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わたしは、自分を美しい人形だと思っています。 いま、こうして一糸もまとわせられない全裸の姿にされて、 麻縄で後ろ手に縛られ、乳房を上下から挟むようにして胸縄を掛けられ、 まるで、悪いことをしたお仕置きでもされているように小部屋へ閉じ込められ、 柱へ惨めに繋がれているありさまにあってさえもです。 板張りの床へ横座りにさせられたわたしの眼の前には、和風の化粧台が置かれていました。 その化粧台の縦に長い鏡には、わたしの姿がはっきりとうつし出されています。 今宵ひと夜の慰みものとしてわたしを所望した男性が、わたしをなぶり楽しむ行為のひとつだと言って、 どのように上品で澄ましたような顔をしている女でも、生まれたままの裸姿をあらわにされ、 縄で縛り上げられれば、本性であるマゾヒストの性格が顔をのぞかせることになるだということでした。 鏡にうつし出される恥ずかしく惨めなおのれの緊縛姿を見続けることをさせられれば、 もっと恥ずかしくて惨めにしてもらいという願望が浅ましく淫らにふくらんでくるものだと言うのでした。 そのように変化していくわたしを男性はのぞき穴から眺めて楽しもうというのです。 男性がそのように言うのですから、わたしはきっとそのような女性なのでしょう。 わたしは男性が望むような女性になろうと思います、そのようになったからと言って、 わたしの人形としての美しさは決して汚辱にまみれることはないのです。 わたしはわたしであって、ほかの誰でもない、わたしであることで、わたしであるからです。 鏡に映るわたしの顔立ちは、わたしが眺めても清楚で愛らしいと感じます、わたしはこの顔が大好きです。 出会った男性の誰からも美しいと思われ、次には、一夜を共にしたいと思われる美貌です。 その顔立ちを栗色をした波打つ豊かな髪が縁取っています。 その柔らかさは夢幻の艶やかさをかもしださせ、 顔立ちをこの世のものとは思えないくらいの妖艶さで際立たせています。 男性がよがり泣かせてみたい、或いは、縛り上げて恥辱に泣きじゃくるのを見てみたいと思う顔です。 その顔は全裸にされて縄で縛り上げられた境遇に、 恥ずかしさと戸惑いと情けなさと不安とが入り混じった表情を浮かび上がらせ、 貞節を示すように真一文字に締められたきれいな形をした唇と、 深い憂いの陰影をにじませた黒い瞳を上目遣いに投げかけて、しなを作るようにしています。 優しさをただよわせるほっそりとした首筋と華奢な肩の線は、 後ろ手に縛られ両腕をがっちりと縄が締め上げているために切ないくらいにせり出し、 同じように、ふっくらと美しいかたちにふくらんだ乳房も上下から挟まれている胸縄のために、 薄紅色をした可憐な乳首をやるせなさそうに突き出されているのでした。 裸身へ巻き付けられ締め上げている麻縄がなめらかな乳色の輝きを示す背中でまとめられ、 拘束の無残を重ね合わせて縛られた両手首が、しっかりと握られたか弱い両手があらわしていました。 望むと望まないとにかかわらず、さらけ出された無残で浅ましい女性の姿なのです。 腰のくびれに至る優美な曲線は、横座りの姿勢にさせられているためにねじれ、 それがいっそうのなまめかしを示しているのは、床へつぶれた豊満なあでやかさを持つお尻が、 くっきりとした深い亀裂を官能を掻き立てる神秘の入口のようにうつらせていることでした。 わたしは女性です、せめてもの女性の自尊心として、しなやかに伸びた美しい両脚をそろえ、 太腿をぴっちりと閉ざし、少しでも、漆黒の淡い夢のようなもやの箇所、女の羞恥を見られまいとします。 のぞき穴から眺める男性には、わたしの姿は、きっとこのようなありさまに見えていたに違いありません。 ああっ、そうです、わたしだって見られているものかと思うと、とても恥ずかしくてたまりません。 ううん、とわたしは切なそうな甘いため息をもらし、化粧台の鏡から顔をそらせ、裸身をねじるようにします。 しかし、わたしは、わたしの置かれている境遇が気になって仕方がありません。 盗み見るように鏡をのぞきます、けれど、そこには裸を縄で縛られた惨めで浅ましい姿しかありません。 にもかからず、その生まれたままの全裸を縄で縛り上げられた身体が伝えてくることは、 全然別なことなのです、全然、別な思いなのです。 これが女性の本性だと男性が言っていることなのかもしれません。 ですから、わたしはその思いにわたしを委ねれば、わたしは男性の言うがままの女性になれるはずです。 ああっ、とわたしは、縛られている姿にあることがもどかしいとでいうように、美しい髪を打ち振るいます。 しなやかできれいな両脚をすり合わせるようにして、じっとしていることが耐えられないと身悶えを示します。 わたしは、このような恥ずかしくて情けなくて浅ましい姿にさせられたことが、 とてもいやだと思うのと同じくらいの強さで、ぞくぞくするような気持ちよさを感じている自分に戸惑うのです。 このような無残な姿にさせられたのは何のためだと言えば、 このはかり知れない彼方にまで繋がっているような気持ちのよさを求めてのことだとわかるようになるのです。 わたしの顔立ちの変化を見て、男性はざまを見ろと自尊心を満足させているに違いありません。 その証拠に、わたしの可憐なふたつの乳首は、掻き立てられた思いから、つんと立ち上がっているのです。 わたしは、もっと惨めに恥ずかしく淫らでさえあるように責められたら、という思いになっているのです。 それをあらわすように、わたしの貞節を示す美しい唇は喘ぎ求めるように半開きになり、 ぴっちりと閉じられていた太腿は開き加減になって、それ以上に欲しいことを身体全体で表現するのでした。 これで、のぞいて男性は自分のありように自信を持って、わたしの前へあらわれることができるのです。 言うなれば、わたしの思惑通りに男性は振舞うことになっていくのです。 そして、これからがわたしの本領の仕事が始まるときなのです。 男性が欲情のままにどのようにわたしを取り扱っても、そのようなことは一向に構いません。 どのような恥ずかしいことであれ、惨めなことであれ、浅ましいことであろうと、 それで、わたしの美しい人形としてのありようが汚辱にまみれることはないのです。 これは、わたしにとっての仕事なのです。 それ以上に、男性という存在がわたしを女性として陵辱することは、決してできないことだからです。 なぜなら、わたしはかつては男性であり、いまは事情があって女性を生きている者だからなのです。 そろそろ、のぞいていた男性が小部屋の入口へ戻ってきたようですわ……。 |
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