それじゃあ、奥さんが奴隷だというあかしを刻印させてもらおうか。 男はそう言うと首縄と股縄を外しにかかったが、 欄間からつながれた格好はそのままにされた。 それから、液体の入った小鉢を持ってくるとなかの刷毛で泡立て始めた。 何が行われようとしているのか、不安と恐れがわきあがった。 けれど、その高まりは不思議にも官能を昂ぶらせるばかりだった。 その昂ぶっている身体のもっとも敏感な箇所へ、 男は小鉢から刷毛で泡をたっぷりとすくうと塗りつけていった。 塗りつけられた泡を男の指先が丁寧に伸ばし、 また塗りつけられるということが執拗に繰り返された。 ふっくらとした丘の恥ずかしい亀裂を中心に、 やさしく愛撫されるようになでまわされると、 じわっ、じわっと女の蜜がにじみ出すのを意識させられた。 |
さあ、これでよし。 奥さんは奴隷になったあかしとして、あそこの毛を剃ってもらうからね。 男はそう宣言すると、ポケットから西洋剃刀を取り出し刃を開いた。 |
いやっ、いやっ、いやです、そんなこと。 か細いながらも、やっとの思いで拒絶の言葉を口に出した。 動くんじゃない! 余計なところまで切ってしまうぞ、 この剃刀はおもちゃじゃないんだからな。 男はそう怒鳴ると刃を下腹部へあてがった。 |
恐ろしさがズキンズキンとこみ上げてきて、 やるせなくも悩ましく火照った身体をさらに煽り立てるのだった。 |
剃刀はどこから剃り込もうかと位置を決めかねているように、 あてがわれる箇所をさまよった。 その実行を長引かされるもどかしさにじっとしていらず、 頭だけは髪を打ち払うように右に左にゆれた。 |
けれど、いつになっても、最初のひと剃りは行われなかった。 カメラのシャッターだけが切り下ろされていた。 |
昂ぶらされた官能がやり場のないほどやるせなく、 何とかしてほしいという思いが満たされずに、 いっそう身体を燃え上がらせているのだった。 そこで組写真は終わった。 撮影も終わりだった。 下腹部の剃毛は真似事にすぎなかったのだ。 ありがとう、とってもいい演技だったよ。 にこにこしながら言っている残忍な男は縄師に戻っていた。 本当だ、こんないい写真が撮れたことはいままでにない。 カメラマンも笑いながら相槌をうっていた。 けれど、縄師とカメラマンはすぐに解放してくれなかった。 舞い上げられた官能に上気した女はひとり悦に入っていた。 女は一度は昇りつめなければ収まらない状態であることを、 彼らは気がついていたのである。 お嬢さんは本当に剃ってもらいたいんじゃないのか、 縄師が耳もとでささやいた。 そんなことをされるのは絶対嫌だと思った。 けれど、小さくうなずいてしまっていた。 縄師はポケットからもう一度西洋剃刀を取り出すと、 刃を開いて恥ずかしい箇所へ慎重にあてがった。 そして、ひと剃りひと剃りを丁寧にさばくように刃を動かした。 触れられるたびに感じられる剃刀の冷たく鋭利な感触が、 のぼせ上がっている官能をぞくぞくと掻き立てるものにしていた。 剃られることがこんなに気持ちのよいことだとは思ってもみなかった。 すっかりむき出しになった深い亀裂を示す肉の合わせめを見て、 カメラマンはたまらなく可憐だねと言いながらシャッターを切り続けた。 太腿のつけねが光るほどあふれ出した女の蜜を実際に確かめようと、 縄師の指先が亀裂の奥へくり入れられたときだった。 とがったクリトリスをほんの少し愛撫されて昇りつめてしまったのだった。 それから、エクスタシーの余韻を染み込ませられるように、 欄間からつながれた緊縛姿のまましばらく放っておかれた。 別れ際にギャラを渡されるとき、二人は最高のモデルだったとほめてくれた。 今後も一緒に仕事をすることを求められたが、はっきりとことわった。 緊縛から開放されてバスルームで身体を洗っていたとき、 翳りをすっかり失った下腹部をあらためて見て、 こみ上げてくる情けなさに泣きながら、 もう二度とこのようなことはしないと誓ったのだった。 |
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