いろり端で男が縄を撚っている。 その撚られた縄は、身に着けた着物をはだけられ、乳房と下半身をあらわにさせた女へと繋がれている。 女は、後ろ手に縛られ、胸縄で乳房を突き出させられ、股間へ縄をもぐり込まされている。 男の撚っている縄は、その股間へ通された縄と繋がっているのだった。 女は男への隷属を示すほかないのだった。 股間へもぐり込まされた縄が男の撚る具合に合わせて敏感な箇所へ刺激を与えてくるのである。 男の撚る縄の刺激に合わせて、女は陰部を刺激され続けるのである。 全裸同然の恥ずかしい身体に身動きを封じられた惨めな縄を掛けられて、 その辛く、苦しく、哀しい境遇にあって、 それが気持ちのよい喜びを感じさせることであったとしたら…… その煽り立てられる官能から、 女は、首をのけぞらせ、陶然とした顔の表情を浮かべながら、女の蜜をしたたり落とさざるを得ない。 なすがままにされる女は、男に隷属する喜びを感じるのだった。 家のしきたりに従って馴致教育され、夫の妻であることの自覚へと至らせられるのだった。 この若い夫婦の様子を障子の向こうからのぞいている舅(しゅうと)がそう教えている。 舅は、その風采から、病気であるのか、或いは、あまりに年老いているのか、 いずれにしても、生い先の長くない、すでに亡霊になったような生気のなさでたたずんでいる。 以下に示される、前田寿安の描いた卓見の絵画である。 |
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人間が自然の植物繊維を撚って作り出す縄が官能を高ぶらさせる道具となるということ。 道具はその用いられる目的が明瞭であればあるほど、 存在理由と目的を確かなものにさせるということ。 まあ、そのようなあたりまえのことは、この絵画を見れば、一目瞭然である。 この作者の卓見とは、舅の存在にある。 生気のない亡霊のような存在の者でさえ、 エロスを掻き立てられるありさまがあることが表現されていることである。 エロスのエネルギーは、人間として生まれた時から死に至るまで発動するのである。 このことが見事に表現されている以下の作品は、まるで、上記の論理の展開とも言うべきリアリティがある。 |
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「お義父さま、もう……もう、私、だめですわ…… そんなに見つめないで…… 許して……あなた、お願いですから、許してください…… わたしは……わたしは、もう、耐えられません…… いきそうなのです……いってしまいそうなのです……」 妻であり、母であり、義娘でもあった静子は、 それらの呼称を女という一語にまとめたような、 辛く、苦しく、哀しく、恥ずかしく、やるせなく、甘美でさえある声音で、 自分を見つめ続ける男たちへ訴えかけるのであった。 「何を言っているんだ、我慢しろ……親父に末期の幸せを感じてもらうためだ、 何の神仏に寄る辺もない親父に……あの世への旅立ちに…… せめて、菩薩のごとき美しさに陶然となりながら、逝ってもらいたいのだ。 自然の神が宿る縄の注連縄(しめなわ)に緊縛されたおまえの輝ける白い柔肌が、 まるで、浄土の輝きであるかのように……。 こんな親孝行のできるおまえも、幸せと感じてさえ余りあるというものだ」 夫は、妻の緊縛された裸身がくず折れないように繋いだ縄を引く手に力をこめて、言うのだった。 静子は、訴えかけても無駄なことは重々承知していた。 だが、我が身から少しでも気をそらすようなことをしないと、 煽り立てられている官能にどんどんと昇らされていくだけだったのである。 一糸も身に着けることを許されず、生まれたままの全裸の姿にされて、 麻縄で後ろ手に縛られ、豊満な乳房を突き出させられるように胸縄を掛けられると、 静子は、もう、そのように取り扱う夫の言いなりになる妻でしかなかった。 たとえ、思いは、辛く、情けなく、恥ずかしい処遇を嫌悪する心があったとしても、 嫁入りの初夜以来、 家のしきたりだと言われて馴致教育されてきた身体は、自然に反応してしまうのであった。 全裸でいさせられることさえ恥ずかしいことであるのに、身動きの自由を奪われる縄を掛けられて、 思いは、哀しく、惨めな、嫌悪の泥沼へと沈み込んでいけばいくほど、 生まれたままの全裸に掛けられた縄の姿が浅ましいものと感じられ、 女であることをこれほどまでに悔やむというくらいに、行き場のない思いにさせられる。 何故なら、柔肌を締め上げている縄の感触は、決して辛くも、苦しいものでもなく、 むしろ、熱い抱擁に包まれているとさえ感じさせることが、 もっと、もっと激しく縛られたいという思いに煽り立てられることだったからだ。 思いは嫌悪でありながら、思いは喜びであるという、相反と矛盾に困惑させられるなかにあって、 身体があらわしている昇りつめていこうとする官能の力というものが、 とてもたのもしくて純粋な感じでさえあったのだ。 「静子は、本当は、縄で縛られることが好きだったんだ」 そのとき、そう語りかけた夫の言葉は、 自分以上に自分を知っている者は夫なのだ、とも思わせたのだった。 そう、このようなありさまは、世間様から見れば、異常なことに違いなかった。 だが、それで心から感じてしまう自分の正気は、 夫が心から行ってくれていることの正気ということであった。 それがこの家に嫁いで妻の立場を確固とさせることだったのだ。 だから、吐き出される言葉に、どのような嫌悪や抵抗があらわれていても、 緊縛の縄で突き出させられた乳房は、 欲情のためにつんと立ち上がった乳首のまわりに汗を吹き出させ、 女のわれめは、あふれ出ようとする蜜でふくらんでいるさまが感じ取れることであったのだ。 いまや、そのような反応は、あたりまえのことになった。 全裸姿で緊縛され、これ見よがしと両脚を左右へ広げさせられ、 さらけ出された股間の箇所が打ち消しがたく見えるよう、 閉じることを封じられた両脚は両足首へ渡された竹竿にくくりつけられているのであった。 病に伏して布団に横臥している義父の面前へ、晒しものにされるというありさまだった。 残された生のあかしとでも言うように、 一点を凝視したぎらついたまなざしが打ち消しがたく見るものは、 精一杯にふくらんだわれめからしたたり落ち始める女の蜜であった。 「あなた、お願いです、お願いですから、やめにしてください…… いやです……いやっ……」 静子は、黒髪を打ち振るって顔をそらせながら、悩ましく、甘美な声音を響かせている。 もう、臨終にあるとさえ思える義父の骨ばってささくれだった手が、 蛆が這うようにぬめぬめと布団からのぞき、 きらめきながら落ちている女の蜜のしずくを求めてうごめき出したのだった。 被虐に晒されている身という思いは、 高ぶらされている官能と一心同体になることで、どんどんと押し上げられていたが、 頂きへ昇りつめるには、引き上げてもらえる手が必要であった。 夫の手は、妻を美しい晒しものにする縄を引くことで手一杯だった。 女の蜜を一番に欲しがる者の手、それが差し延べられてきたという必然だった。 畳の上へしたたり落ちているきらめくしずくは、ぽたぽたと音さえ立てていた。 その音が止んだとき、女もこれ見よがしに開かせた両脚を震わせるまでに高ぶっていた。 男の固くそり立った陰茎というには、 余りにも骨ばってささくれ立った二本の指が挿入されてきたのだった。 その衰えた二本の指は、深くもぐり込むことも、ぐりぐりとえぐるような力もなかったが、 女の高ぶらされた官能を一気に昇りつめさせることだけはできた。 「ああっ、ああっ、ああ〜ん」 静子は、縄で緊縛された白い裸身を上気させ、下半身をぶるぶると痙攣させながら、 咥え込んだ救いの指を離すまいと締め付けていた。 舅も、今生の喜びと空ろな顔立ちにかすかな笑みを浮かべながら、往生していったのだった、 と書けば、まとまりもよいだろう。 ところが、舅には、引き抜いた指のぬめりを口へ頬張るだけの余力が残っていたのであった。 いや、この一件は、余命いくばくもないと思われていた舅にさらなる余命を与えたことだった。 女の蜜が延命の力を秘めた媚薬となるものであるかどうかは確かでないが、 エロスのエネルギーは、人間として生まれた時から死に至るまで発動する、 この厳然たる事実が証明された出来事ではあったと思われる、 如何か……。 |
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