借金返済で弁護士に相談



第三次世界大戦の結果……
生き残った少数の国家は、
それまでの<世界秩序の構想>とは正反対に、
国粋であることにこそ、国家の将来があるとみなし、
各国は、完全な鎖国政策を推進していた。
地球という大規模な土地面積に、
十指にも満たない国が共存しているという状態にあったことは、
大国や小国に関わりなく、他国の邪魔にならない居場所へ国家を構えて、
他国との交流・交易・いさかいを避けることは、充分に可能な状況としてあった。
それで、他国との問題は、解消されたことであったが、
表があれば裏があるように、自国の問題が際立ってきたのである。
そもそも、多種類の言語の異なる人間をひとつに統一しようという<世界秩序の構想>が、
バベルの塔のパラドックスであったのかもしれない。
言語による概念的思考を行う人間であれば、
異なる言語であろうと、概念の組成構築には定型のものがある、それを見つけ出して、
その活動を脳内手術によって操作することが可能であれば、
言語を問わずに、相反矛盾のない、整合性的人間を作り出すことができる、
そうなれば、一義の概念的思考を万人が共有することになるわけであるから、
善的概念の共有によって、悪的概念はおのずと排除され、
相互理解のある、争いや殺戮のない、平和で豊かな世界を実現することができる、
この構想に基づいて、全世界から集められた優秀な頭脳による、脳科学医療研究開発チームは、
飽くなき研究と実験の結果、万人を同一のものとする<新医療>を誕生させたのであった。
それは、すぐさま、<世界秩序の構想>として、各国において、法制化され、実施されることになった。
地球温暖化も、手に負えないほど進行しているなかでは、
地球を救うのに、人類が一義となって行うことの可能に、異議を唱える者はなかったのである。
人間存在というのは、脳髄において、すべてが管理されるありようにある以上、
脳髄を操作することによって、人間のすべての問題が解決できることは、
新しい人道主義と呼ばれたことだった。
その結果は、見事な成果となった。
共通の概念言語を使用して、意思の疎通をはかることができたことは、
民族を問わずに、交流・交易を円滑なものとさせ、万人の価値観を善的な一義とさせたことであった。
世界の人々は、互いに話し合い、互いを理解し合い、互いに笑い合える状況が生れたのだった。
自由・平等・平和を唱えることは、もはや、必要なかった、すべての人権運動は、消滅していった。
<新医療>の施術を受けた者同士のありようが、真のありようを体現していたからだった。
人間は、同種に対してばかりか、異種に対しても、殺戮・性行為を行うことをする、
それが、被施術者同士では、同種間の殺戮・強姦は、あり得ないことになったのである。
一義とは、善的一義を意味するものでしかなかった。
一義となった言語による概念的思考の活動であることから、
当然、言語表現における直喩、隠喩、換喩、提喩、諷喩といった比喩表現も、また消滅していった。
従って、伝統ある偉大な文学の歴史的消滅も避けられないことであったが、
手の込んだ、複雑で、難解で、長大な文学表現などは、むしろ、稚拙なものであるとされたくらい、
新しく獲得された意思伝達は、単純・明快・迅速のあることだった、
いま、全世界が一義に地球温暖化対策を講じて、実行すれば、何とかなる、
人類の輝ける未来がまさに実感できることであった。
しかし、裏があれば表があるように、善があれば悪があるように、
<世界秩序の構想>の政治的・社会的・文化的抑制下に、
健全を存在理由として置かれた性に、残る問題があった。
当時、<新医療>の施術を受けた者の割合は、地球人口の三分の二にまで達していた。
あとひと息持ちこたえれば、或いは、起こり得なかったことであったかも知れなかったが、
起こってしまった事象である以上、その歴史を変えることはできない相談である。
人間に備わる性欲というのは、高ぶらされる官能に従って、
ところかまわず、相手かまわず、手段を選ばず、行うことが可能であるということが旧来であった。
それを、言語による概念的思考が一義とされたことによって、内的矛盾が生じたのである。
高ぶらされる官能は、ところかまわず、相手かまわず、手段を選ばず、行うことが可能であるからこそ、
オーガズムへと至らせるものであったことが、一義は、オーガズムと結び付かなくなってしまった。
肉体の器官としては、男性でも女性でも、立派に発情するが、
思考においては、まったく性的官能を意識できないというありようが生まれたのだった。
男性と女性が実際に陰茎と膣とを触れ合うことをすれば、勃起し、濡れることがあったから、
そこから、挿入と射精という生殖行為そのものには、問題はなかった、
従って、人類種の保存・維持に支障はなかったことだった。
一義の性では、 ヘテロ・セクシュアル(異性愛者)を除いては、
ホモ・セクシュアル(男性同性愛者)、レズビアン(女性同性愛者)、バイ・セクシュアル(両性愛者)は、
存在理由をあらわさないものとしてあったから、性差別など、問題外のことだった、
あったのは、性的官能のオーガズムのない生殖行為だけだった。
しかし、この事実が重大な事柄ではないと見なされたのは、
<新医療>の施術された者同士では、家庭内暴力、セクシャル・ハラスメント、強姦は絶無となり、
人類の相互理解と平和と生命の長寿に比較すれば、たかがオーガズムの問題にすぎないことであって、
むしろ、性欲の野放図・放埓・無際限という悪弊は、
それまでの悪質な性の文化を生んできたことだと非難されたのであった。
<新医療>に異議を唱える者は、ポルノ業者と侮蔑されたことであったが、
実際のポルノ業者は、需要が絶無へ向かうなかで、施術を受ける側へ立つしかないことだった。
動物であれば、生殖行為に最高の快感があればこそ、反復と持続のあり得るものとしてあるが、
生殖行為は、ただ、種族保存と維持のためにだけ行われることであって、
官能の最高潮の喜びどころか、快感さえない人間、
この新しいありようは、見方を換えれば、
人類は、この地球上にあって、これまで、稀有な高等進化を遂げた動物であればこそ、
最初から、そうした動物一般にない属性を持って誕生したものだと考えれば、
不可思議な事柄でも、突然変異でも、異常な事態でもないとされた、
政治・経済・文化の長寿者は、自身の性欲の減退はさておいて、
それが倫理であると掲げたのであった。
医療の飛躍的な進展は、老人人口を世界全体で七割にまで占めさせていたことであったから、
権限をあらわす、じいさま、ばあさまは、社会の中枢をあらわしていたことでもあった。
いずれにしても、<新医療>の被施術者拡大が漸進していくなかでは、
時間がおのずと解決させることだと誰しもが考えたことだった。
そこで起こった、ひとつの事件であった。
被施術者の政府高官がまだ施術を受けていない十歳の少女を強姦したのである。
その政府高官の年齢は、九十歳を越えていたのだった。
性欲を減退させていた者が強姦によって、肉体の器官の能力をよみがえらせた、新発見だった。
しかし、健全な性の統治下では、高官は、法律により電気椅子へ送られる以外になかった。
問題であったのは、高官が処刑される直前に、テレビ報道のインタビューに答えて、
性欲と官能が昔のままの愛くるしい少女を無理やり裸にして、襲いかかるときに貫いた快感の電撃、
強姦したことによって知った官能のオーガズムの喜びを涙を流して語った映像、
それがありのままのやらせなしで、インターネットへ流出してしまったことだった。
インターネットを取り締まる政府の情報検閲では、絶対にあり得ない事態であったが、
施術を受けていない若い検閲担当官が面白半分に行ったことだった。
たかが老人の涙ながらのエロ話、誰がそのようなものに関心を持つものか、
事実、若い世代には、まったく無関心の対象とされた映像であった、
だが、関心を持った者は、それよりも、遥かに多数いたのである、
涙ながらにして語る老人と同世代、彼らの涙ながらにしての共感があったのである。
映像流出がきっかけとなり、世界各地で、
老人による未成年者強姦の犯罪が模倣され始めたのであった。
そして、それは、老人にとどまらず、やがて、あらゆる年代層へ波及していったことは、
権限をあらわす、じいさま、ばあさまが社会の中枢にあることを如実とさせたことでもあった。
経験と知恵のある年長者の教えは、その後へ続く若輩者の学ばねばならない善であった。
被施術者が施術されていない者へ行った強姦は、
ところかまわず、相手かまわず、手段を選ばずに、
老若男女を問わずのものとなっていった。
各国政府は、あらゆる手段を講じて、取締りと罰則を強化したが、
高ぶらせる官能がもたらす快感のオーガズムは、ひるむどころの騒ぎではなかった、
取締る警察官のなかからも、強姦者はあらわれた。
政府内でも、企業内でも、学校内でも、
上司と部下、先生と生徒が入り乱れて強姦し合う事態は、日常茶飯事となって進行していったが、
ついに、<新医療>の施術担当の医師までもが手術中に、
束になって、ひとりの男性を強姦するという事件にまで発展したのであった。
施術を受けてない者は、連合して、武装蜂起する以外にないことだった、
無差別の強姦に対抗する手段は、被施術者に対する、無差別の殺戮しかあり得なかった。
世界人口の三分の二である被施術者は、同種への殺戮を行わないことを本能としたから、
集団でひとりの者を強姦した、残る三分の一は、殺戮を本能としたから、ひとりで集団を殺戮した、
この勃発した戦争は、全世界的規模で展開されたことから、
第三次世界大戦の呼称が与えられたのであった。
大戦の終結は、やりたい放題の荒唐無稽・支離滅裂として、講和交渉への努力など微塵もなく、
互いが相手のやりたい放題の届かないところまで、退くだけ退いたというだけのものであった。
どこからも干渉を受けないように居場所を定めて国家としたことは、だだっ広い地球の上に、
被施術者と施術を受けない者の十指にも満たない、それぞれの国家が存在するだけとなった。
もはや、環境破壊の地球温暖化など、鼻もひっかけられない話題だった、
各国は、それぞれの国粋主義を推進していくことで、精一杯だったのである。


そうした残存したひとつで、<新医療>をいち早く法制化した国家、
かつては、<日本>と呼ばれ、現在は、<一本>と称する、辺境にあった小国では、
国粋主義の推進に際立ち始めた自国の問題に、独自の解決策を講じようとしていた。
問題は、一度、強姦で認識してしまった官能のオーガズムを、
今後は、どのように対処していくかということだった。
それが世界大戦の直接原因であれば、戦後処理ということであった。
新しい憲法が必要だった、
その作成のために、有能な知恵と知識が集められ、充分な検討論議の結果、
<人間法>というものが施行されることになった。
それによる人権宣言では、 <新医療>の施術を受けた者は、
異種族間では行うことはあっても、同種族の人間同士では、殺戮・強姦を一切行わない、
自由・平和・平等を遵守する<進化した高等な人間>である、
一方の施術されていない者は、異種族間ばかりでなく、同種族間の殺戮・強姦をいまだに行う、
野生動物同然の<進化できなかった猿>であるとされた。
<進化した高等な人間>は、文明と文化を形成し、倫理ある社会を営む権利を有するが、
<進化できなかった猿>には、三つの段階的境遇が与えられることになる。
その第一等段階は、国営の<動物園>へ入所させられる、<見世物猿>の境遇である、
性欲と官能が旧態のままにある<猿>として、見世物となることであった。
ヘテロ・セクシュアル(異性愛者)、ホモ・セクシュアル(男性同性愛者)、
レズビアン(女性同性愛者)、バイ・セクシュアル(両性愛者)、
これらの性愛者の行為を政府公認の修正なしの実証ある見世物として、
進化できなかった劣等性を見学者に確認させることであった、
それによって、現在の高等な状況にある幸福を実感させることだった。
しかしながら、それで確認しても、実感に満足のできないわだかまりも残される、
そういったことが犯罪の温床となることは、歴史的に見ても、明らかなことである。
そこで、<猿>の第二等段階は、国営の<売春施設>へ入所させられる境遇としてあった。
<売春施設>においてのみ許可されている、
<猿>が望まれるままの強姦の対象としてあることは、年中無休で行使されることであった。
この<猿>を<剥製>と呼称したが、第三等段階の<処分>という境遇は、
第一等で使用不能となった<猿>を第二等へ格下げして、
そこでさえ使用不能となった場合、殺戮されるという境遇をあらわしていた。
異種族の一般の動物に対しても、同様の扱いがあったことであれば、
それが<進化できなかった猿>へ適用されただけのことであって、
同種族への殺戮ではなく、異種族へ対してのことであれば、矛盾はまったくなかったのである。
国家の領土内では、施術されていない者がいまだに発見されるという事態が続いていたが、
この<人間法>によって、<新医療>を拒絶する者は、まれにしかいなかった。
政府が問題としたのは、それでも、拒絶する者があるという事実だった。
<新医療>を拒絶する者は、先の第三次世界大戦にあって、
<純粋種優生主義>を信奉している者たちだった。
<純粋種優生主義>とは、<新医療>によって絶滅させられた、
それまでの宗教一般の存在に代わって、
施術を受けていない者を連合結束させ、武装蜂起させた思想であったが、
ひとりを集団で強姦するという非人道的行為への義憤が殺戮行為を正当化させていたが、
同種族純粋保存と維持のために、自殺を禁止し、生命尊厳を第一信条としていた、
それは、施術されない純粋から生み出される子孫には、いずれ至福の栄光ある国が到来し、
DNAまで操作されている、施術された悪魔の子孫には、
稲妻の正義がもたらす審判の日がやってきて、終末へ至らせるというものであった。
いま、<一本>国の国粋文化省の下等裁判所を出ようとしている、綾乃と紗織と隆之は、
その<純粋種優生主義>を信奉している者たちだった。
綾乃は、年齢は三十歳、屈指の財閥の若き未亡人であった。
夫は、みずからの企業グループの手兵を率いて歴戦したが、敵の手に落ちて強姦で憤死した。
紗織は、綾乃の妹で二十二歳、
その婚約者である隆之は、二十七歳、戦闘司令のひとりでもあった。
会長・CEOが戦死し、軍が敗退したとき、手傷を負っていながらも、
隆之は、綾乃と紗織の住む大邸宅までたどり着くことができた。
三人は、会長・CEOの死を嘆き悲しんだが、生命を未来へ託する希望を持って、団結するのだった。
戦争は、間もなく、荒唐無稽・支離滅裂の終結となったが、
大邸宅にひっそりと暮らし続けていくことは、困難が予想されることを知った三人は、
わずかに残った使用人たちと、風の便りを信じたのであった。
それによれば、施術を受けていない者たちによって、新たに建設された国家があるとのことだった。
この広大無辺とも言える地球の何処に存在するか分からない場所を探して、
冒険の旅へ出ることは、死を意味する、危険極まりないことであったが、
一方では、<猿狩り>と呼ばれる、報奨金目当ての移動清掃専業者が動きまわっていたのである。
政府が<人間法>を施行し、<動物園>と<売春施設>を運営・維持させていくためには、
使用頻度において耐用年数のある、質のいい<猿>は、是非とも必要とされたことだった。
出発のまさに前夜であった、大邸宅は、<猿狩り>の不意打ちにあった。
抵抗する間もなく、綾乃と紗織と隆之は、十人の使用人と共に捕縛されたのであった。
虜囚の恥辱に晒されるよりは、死を選ぶことの方がよかったことであったかもしれない、
それができなかった、信奉篤き者たちだったのである。
十三人の虜囚は、すぐさま、国粋文化省の下等裁判所へ連行された。
<人間>も、<新医療>の施術を受ける前は、<猿>と似たようなものであった、
裁判では、この情状酌量から、虜囚に対して、
施術を受けることの承諾が最後の意志として詰問された。
結果は、下等裁判所を出たのは、綾乃と紗織と隆之だけであった、
残りの十人は、ただちに、<新医療>の施術施設へ送られていったのである。
信奉篤き者たちは、国粋文化省の分室にある<特別取調所>へ送られるのであった、
<猿>の教育・調教・飼育が行われる場所であったが、
性欲と官能が昔のままのノスタルジアへ対する揶揄が込められて、
影では、<SMの牢獄>と言われていた。


国粋文化省の分室の地下も奥深い場所に<特別取調所>はあったが、
それは、そこで行われる事態が生じさせる一切が外部へ漏れないようにするためであった、
そのために、従事する役人は、その目的のために特別選抜された<係官>で構成されていた。
綾乃と紗織と隆之は、地下へエレベーターで降ろされ、
幾つもの分厚く頑丈な鋼鉄製の扉を通らされて、<係官>へ引き渡された。
最初に、三人は、それぞれの<検分室>へ入れられた。
そこで、身に着けていたものを一切剥ぎ取られたが、それは、衣服から始まり、装飾品、
診療台へ全裸を横たえられては、陰毛までも完全脱毛させられるという、
文字通りの生まれたままの全裸とさせられることだった。
あからさまとさせた肉体にあってこそ、細部に及ぶまでの検分が可能となることであり、
<動物園>の見世物となるにしても、<売春施設>の被強姦物となるにしても、
恥毛など余計なだけであって、ケジラミの発生さえある、非衛生と見なされてのことだった。
それから、男女に応じた性の<係官>ふたりによって、頭の上から足の爪先まで検分が行われ、
容貌と姿態の美形の程度は、各箇所が念入りに評価され、陰部の出来具合については、
男性の場合であれば、勃起から射精までの程度、
女性であれば、膣へ挿入されたときから絶頂までの程度が実際に確かめられて、
これらが<男猿><女猿>の身上書として作成された、
名前などは言うに及ばず、年齢や履歴さえも不要であったのは、<猿>の存在理由とは、
使用頻度における耐用年数が一義の意味としてあることにすぎなかったからである。
この結果から、<特別取調所>の最高責任者である<係官長>の裁定で、
綾乃と隆之を<つがい>として試行すること、
紗織については、政府高官や財界人の個人所有になる<強姦愛奴>への試行が決定されたが、
当人たちへ知らされることでは、当然なかった。
生まれたままの全裸にある綾乃と隆之が引き合わされたのは、
縦・横・高さが一メートル半ほどの頑丈な格子で作られた鋼鉄製の檻の前であった。
ふたりは、互いをまともに見られないといった羞恥と屈辱から、
顔立ちをそむけ合ったままになっていたが、
連行してきた<係官>のひとりは、抑揚のない調子で説明を始めていた、
「これが、これから、おまえたちが休息を取ったり寝たりする場所となる、<猿の檻>、
施設の衛生上、食事と排泄は、別の場所で行わせるから、もよおしたら、申し出ること!
おまえたち、<進化できなかった猿>には、
不妊手術や無精手術などは、一切施されることはないから、安心なさい、
おまえたちは、あるがままに、求め合って、結ばれ合って、子孫を増やしてよろしいということ、
<猿>の血筋が絶えなければ、<猿>の存在価値も失われないということ、
但し、言われること、されることは、すべて受け入れること、
あらがったり、逆らったりしても、何の益にもならないということ!
わかったら、二匹とも、なかへ入って、しばらく、休んでよろしい!」
語り終えると、軋む音を響かせながら、檻の扉が重々しく開かれたが、
綾乃と隆之は、茫然となっているばかりで、立ち尽くしたままであった。
説明を行った<女係官>は、二匹へ、冷淡なまなざしを投げながら、
「私の言ったことが聞こえなかったのかしら?
二匹とも、なかへ入って、と言ったことは、二匹とも、なかへ入る、ということ!
言われることを受け入れろとは、言われたことをしろ、ということ! ほかに意味などない!」
口調は、少々きつかった、しかし、身動きひとつ示そうとしない相手に、
<男係官>が近づいてきて、いきなり、隆之の裸の尻を平手打ちしたのだった。
ばしっ、という音と共に、あっ! 何をすんるんだ! という叫び声があがった。
だが、隆之に、それ以上のあらがいは、見られなかった、
男の叫び音など比較にならないくらいの、きゃあ~という女の鋭い悲鳴があがったのだ。
<女係官>が乗馬用の鞭で、綾乃の優美な裸の尻を打っていたのだ。
「<猿>は、やはり、こうされないと、ものが理解できないのか!」
ついに、床へくず折れて、裸身を縮こまらせながら、懸命に鞭を避けようとしている綾乃に、
<女係官>は、鞭を振るいながら、罵声を飛ばした。
隆之は、慌てて、綾乃の身体の上へ覆いかぶさると、
わかった! やめてくれ! お願いだ! 言われたとおりにする! と訴えた。
鞭打ちは、すぐに収まった。
隆之は、綾乃を抱きかかえるようにして、檻のなかへ入っていくのだった。
軋ませる音と共に扉が閉められ、しっかりとした錠が下ろされていった、
それから、<係官>たちは、何事もなかったように、部屋を出ていくのであった。
ふたりだけにさせられると、綾乃を抱いたままにあった隆之だったが、
互いに顔を見合わせるなり、はっとなって、避けるように身体を離させるのだった。
そして、できるだけ隅の方へ身を寄せて、深く首を垂れさせながら、背と背を向け合った。
部屋には、ひっそりとなった静寂が立ち込めていた、
物思うには、最適の環境と言えるようなことであれば、
ふたりは、相手のことよりも、みずからと対面せざるを得ない思いにとらわれていた。
先ほど、<検分室>で陰部の出来具合を調べられたことは、
三度に及んで、性的官能の絶頂へ追い立てられたことだった。
一糸もまとわない全裸にさせられ、陰毛をまったく奪い去られことは、恥辱であった、
しかし、みずからの意思と関わりなく、無理やり、感じさせられた絶頂の快感は、
陰部を散々にいじくりまわされておもちゃにされ、
しかも、それが気持ちの良かった思いであればこそ、湧き上がる汚辱にも激しさがあるのだった。
ふたりを打ちひしがれた心境へ向かわせるばかりのことだった。
綾乃は、柔らかに波打つ艶やかな黒髪を頬にかけて、
伏目がちに床の一点を見つめたまま、口をつぐんでいた。
純白を輝かせる優美な裸身を横座りとさせた姿勢で縮こまらせ、
ほっそりとした両腕で乳房と下腹部をしっかりと覆い隠させていた。
二度と思い返したくない、<検分室>での忌まわしさとおぞましさは、
両眼から熱いしたたりをあふれ出させることに、躊躇などさせなかった。
すすり泣きを始めた哀しい声音は、静寂に満ちた、辛気くさい地下室の空気を震わせるのであった。
縦・横・高さが一メートル半ほどの立方体のなかでは、
身長一メートル六十センチの女性と一メートル七十八センチの男性がいることは、
互いが隅の方へ身体を寄せたとしても、肌と肌とが容易に触れ合ってしまう距離であった。
綾乃のなよやかな両肩の切ない震えが直に伝わってくるの感じて、
隆之は、決心したように振り向くと、声をかけた。
「綾乃様……
綾乃様のお感じになっていることは、ぼくも一緒です、
ぼくも、泣きたいくらいの屈辱にあります!
けれど、ぼくは、信じます、必ず来る、我々の至福の栄光!
いや、いますぐにも来るかも知れない、悪魔が裁かれる、正義の審判の日を!
ですから、ぼくは、死にたいなんて、思いません!
紗織さんとも、必ずめぐり会える日が来る! ぼくは、それを信じます!」
泣き声を打ち消すばかりの強い語調の声音だった。
綾乃は、おずおずと顔立ちを上げていた、まなざしを投げると、
そこには、精一杯の微笑みを浮かばせる隆之の精悍な顔立ちがあるのだった。
ふたりは、互いをじっと見つめ合っていた。
そして、どちらからともなく、手を差し伸べようとしたときだった。
男女の<係官>がどかどかと部屋へ入って来たのだった。
「いいところだったのかもしれないけれど……
二匹で行うのは、まだよ!
その前に、おまえたちは、相手を見て、どれだけ発情するか、という検分がある!」
<女係官>は、無表情に、檻のなかを覗き込んで、告げるのだった。
<男係官>も、一緒になって見やりながら、付け加えた。
「おまえたち、<猿>の行動は、四六時中、監視カメラで映像として記録されている、
<進化できなかった猿>の研究材料として、学術院への報告が義務付けられているからだ。
おまえたちは、この施設で、教育・調教・飼育され、<動物園>の見世物となることができて、
初めて、<見世物猿>と認められるのだ!
それまでは、試行期間にあることにすぎない、半分猿でしかない、
さあ、半分猿の<男猿>、出て来い!」
檻の扉が軋ませる音も大きく開かれた、
<女係官>の手には、威嚇するように弄ばれる、乗馬鞭が握られているのだった。
隆之は、綾乃の方をじっと見返すと、そろそろと檻を這い出して来た。
残された綾乃は、顔立ちを不安に蒼ざめさせて、成り行きを見守るばかりであった。
新たに、縄の束を携えた男女の<係官>がふたり、部屋に入って来た。
床へ立たせられた隆之は、入って来た<男係官>の手によって、
麻縄で後ろ手に縛り上げられ、胸縄を施される姿とされていったが、
観念したように、されるがままになっているだけだった。
綾乃には、隆之の真剣な顔立ちが信奉の強い意志を伝えてくるようで、
みずからも、絶対に負けてはならない、と意志を固めさせたことだった。
縛り上げられた縄尻を取られ、小突かれるようにして引き立てられながら、
全裸の隆之は、ふたりの<男係官>に添われて、部屋を出ていかされた。
「さあ、おまえも、出るのよ、半分猿の<女猿>!」
無表情の<女係官>は、乗馬鞭を振りまわして、相手を促した。
綾乃は、胸と下腹部を手で覆いながら、おずおずと檻を出てくるのであった。
床へ直立させた綾乃を前にして、仁王立ちとなったふたりの<女係官>は、じっと相手を観察した。
「隠させている手は必要ないわ、どけて! もっと、よく見せなさい!」
縄束を手にしている<女係官>が叫ぶと、綾乃は、言われるがままになっていくのだった、
美しい顔立ちを上げさせて、綺麗なまなざしだけは、虚空の一点を見つめやっていたが、
ふたつの美麗な乳房ばかりでなく、ふっくらとさせた恥丘に女の割れめも鮮やかにあらわして、
艶かしい女の曲線に縁取られた優美な全裸をあらわとさせているのだった。
「そうね、最近にない、美形の姿態だわね、顔立ちも美形だし、
これで、陰部の方と<媚態演技>に申し分がなければ、言うことはなしだわ!」
縄の<女係官>は、そのように評価すると、綾乃の背後へ向かっていった。
「縛るから、両手を後ろへまわして!」
緊張した顔立ちの綾乃は、ほっそりとした両腕をそろそろと背中へやるだけであった。
「縄というのは、本当に重宝なもの……
どのような用途にも、柔軟に対応ができる……
縄の使用は、日本と呼ばれた国家があった、遥か縄文時代にまで遡ることができるというのだから、
気の遠くなるような話だけれど、良い道具は後世にまで残る、という見事なお手本だわ、
<進化できなかった猿>は、この縄を男女の淫虐の性愛に使用していた事実から、
この施設でも、調教のために採用されていることだが、当時の表現では、緊縛と言って、
女性の姿態そのものが縄掛けを引き立たせる構造を持っている、とまであったらしい、
まったく、女性に対する性的侮辱もはなはだしいことだが、それが幼稚さのあらわれなのだわね!
意味不明の比喩に満ちた文学が完全消滅してしまったように、消滅してしまったわけだわ、
縄を用いた男女の淫虐の性愛に倒錯した美を感ずるなんて、脳髄が倒錯しているとしか言えない!
美は、整合性のある調和の善的なものにあって、一義にしかあり得ないことよ!」
そのように話しながら、相手を後ろ手に縛り、胸縄、首縄、腰縄と手際よく施していったが、
綾乃には、聞かされている話の半分も聞こえてこない、緊張させられることでしかなかった。
「言うとおりだわ、このような姿にさせられて、官能の快感を感じてしまうというのだから、
動物であることの下等をあらわすことでしかないわね、
下等は下等であるから、下等でしかない! 整合性のある論理だわ!
さあ、下等な<女猿>、<調教室>へ行くわよ!」
鞭の<女係官>は、そのように決め付けると、先頭になって、歩き出した。
顔立ちをこわばらせた綾乃は、もうひとりの<係官>に縄尻を取られ、
引き立てられるようにされながら、<猿の檻>を後にしていくのだった。


ふたりの<女係官>に添われて、綾乃は、<調教室>へ入らされると、
部屋の中央に据えられた大きな診察台へ、縄で縛られた全裸を仰向けに寝かされていった。
それから、しなやかに伸びた美脚を左右から取られ、強引に割り開かされたが、
羞恥と不安で上気させられた顔立ちの綺麗な唇を真一文字とさせて、
こらえる表情を滲ませるものの、あらがう素振りは、まったく見せることはなかった。
それは、<純粋種優生主義>信奉の思いの固さのあらわれのようであったが、
<女係官>たちにとっては、作業を円滑にさせているということでしかなかった。
麻縄で縛られた双方の足首は、左右へ立つ支柱へ繋がれたことで、
女の股間は、これ見よがしのあからさまにさらけ出されていた。
その箇所をじっと見つめながら、鞭の<女係官>が抑揚のない声音で言った。
「顔立ちや姿態が格別に美形だからといって、陰部の箇所さえ美形であったとしても、
やはり、<女猿>は、<女猿>にすぎないわね!
生まれたままの全裸にされ、<検分室>で三度、官能の絶頂を極めさせられて、
ひと休みさせられ、今度は、縄で縛られた姿にされただけで、見てよ、このありさまだわ!
何を考えているのか知らないけれど、被虐に晒されていることで、
花びらを開き加減にさせて、もう、膣から、花蜜を滲ませているのよ!
男性が欲しくて、欲しくて、しようがないというのでは、動物の下等根性、丸晒しだわ!」
そのように決め付けられて、顔立ちを真っ赤にさせる綾乃であったが、
性的官能を揺さぶられ続けている身上と境遇にあっては、
縄で緊縛され、拘束された不自由は、全裸の無防備をあからさまに意識させることだった、
拘束される縄の感触がみずからの思いをよそに、官能を自然に高ぶらせていくことだった。
そのような状態にある女にとっては、最適なものがあると、縄の<女係官>は、
手にしてきた新たな道具をぶらぶらと弄びながら、相手に見せつけるようにしていた。
「<進化した高等な人間>には、まったく不要となった、グロテスクな異物だけれど、
この古い道具も、<女猿>にとっては、大変に重宝なものだわね!」
綾乃は、醜いイボイボが付いた、太くて長い擬似陰茎の矛先を唇へ触れさせられて、
両眼を懸命に閉じてこらえるのであったが、<女係官>の無表情は、変わらなかった。
「このようなものを奥深くまで差し入れられて、電池の安っぽいうごめきで、
馬鹿らしくて、聞いていられないくらいの甘美で、悩ましいよがり声を張り上げて、
時には、泣きじゃくるまでの官能の快感をあらわとさせる!
<女猿>の嬌態なんて、はしたなくて、浅ましくて、見苦しいばかりで、
下等動物をあらわとさせているだけのまったくうんざりさせられることだけど、
私たちも、これが職務だから、仕方なくやっていることよ!
さあ、そいつを頬張って、舌先で感触を確かめて見なさい!」
擬似陰茎の矛先は、綺麗な形の唇を割らせるまでに押し付けられていたが、
綾乃は、いやだというように、眉根をしかめ、両眼をぎゅっと締めていた。
しかし、そのあらがいも長くは続かなかった、
鞭の<女係官>が胸縄で突き出すようになっていたふっくらとした乳房を揉み始めたのだ。
それは、職務だと言われたように巧みで、優しく強く、揉み上げ揉み下げ、乳首をつまんではこねり、
こねってはつまみが繰り返されると、綾乃の口からは、ああっ、という甘いため息がもらされ、
我知らずというように、擬似男性の矛先へ、綺麗な唇をかぶせていくのであった。
「<女猿>、お得意のフェラチオとやらをやりなさいよ!」
縄の<女係官>の言葉に、綾乃は、閉じていた両眼を開かせて、相手を見やったが、
ふたつの乳房へ加えられる、官能を掻き立てられる愛撫には、
言われるがままになっていくしかなかったのだった。
のぞかせた女の甘美な舌先が擬似陰茎の矛先を舐め始めた。
「かなり、ぎこちないわね、経験は少ないようだから、しっかりと鍛えないと駄目なところだわね」
そのように、縄の<女係官>がぶっきらぼうな評価を下すと、もう片方も、淡々と付け加えた、
「でも、感度は、なかなかのものよ、膣からは、かなり滲み出してきているわ」
すると、<女猿>の舌先が懸命に舐め上げる陰茎は、突然、取り上げられた。
「それが確かなことであるかどうかは、一度、絶頂へ昇らせてみれば、わかること!」
<女係官>の握り締めた陰茎は、綾乃のさらけ出された股間へ向かわされていた。
それから、おもむろに、開かれた花びらが鮮烈な色彩をあらわす肉の穴へあてがわれた。
綾乃は、思わず、大きな両眼を見開いて、びくっとなり、優美な腰付きを浮かせたが、
有無を言わさず、一気に、押し込まれていったのであった。
それには、ああっ、ああっ、と声音を上げ、
柔らかな乳白色の太腿を悶えさせて、痛いっ、とあらがった綾乃だった。
だが、<女係官>の職務という容赦のなさは、手加減というものがまるでなかった、
ぐりぐりと押し込んでいかれる異物に、綾乃は、ああっん、ああっん、と泣き声をあげて、
まるで、処女が強姦されて、破瓜されているようにさえ映ることだったのである……
十歳の少女を無理やり裸にして、襲いかかるときに貫いた快感の電撃……
九十歳を超える政府高官が<新医療>の被施術者に目覚めさせたことは、
<女係官>のなかにも、知覚させるものであったことは、否定できないことであった、
ただ、これは、政府の職務として行われている、正義の整合性のある仕事だったのである。
恥毛を奪われ、柔和な白い小丘があからさまにのぞかせる、割れ目の縁まで開かせて、
奥までしっかりと含んだことをあらわしたさまは、ふたりの<係官>に、笑みを浮かばせたのだった。
それから、片方がうねりくねりさせる擬似陰茎の激しい動きに合わせて、
もう片方が立ち上がって真珠のきらめきをあらわす敏感な小突起を執拗にこねり始めた。
綾乃は、<検分室>にて、すでに三度の官能の絶頂へ追い上げられていたことで、
強引に掻き立てらる官能は、煽り立てられる暇もなく、一気に燃え立たせられた。
上気させた美しい顔立ちを右へ左へと、悩ましく悶えさせながら、
後ろ手に縛られた緊縛の上半身をねじりよじりさせて、
ああっ、ああっ、ああっ、と甘美な声音を張り上げると、すぐに昇りつめていったのだった。
「あら、あら、あら、随分と早いのねえ!
幾ら感度が良いからと言って、こんなに早くては、見世物にならないわ!」
しこった女芽をいじりまわしていた<女係官>が呆れると、
「でも、この<女猿>、調教次第では、かなりのものになると思えるわ、
膣の吸引と収縮の強度は、半端ではないもの!」
陰茎を握り締めていたもうひとりが答えていた。
含み込まされたままになっている擬似陰茎は、手が離されると、
昇りつめた快感の痙攣で、花蜜をあふれ出せながら、
びくん、びくん、うなずくようにうごめいているのだった……
画面に映し出されている、綾乃のあからさまな股間であった、
そこまでの成り行きを眼の前に置かれた、
音響付きの大画面モニターで見させられていた、
隆之であった。
別室の<調教室>へ連れて行かれた<男猿>は、
部屋の中央にある、晒し柱と称される、金属製の円柱を背にさせられて立たされ、
生まれたままの全裸を後ろ手に縛られ、胸縄を掛けられた姿態を、
腰縄でそこへ固定されるようにして繋がれていた。
<男猿>が<つがい>となる<女猿>を見て発情しないことには、見世物は始まらない、
<進化した高等な人間>は、実際に陰茎と膣を接触させることなしには、勃起はあり得なかったが、
性欲と官能が昔のままの<進化できなかった猿>にあっては、
実際の女の裸体は言うに及ばず、絵画や写真、映画などを見るだけで、嬌声を聴くだけで、
文章を呼んだり聞いたりすることだけでも、女を意識させることが勃起を引き起こさせる実際があった。
一度勃起したものであれば、しごくことを繰り返せば、必ず放出へ至ることでもあった。
<男係官>たちの前で、隆之が検分されたのは、その能力の程度だった。
綾乃が官能の絶頂へ至らせられるのと、ほぼ同時に、隆之の勃起させられた陰茎も、
<男係官>からしごかれて、白濁とした液を噴出させられたことだった。
愕然となった表情で、床の一点を見つめ続ける隆之だったが、
その様子を見つめながら、<男係官>の片方がぶっきらぼうに評価した。
「まあ、普通の上だな、立ち上がるのは、非常に、早かったが、
それは、あの<女猿>の顔立ちと姿態がなかなかの美形にあることによるから、差し引くとして、
そこから先は、何を考えたのか、こらえるように、俄然、遅くなった、
こらえ性があるというのは、<媚態演技>には必要不可欠のことであるから、
その点では、まずまずの初回と言える」
「長さと太さと肌具合の綺麗さは、立派なもので、
これならば、<男猿>と<女猿>の<つがい>でうまくいかなくても、
ホモ・セクシュアルの見世物でも、充分に使い勝手はある、
それでは、二度目を実施しよう……」
ともう片方が応じていた。
それから、 <男係官>たちは、濡れタオルで陰茎を綺麗に拭い、
床へ飛び散らせた精液を清掃してから、隆之へ告げた。
「いつまでも、首を落としていても、始まらないぞ!
間もなく、<女猿>の二度目が開始される、しっかりと顔を上げて、よく見ろ!」
叱咤する強い語調で言われたことであったが、
反射的に上げさせた隆之の顔立ちは、まるで空ろだった。
モニター画面に映し出される映像を最初に見させられたとき、
綾乃は、大きな診療台へ、縄で縛り上げられた全裸を押し上げられようとしていた、
会長・CEO夫人である綾乃は、人格の高潔な尊敬すべき人物である、と常に感じてきたことだった、
許婚である紗織の姉であることに、誇りの抱ける、美しい女性であると思っていたことだった、
その綾乃が、女の割れめをくっきりとのぞかせた、生まれたままの全裸の姿にあることは、
みずからも、陰毛を奪い去れて、陰茎を如実とさせられている姿にあっただけに、
更なる恥辱と汚辱に晒されようとするありまさは、
見るに耐えがたいものとしてあることでしかなかった、
だから、隆之は、画面を見まいとした。
しかし、鮮明な音響は、<女係官>たちが綾乃を被虐に晒すやり取りをありありと伝えてきた、
聞くまいとしても、後ろ手に縛られた身上では、聞こえてくるものでしかなかった、
それは、次第に、感覚の微妙なもつれ合いを意識させ、大きな戸惑いを生じさせるのだった。
やがて、綾乃の悩めるような甘美な声音が聞こえてくると、
みずからの思いなどよそに、勃起するのを意識させられるのであった。
尊敬する夫人に、義姉となる女性に、高潔な美しいひとに対して、
それは、恥ずべき反応でしかなかった、
そして、恥ずべきであると思えば思うほど、高ぶらされる官能があるのだった。
<男係官>たちは、左右へ立って、その様子を観察しているだけで、身動きひとつしなかったが、
隆之は、綾乃から扇情されることなど、絶対にあってはならないことだと思い、
それを、<係官>たちに知られることなど、恥辱であり、汚辱であると感じれば、
必死なって、顔立ちをそむけ、見まいとし、聞くまいとしたが、抑えられなかったのだった、
そのとき、思わず、画面を見てしまったのだ、
人の字に美脚を大きく割り開かせた綾乃が、これ見よがしのあからさまとさせた女の羞恥に、
太くて長い擬似陰茎を差し入れられているところだった。
隆之のそれも、てらてらとした輝きを帯びた反り上がりをあらわとさせていたことだった。
そこで、<男係官>のひとりがおもむろにそれを握り締めて、しごき始めた。
「<女猿>に合わせて、上手に放出を果たせよ!」
画面の<女係官>の擬似陰茎のうごめきに合わせて、しごきの調子が同調させられていた、
擬似陰茎に電気は入っていなかったから、二台のトロンボーンの協奏と言えるものであった。
隆之は、勃起させられた以上に、精液の放出など、綾乃に対する侮辱以外にないと思うと、
顔立ちを真っ赤とさせて、必死になってこらえるのであったが、甲斐はなかった、
前後への抜き差しを加速されると、ほぼ同時に、至らされたのだった。
そして、いま、二度目が始まると告げられた。
隆之は、空ろな表情で、見るともなしに、聞くともなしに、画面の方へ顔立ちを向けていた、
みずからのふがいなさへ沈み込むことは、陰茎も、また、萎えさせていることで、
それこそは、望むところだったのである。
映し出される綾乃は、診療台の上へ、縄で緊縛された全裸を人の字に晒させて、
あからさまにさらけ出させた女の割れめの中心へ、
擬似陰茎を奥深く突き立てられたままにあったが、
<女係官>によって、まさに、電源が入れられるところだった。
今度は、エレキ・ギターとアコースティック・ギターの協奏の始まりだったのである。
「二度目は、道具がやってくれるわよ、行き着くところまで、行きなさい!
行ったら、そこから、降りることをせずに、三度目を成し遂げること! わかったわね!」
<女係官>たちは、<女猿>のさらけ出す嬌態がよく見えるように、両側へ退いていった。
「<男猿>! いま、言われたことが聞こえただろう、二度目、三度目は、間断がないぞ!
しっかりと、<女猿>に同調させて、放出を果たせよ!」
<男係官>は、そのように叱咤したが、隆之は、ぴくりとも、動きをあらわさなかった。
恥辱と汚辱と被虐へ落とされても、
<純粋種優生主義>を信奉する尊厳は、綾乃もみずからも同調して抱くことであり、
それであればこそ、必死に耐えさせることである、
綾乃の嬌態に勃起させられ、放出まで果たしてしまう、みずからのふがいなさは、
悔やんでも悔やみ切れないものであったが、
今度こそは、抑えてみせるという一念のあらわれであった。
その思いは、綾乃にも、同様にあったことだった。
だが、軽いエレキの振動音を響かせながら、ゆっくりとうねりくねりを始める感触に、
綾乃は、美しい顔立ちの大きな両眼を開かせて、綺麗な形の唇を真一文字にさせて、
こらえようとするのであったが、優美にくびれた腰付きは、おのずと悶えさせられていくのだった。
声など絶対に上げまいと固めていた思いであったが、
ああっ、ああっ、ああっ、と聞こえてくるみずからの悩ましい声音に、
びっくりさせられる綾乃だったが、止められるものではなかったのだった。
鋭敏にさせられた官能は、みずからの思いをよそに、生々しくなってくるばかりであったのだ。
その甘美な女の声音は、隆之をはっとさせるほどに、魅惑的なものであったことは、
みずからの抑圧する思いをよそに、陰茎を立ち上がらせたことで、明らかとさせたことだった。
高ぶらされる官能に悩ましく悶える甘美な女を聞いてしまっては、
優美な全裸を縄で緊縛されて、擬似陰茎の淫靡なうごめきに合わせて、
ねじり、よじり、打ち振るう、妖美な姿態、その妖艶な綾乃の顔立ちを見てしまっては、
もはや、到底、抑えられることではなかったのだった。
だらしがない、不埒だ、浅ましい、見下げた男だ、冷徹な否定の防壁で何とか防ごうとするが、
そのようなものは、綾乃のあらわす、女の美しさの前に、簡単に吹き飛ばされてしまうのであった、
それほどに、綾乃の放つ女の色香は、隆之にとって、抜群のものがあったのだった、
これ以上の女性はないと思わせるほどのものがあったのだ。
縄で全裸を緊縛され、擬似陰茎を挿入された女は、燃え立たせられていく官能に、
身の置き所がないというように、上半身を右に左にうごめかせ、腰付きを悶えさせていたが、
昇りつめるのが間近であるのは、激しくなってくる声音に、見事にあらわされていた、
あっん、あっん、あっん~、
下半身をぶるぶるとさせながら、甘美な泣き声へと変わっていくことだった。
「よし、それだけ、反り上がらせて、勃起させることができれば、いいだろう!
<女猿>と一緒に果たさせるぞ!」
<男係官>は、むんずと握り締めた一物の硬さを確認すると、頃合を見定めた。
それから、画面に映し出される女の嬌態に合わせて抜き差しさせ、男を燃え上がらせた。
職務とは言え、<男係官>の手際の良さは、今回も、見事に同調の放出を果たさせるのだった。
隆之は、あっ、あっ、あっ~、と叫び声をあげると、綺麗な噴出をあらわとさせていた。
だが、すぐに、もうひとりの<男係官>に漕ぎ手が代わると、
しなだれる素振りを見せる余裕もなく、再び、ゆっくりとしごかれていくのだった。
それだけではなかった、先の<男係官>は、隆之の顔立ちを向けさせると、
無理やり口を開かせ、みずからの舌先を差し入れて、舌と舌とを絡ませたのである。
追い立てられていく官能の快感に、三度の放出はきついと感じさせられながらも、
隆之には、もはや、されるがままとなるだけのことでしかなかった。
官能の快感の絶頂へ至らされ、緊縛の裸身をのたうたせて、
喜びの痙攣をあらわとさせる綾乃の方も、今度は、
挿入されている擬似陰茎のうねりくねりのエレキを最大へと持って行かれたことであったが、
<女係官>は、同時に、しこり立った敏感な小突起へ唇を寄せて、舌先で舐め上げ始めていた。
さらに、もうひとりの<女係官>の方は、綾乃の裸身へ添い寝をするように横たわると、
片方の手で乳房を揉み上げながら、もう片方の手で相手の顎をとらえ、綺麗な形の唇を開かせて、
みすからの舌先を受け入れさせ、激しくもつれ合わせることを始めるのであった。
そうして、<男猿>と<女猿>は、
三度目の絶頂を目指して、激しく追い立てられていくのだった。
どのような熱烈な舌先の愛撫であったとしても、
<係官>たちにとっては、高ぶらせる官能などまるでないことであって、
単なる職務にすぎないことであったとしても、
隆之と綾乃にとっては、官能の快感を激しく燃え立てさせられ、
夢中となって浮遊させられるばかりのことであって、
顔立ちを美しく火照らせ、悶え苦しむ甘美な声音をくぐもらせながら、
昇りつめていくことでしかなかったことだった。


動物は、動物にしかすぎない、<進化できなかった猿>は、<進化できなかった猿>でしかない、
<特別取調所>における、この整合性のある論理は、
新たに入所した、<女猿>と<男猿>が見事な実証を付け加えたことであった。
これまで、入所して来た、どのような年齢や履歴を持った<女猿>や<男猿>であっても、
用意周到な教育・調教・飼育の経過の果てには、
<動物園>の<見世物猿>として見事な成長を遂げさせた実績があった。
綾乃と隆之にしても、<お見合い>という段階へ進まされていくことであった。
それぞれの<調教室>で、三度の性的官能の絶頂を極めさせられた後、
<女猿>は、生まれたままの全裸姿を麻縄で緊縛された姿のまま、
ふたりの<女係官>に添われて、<男猿>の待つ<調教室>へ連れて行かれた。
部屋の中央にある、晒し柱と称される、金属製の円柱を背にさせられて、
生まれたままの全裸を後ろ手に縛られ、胸縄を掛けられた姿態を、、
腰縄でそこへ固定されるようにして繋がれている隆之を見た瞬間、
綾乃は、顔立ちを俯かせて、込み上がってくるものを懸命にこらえるのであった。
みずからも剥き出しの全裸を縄で縛り上げられているという惨めで恥ずかしい姿にあった、
それを眼の前へ如実に示されたように、陰部の恥毛をすっかり奪われている隆之の全裸は、
その目的のために作られた、恥辱の姿態そのものと感じられたことだった。
その目的のために……
ここへ連行されて以来、性欲の目的のために、行わされたことしかなかった現実だった、
恥辱、汚辱、被虐、淫猥の現実……
この現実にあることが生き抜くことであるのかと思うと、
悲惨と哀切と無情が思いを沈めていくばかりのことだった。
そのような現実は、まともに見たくない……
隆之も、また、顔立ちをそらさせて、相手を必死に見まいとしていた、
みずからの意思をよそに、三度も、性欲の放出の対象とされた女性が眼の前にあった、
優美な全裸を縄で緊縛された残酷な姿にある綾乃は、みずからのふがいなさのあらわれだった。
「あら、あら、あら、<男猿>も<女猿>も、
初めての相手だからと言って、恥ずかしいのかしら、
でも、恥ずかしがってばかりいては、相手は、よく見えないわよ。
これから、<つがい>になるための<お見合い>と言って、とても大事なことが始まるのよ、
この検分で、二匹の相性が悪いと評価された場合は、<つがい>とは確定されない、
それぞれは、別の相手を探す可能性になるから、
しっかりと相手を見て、行いなさいということ! それが<お見合い>ということ!
二匹とも、容貌、姿態、陰部ともに、美形であれば、
<媚態演技>さえ良質ならば、<人気物>になれる可能性がある、
<人気物>になれば、使い古されても、<売春施設>への格下げがないこともあり得るから、
われわれ、<進化した高等な人間>の夫婦のように、
生涯を<つがい>として送ることのできる、最上の幸福ということになるわね!
別の相手を探す可能性がホモ・セクシュアルやレズビアンであった場合は、性欲の少数だから、
性的官能を高ぶらさせることが上手であっても、その思いが明確にないと、相性が生まれにくい、
これまでも、相手を頻繁に変えさせて、<見世物猿>とさせるほかなかったことだから、
<男猿>と<女猿>の<つがい>のようには、<つがい>も生まれにくかった。
われわれ、<進化した高等な人間>では、一義でしか考えられない健全な性欲であっても、
おまえたち、<進化できなかった猿>では、性差別が幸福と不幸を生んでいるということね!」
<女係官>は、丁寧な調子で説明していたが、
綾乃も、隆之も、みずからに閉じこもるばかりで、ほとんど聞こえていない様子だった。
だが、そのようなことは、まるでお構いなしに、
綾乃は、緊縛された全裸の背中を小突かれて、隆之の立たせられた間近まで近寄らされた、
それから、告げられたのだ。
「<女猿>! <男猿>の陰茎が萎えてしまっているのが見えるわよね、
これから、もしかして、おまえの一生の<つがい>の相手となるかもしれない<男猿>よ、
どのようにしたら、元気がでるか、おまえは、常に、そのことだけを考えるの、
餌の確保の気苦労、寝る場所の心配、食事や排泄物の手間、
そのようなことは、一切考える必要はないわ!
気楽なものよ、まさに、動物天国と言うところだわね!
ただ、おまえたちを教育・調教・飼育する<係官>から、<見せろ>と命じられたら、
<女猿>と<男猿>は、<媚態演技>を見せなければならない!
それがおまえたちが<つがい>であるということのあかし!
それだけのこと! わかりやすいわね!
さあ、きちんと見てあげなさいよ!
おまえがつれない態度を取れば、<男猿>も、立つ瀬がないことよ!」
<女係官>は、<女猿>のそらさせていた顔立ちを強引に向けさせるのだった。
「隆之様……」
綾乃は、思い余って、かすかな声音をもらさせた。
相手に、それが聞こえないはずはなかった、隆之も、顔立ちを正面に向けていた。
「綾乃様……」
<男猿>と<女猿>を取り囲むようにしていた四人の<係官>にも、聞こえたことであった。
「へえ! おまえたちは、知り合いだったのか!
ここへ入所させられる<猿>は、氏素性もまったく不明であることは当然のことだが、
二匹が知り合いであるならば、話は早い! 教育・調教は、手間なく運べることだ!
では、早速、<女猿>!
おまえの知り合いの<男猿>の陰茎を、舌先を使って、立たせて見ろ!
<男猿>も、知り合いからされる愛撫であれば、心置きなく反応できるはずだ!
さあ、やって見せろ!」
そのように命じられた綾乃だったが、顔立ちを怯えと不安に蒼ざめさせて、
胸縄を掛けられてせり上げられた、なよやかな両肩を震わせるばかりだった。
「どうしたの、<見せろ>と言われたら、行わなくてはならないと言われたでしょう!」
<女係官>が畳み掛けるように言いながら、<女猿>を床へ跪かせようとした。
綾乃は、あらがった、頑なに、動かされることを拒んでいた。
「おまえは、頭が悪い<女猿>だね!
最初に、言われたことでしょう、
あらがったり、逆らったりしても、何の益にもならないと!」
もうひとりの<女係官>は、そう言うと、その指先は、<男猿>の陰茎をつまんでいた、
それから、握り締めて、揉み上げる仕草を始めたのだった。
隆之は、何をする! という思いの屈辱で顔立ちを歪めて、ううっ、ううっ、と耐え忍んだが、
先端の敏感な箇所をいたぶられると、思わず、声を出さずにはいられないことだった。
綾乃は、大きな両眼に涙を浮かばせながら、おろおろするばかりであった。
「<つがい>とは、雌雄一心同体という意味でしょう!
<男猿>が嫌な目に遭っているとしたら、おまえもそうなるだけのことよ!」
<女係官>が吐き捨てるように言うと、
<男係官>たちは、綾乃の間近に迫って、ひとりが背後から羽交い絞めにすると、
もうひとりがおもむろに<女猿>の股間へ指先を差し入れたのだった。
きゃあっ~! 上がった綾乃の悲鳴は、もぐらされてくる激しい指のうごめきに、
優美な腰付きをよじらせて、いやっ、いやっ、いやっ~、痛い! と叫ばせていた。
背後の<男係官>の片手も、
胸縄で突き出すようにされた、ふっくらとした乳房を揉み上げ始めていた。
ああっ! ああっ! ああっ!
綾乃は、悲痛な表情になって、悲鳴を上げながら、顔立ちを右へ左へ悶えさせた。
このままの調子で行ったら、綾乃は、床へ押し倒されて、
ふたりの<男係官>から、思いを遂げさせる、強姦の餌食にされる勢いが露骨にあるのだった。
戦時下に、そのようにして、複数から犯された老若男女をどれだけ見てきたことか、
相手の振舞いが職務とは到底思えない、真に迫っているとしか感じられない、隆之だった。
「綾乃様! お願いです! お願いです! 言われたことをしてください!
ぼくは、どうなってもいい! だが、あなたが酷い目に遭うのを、ぼくは、ぼくは、見たくない!」
悔しさと憤怒のあまり、精悍な顔立ちを激しく歪め、紅潮させながら、
縛り付けられた上半身を揺さぶって叫んでいた。
それに対して、陰茎を執拗に揉み上げていた<女係官>は、
「<女猿>、見てごらん! この立派に反り上がったこと!
<男猿>の方の準備はできているって、この太くて長いものは、そう言っているのよ!」
手が離された一物は、反り上がった勢いから、うなずくように、上下に揺れていた。
<男係官>たちは、中途半端に止めるのが惜しいと言うように、
貫かれた快感の電撃に殺気立った表情を残しながら、<女猿>の裸身から離れていくのだった。
綾乃は、緊縛された裸身を床へくず折れさせていた。
「綾乃様! しっかりして! 
いまを耐えれば、必ず来るのです!
悪魔の裁かれる、正義の審判の日が!」
隆之は、ぐずぐずしていれば、<男係官>たちが、再び、綾乃へ襲い掛かるのを感じて、
懸命に叱咤激励するのだった。
綾乃は、顔立ちをおずおずと上げて、相手の真剣な形相の顔立ちを見やるが、
「できません! 私には、そのようなこと、とても、できません!」
と言うのであった、隆之は、すかさず、言い返した。
「無理であるのは、当然です! 綾乃様は、高潔な方です!
しかし、考えてください! できなければ、ふたりは、<つがい>でなくなります!
離れ離れにされてしまいます、紗織さんを失って、あなたまでも失うなんて!
お願いです! ぼくを隆之などではなく、綾乃様の愛されたご主人と思って!
お願いです、してください! お願いです!」
隆之も、込み上げてくる熱いもので、両眼をうるませているのだった。
取り囲んだ四人の<係官>は、そのありさまを無表情に眺め続けているだけだった。
綾乃は、美しい顔立ちに悲愴を滲ませて、緊縛の裸身をにじり寄らせるのだった。
それから、激しく震わせた声音で、
「紗織、許してください。あなた、許してください、隆之様、この綾乃を許してください!」
と言うと、しなだれかかっていた陰茎へ、綺麗な形の唇を触れさせるのであった。
それから、のぞかせた甘美な舌先で、舐め上げ始めるのだった。
綾乃にとっては、考える余裕などなかった、
ただ、無我夢中で行わせることでしかなかったのだった。
それは、懸命になって行われただけに、一物を一気にもたげさせていくものであった。
隆之にあっても、尊敬する美しい夫人、綾乃にされていることであれば、
反応をあらわとさせないことは、相手の必死の思いに対する、侮辱とさえ感じられることだったのだ。
「何だ、少々ぎこちないやり方だが、やろうと思えば、できるということか!
それを、ごちゃ、ごちゃとまわりくどいことを話し合って、理解に及ぶというのだから、
まったく、<猿>の脳髄は、原始的な産物でしかないわけだ!」
<男係官>が呆れたように言っていたが、残りの者たちは、意味もないというように、
舌先で懸命に舐め上げている<女猿>を冷然と眺め続けているだけだった。
綾乃は、柔らかな舌先を少し出して、先端部分を舐めまわしていたが、
閉じ合わせた目尻からあふれ出させた涙も、紅潮した頬の上で、乾き始めていた。
柔軟な甘い舌先が剥き出した先端をてらてらと濡らしていくにつれて、
受身になっているだけの隆之の繋がれた裸身も、うごめきを見せるようになっていた。
相手の反応を感知してか、綾乃の舌先の愛撫も、強弱をつけるようにして応え始めた。
ついには、隆之は、甘美に舐めまくられる官能の高ぶりから、
はあ~ん、というやるせなさそうなため息をつくのだった。
相手の悩ましげなため息を知ると、綾乃は、一度、隆之の顔立ちを仰ぎ見た、
男のまなざしには、思いの込められた真剣さが窺われるのであった。
後ろ手に縛られて跪かされた、緊縛の裸身をもどかしそうにしながら、
綾乃は、舌先の愛撫へ、さらに熱意を込めさせていくのであった。
「あれほど嫌がっていたことを、<女猿>は、いったい何を考えて、
このように夢中になって行なえると言うんだ!」
<男係官>が呆れたように口を切った。
「好きは好き、嫌いは嫌い、愛するは愛すること、一義の意味しかない!
<女猿>は、嫌よ嫌よも好きのうち、とわけの分からない原始的な考え方をするだけよ!」
<女係官>がうんざりしたように答えた。
<係官>たちの言葉など、まるで、耳に入らないというように、
熱中している<女猿>と<男猿>だった。
綾乃は、懸命に行う愛撫から、官能の快感をますます高ぶらさせていき、
初めは、相手を愛する亡き夫と思いながら行わせていたことであったが、
いまは、自分へ優しく思いを掛けてくれる男性へ、素直に思いを返させることだった。
隆之は、刺激される一物から、官能の快感を煽り立てられていたが、
初めは、紗織に対して、不倫を行っている罪悪感にとらわれたことであったが、
仰ぎ見る綾乃の思いの込められたまなざしを知ると、
それは、まるで、あなたさま、如何ですか、気持ちはおよろしゅうございますか、
綾乃の仕方、よろしゅうございますか、と囁かれる声音さえ聞こえてくるようで、
この世で最も素晴らしい女性、
その方の美しい唇と舌がみずからのものに触れているのだと考えると、
感激さえ感じさせることになっていたのだった。
その美しい綾乃が、今度は、大きく舌をのぞかせると、
熱く膨張した先端を鎮めるかのように、たっぷりとした唾液を出しながら、舐め上げたのであった、
それから、うっ、うっ、という切なそうな男の声音と共に、先端の魚口から糸が尾を引きだすと、
綺麗な唇を開かせて、陰茎を口中へ含んでいくのであった。
「ああっ、ああっ! 綾乃様! 綾乃様!」
隆之は、火照り上がった顔立ちをもどかしそうに、右へ左へ悶えさせて、ひきつった声音をあげた。
その声音が激励させるかのように、綾乃は、口に含んだものを夢中になってしゃぶりだした。
「やはり、<女猿>は、<女猿>の脳味噌しか持っていないという実証だな!」
「いいじゃないの、やって見せろ、と言われなくても、これだけ積極的であれば!
<男猿>と<女猿>が<見世物猿>として立派に育ってくれれば、
私たちにも、多額の報奨金が出るんだから!」
「そうよ、報奨金が目当てでなければ、頑張れる仕事じゃないわよ!」
「いずれにしても、最近にない、容貌、姿態、陰部の三拍子揃った<猿>たちに違いなければ、
<媚態演技>をどこまで習得できるかということだ!
二匹が知り合いであれば、教育・調教も速やかに運ぶことだろう!」
二匹だけの世界を作り上げている綾乃と隆之には、
<係官>たちの交わす会話など、どうでもよいことでしかなかった、
むしろ、互いに相手を思いやることがさせていることであれば、
ふたりは、共に、<純粋種優生主義>という思いにあってひとつとしてあり、
互いに高ぶらされていく官能であれば、行き着くところもひとつでしかなかったことだった。
綾乃は、うっとりとさせた半開きのまなざしをあちらこちらとさまよわせながら、
口のなかへ含ませたものを舌先を使い、優しく強く、執拗に愛撫し抜いていた。
その甘美な刺激がうねるように波打ち、瀬戸際の快感まで来て砕けるたびに、
隆之の開ききった唇からは、ううっ~、ううっ~、ああっ~、というやるせないうめき声がもれる。
跪かせている綾乃の艶かしい白い尻も、悩ましく右に左にくねりだしていた。
<男係官>たちは、<女猿>の背後へ近づいて、覗き込むようにした。
柔和な尻のふたつの小山の間から、女の蜜がきらめくしずくをあらわして流れ落ち、
艶やかな太腿を鮮やかに濡らしていることが確認されると、
「いやあ、なかなかのものだ! 慎ましやかな外見からは、分からないものだ!」
ひとりは、そのように言い、もうひとりは、尻を見つめながら、しきりにうなずいて答えた。
「実直な<男猿>にしても、これだけの淫乱な<女猿>であれば、不満はないだろう!」
何を言われようが、綾乃と隆之は、
置かれている境遇などまったく意に介さないというように、
官能の快感のなかに浸り切れるからこそ、ふたりだけになれる世界へ耽溺するのであった。
「うう~う、うう~う、ああっ、ああっ、綾乃様っ!」
隆之は、顔立ちをのぼせ上がらせ、高まって来ている官能にうめき声を上げ、
縄で後ろ手に緊縛された上半身を狂ったように揺さぶるのであった。
綾乃は、頬張っていた陰茎をすぽっと口中から抜くと、
放心したような表情を浮かべながら、情感のこもった声音で囁きかけるのだった。
「気持ちいいですか、あなた……気持ちいいですか……
綾乃の仕方、よろしゅうございますか……
どうぞ……いらしてください……」
思わす、はっとさせられる相手の言葉だった。
隆之は、高ぶらされた官能以上に、狼狽させられる思いへと振りまわされた。
「綾乃様……」
顔立ちを上気させた綾乃は、再び、相手の充血して反り返った一物を口中深くへ頬張ると、
一気に追い上げようとして、柔らかな黒髪を揺さぶらせて、狂おしく頭を前後へ動かすのであった。
「ああっ、ああっ、綾乃様っ! いけないっ!」
隆之は、思わず、大声を張り上げて、相手も、みずからも制止させようとしたが、
緊縛された裸身は、ぶるぶるとさせた身震いさえ示して、
激しい快感が高まっていることをあらわとさせるばかりだった。
綾乃は、もはや、忘我の状態といったありさまで、
含んでいるものを口中で締め付けて摩擦を繰り返すだけだった。
ものに憑かれたような<女猿>の嬌態のありさまを見て、<女係官>は、叫んでいた。
「すごいわね! 強制もされないで、ここまで<媚態演技>を行うのだから、
本当に、この<女猿>、すごいわよ! これは、ものになるわ!」
しかし、隆之は、形相を激しく歪めて、必死にこらえ続けていた。
綾乃は、突然、思い立ったように、口中から陰茎を離し、
相手の顔立ちを仰ぎ見て、思いを込めた声音で言うのだった。
「隆之様……遠慮なさらなくとも、よろしいのです……
私を、あなたの愛する紗織だとお思いになって……
思いを遂げてくだされば、よろしいのです……
それが綾乃の本望です……」
そう言い終わると、うっとりと両眼を閉じ合わせて、男のものを奥深く含んでいくのであった。
口中にしっかりと頬張られたものへ、激しく摩擦される愛撫がまたもや加えられ、
隆之は、切羽詰った堰を女の言葉で切って落とされたように、吼えるのであった。
「ああっ! ああっ! 綾乃様! 綾乃様! この隆之をお許しください!」
柱へ繋がれた緊縛の裸身をびくんと硬直させると、首をのけぞらせて、痙攣を始めるのだった。
その痙攣へ同調するように、綾乃もまた、跪かせた緊縛の裸身をぶるぶると震わせ始めた。
男の情念の噴出を受けた瞬間、女の両頬は、真っ赤に染め上がり、
激しく眉根を寄せて、懸命に受けとめていたが、
両眼を固く閉ざさせて、繰り返される噴出を受け入れているその横顔は、
頬張ってふくらんでいる赤い頬を悲壮感さえ漂わせるほどに映らせていたが、
それは、やがて、情感に満たされた妖艶な表情へと変化していくのであった。
丸い尻のふたつの艶かしい小山の間からは、雪白の内股をきらきらと輝かせながら、
おびただしい花蜜が床にまで流れ落ちていたことは、誰の眼にも、明らかなことだった。
綾乃の唇の端から、白濁としたよだれがあふれ出すのを見た、<女係官>は、
「そこまで行うことができたのだから、しっかりと最後まで、呑み込んであげなさい!」
と叱咤した、すると、綾乃は、陰茎を口から離すと、言われたとおりのことをするのだった。
さらに、<女係官>たちは、唇と舌先を使って、陰茎を綺麗に後始末させることを促したが、
そのように仕向けられても、綾乃は、あらがう素振りひとつ見せることなく、
それをみずからの身上とでもいうように、素直に従い、丁寧に行うのだった。
されるがままになるだけの隆之は、柱へ繋がれた裸身をぐったりと虚脱させて、
顔立ちをうなだれながら、快感の余韻に、全身を浸らせているという様子だったが、
綾乃のけなげな態度には、感激の涙さえ浮かばせているのだった。
「いいわよ、そのくらいで!
<媚態演技>、まあまあの出来だったわ!」
<女係官>がそのように結論付けると、
綾乃は、跪かせていた裸身をくず折れさせるように、床へ横座りの姿勢とさせていき、
快感へどっぷりと浸かるように、ばら色に染め上げた美しい顔立ちを伏せさせるのだった。
女にとっては、生れたままの全裸を麻縄で後ろ手に縛られ、
乳房を突き出させられる胸縄を掛けられた、その姿態で、
同様の全裸の緊縛姿にある、妹の許婚を相手に、男が快感の噴出を上げるまで、
唇と舌先だけを使って、情を交わし終えたことであったが、
<係官>たちからすれば、
<女猿>が<男猿>へ行った、吸茎の<媚態演技>でしかなかった。
問題は、そこから先にあることを予想されていたことで、
二匹を取り囲んでいた、四人の<係官>は、次々と部屋を出て行くのであった。
<調教室>には、<男猿>と<女猿>だけが取り残されることになった。
この二匹の様子は、別室で、監視カメラのモニター画面によって、一部始終が観察された、
そこであらわされる二匹の態度の如何に依って、
<つがい>の是非が決定される検分だったのである。


静寂にある、<調教室>の中央に立つ晒し柱へ、
全裸を縄で縛り上げられた隆之が立たされて繋がれ、
その足元の床へ、
同様の緊縛姿にあった綾乃が横座りの姿勢となって添わされていた。
ふたりは、快感の絶頂も、沈静へと赴いていくなかで、
白々とした思いがみずからのうちに湧き上がってくるのを意識させられていた、
それは、互いの存在を明瞭に意識し合うということでもあった。
隆之は、足元にある綾乃をまともに見ることができずに、顔立ちをそらさせていた、
綾乃も、相手を仰ぎ見ることなど論外で、ひたすら顔立ちを俯かせるばかりであった。
最初に口を開かせたのは、綾乃が華奢な両肩を震わせて、すすり泣くもの哀しい声音で、
隆之は、それを耳にすると、居ても立ってもいられない思いになってくるのだった。
「綾乃様! 悪いのは、綾乃様ではない! このぼくです!
いくら、生き抜くためとは言え、
綾乃様に、恥知らずなことをお願いし……恥知らずなことをしました……
どうか、どうか、ご自分を責めずに! 私を責めてください!」
部屋へ響き渡るくらいに叫ばれたことであったが、込み上げてくる熱い思いは、
両眼にあふれ出させる涙のしずくとなって、落とさせるのであった。
そのしずくは、横座りとなって緊縛の裸身を晒させている、相手の膝の上へ落ちていた。
綾乃は、顔立ちを俯かせたまま、震える声音で答えていた。
「いいえ、いいえ、隆之様……
恥知らずなのは、この綾乃です……
 人の道にそむいた愛欲を交わすことを、夢中になって行ってしまって……
ああっ、隆之様! もう、何もおっしゃらないでください!
すべては、すべては、綾乃の罪なのです……」
綾乃は、縛られた裸身をさらにふたつ折りにさせながら、
顔立ちを覆い隠すようにかからせた、艶やかな黒髪を揺らさせて、泣きじゃくり始めるのだった。
相手へ触れることもできない、言葉も力を持たない、何もできないみずからのふがいなさに、
隆之も、心底泣きたい気持ちであったが、そのとき、思い起こしたのであった……
生き抜くためとは、何のために! いったい、何のために、生き抜くことであるのか!
愛する許婚の紗織と再びめぐり会うために……
離れ離れにされた紗織は、自分たちと同じ目に遭っているはず、
自分たちが過酷な思いに泣くことしかできないのであれば、紗織も、同じこと、
ましてや、紗織は、たったひとりで頑張っている、
ひとりで頑張り切れるものかどうかも、もわからない、
再び、めぐり会えるかどうかも、わからない……
だが、ぼくには、心の支えとなる、綾乃様がそばにいる、
恥辱と汚辱にあってさえも、ぼくを受け入れてくださった、綾乃様がそばにいる!
ぼくが綾乃様の心の支えとならなければ、
綾乃様にも、ぼくにも、生きている意味は、なくなる……
隆之は、相手から感じさせられた感激を思い返して、口を開いたのだった。
「綾乃様……
ぼくは、常に、あなたのそばにいます、
あなたと<つがい>になることであれば、ぼくは、生涯、あなたに連れ添います、
ぼくのような男でよかったら、どうか、ぼくを受け入れてください、
ぼくは、あなたの何もかもを受け入れます、あなたの言う罪とやらも、ぼくは、受け入れます、
ぼくは、あなたと<つがい>として、生き抜くことを決心しました、
それが、必ず来る、至福の栄光ある国のために、生き抜くことだからです!
この地球上のどこかに、新たに建設された、<新医療>の施術を受けていない者の国家、
そこへ行き着くためにです、綾乃様、存分にお泣きなさい、
泣きじゃくるあなたであっても、隆之は、あなたをその国へ引っ張って行きます!
あなたを愛しています!
すべては、愛するあなたとの間で行われたことであれば、
罪なんて、何処にもないことだからです!」
隆之が力強く言い放った愛の告白だった。
聞かされた綾乃にとっては、驚くばかりの、戸惑うばかりの、混乱させられる言葉だった、
それは、泣き止ませるのに充分なものだったことは、確かだった。
綾乃は、泣き濡れた顔立ちを上げると、隆之を仰いで答えるのだった。
「……でも、それでは、紗織は、どうなるのです!
紗織は、いったい、どうなるのです!
私へ思いをかけてくださるという隆之様のお言葉、綾乃は、大変嬉しく思います、
けれど、私は、最愛の妹を裏切るなんてことは、とても、できません!
あなたと<つがい>にされる、それは、生き抜くためには、仕方のないことでしょう、
けれど、それは、愛とは、関係のないことです!
あなたには、紗織があって、私には、亡き主人があることです!
私は、あなたにとっては、娼婦のようなものにすぎないということです!
私は、先ほど、恥ずべき行為をしていたとき、
紗織に対して、あなたに対して、申し訳のないことをしているのだという思いから、
もし、私が娼婦のようなものであれば、これは、仕方のないことだと思ったのです、
そう思わせたことは、気持ちをずっと楽にさせたのでした、
ですから、私は、恥ずべき、はしたない、浅ましいことをやり通せたのです、
隆之様が私を<つがい>の相手とされても、それは、私が娼婦だからです、
私は、娼婦です! 紗織は、あなたの妻なのです!」
そのように言い終わると、再び、俯いてしまい、頑なになる綾乃だった。
隆之には、唖然とさせられるだけで、どうにもしようのないことになってしまった。
二匹は、再び、押し黙ってしまい、凍りついたように身動きひとつしないで、
緊縛の裸身にあるみずからへ、閉じこもるばかりであったのだった……
そこまでをモニター画面を通して眺めていた、<係官>たちであったが、
それから、口々に評価を下し始めた。
「<つがい>にさせることは、難しい気がするなあ、
知り合いであることが逆効果になってしまっている、普通は、あそこまで頑固にはならないものだわ。
旧態の性と官能にある<進化できなかった猿>というのは、生まれたままの全裸にさせられただけで、
本来の動物に容易に目覚めるほど、人間であるという自覚の薄弱な存在なのよ、
身にまとって隠させている衣服や装飾品と文明や文化の意識が同程度のものにすぎないのだわ。
全裸で恥辱の被虐に晒されれば、倫理など、簡単にすっ飛んでいってしまうということよ。
人間として守る道があると言ったところで、動物の群棲を社会と呼んで結束させる程度のものであって、
それぞれにある羞恥を貶められれば、脆くも崩れ去ってしまう、人間性という自尊心だわね。
その絶望から、自暴自棄になったり、痴呆になったりして、動物の現実を受諾するしかない結果だわ。
愛のどうのこうの言ったところで、われわれ、<進化した高等な人間>であれば、
愛は、神の愛も、動物の愛も、親子の愛も、兄弟の愛も、夫婦の愛も、恋人の愛もない、
<人間の愛>という一義であるだけだから、夫婦となれば、それが愛の絆でしかない、
それを、何をどのように考えるのか、実際は、<つがい>になる、という単純な事実であるのに、
みずからを複雑に考え、相手を複雑に思いやるばかりのことしている、愚劣なありさまだわ、
原始的で、幼稚で、下等な動物であると言ってしまえば、それだけのことだけれど、
われわれには、職務として、教育・調教・飼育が義務としてあるのだから、
何とかしてはあげたいと思うけれど、二匹だけにされているのに、あのように頑固だとしたら、
<男猿>も<女猿>も、この状態のままで、今後の<媚態演技>が良好へ向かうとは思えない、
いまの時点で引き離して、それぞれ、別の相手に変えた方が無難ではないかしら」
年長の<女係官>が言うのであった。
「そうだな、確かに、吸茎の<媚態演技>を見せられたときは、
これは、ひょっとして、報奨金の対象となると思わせたが、とんだスカだったのかもしれない。
<男猿>にしても、<女猿>にしても、容貌、姿態、陰部の美形は、最近にない良質のものがあるが、
やはり、肉体と精神が一義で結ばれないところに、<猿>のお粗末が露呈するということだ。
<動物園>へ送ってから、本音と建前、二枚舌、おためごかし、とんだ食わせ物、
と観客から批判を受けてしまったら、それこそ、こちらの首が危なくなることだ。
危ない橋は渡らないに越したことはない、この二匹を<つがい>とすることは、無理しない方がいい。
知り合いというのは親しい間柄、という一義でしかないことであれば、
知り合いであれば、簡単に<つがい>になる、<人間>ならば、それは、間違った考えでなくても、
<猿>に、相互理解の薄弱さがあるのは、
正しい考え方があるにもかかわらず、それを間違ってさえ考える、というところにあるわけだ、
その上、果たし得ない相互理解に、羨望、嫉妬、嫌悪、憎悪、喜怒哀楽をまぜこぜにさせて、
それを、人間らしい感情としているのだから、あった薄弱さも粉砕されてしまうわけだ。
<猿>は、動物である観点からしか判断できない存在である、と定めた憲法に誤りがないのは、
いま、そうして見るように、考えると言っても、<猿>の自分勝手をあらわしているだけで、
<つがい>となって相互が仲良くなれば、それから得られる事柄の方が遥かに多いと言うのに、
頑固さをあらわすことしかできない、融通の利く利かないという愚直にあるだけのことしかない。
同じような頑固なレズビアンの<女猿>がいるから、それと<女猿>を組み合わせて、
<男猿>は、仕方がないから、美形でない<女猿>と組ませるしかないと思う」
同年の<男係官>が言うのであった。
「そうは言うかもしれないけれど、容貌、姿態、陰部の美形がこれだけの良質であれば、
<媚態演技>さえ徹底的に仕込めれば、間違いなく、多額の報奨金の対象となることよ、
捨てる手はないわ、問題は方法よ、普通のやり方では、効果がないというだけよ。
現在では、家庭内暴力さえないけれど、縄を用いた男女の淫虐の性愛が<SM>と呼ばれた頃は、
家庭では折檻、軍隊・警察では拷問が行われていて、<SM>プレイも、それを真似たものだった。
その<SM>プレイという旧態の方法を駆使して行ったら、いいことじゃなくて。
旧態の性と官能にある<猿>に、まだ、サディズム・マゾヒズムという属性が残ってさえいれば、
<猿>の蚤の脳髄ほどの自尊心なんて、加虐・被虐へ徹底的に晒させて粉砕してしまい、
言われるがまま、されるがままのマゾヒズムに喜びを見いだす<愛奴>へ改造するということよ。
実際、政府高官や財界人の個人所有になる<強姦愛奴>だって、われわれの持分でないだけで、
担当の<係官>たちが行っている方法は、<SM>プレイに倣っていることだと聞くわ、
私たちも、<猿>への温情など、ここは一切抜きにして、多額の報奨金を取るべきよ。
いずれにしたって、<動物園>へ送ることが困難であれば、<売春施設>へ送られることになるのよ、
そこへ送られたら、被強姦物となって、使用不可能となるまで酷使されるだけしかないのだから、
ここで、過激な調教を行った結果、<動物園>の立派な<つがい>となることができれば、
むしろ、<猿>への温情ということになるのじゃなくて。
動物愛護の精神は、相互理解の思いやりからは、確かに、大切なものだと思う。
けれど、温情にほだされて、真意を見誤るということは、錯誤でしかないこと。
頑固な動物であれば、それなりに対処せよということよ」
若い<女係官>が言うのであった。
「それも、一理ある考え方だが、その<SM>プレイを駆使して、<猿>の死亡が出た場合が危険だ。
<強姦愛奴>の<係官>は、<男猿>と<女猿>を死亡直前にまで追い込んだ実績も持っている。
<係官長>のご厚意ある、ご裁量で、国粋文化省大臣への報告が揉み消されたことであっても、
国家の一義の裁定では、二度は通用しないことは、担当者にも、理解された事柄としてある。
それでなくても、<特別取調所>の開設当初は、<猿>の教育・調教・飼育にかこつけて、
容貌、姿態、陰部の美形の<猿>を選んでは、強姦が行われていたという過去があることだ、
言うまでもなく、発覚した者は、すべて、電気椅子送りとされたことではあるが、
われわれの現在の職務というのは、選ばれた人材であるということのあかしとして、
動物愛護の精神に基づいた、公明正大さが要求されていることだ、それを理解して欲しい。
われわれに、採用できるのは、縄を用いた男女の淫虐という程度までだ、
乗馬鞭にしても威嚇のために用いているだけで、打擲することが目的ではないということだ。
憲法で制定された<人間法>である以上、<動物園>と<売春施設>が定められたことである以上、
<進化できなかった猿>の身上と境遇とは、そこへ入所させること以外にないことであれば、
その意義しかないことであり、われわれは、如何にしてそれを行うかということが義務だ。
頑なになってしまった<女猿>とそれをどうしようもない<男猿>、
このように、すねた頑固な思いに陥って、立つものも立たず、濡れるものも濡れなければ、先もない。
ここは、<洗浄室>で清潔にし、餌を取らせ、排泄させてから、一度、<猿の檻>へ戻してみよう、
少々、時間をかけてやれば、相性に目覚めるところもあるかもしれない、
それでだめなら、<つがい>はご破算、ということでいいだろう」
最年長の<男係官>が言うのであった。
それに対して、先の若い<女係官>が提案した。
「ひとつ、素晴らしい思い付きがあるわ、
<男猿>と<女猿>を<猿の檻>へ戻すとき、一緒に、麻縄を入れて置いてみるのよ、
二匹がどのような使い方をするかによっては、
われわれの一義の正義の思考ではあり得ない、報奨金の展開になるかもしれないわよ」
これには、反対する意見もなく、直ちに、行動へ移されるのであった。
綾乃と隆之は、<調教室>から<洗浄室>へ、連行されていった。


部屋には、ひっそりとなった静寂が立ち込めていた、
まるで、誰もそこにいないかのように、二匹いる<猿>の息遣いさえ、かすかなものに感じられた。
縦・横・高さが一メートル半ほどの頑丈な格子で作られた鋼鉄製の檻のなかに入れられて、
綾乃と隆之は、縄による緊縛の拘束を解かれてはいたが、
できるだけ隅の方へ身を寄せて、深く首を垂れさせながら、背と背を向け合っているのだった。
<調教室>以来、顔立ちどころか、まなざしさえ相手に向けようとしない、二匹だった。
もはや、二匹と呼ばれることの方がしっくりとするくらいに、動物扱いされたことだった。
陰部もあからさまな全裸に、縄の首輪を掛けられた姿にされ、<係官>に縄尻を取られて、
連れて行かれた<洗浄室>では、殺菌湯という薬剤の浴槽へ入らされた、
頭から温水シャワーで洗い流されると、温風乾燥で身体を綺麗にさせられた。
それから、餌だと言われて、ボールに盛られた固形物と皿に入った水を出された、
それを、床へ座って食べさせられたが、
身体を維持する栄養素はすべて含んでいると言われたものの、犬の餌のように無味乾燥だった。
食事が終わると、排泄を行うと申し渡されて、四つん這いにさせられた、
あからさまとさせた肛門へ浣腸器をあてがわれ、薬剤を注入された。
浣腸は、日課としてあり、跨いでしゃがむ便器で用を足すのであったが、
小便は、その都度申し出て、バケツが用いられるのだった。
すべてが男女の<係官>の厳重な監視の下、首輪の縄尻を取られながらのことだった。
綾乃は、まじまじとした視線を注がれながら、生まれたままの全裸を晒して脱糞する羞恥に、
生きた心地がしなくなるほどの恥辱を感じさせられたが、後始末を<女係官>からなされたときには、
言われるがままの、されるがままの動物に成り下がった、と思わずにはいられなかったが、
それは、隆之も、同様のことであって、いくら清潔を保たれていると言っても、
剥き晒しの全裸に首輪に繋がれての取り扱われ方では、家畜とまったく変わらない身上だった。
いずれは、<動物園>へ入所させられて、<見世物猿>にさせられるということが、
<つがい>とは、実際は、どのようなものであるのか、
考えさせずには置かないことになったのであった。
それは、ただ、動物としてあることの本能にだけ生きるという、
絶望的に暗澹とした未来が深淵のようにあること……
綾乃には、もはや、涙さえ浮かばない、冷酷な現実としか思えなかった、
隆之にも、生き抜くというには、手立ての失われた境遇としか感じられないことだった、
<女猿>と<男猿>は、茫然となった暗澹の思いで、
みずからへ閉じこもるほかなかったのだった。
部屋の空調は、適度な温度が維持されていて、全裸であることは、寒さを感じさせなかった、
だが、綾乃は、ほっそりとした両腕で、乳房と陰部を覆い隠すようにして、
横座りとさせた姿態を縮こまらせていたが、寒さに震える思いにしかなかった。
その華奢な肩へ、突然、置かれる温かな手を意識させられて、
綾乃は、はっとなるのだった、
隆之の裸身が肌と肌とが触れ合うばかりの距離にまで、にじり寄っていることを知ると、
ますます裸の姿態を縮こまらせて、顔立ちを俯かせるのだった。
隆之の手は、優しく置かれたままで、それ以上の動きをあらわそうとしなかった、
綾乃は、その温もりに、気持ちが落ち着かされるのを感じて、嬉しさが込みあがるが、
相手は、妹の許婚であり、みずからは、未亡人であることに変わりはなかった。
隆之にも、成す術がなかった、せめても、綾乃に触れてあげて元気付けてやりたい、
ただ、その一心から取った行動だったが、触れた相手のなよやかな白い肩は冷たかった。
しかし、それが次第に温かさを帯びてくると、
優美な全裸から匂い立つ芳香のようなものまで感じられ、
隆之の手は、思わず、肩を握り締めているのだった。
「隆之様……
お手をお離しになってください……」
縮こまらせた姿勢を身動きひとつさせずに、綾乃は、そうもらすのだった。
だが、隆之は、言われたことを行わずに、沈黙したままだった。
「どうにもならない状況だったとは言え、綾乃は、顔向けできない、大きな罪を犯した女です……
あなたにも、紗織にも、そして、亡き夫にも、許しを乞うばかりのことです、
お願いですから、私のことは、放って置いてください……」
隆之から、肩を優しく摑まれていると、胸が高鳴り始め、
その高鳴りは、温かく身体全体へ広がり、哀しく辛い思いを遠くへ押しやっていかせる、
それは、嬉しさの込み上がることだったが、
綾乃は、両肩を揺さぶらせて、振り払う仕草を示すのだった。
隆之は、仕方なく、手を離していったが、口を開いた。
「綾乃様、ぼくは、つくづくと思い知らされたのです……
このような家畜扱いされる動物状態、その恥辱と汚辱と被虐の境遇に置かれて、
これから先を生き抜くには、来るかもどうかもわからない、希望の未来などではなく、
いま、ここにある現実を受け入れて、ここから、生き抜いていかなければならないのではないかと、
それができないならば、死ぬしかないのではないかと。
紗織さんも、きっと、同じ目に遭って、同じように考えているはずだと思います。
だから、ぼくは、生き抜くためには、綾乃様、あなたが必要なのです、
あなたと<つがい>で生きられる幸福を考えれば、この境遇を耐えられるからです、
ぼくは、つくづくと思い知らされたのです、
綾乃様と初めてお会いしたとき、ぼくは、人格の高潔な美しい方だと思いました、
しかし、綾乃様は、会長・CEO夫人であられました、
ぼくのような立場の者が、憧憬を抱くことはできても、思いをかなえられる相手ではありません、
会長と綾乃様は、ぼくを気に入られ、紗織さんを紹介されました、
紗織さんは、綾乃様に劣らず美しく、清廉な人格を持たれた素晴らしい女性でした、
生涯の伴侶とするに、これ以上の方はないと思えばこそ、婚約者となることができました、
しかし、ぼくは、このような目に遭って……
綾乃様がぼくを受け入れてくださって、ぼくの放出させるものまでも受け入れてくださって、
そのとき感じた幸福の喜びに、ぼくは、心底、思い知らされたのです!
ぼくは、綾乃様を心から愛していたのだと!」
隆之は、思い余って、振り払われた手を、今度は、相手の華奢な両肩へ置いて、
半身を起こさせるようにさえするのであった。
「なっ、何をなさるのです! いやっ! 放してください!」
綾乃は、抱き締められるようにされる裸身を振り解こうと悶えさせたが、
強い思いのある男の力の前には、か弱い女でしかなかった。
その女は、顔立ちを相手に向けさせて、きっとさせたまなざしで、言い返した。
「私は、隆之様を見損ないます!
かつては、戦闘指令でもあられた、あなたが!
<純粋種優生主義>の信奉を放棄したように! 紗織への愛を裏切るように!
そのようなことをおっしゃるなんて!
狂ったとしか思えません! 
隆之様は、狂われたとしか思えません!」
綾乃は、泣き出しそうになるのを必死にこらえて、綺麗な唇を震わせるのだった。
隆之は、ひるむことなく、まじまじと相手を見つめて、答えていた。
「狂っている……
そのようにおっしゃられることであれば、それでも、構いません!
このような身上と境遇に晒されていることが、そもそも、狂った悪魔の仕業でしかない!
それを生き抜くこと、それがあなたを愛することならば、ぼくは、狂人で結構です!」
相手の両肩を抱く両手は、さらに、力が込められているのだった。
その痛いくらいの感触が男の真剣さを伝えて、
驚きと不安と悲哀に戸惑う思いを粉砕していく感じが、綾乃を狼狽させていくのであった。
「綾乃様、私は、このようになったことを悔やんではいません!
むしろ、このような一糸もまとわせられないありのままの姿で、
綾乃様とひとつ檻に入れられたこと!
みずからの思いの真実がわかり、感謝を感じているくらいです!」
隆之は、浮かばせた涙が頬をつたう相手の美しい顔立ちへ、
みずからの顔立ちを寄せながら、熱っぽい口調で叫ぶのだった。
綾乃には、のぼせ上がった相手の思いをどのようにしたら抑えることができるのか、
狼狽は、混乱を引き起こさせていた、
このままの勢いの調子では、床へ押し倒されて……
そうなったら、被施術者の強姦という非人道行為と変わらないことだった。
あの状況では、生き抜くためには、やむをえなく行った吸茎の行為だった、
それが相手の思いへ本当に火をつけてしまったのだとしたら……
自分は、吸茎を忌避すべきだと感じていたら、拒絶し続ければよかったことだった、
にもかかわらず、行うことのできた自分であったのだ……
これまで、隆之様を好ましい男性であると思っていたことは、事実だった、
だが、隆之様は、紗織の婚約者、私は、会長夫人……
しかし、いまの自分は、家畜同然の扱いを受けている、ただの動物のようなもの……
隆之様が私を愛してくれるというのは、嬉しさに余ることだった、
それでも、私は、紗織や亡き夫を裏切ることはできない……
綾乃は、澄んだまなざしを隆之に向けると、静かに答えるのだった。
「……隆之様、あなたのお心は、よくわかりました、
綾乃は、あなたに思われて、嬉しく感じます、幸せに感じます、
けれど、私は、罪を犯し、罪を重ねるのであれば、もはや、会長夫人などではありません、
あなたも、私を会長夫人と思う必要は、もはや、ありません、
綾乃は、一介の娼婦にすぎない女です、
そのようなものでよろしければ、
綾乃は、あなたの言われるがまま、されるがままの女です」
はっきりと告げられた言葉だったが、
そのときは、すでに、隆之の唇は、綾乃の唇へ重ねられていた。
女は、あわてて、身を離すようにさせると、
「まっ、待ってください、お願いがあります……
そこに置かれている麻縄で、先ほど、悪魔たちからされたように、綾乃を縛ってください、
綾乃は、隆之様の手で縄掛けされる、隆之様だけの娼婦になりたいのです」
<女係官>の提案で、狭い檻の隅に据えられた、麻縄の束であった。
「綾乃様を縄で縛り上げるなんて!
ぼくには、とてもできない!」
不気味なとぐろを巻く物体を見て、隆之は、首を振って叫んだが、
相手は、ほっそりとした両腕をおずおずと背後へとまわせていくのであった。
「隆之様! 遠慮なさらずに!
綾乃を綾乃と思わず、娼婦の綾乃とお思いになって!
娼婦の綾乃をあなたの存分になさって! それが娼婦の本望です!」
動こうとしない男に対してあらわされた、一念に徹した女のいさぎよさだった。
隆之は、縄束を取ると、後ろ手にして重ね合わされた華奢な両手首を縛り始めるのだった。
麻縄が柔肌へ触れた途端、寡黙になっていく綾乃であったが、
それは、縄の感触が伝えてくる拘束感を相手の言葉のように聞き取りたい、という思いであった。
「痛くはないですか?」
綾乃は、柔らかな黒髪を揺らさせてかぶりを振ると、
「胸にも掛けてください……」
と言うのだった。
隆之は、言われるとおりに、余った縄を身体の前の方へまわしていった。
可憐な桃色の乳首を立たせて、ふっくらとした綺麗なふくらみを見せる、
ふたつの乳房の上部へ縄を掛けながら、隆之は、思うのだった……
かつては、このように縄を使って、加虐・被虐を行うことを<SM>と呼んでいた時代もあった、
<新医療>が法制化されたことによって、そのようなプレイも、書籍も、映像も消失していった、
自分も、残存していたインターネットのサイトで見かけたことにすぎなかったが、
もし、被施術者の老人の少女への強姦が施術を受けていない者の殺戮を引き起こさなかったとしたら、
第三次世界大戦は起こらず、人類は一義の性を受けて、異常性愛は、絶滅となっていたことである。
だが、このような縄による緊縛の行為があり得ることは、
男女の性愛に、まだ、異常性愛の<SM>が残存しているということなのだろか?
施術を受けていない者の現実には、人類がその誕生以来、継続させてきた、
多様で奥深い闇のような性が存在し続けているということなのだろうか?
それが、われわれの脳の深いところから、強い叫びをもって、
快感よ、来たれ、喜びよ、来たれ、と心を動かしていることなのだろうか……
「如何ですか、苦しくはないですか?」
隆之の問いかけに、後ろ手に縛られ、乳房を挟んだ上下の胸縄を施された綾乃は、
消え入るように俯かせた顔立ちを振るだけであった。
綾乃は、<猿の檻>へ入れられて、
その隅に、麻縄の束が置かれていることを知ったときから、
それが意味することが何であるのか、わかっていた。
亡き夫は、夫婦ふたりだけに許される性愛として、愛のあかしである縄掛けを交接の日に行った、
綾乃にとって、縄で縛り上げられるということは、愛あらわす特別の意味を持っていた。
この<特別取調所>へ連れて来られ、
生まれたままの全裸にさせられ、畜生同然の動物扱いされる、
悪魔の<係官>たちから施される、縄による緊縛とは、意味がまったく違っていた、
夫からなされた、生まれたままの全裸への緊縛は、愛の象徴としてしかないものであった、
異常性愛の<SM>、
夫婦ふたりだけに許された性愛は、そのようなものではなかったのだった。
それが真実であることは、隆之のぎこちない縄掛けにあっても、
綾乃は、高ぶらされる官能のなかに、相手に対する熱い思いを感じられることにあった、
隆之の手で縛られたこと、隆之の思いのままになること、
それは、隆之のすべてを受容できるということであった。
横座りとさせている緊縛の裸身を掻き抱かれ、顔立ちを間近にさせられ、
押し付けてこられる唇を、美しい形の唇を開き加減とさせて、
待ち受ける態度があらわさせていたことだった。
男が重ね合わせた唇を、女は、さらに、開かせて、相手の舌先を促すのだった、
男の舌先は、するすると女の口中へ引き込まれていき、
女は、みずからの舌を絡めて、うねりくねりの愛撫を始めるのだった。
そのまま、なしく崩しに横たわろうとした、ふたりだったが、
狭すぎる檻のなかでは、無理があった。
ふたりは、唇を重ね合わさせたまま、もつれ合って、檻のなかをうごめいたが、
しっくりいく体勢がなかなか見つからないのだった。
ついに、女は、みずから進んで、
緊縛された裸身を四つん這いの姿勢にさせて、優美な尻を男の方へ向けるのであった。
男は、艶かしい尻のあからさまとなった、深い亀裂を前にして跪くと、
相手の姿態へ乗っかるような格好で、みずからの裸身を密着させていった。
猿が交尾の姿勢をあらわす、マウンティングの格好だった。
<男猿>の陰茎は、てらてらと輝くほどの反り上がりを示していた、
<女猿>の割れめも、あふれ出させた花蜜できらめいていた、
開き加減となった花びらへあてがわれても、わけなく入っていくのだった。
それから、<男猿>は、<女猿>の優美な腰付きを両手で押さえて、抜き差しを始めたが、
ああん、ああん、という甘美な声音がもらされるにつれ、
腰付きを悩ましくうねりくねりさせて、含み込んでいる陰茎をさらに深く呑み込んでいくのであった。
締め上がってくる快感に応えるように、抜き差しの方も、激しさが一段と増していき、
ああ~ん! ああ~ん! ううっ! ううっ! ああっ! ああっ!
うるさいくらいの<女猿>と<男猿>の嬌声が檻から室内へこだましたが、ついに、
あああっ! あああっ! あなた! 来てっ! 
と<女猿>が叫ぶと、
<男猿>は、激しく腰を前後させて、最奥へ触れるほどの突き上げをあらわすのだった。
<男猿>は、ううっ、と声音を張り上げると、
大きなうねりに幾度も幾度も襲われ、真っ白な波頭を砕け散らせるように、
暗黒の小宇宙へ、白濁の飛沫を噴出させていくのであった。
<女猿>は、艶かしい丸みを帯びた尻を高く掲げさせたまま、
支える双方の乳白色の柔和な太腿をぶるぶると痙攣させて、
後ろ手に縛られ、胸縄を掛けられた上半身をもどかしいとばかりに、悶えさせるのだった……
モニター画面を通して、観察を続けていた四人の<係官>は、異口同音に、
「よっしゃあ、首尾よくいったぞ、報奨金ものだ!」
と喜び合っていた。
それから、早速、<猿の檻>へ向かうのだった。
愛し合っている思いは、絶頂を極めた快感の喜びをひとしおのものとさせていたが、
その余韻に浸る切れるのも束の間、
依然として繋がったままの状態にあった綾乃と隆之の前に、
<係官>たちは、あらわれたのだった。
「いい格好だわ!
顔の表情も、気持ちよさそうでいいわ!」
そのように言いながら、檻へ近づいてくる<女係官>たちに、
繋がったままでいた二匹は、突然、水をかけられた動物のように、あわてて身を離させた。
綾乃は、緊縛の裸身を寄せて、隆之は、その相手を掻き抱いて、床にへたり込んだ姿勢となったが、
顔立ちを真っ赤とさせて、俯かせるばかりだった。
そのような<猿>の行動に、<女係官>たちは、ほほえましいと言うように、笑い声を上げた。
「そんなに恥ずかしがらなくても、いいのよ、二匹とも、とても、上手だったわよ」
とひとりが言うと、もうひとりは、
「<動物園>では、もっと大勢の観客の前でやることだから、
<媚態演技>は、もう少し派手でもいいわね。
それにしても、縄の道具を使用して見せるなんて、何て、お利巧なんでしょうね」
と微笑んでいたが、
<係官>たちの態度には、飼育する動物をいたわるような雰囲気さえあるのであった。
隆之は、綾乃を縛り上げた縄を解き外していた。
「あっ、そうね、濡れタオル、必要でしょう、持ってきてあるわ、これを使いなさい」
<女係官>が鉄格子の間から差し入れるタオルを、綾乃は、おずおずと受け取っていた。
それから、隆之様、ごめんなさい、と言うと、
妻が夫へする気遣いと優しさをもって、隆之のしなだれた陰茎を綺麗に拭うのだった。
そして、眺めている者の方へ艶やかな白い背を向けさせると、
みずからの太腿へ流れ落ちている白濁とした液と割れめを、素早く、綺麗にしていくのであった。
隆之は、向き直った綾乃の裸身をこれ見よがしに掻き抱いて、見せつけるようにさえしていた、
お互いは、誰がどのように言おうと、夫婦なのだという思いからだった。
「仲のいいことだ、<つがい>が長持ちするために、一番大事なことだ」
檻の前に立った、最年長の<男係官>が教えていた。
「だが、おまえたちを<つがい>として、<動物園>へ送り出すためには、
いま、見せたようなことが一度きりというのでは、話にならない、
おまえたちが縄を道具として、<媚態演技>を行えるということは、価値のあることだ。
容貌、姿態、陰部の美形、<媚態演技>のほかにない特徴、
これらが揃えば、<動物園>の人気者となり、生涯を<つがい>として安泰に送れるだろう、
この意味がわかるなら、教育・調教されることへ、しっかりと励むことだ!」
綾乃と隆之は、<係官>をしっかりと見据えて、話を聞いているのだった。
おもむろに、綾乃は、隆之の顔立ちを見てうなずくと、
居並んだ<係官>たちの方へ、毅然とした美しい顔立ちを向けて、しゃべり始めた。
「おっしゃられたこと、よく理解できました。
言われましたように、私は、教育・調教されることへ従い、一生懸命行います。
ですから、お願いでございます、
こうして、夫婦として結ばれた、<男猿>と私、<女猿>を一生離させないでください、
心からのお願いでございます、私たちを<つがい>でいさせてください!」
言い終わると、床へ両手をついて、生まれたままの全裸をひれ伏せさせるのだった。
その態度に驚かされたのは、<係官>たちばかりではなかった、
となりにいた隆之は、唖然となったまま、見守るばかりだった。
「おまえの殊勝な心がけは、わかった、
だが、それは、<男猿>次第でもあることだろう。
<男猿>がおまえに見合うほどのものならば、おまえたちは、生涯、<つがい>でいられるが、
つまらん浮気者でもあれば、ご破算になるだけだ!」
もうひとりの<男係官>が<男猿>の方へ視線を投げながら、答えていた。
綾乃の自分へ寄せる思いが土下座さえいとわせないことに、
隆之は、心底、感動するのだった。
<男猿>は、<女猿>と同じように、生まれたままの全裸を床へひれ伏せさせて、
「私は、<女猿>に見合う、立派な<見世物猿>となることを精一杯努力します、
<つがい>として一生暮らしていけるよう、
心から、お願い申し上げます!」
と叫ぶのであった。
縦・横・高さが一メートル半ほどの頑丈な格子で作られた鋼鉄製の檻のなかで、
一片の布切れも許されない、全裸の<猿>たちが土下座している姿を眺めながら、
四人の<係官>は、互いにうなずき合って、満足そうな笑みを浮かべるのであった。
こうして……
綾乃と隆之が<動物園>の<見世物猿>となるための本格的な教育・調教が開始された。
この時点で……
地球温暖化の危機的状況は、依然として、進行中の事態であったが、
地球という、人類の住まいの物質的寿命は、まだ残されていた、
綾乃と隆之が愛をまっとうするに至るまでの時間は、あったのである。