借金返済で弁護士に相談





生まれたままの全裸を後ろ手に縛られ胸縄を施された姿態で、
小夜子は、艶めかしい夜具の上へうつ伏せて、
泣き続けながら、いつしか、眠り込んでしまっていた。
それは、深い、深い、深い眠りで……
民族の根源としての記憶である、
因習が眼の前にあらわれるような夢を見させられることだった……
小夜子は、生まれたままの優美な全裸の姿態を麻縄で後ろ手に縛られ、
愛らしい乳首のついたふっくらとした綺麗なふたつの乳房を突き出させられるような胸縄を掛けられ、
艶めかしい夜具の上へ、うつ伏せた格好で眠り続けていた。
彼女の眠りは余りにも深かったので、
その部屋へ、男がふたり忍び入ったことを気づかせるものではなかった。
男はふたりとも、一糸もまとわない全裸の姿をあらわとさせていたばかりでなく、
もたげる陰茎へ麻縄を掛けて、充血した反り上がりを強調させる緊縛をみずからへ施していた。
赤々と反り上がったふたりの男は、女の緊縛された雪白の優美な裸身を仰向けに横たわらせると、
その眠りが奥深いものであることを確かめるように、
ひとりは頭の方から、ひとりは足もとの方から、長く伸ばさせた舌先で愛撫を始めるのだった。
柔らかく波打つ艶やかな黒髪、美しい顔立ちの広い額、閉じられた優しいまぶた、
純潔に通った鼻筋と可憐な小鼻、薄く開かれている清楚で綺麗な形の唇、
それらが男の舌先で、ぬめる唾液の航跡を残しながら、
思いの込められた丹念さで舐められていくのだった。
慎ましい形をした両足の指のひとつひとつ、足の裏から可愛らしい踵、貞潔な締まりを見せる足首、
優雅さの脹脛、綺麗に突き出た膝頭、柔和な乳白色の艶めかしい光沢を放つ太腿、
それらが男の執拗な舌先で、細やかに愛撫されていくのであった。
だが、女の縄で緊縛された裸身は、溌剌とした生気を漂わせていたにもかかわらず、
死んだようにぴくりともせず、麗しい顔立ちにも、表情の揺らめきは微塵もあらわれなかった。
ふたりの男は、縄で突き出すようにされたふたつの乳房へ、左右から吸い付いていた。
長い舌先に熱心に舐めまわされ、てらてらとした光沢をあらわした乳首は尖るほどに立ち上がり、
ふたつの貪欲な口は、ふっくらと隆起する美麗な乳房へ、頬張るような吸引を行うのだった。
しかし、仰臥させられている女の姿態には、微動の反応も示されなかった。
男たちは、左右から、しなやかに伸びた美しい両脚を割り開かせるように取ると、
これ見よがしに女の股間をあからさまとさせていった。
漆黒の夢幻の靄に慎ましく覆われ、優美な柔らかさのふくらみを見せる小さな丘は、
深遠と妖美を同義とさせるような割れめをのぞかせていた。
男のひとりが左右の両脚の足首を掴んで、屈伸させるような前屈みの姿態にさせていくと、
女の割れめは、如実にさらけ出されたものとなり、
鮮烈な美しい肉の輝きが三つの穴とひとつの小突起をあらわとさせているのだった。
愛らしい突起は、真珠のきらめきを示して、
すでに、高ぶらされた女の官能をあらわすように立ち上がっていて、男の舌先がそれに触れられて、
舐めまわされ、吸われるようにされると、すぐに、しこっていくのだった。
その間も、美しくしなやかな両脚を女の頭の方で支えていた男は、
舌先を伸ばして、欲情に立ち上がっているふたつの乳首を熱心に愛撫し続けていた。
しこった小突起を舐め続ける男の舌先が開きかけている花びらへようやくたどり着いたとき、
深遠と妖美の奥深い淵からは、女の蜜がしずくの輝きをあらわして流れ出していたが、
男の舌先がそこへもぐり込むと、どろっとした甘美をとめどもなくあふれ出させて応えるのだった。
男は、みずからも、反り立たせた先端から糸を引かせた官能の高ぶりに、
その矛先を迎える相手の吸引と収縮に促されて、引き込まれるように深く沈み込ませていったが、
それであっても、女からは、うめき声ひとつ、身悶えひとつ、あらわされることはなかった。
女は、死んでいるとさえ言える、無反応であったのだ。
男は、ゆっくりとした抜き差しを繰り返しながら、官能を昇りつめていくと、ぶるっとなって放出を果たした。
すぐに、待たされているのは、もはや限度というように、女の頭の側にいた男が素早く入れ替わって、
激しく反り上がらせた陰茎を膣の奥深くへと含ませて、激しい抜き差しを始めるのだった。
男はオーガズムに至ったが、縄を掛けられていた陰茎は、容易に萎縮を許さないものであったから、
両脚を取る側へまわっていた男が、再び、女との交接を求め、絶頂を極めていくのだった。
そうして、ふたりの男は、各々三度ずつ、官能の極まりを持ったのだった。
それから、ふたりの男は、小夜子の緊縛の裸身を頭の方と足もとの方から抱きかかえると、
艶めかしい夜具の敷かれた部屋を後にして、
日本間造りの部屋を後にして、
家から出て行くのだった。
大きく開かれた玄関扉の向こうには、黄昏が待っていた。
昼がまだ昼としての終わりを告げたわけでもなく、夜が夜として完全に始まったわけでもない、
光と闇が交錯する薄闇が支配する時間と空間があった。
その地平には、累々として立ち並ぶ多種多様の墓石が一面に広がり、
彼方の日没の一線まで果てしなく続いていた。
生を持って蘇ることは決してないが、厳然と子孫のなかに因習として存在する、
無限数の祖先という死者が眠り続けているのだった。
ふたりの裸体の男は、抱きかかえた緊縛の女の裸身を彼方の日没の一線へ向けて運んでいた。
ゆっくりとした足取りで、黄昏の薄闇のなかを歩き続けていくのだった。
それは、長い、長い、長い時間を遡及する運行だったかもしれないし、
或いは、死者が執り行う行為としては、
一瞬のうちに空間を移動するようなものであったかもしれなかった……。
やがて、小夜子は、広大無辺の墓地を抜けた先にある、荒涼とした岩場まで運ばれていった。
そこにある平たく大きな岩の上へ仰向けにして横たえられると、
縄で陰茎を反り上がらせたふたりの男は、しばらくの間、名残惜しそうに立ち尽くして女を眺めていたが、
ようやく、広大無辺の墓地の方へと去っていくのだった。
黄昏は、やがて、暗闇を招来し、夜空には、満天の星がまばゆく輝いていた。
その平たく大きな岩棚の近辺には、幾つもの洞穴があり、
猿から人間へ成り変ろうとする最終段階を迎えていた人類が群棲していた。
夜は、人類以上に、鋭い牙や爪、敏捷さや力を備えた動物が獲物を求めて徘徊していたから、
生命の危険をあえて冒してまで、洞穴から外へ出る者はなかった。
身を守ることに脆弱な動物は、肩を寄せ合うように多数が集まって、暮らし続ける以外になかったが、
そうしたなかでも、百人に五人くらいの割合で、
群棲することで作られる常識から逸脱する者があらわれるのだった。
この若者も、そうしたひとりで、満天に輝く星の惹きつける不思議な美しさに危険など省みないで、
他の者が寝静まった後、洞穴からさ迷い出る者であったのだ。
若者は、あたりへ眼を凝らし、匂いを嗅いで注意を向けながらも、
馴染みとしている岩場の最も見晴らしのよい場所へ向かって、黙々と歩き続けていた。
そのときだった。
目的の平たく大きな岩棚の上に、見慣れない白く輝くものを発見したのである。
若者は、興味深そうに恐る恐る近づいて行ったが、
そこへ横たわるものをまじまじと見つめたとき、立ち尽したままとなってしまった。
美しいと感じていた天空の星々に引けを取らない、白い輝きを放つ生き物に圧倒されてしまったのだ。
いや、そればかりではなかった。
濃い体毛が身体全体を覆っているだけの黒々とした裸の若者は、
その白い生き物の美しさに煽り立てられるように、
赤い充血をあらわす陰茎を立ち尽したままにさせられてしまったのだった。
髪があり、顔立ちがあり、乳房があり、割れめをのぞかせた股間があり、両脚のあるところは、
自分たちが連れ合いとしている者と似ていたが、身体全体を覆う毛は極めて薄かった。
身体の放つ白さは、眼をくらませられるように美しかったが、
その白さには得体の知れないものがあって、
身動きの取れないようにされていることが不思議を感じさせた。
そのせいかどうかわからなかったが、その白く美しい生き物は、まるで動かなかった。
若者は、触れるのをためらい、見つめるばかりになっていたが、
大変な発見をしたのだと感じることは、
もたげた陰茎をさらに硬直させて、有頂天な思いとへ高ぶらせるのだった、
同時に、この白く美しい生き物を他の者には奪われたくないと感じさせられていた。
自分とは異なって身動きひとつしないものだったが、たったひとつのものだと感じられていたのだった。
若者は、ようやく、思いを固めると、初めて、その白い動物へ震える指先を触れた。
そして、そのまばゆい白さから伝わってくる、
どきどきと胸を高鳴らせる温もりときゅっと胸を詰まらせる芳しい匂いは、
硬直していた陰茎を一気に反り上がらせるものとさせたのだった。
白く美しい生き物は、自分と同じにあるのだと感じられたことだった。
若者は、相手を連れ合いとするためには、どのように嫌がる相手であろうと、
反り上がらせた陰茎を相手の割れめへ差し入れて放出を果たせば、
相手は大人しく連れ合いとして従うということを習っていたから、そのようにしたいと激しく感じるのだった。
仰向けになっていた相手をうつ伏せの格好にさせると、
白い尻を高々と持ち上げさせて、割れめがこちらへあからさまとなるようにさせた。
鮮烈な美しい肉の輝きが三つの穴とひとつの小突起をあらわとさせていたが、
目的の穴には、きらめくしずくが滲み出して光っているのだった。
若者は、そのきらめきに誘われるように、
赤々と反り上がった陰茎をとば口へあてがい、差し入れようとした。
そのときだった。
相手が、ううん、と声音をもらし、大きく身悶えを示したのだ。
若者は、びっくりして、抱きかかえていた白い身体を離しそうになったが、
反り上がらせていた陰茎は、やり場を求めることなしには収まるものではなかった。
気がついた小夜子は、生まれたままの全裸を麻縄で後ろ手に縛られ、
胸縄を掛けられた姿態にあるばかりでなく、尻を突き上げさせられた格好でうつ伏せにされ、
しかも、誰ともわからない者から、
女の羞恥であり、自尊心であり、尊厳である箇所を攻撃されようとしていることを知って、
いやっ、いやっ、やめて! やめて! 助けて!
と張り叫んだ声を上げながら、必死になって、身悶して逃れようとした。
だが、若者は、差し入れられた陰茎が放出を果たしてしまえば、相手は大人しく従うものとなり、
それが子を生むことをさせ、自分も相手もその子も、
あり続けることを絶やさせないという常識があったから、
相手がどのように泣き叫ぼうと、どのように暴れようと、ためらうことを感じなかった。
言葉は、もとより理解されるものではなかったが、声音さえも意味がなかったのだった。
小夜子は、柔らかく波打つ艶やかな黒髪を右に左に打ち振るって、
いやっ! いやっ! いやっ! 助けて! と絶叫を繰り返していたが、
若者の腕力の前には、身悶えは封じられ、
花びらを膨らませて差し入れられていく陰茎は、若者の思いの深さほどに沈められていくのだった。
しかも、それは、滲み出させていた女の蜜が容易とさせているのだった。
縄で生まれたままの全裸を緊縛されていることが高ぶらせている官能のあかしであったのだ。
若者がゆっくりと抜き差しを始める頃には、小夜子のあらがう声音もか弱いものとなっていた。
彼女は、無理やり高ぶらされていく官能を懸命にこらえるように、
顔立ちを真っ赤にさせて、すすり泣いているばかりだった。
若者は、黒々とした体毛の身体をびくんと大きく痙攣させると昇りつめていったが
小夜子には、驚愕と狼狽と羞恥と屈辱の思いしかなく、
むせび泣いて非難を示せることがせいぜいだった。
若者は、その相手の様子を知ると、しっかりと連れ合いの身体を抱きしめて、
なだめるように優しく頭を撫でるようなことをするのだった。
小夜子は、自分を強姦した相手を間近にさせられて、
その毛むくじゃらの異様なありようと異臭に、
驚愕と狼狽と羞恥と屈辱を汚辱そのものと感じさせられていたが、
縄で全裸を縛り上げられた姿態では、悔しくても、されるがままになっている以外になかったのだ。
そして、おぞましい毛むくじゃらの異様な相手であっても、
撫でられる感触に優しさが伝わってくることは、まったく困惑させられることであったのだ。
若者は、連れ合いが落ち着いた様子を見せ始めたことを感じると、
相手の身体を抱きかかえて立ち上がり、幾つもの洞穴がある方へ戻ろうとするのだった。
小夜子は、打ちのめされた思いから放心状態となっていて、もはや、成されるがままだった。
若者にとっては、連れ合いを得たことは、ひとり立ちの洞穴生活を始めなければならないことであった。
誰も住んでいない新しい洞穴へ、連れ合いと共に入り、子が生まれ育てる生活をすることであった。
そのためには、連れ合いと子のために、充分な食糧を確保することが成すべきことであったが、
身を守ることにさえ脆弱な動物にあっては、それは、困難を極めることだった。
生まれた子さえ、容易に他の動物の餌食となることがあったのだ。
しかし、若者は、抱きかかえる白く美しい生き物から伝わる熱い温もりと芳しい匂いから、
生まれてくる可愛らしい子を感じると、たまらなく嬉しくなってくるのだった。
ようやくたどり着いた薄暗い洞穴の地面へ、優しく置かれた小夜子は、
毛むくじゃらの相手からできるだけ見られまいと、横座りにさせた緊縛の裸身を縮こまらせ、
顔立ちを俯かせて、必死に境遇を耐えているのだった。
若者は、その前へ腰掛け、じっと連れ合いへまなざしを向けていたが、
連れ合いの身動きを封じている得体の知れない不思議がどうしても気に掛かることだった。
縄という存在は、結ばれることがなければ、解かれることがない。
従って、結ばれている縄は、縄というものが存在しなければ、解くことのできないものとしてある。
若者にとっては、小夜子の裸身へ掛けられた縄は、解くことのできないものとしてあったから、
解くことのできない不思議であった。
それを解くことをしなければならないとしたら、解くという観念が明確にならなければならなかった。
緊縛された縄を解くということは、不思議を解くということであった。
若者は、連れ合いが身動きの取れない状態にあることを放っては置けないと感じていた、
連れ合いが自分と同じ状態にあってこそ、自分の連れ合いであるという思いがあったのだ。
得体の知れない不思議がなくなれば、それが果たされるのであった。
連れ合いは自分に対して背を向けて、まだ馴染んでくれようとはしないが、
邪魔をしている得体の知れない不思議がなくなれば、変わってくれることに違いないと思われたのだ。
若者は、近づいていって、
山吹色も真新しい麻縄の緊縛された結び目に指を触れているのだった。
小夜子は、自分を陵辱した毛むくじゃらの異様な相手に近寄られて、
忌まわしさに身が震えるほどの思いだったが、その手が柔肌に触れられるのを意識させられると、
おぞましさで気が遠くなっていくようにさえ感じられるのだった。
だが、相手が縄の緊縛の結び目を解こうとし始めているのがわかったとき、
試行錯誤を繰り返しながらも、なかなか果たせずにいるのを知ると、
何よ、そんな簡単なこともできなくせに、下等な動物が!
と侮蔑した思いなって、懸命に自尊心を保とうとするのだった。
それでも、毛むくじゃらは、諦めもせずに、解くことを一生懸命に繰り返していた。
小夜子は、ついに、その余りにももどかしい振舞いに、業を煮やして叫んでいるのだった、
あなた! そんな簡単なこともできないの! 馬鹿だわ! 幼稚園児だってできることよ!
毛むくじゃらの若者は、その声にびっくりして、相手をまじまじと見つめていたが、
吐き出された言葉は理解できるものではなかった、
しかし、怒っていることは理解できたのだった。
思わず怒鳴ってしまったことだったが、小夜子は、
これでまた、怒らせた相手から、陵辱されるように取り扱われるのかと思うと、
ひどく気が滅入ってしまうのだった。
若者は、その連れ合いの様子を知ると、相手の身体を強く抱き締めて、頭を優しく撫でるのだった。
それから、思い直したように、再び、作業に取り掛かっていた。
小夜子は、何だか、悪いことを言ってしまったのではないか、
と後悔させられる気持ちを感じている自分が不思議だった。
忌まわしく、おぞましく、憎いさえと感じている相手であったが、
一生懸命に結び目を解こうとしているその姿がいじらしく健気にさえ映るのが、
当惑させられるほどに不思議だった。
その毛むくじゃらは、助けるためにしてくれているということを初めて意識させられたのだ。
忌まわしく、おぞましく、憎い相手であっても、私のためにしてくれているのだと思うと、
小夜子は、相手がやり遂げるまでは辛抱強く待とう、と思う気持ちになるのだった。
長い時間のかかった末であった、
ようやく、背中の縄留めのひとつがほぐされていった。
毛むくじゃらの若者は、声を上げて喜んでいた、
眼をやった連れ合いの顔立ちにも、かすかな笑みが浮かんでいるのを知ると、
吼えるような歓声になっていた。
結び目をひとつほぐすことができたということは、残りは、学習されたことの成果だった。
猿から人間へ成り変ろうとする最終段階を迎えていた人類は、
わけもなく、結ばれているものを解いていき、まわされているものを緩めていき、
ついには、小夜子の裸身から、縄による緊縛を取り外すことに成功したのであった。
若者は、毛むくじゃらの体毛をなびかせながら、解き放った麻縄を高々と振りかざして、
横座りになっている小夜子のまわりを小躍りしながら、喜びの叫び声を上げ続けるのだった。
小夜子にとっても、姿態を自由にさせられた開放感は、
そのようにしてくれた相手の喜びを共感あるものと感じさせ、
微笑みの顔立ちで相手を見上げさせるのだった。
共に喜んでくれている連れ合いを知って、若者は、小夜子のほっそりとした白い手を取ると、
引っ張り上げるようにして立たせ、一緒に小躍りするように促すのだった。
そうして、ふたりは、喜びの舞踏を踊り続けた。
やがて、疲労困憊となって、どちらからともなく抱き合うと、
地面へなし崩しになって、眠りに入ったのであった。
黄昏のような薄暗い洞穴には、忍び入る輝ける曙光がきざす時刻となっていた……。
小夜子が目を覚ましたとき、
すでに、毛むくじゃらの若者は起きていて、麻縄をいじくりまわしているところだった。
彼女は、相手が注意を逸らさせている隙に逃げ出すことを思ったが、
その熱心な後姿は、逃亡を決意させるものとはならなかった、
むしろ、彼女を相手に近づかせ、肩越しにその様子を眺めることをさせたのだった。
若者は、解きほぐした結び目をもう一度再現させようと、
もどかしい指先で縄を操っていたが、なかなかうまくいかなかった。
小夜子は、その縄を貸してみて、とばかりに毛むくじゃらから奪い取ると、
簡単に結び目を作って見せたのだ。
若者は、驚愕の余り、口をぽかんと開けて、
丸くなったまなざしで連れ合いと結び目とを見比べていた。
相変わらずの生まれたままの全裸の姿でいる小夜子は、
全裸が普通の状態である毛むくじゃらの若者の隣へ腰掛けると、
もう一度、ゆっくりとわかりやすい手つきで、縄を結んで見せるのだった。
そして、やってみて、と言うように麻縄を差し出すと、
真似て行おうとする相手の拙い黒々とした指先へ、みずからのほっそりとした白い指先を添えて、
縄を結ぶ仕方を繰り返し繰り返し教えるのだった。
そして、上手にできたときは、ご褒美と言うように、
小夜子は、毛むくじゃらの相手の頭を優しく撫でるのだった。
若者は、嬉しそうに、小夜子に教えられるままに、縄を結び解くことを学んでいった。
若者にとって、小夜子は、次第に、
白く美しい生き物の連れ合いという以上のものに感じられるようになっていった。
それは、縄というものが慣れ親しむにつれて、ますます、不思議を感じさせるものとなっていき、
その縄を帯びてあらわれ、その縄を上手に操って教え、しかも、ただひとつのものとして感じさせる、
白く美しいありようは、それこそが、掛け替えのない不思議と感じさせていたことだったからだ。
若者は、小夜子を敬い崇め奉るように、優しく丁重に配慮を持って接するようになっていた。
麻縄も、結ぶ解くから、今度は、麻縄自体をほぐして、
撚り合わさせている植物繊維の一本一本を熱心に見つめることを若者にさせていた。
ふたりにとっての生活は、縄を考え操ることを中心に動いているのだった。
片隅にあったその洞穴は、他の者には知られることのない、
喜びのあるふたりだけの生活を続けさせるものだ、とふたりは思っていたのだった。
だが、洞穴の外を散策するふたりの睦まじい姿、滝が流れ落ちる水溜りではしゃぎ合うふたりの姿、
その様子を盗み見ていた者たちがあったのである。
その者たちは、いままでに見たことのない、白く美しい生き物に強い興味を抱いていた。
見つめているだけで、陰茎を赤々と反り上がらせるその生き物と、
いつかは、連れ合いとなる行為にまで及びたい、という機会を狙っていたのである。
そして、それは、若者が食糧の確保に遠方へ出かけているときに、
薄暗い洞穴で、小夜子がひとり、遅すぎる帰りを待っているときに起ったのだった。
突然、三人の毛むくじゃらが洞穴のなかへ入り込んで来た。
小夜子は、その姿を見た瞬間、激しい悲鳴を上げていたが、
それは、あからさまにさらけ出された裸姿に、
三人の訪問の意図が如実にあらわされていたからだった。
赤々と充血させた三本の陰茎は、口からきらめく糸を引きながら、激しく反り上がっていた。
三人は、我先にと小夜子の白い裸身を奪い合うように、一斉に絡みついてきた。
小夜子は、うつ伏せにさせられて、白い尻を高々と持ち上げさせられると、
鮮烈な美しい肉の輝きを帯びた三つの穴とひとつの小突起を剥き出しとされた。
小夜子には、縄が掛けられていなかったから、目的の穴は、まったく乾いているありさまだった。
三人のひとりは、そのようなことはお構いなしに、熱い矛先を向けると無理やり押し込んでいくのだった。
小夜子の口からは、いやっ、いやっ、いやっ、という絶叫が洞穴内をこだまさせるほどに上がったが、
差し入れられた陰茎は、むしろ、その声音に煽られるように、強い抜き差しが行われていた。
小夜子は、激しく泣き叫びながら、
波打つ柔らかな黒髪を気が狂ったように打ち振るって、拒絶をあらわした。
だが、暴れる白くか細い両腕は、毛むくじゃらのひとりに押さえつけられて、
挿入していた毛むくじゃらは、容易に思いを遂げていったのだった。
そして、息つく暇もなく、ふたり目の太い陰茎が強引に差し入れられた。
小夜子は、優美な腰付きをこれでもかというほどに振らされて抜き差しされる激しさに、
あらがう言葉も吹き飛ばされて、泣きじゃくって抵抗を示すだけだった。
官能を高ぶらされて気持ちのよい思いで放出を果たす、毛むくじゃらの暴虐に対しては、
女には、激烈な苦痛と嫌悪と恥辱がもたらされるだけのことでしかなかった。
ふたつ目の陰茎が名残惜しそうに抜かれていくのに合わせて、
さらに、三つ目の長い灼熱が強烈に差し入れられてくるのだった。
小夜子には、もはや、あらがう言葉はおろか、泣きじゃくる声音さえも失せて、
相手に抱きかかえられた腰付きを、相手の求めるオーガズムの極まりに合わせて、
強烈に前後へうごめかされているだけのものになっていた。
最後の放出が終わった後、
激しい衝撃と攻撃は、小夜子の雪白の優美な裸身をぐったりとさせていた。
毛むくじゃらの三人は、未練がましい一瞥をかすかな息遣いを示す白い生き物へ投げかけると、
そろそろと洞穴を後にしていくのだった。
ようやく、若者が食糧を携えて戻って来たとき、
小夜子は、身動きをまったくあらわさずに、四肢を投げ出すような格好で横たわっていた。
若者は、優しく揺さぶって起こそうとしたが、まったく反応がなかった。
代わりに、若者は、股間の割れめから太腿へかけて、
あふれ出している血の滲んだ白濁としたしずくを知るのだった。
そして、洞穴へ戻って来るときにすれ違った三人の者が、
満足そうな笑いを浮かべながら歩いているのを思い出したのだ。
若者は、毛むくじゃらの黒い顔が真っ赤になるほどの怒りをあらわしていた、
地面に置いてあった麻縄の束をひったくると、洞穴を飛び出した。
込み上がる激烈な憤怒は、猛烈な勢いで走らせ、のたのたと歩いていた三人へ追いつかせた。
若者は、小夜子に教わった仕方で、素早く三本の縄へそれぞれの環を作ると、
背後から忍び寄って、相手の首へ引っ掛けていった。
それから、あらん限りの勢いで、それらを後方へ引っ張るようにして走ったのだった。
首に掛けられた縄は、相手を背後へ転倒させて、
身体をばたつかせる猶予もなく、締め上がって息を止めていた。
若者は、動かなくなった相手を見据えると、蹴り上げて確かめるのだった。
そして、幾つもの洞穴を見下ろす位置に立っている大樹まで、三つの身体を運んでいった。
大樹の横へ長く伸びた太い枝へ、首へ掛かった縄を繋いで、それらを吊り下げていった。
太い枝へ並んでだらしなく吊り下がった、毛むくじゃらの裸の三人が発見されるまでに、
大して時間は掛からなかったが、
そこに、どうしてそのようなものが、どのようなことから、どのような仕方で、
そのようにあるのかということは、まったくの不思議だった。
その不思議は、近隣に群棲している、
猿から人間へ成り変ろうとする最終段階を迎えていた人類を次々と集めていた。
若者は、洞穴へ引き返していた。
だが、どのような接し方をしても、白く美しい生き物は、身動きを示さなかった、
まるで、若者の前へ最初にあらわれたときと同じようだった。
若者は、成す術を失って、大声を上げて泣き続けた。
そして、流す涙が枯れ果てたとき、思いを固めたのだった。
白く美しい生き物のほっそりとした両腕を背中へまわさせると、
華奢な両手首を重ね合わせて縛り上げた。
それから、美しくふくらんだ乳房の上下へ縄を幾重にも掛けて、
首縄から下ろした縄でそれらを縦に繋ぎ、腰付きのくびれを締め上げるようにして縄留めをした。
その生き物が最初にあらわれたときに身にまとっていた縄を再現したのだった。
若者は、そこまで上達を示していたのであった。
それらも、すべて、白く美しい生き物から教えられた成果だった。
若者は、麻縄で緊縛された生き物を抱きかかえると、平たく大きな岩棚の上まで運んだ。
そして、最初に発見したときと同様の姿態で横たわらせるのだった。
それが最後と言うように、若者は、連れ合いの頭を優しく撫でながら、
まなざしを相手の顔立ちへじっと凝らし続けると、うなずいた。
白く美しい生き物からは、縄を結び、解き、繋ぐ仕方以上のことを教えられたのだ。
それは、縛って繋ぐという観念で考える力だった。
その力を実行しようと思いを固めたのだ。
縄で首を吊らせた三人を見せしめたのは、その力が発揮できる者を見せしめることだった。
若者は、縄の束を手にして、
幾つもの洞穴を見下ろす位置に立っている大樹へと向かった、
今度、その平たく大きな岩棚へ戻って来たときは、
白く美しい生き物の姿はないのだと思いながら……
何故なら、縄によって教えられたことが、群棲している数多の者たちをこれからまとめるのである、
人間が人間と結ばれれば、夫婦となり、親子となり、親族となり、
集落となり、村となり、町となり、都市となり、国家となる……
   動物が人間と結ばれれば、家畜となり、労力となり、愛玩物となり、見世物となり、食糧となる……
   植物が人間と結ばれれば、住居となり、燃料となり、食料となり、鑑賞物となる……
みずからは、そのようにして、人間と人間を繋いでまとめる、最初の者となるのである、
その実現こそが、深く教えを頂いて、深く思いを寄せた、
白く美しい生き物への供養と思えることであったのだ。
大樹の脇へ仁王立ちになった毛むくじゃらの若者は、
麻縄を高々と掲げて、
彼を見上げて、不思議の答えを求めようとしている数多の者たちへ、
道を示していた……。






☆縄による日本の緊縛

☆上昇と下降の館