません、わたしも同罪です、 あなたが罰を受けて首になるというのでしたら、わたしだって首のはずです」 よし子はその言葉をうれしそうにしながらも、かぶりを振っていた。 「でも、わたしはただの使用人ですよ、奥様はこの家のご主人様のれっきとした妻です、 立場が違います」 「そうかしら、よし子さんは本当にそう思われていますの? ずっとわたしを見てきて」 由美子はじっとまなざしを向けると、はっきりとそう言うのだった。 横臥させたその身体の線は優美というくらい曲線の美しさを感じさせるものだった、 顔立ちの清楚さも、優しい心遣いがあらわれていると、いっそう輝いて見えるものだとよし子は感じた。 「わたしは、ただの女という家畜にすぎません、妻というのは名ばかりです。 実際、わたしの本名は美樹と言います、しかし、ここでは由美子という名前です。 わたしはそれでよいと思っています、わたしにはそれしかないからです。 主人は、もし、わたし以上に女の家畜にふさわしい女性を見つけることができたら、 わたしを離婚して、そのひとがこの家で由美子を名乗っているのではないでしょうか、 そうは思いませんか、よし子さん」 由美子の意外な言葉に、よし子は見つめ返すことしかできなかった。 この家で行われていることは普通のことではないのだから、夫婦関係の変形のようなものだと考えていた。 夫と妻の合意のもとに行われていることで、その合意とは愛し合っているということである。 そのように繋ぐものがなければ、できることではないからだ。 だが、そうではなかった……。 「それだって、別段、特別なことでも何でもありませんわ、 結婚する男女が心からの愛を語りあって、そのあげくに離婚していることは普通のことです。 主人の啓介が行っていることは、無理して愛なんて言葉にすがらないというだけです。 愛という言葉がなければ、相手を思う気持ちをあらわせない、そんなことってないでしょう、 むしろ、愛という言葉を利用して、お互いにたいして持っていないような思いを繋ぐ、 ちょうどわたしが繋がれる縄みたいな道具とすることだってできるのですわ、 わたしはそう感じます、ですから、わたしのような愛の言葉を信じることのできない女には、 官能が感じさせてくれることが確かなことなのです、 官能はありのままのものしか感じさせてくれません…… それを生かさせてくれる主人だからこそ、わたしは命じられるがままの者となるのです……。 でも、それ以上のことがあるとしたら……わたしもそう思うことがありました、 それが何かわかりませんけれど…… けれど、それが間違いなくあることを、いま、あなたが教えてくれたのですわ」 よし子には語り終えた相手がほころばせた微笑がとても愛らしく感じられるのだった。 愛もなしに繋がれる縄であれば、虐待にすぎない。 だが、愛という官能にほだされて一時繋がる男女の思いが互いの孤独を覆うだけのものであれば、 それも、おためごかしにすぎない。 よし子がみずからの手で由美子の縛めを解き、思いを告白し、この家のきまりを破る覚悟をしたのは、 自分自身のため以外の何ものでもなかったからだ。 主人啓介の財力にまかせた女の支配にうんざりしたものを感じていた。 経済能力がなければ、女は子供を産むほかに生産性をもっていないと見なす男の権勢、 それが時代錯誤の女性観であるとしても、女の側に立たされている自分は変わりようがなかった。 だから、みずから示して見せようと、割れ目を剥き出しにする剃毛をし、 生まれたままの全裸姿で主人の女を被虐から解き放ちたかったのだ。 家政婦が反抗したというささやかな出来事だが、自分には納得できる行動だった。 「奥様がそのように考えていたなんて……」 由美子はよし子の方へそっと手を差しのべていた。 「もう、奥様なんて呼ばないで下さい、わたしは奥様を首になる女です、覚悟しました。 由美子、いいえ、美樹と呼んでください。 わたしがこんなに饒舌になれるのも、みなあなたのおかげですわ。 あなたに思いを告げられ、キスされたとき、わたしはいままでにない思いを感じたのです。 お願いです、わたしの手を取ってください、 そして、こちらへいらしてください」 美樹の頬はばら色に紅潮していた。 よし子は差し出された手をしっかりと握るとベッドへあがっていくのだった。 美樹は間近に横たわるよし子の裸身をもっとこちらへというように腰を抱いて引き寄せた。 ふたりは互いをじっと見つめ合っていると、どちらからともなく顔を近づけていった。 ふたりが生まれて初めて呼び覚まされたという思いをもう一度感じるために唇を合わせようとした。 しかし、そこにはその思いへの強い欲求があるだけ、不安と恐れのようなものも感じさせられた。 もし、成り行きと勢いから行っているだけで、ただの思い込みに過ぎないようなものだとしたら……。 始めてしまった以上、後ろには戻れない行為が果たして望むようなものを生まなかったら……。 ふたりは一瞬躊躇を見せた、 その瞬間にそれまでの人生の悩める過程が一挙に集積した感じだった。 それは、相手を愛していると叫んで自分を納得させることでは、超えられないものだった。 ふたりは孤独だった、人間誰もが自己というものを抱えて、自分を鏡にして生きるように孤独だった。 愛するという言葉で覆い隠すだけでは果たしえない、茫漠とした孤独であった。 そのなかにあって、緑なす草原や森林のような生育するものが息吹として伝える青々とした官能、 そのような官能が自己の導き手となってあらわされるものがあるとしたら、 それは人間が自然というもののひとつのありようであることを納得させられることであるのだろう。 官能を通してでなければ見えないものを人間は持っているのである。 ふたりがおのずから官能の高まりを感じ始めているとすれば、 それを萎えさせるようなこうした考察をすることはありえないだろうが、言わばこういうことである。 ふたりの行為は、はたから見れば、ただのレズビアンの愛欲行為であるとしか見えないからである。 美樹が唇を突き出せば、よし子も応えるように唇を突き出す、唇と唇が軽く合わされると、 よし子はお姉さんぶった思いで、首を左右に振るようにしながら相手の下唇を摩擦し始める。 柔らかで微妙な感覚が優しく続けられると、ほんのりと充血を帯びた下唇は喘ぐように開いていく。 舌先はすかさずその内側へ忍び込んで、 粘膜の部分をねっとりと舐めながら、下唇へ軽く歯を立てたりしている。 「うう〜ん」 美樹は可愛らしい声音をもらしていた。 よし子の愛撫が上手で思いやりのあるものに感じられるのだった。 「とっても感じますわ」 ようやく離れた唇の間から、美樹がやるせなそうにつぶやいた。 よし子の唇はうっとりと両眼を閉じている相手のまぶたの方へ向けられた。 長い睫毛をそっと撫でるように横へ動かす仕草を繰り返している。 その鋭い刺激に、美樹は思わず裸身を震わせて反応を示すのだった。 「ああっ〜」 さらによし子の唇が下へおりていこうとしたときには、 ほてり始めていたふたりの身体は、離れていることをもどかしくさせるのだった。 美樹はよし子に抱いて欲しいという思いでいっぱいになり、 よし子は相手の裸身へ絡ませた両腕に力を込めることで応えるのだった。 互いのふっくらとした乳房がその強い抱擁で押しつぶされたが、 その圧迫感はむしろ乳首を尖らせるような熱っぽい刺激を感じさせるのだった。 今度はわたしが頑張らねば、という思いが美樹を積極的にさせていた。 彼女は先ほど相手にされた下唇への愛撫を始めていた。 ぬめるような舌先が女の官能を懸命にくすぐっている。 「うふ〜ん」 自分の行いで相手が感じてくれれば、美樹はそれだけでうれしかった、 感じさせられたよし子は、お姉さんであるところの愛戯を示さなければという思いでいっぱいになる。 彼女は歯と舌で相手の舌をはさむと、舌の裏側をくすぐるようにうごめかせた。 「あふ〜ん」 疼くような高ぶりを感じれば、美樹の舌先も負けてはいない。 横へ斜めへとうねらせてよし子の柔らかな舌を執拗に舐めまわす。 「うう〜ん」 身体に震えを覚えるような疼きに、年上の女は尖らせた舌先を突っついて防ごうとするが、 今度はそれを相手の口へ吸い込まれてしまう。 「ううっ……」 頬張られた舌を年下の女の思うがままに、絡ませられ、くすぐられ、舐められる。 口の端からはきらめくように唾液が流れ落ちるが、思いの強さをあらわすとでもいうように、 美樹は流れ出すしずくをすすりながらもよし子の舌を離そうとはしない。 ようやく、互いの唇が離れたときは、ふたりとも肩で大きな息をしていた、 「とっても、素敵」 よし子は頬を桜色に染めた愛くるしい表情を向けながらつぶやいた。 「わたしもです、あなたをもう離しませんことよ」 美樹は横臥していた姿勢から相手を仰向けに横たわらせると、 覆いかぶさるような体勢になって、 開いて相手を待つよし子の口へ舌をぬるぬるともぐり込ませていった。 ふたつの舌先は、押し合ったり、絡み合ったりしながら、 またもや、攻め手を取り合ってじゃれている。 今度はよし子の方が優勢だった。 それをあらわすように、よし子は美樹と体勢を入れ替えて、覆いかぶさる側にまわった。 年上の女の思いを込めた熱烈な愛撫に、 美樹はしなやかにのびた両脚をもどかしそうに擦り合わせ始めていた。 形のよい乳房についた桃色の乳首はつんと立って、翳りのない白い小丘は汗で光っていた。 攻め手の舌先は、相手のじっとりと汗の浮いたほっそりとした首筋へおりると、 つんと立った目標めがけて舐め続けながら下がっていくのだった。 乳首をよし子の口に含まれた美樹は、びくんとするような刺激を感じた。 主人の啓介には感じたことのないわくわくするような動揺だった。 その刺激をどんどん広げるように、よし子の舌先は熱心な思いをあらわして舐め続けている。 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、と恥ずかしいくらいの音が静まり返った室内にこだましていたが、 舐めたり噛んだりされながら、立っている乳首が固いこわばりをもってくると、 美樹の口からも、悩ましそうなため息がもれるのだった。 乳首への刺激が高まれば高まるだけ、その腰付きももじもじとうねりを始め、 行儀よく閉じ合わせていた両脚もおのずと開いていくようになる。 よし子は自分の思いがどれだけ伝わっているのかを確かめるように、 そっと手をのばして美樹の下腹部へ触れた。 恥毛の覆いを取り去られあからさまになっている割れ目の箇所は、 その盛り上がりがふっくらと感じるくらい熱っぽさを伝え、 深々とした亀裂の縁へ指先を置いたときは、下半身をびくんと痙攣させて敏感な反応を示すのだった。 「ああっ、だめっ」 よし子の指先がもぐり込もうとすると、美樹は思わず甘い声音で訴えるのだった。 細い指先がさらに柔らかな肉の亀裂を割って入っていくと、 「ああ〜ん、だめっ、だめっ」 美樹の悩ましそうな声音は大きくなるばかりだった。 よし子にはそれがうれしかった、自分の行っているひとつひとつが相手を喜ばせているのだ。 敏感に立っている可愛らしい突起を探りあてたときは、美樹はのけぞったくらいだった。 「あなたにひどい仕打ちをしてきた、せめても償いです、 わたしがあなたを気持ちよくさせます……」 よし子は夢中な思いを感じてそう言った。 「いえ、そんなこと…… わたしはあなたに飼育され調教されていたときが、一番感じていたときだったのです、 嘘じゃありません…… もしかしたら、わたしの本当の主人はあなただったと言えるのかも知れない…… こうして、あなたが喜ばせてくれるように……」 指先はクリトリスを優しくこねまわしながら、よし子はそう語る相手をまじまじと見るのだった。 清楚な顔立ちは上気し、悩ましいくらいの流し目をこちらへ投げかけている。 「そうだったら、うれしい。 わたしのしたことで、美樹さんが感じてくれるのだったら……」 それに対する返答は言葉にならなかった。 こねりまわされることで突き上げてくる甘美な疼きは力を萎えさせてしまうのだった、 「ああっ、ああ〜ん」 甘い泣き声をあげるだけで精一杯のことだった。 それでも、どんどんと広げられていくわくわくする動揺は、はずみをつけさせるものだった。 「……よし子さん、お願いです、あなたの乳首を含ませてください……」 美樹は相手の腰へ両手をまわして、吸い付くように唇を寄せるのだった。 赤ん坊にしゃぶりつかれるように乳房を頬張られたよし子は、 びくっと身体を震わせる反応で喜びを示した。 美樹の歯と舌を使った愛撫が激しくなればなるだけ、よし子のクリトリスへの愛撫も熱烈になった。 どちらがどちらを先行しているものなのか、 或いは、互いが互いの尻尾を追いかけあってのものなのか、ふたりにもわからないことだった。 「ああっ、ああっ、ああっ」 ふたりはともにやるせない声音をもらしていた。 突き上げてくる甘美な疼きは、美樹の手を相手の股の箇所へ向けさせていた。 自分と同様の覆うものないあからさまな亀裂のあたりは汗ばんで、 柔らかな肉をかきわけてまさぐるように忍ばせた指は、熱くしこった小突起に触れた。 よし子は思わす行っていたことを放り出すほどの反応をあらわにした。 「ごめんなさい、あまりに感じてしまって」 あわてて相手の下半身へ執着しようとするよし子に、美樹は口もとをほころばせていた。 「わたしの方こそ、よし子さんにそんなに感じてもらえて、うれしさでいっぱいです」 ふたりは互いをじっと見つめ合い、微笑み合うのだった。 思っていることは同じだった。 覆いかぶさっていたよし子が上下に体勢を変えていった、 しなやかな両脚を開いて待っている美樹の白無垢の股間へ顔を埋めていくのだった、 それと同時に美樹の顔面にも、隠すもののない深々とした割れ目が迫ってくるのであった。 むれた女の匂いをかぐわしいとさえ感じながら、よし子が細い指先でそっと押し開くと、 可愛らしく立っている敏感な突起が艶を帯びて光っているのが見えた。 彼女はその小粒の真珠を愛でるように舐め始めた。 「ああっ、ああっ」 じっとしてされるがままになっていると、ますます相手のペースに引きずられて、 つのってくる官能に浸されながらそのままいってしまいそうだった。 美樹は相手の柔らかな内股を強引なくらいに開かせると、 じっとりと湿り気を帯びて妖しく開いた花びらを見つめた。 そして、よし子の尻を両手で鷲づかみにすると、引き寄せながら一気にむしゃぶりついていった。 「あう〜、あう〜、あう〜」 その激しい舌の愛撫は、その箇所のすべてが自分のものだと言わんばかりに、 ところかまわずうねるように舐めまくるものだった。 これほどまのでことが自分にできるとは、美樹にも不思議なくらいのことだった。 「う〜ん」 その尖らせた舌先が折り重なった花びらの奥へ触れたときは、 よし子も思わず相手から逃れるようにしたくらいだった。 その瞬間、ふくらんでいた花びらから押え切れすにどろっとした花蜜があふれ出した。 美樹の舌先は、今度はその花蜜をすくうように縦の亀裂をゆっくりと行き来し始めた。 突き上げてくる甘美な快感に舞い上げられるだけで、よし子の愛撫はおろそかになるばかりだった。 「美樹さん、わたし、わたし、気持ちがよくって、もうどうにかなりそうです……」 生まれて初めて女としての喜びを感じさせられたという思いがあった。 「……美樹さん……お願いです……わたしのなかへ入ってきて…… あなたこそ、わたしに女であることを教えてください……」 快感に舞い上げられて空ろにさえなっている言葉だった。 美樹はそのほっそりとした指先で深みへ入る縁を撫で始めていた、やがて、 揃えられた二本の指は、あふれ出している花蜜に助けられながら少しずつ沈み込まされていった。 「ああっ、ああっ……もっと回転させて、渦巻くなかへわたしを落として……」 言われたとおり、深く呑み込ませた指を螺旋を描くようにうごめかした。 動かすたびにどろっとしたぬめりがあふれ出してくる。 「ううっ、ううっ、感じます、感じます」 悩ましく眉根をひそめたよし子は、やるせなさそうに腰をくねらせるのだった、 「ああっ〜ん、いいです、いいです……」 さらに相手を高ぶらさせようといじりまわす美樹に、 よし子は柔らかな髪を左右に打ち振るって泣き声をあげている、 「うれしい……うれしい……」 裸身は全身を桜色に上気させて汗を噴き出せていた。 「あなたも……感じて、この切ないほどの喜びを、一緒に感じて……」 よし子は相手のしなやかな両脚を大きく割っていくと、 にじみ出している亀裂のきらめきに魅せられるように唇を押しつけていくのだった。 深みへ舌先をもぐり込ませようとすれば、欲しがるように口は花蜜をあふれ出させてきた。 二本の指をあてれば、吸い込まれるように肉のなかへ沈み込んでいった。 美樹は差し込まれた感触にびくっと腰付きを震わせたが、 年上の女の愛撫はそれだけのものではなかった、 彼女はもう一方の手で愛らしい突起をいじくりまわし始めたのだった。 「ああっ、ああっ、よ、よし子さん、な、何ですの、何ですの、ああっ、ああっ」 美樹の清楚な顔立ちは、唇を喘ぐように半開きにさせて、 こみ上げてくるやるせない疼きに戸惑わされている。 いじくればいじくるだけ、とめどもなく花蜜があふれ出してきて、 よし子の両手の指先はもうぬるぬるになっていた。 むせかえるような女の体臭が漂い、そのかぐわしさがよし子を恍惚とさせるのだった。 美樹もうっとりとなりながら、相手に含んでもらっている指に加えて、 もう片方の指先が敏感な真珠の小粒をこねくりまわしていた。 「ああ〜、ああ〜、うう〜、うう〜」 甘く切なく悩ましい女の声音が交錯していた。 落ち着いた照明が光を投げかける寝室、その中央に置かれたベッドの上で、 一糸まとわぬ生まれたままの女がふたり、互いの頭を相手の股間へ埋めて、 白いシーツの上に重なりあっていた。 互いが互いを高め合えばそれだけ、 もどかしいというほどにふたつの裸身は、 絡み合ったまま右へ左へとのたうつようにうごめく。 しかし、ふたつの身体は離れることがなかった。 互いの女の深遠へと深々と沈められた指が繋がりを断ち切らせることはなかった。 それは思いの限りまさぐられて、クリトリスへ加えられる愛撫と対位法をなしていた。 「ああ〜ん、ああ〜ん」 ふたりの女は腰をよじらせながら、 ほとんど切ない泣き声にまでなって、官能の極まりへとぐるぐる昇らされていた。 女であることをこれほどまでにうれしく思ったことはなかった。 女として互いを高めあうことがこれほどまでに悦楽を感じさせるものだとも思わなかった。 「わたしはあなたの手に握られている、離したらいやよ」 よし子が舞い上げられた恍惚のなかで叫んでいた、 「わたしだって、あなたの手に握られている、離さないで」 美樹が漂わされた法悦のなかで叫んでいた、 ふたりは、汗にまみれ、涙にまみれ、愛液にまみれながら、頂上を極めていくのだった。 下半身を大きく震わせながら、ふたりはほぼ同時に極まりへと到達した。 自分を見やる相手の表情の美しさに、思わず唇を重ねあって互いを賞賛し合うふたりだった。 裸身を喜びの余韻で痙攣させながらも、互いの手をしっかりと握り合って、 添い寝しながら感じ合うふたりだった。 そうしてぐったりとなった裸身も、深夜の静寂さえ意識されるくらいに落ち着いてくると、 どちらからともなく身体を擦り寄らせ、互いの唇を求めることから再び始めるのだった。 ふたりの女には、もはや、この家の主人は消え失せていた。 |
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