身につけているものを脱いで、人前に肌をさらすことは恥ずかしいことだった。 それも、一糸もつけない全裸姿を男性の眼にさらすことなど、耐えがたい恥ずかしさだった。 だが、その恥ずかしいことでも、その男性が好意を寄せている相手であるとしたらどうだろう……。 <あのひと>であるからこそ、自分にはそれができると思った。 <あのひと>の才能あふれる筆で描かれる自分の裸体だから、それができると思った。 だが、<あのひと>に求められたことは、ヌード姿になるということだけではなかった。 裸になった姿をさらすというだけでなく、後ろ手に麻縄で縛られるのだ。 そればかりではない、乳房をはさんで胸の上下にも縄を掛けられ、首にも掛けられるのだ。 犬や家畜が人間に隷属していることをあらわすように、自分は人間以下のように首縄をされるのだ。 だが、それだけではない。 その首縄は胸に掛けられた縄へからげられて、乳房が歪むほど突き出すような格好にさせるのだ。 本人が望もうが望むまいが、乳首を突き出させられたふたつの乳房は淫らさをあらわすのだ。 このような惨めなほど恥ずかしく残酷な姿を身に引き受けられるとしたら、 罰せられるほどの悪行を行った罪人にでもならないかぎりありうることではない。 それでも、私は引き受けた。 <あのひと>の描く絵のためであるなら、私にはそれが引き受けられた。 だから、<あのひと>の縄がもっとも恥ずかしい箇所にさえ施されるに及んでも、耐えることができた。 敷居の柱を背にして、立った姿勢でつながれ、全身をさらして見せる。 これが絵のモデルとして取るべき姿であった。 眼を落とすと、突き出させられた乳首がしこっているのがわかる。 一糸もつけない裸姿になった恥ずかしさで気持ちがのぼせ上がっていくにつれて、 肌にからみついてくる縄の冷たい感触が妙に心地よく、 それが巻きついて締めあがっていくと、今度は熱い感触に変わり、身体を包むような感じになった。 縛られている屈辱と羞恥という思いはあったが、それを意識すればするほど、 身体を拘束した縄の感触が熱くなり、苦痛をともなうけれど快い疼きも感じさせるのだった。 自分の意思とはかかわりなく、乳首をしこらせてしまうのだった。 <あのひと>に縄を掛けられて淫らなことをされているという思いが、 <あのひと>にならばもっと淫らなことをされてもよいという思いへ昂ぶっていくのだった。 いや、そんな不埒なことを考えてはいけなかった。 自分には九歳の息子がいる。 その子には、どのようなことがあっても、このような恥ずかしい屈辱的な姿を見られたくはなかった。 そう考えると、悲哀に満ちた思いがよぎる。 <あのひと>とは、恐らく添い遂げられない仲で終わるのだろう。 あらゆる情況から見ても、収入の乏しい若い画家と瘤つきの後家の間柄では、 子供を捨てて駆け落ちでもしないかぎりは、一緒になることは無理だろう。 だが、子供を捨てられるはずはなかった。 それだから、せめて<あのひと>と一緒にいられる間に<あのひと>のために役に立ちたかった。 <あのひと>は私の姿を真剣なまなざしで見つめ、才能のたけをぶつけて私を描いてくれている。 それは輝かしい夢の喜びを感じさせると同時に現実の悲哀を影としても感じさせる。 明るくて、暗くて、喜ばしくて、哀しい。 こうした動揺する思いがそうさせるのだろうか、言いようのない感覚がよびさまされるのだ。 <あのひと>の手によって、女の肝腎なところ、最も敏感なところへ食い込まされた縄は、 最初の荒々しい苦痛がいつしか灼熱の存在感となって、急所を突き上げるように疼かせるのである。 眼をやれば、乳色の脂肪をのせた太腿のつけ根にある、 覆い隠すすべもなくあからさまにさらけ出された箇所には、 漆黒の艶をおびてふっくらと盛り上がっている陰毛の奥へ山吹色の麻縄が深々と埋没している。 情けなくも恥ずかしい姿だ。 だが、惨めで悲哀に満ちた思いになればなるほど、肌に食い込んでいる縄が熱い疼きを感じさせる。 淫らで浅ましいことだと感じれば感じるほど、女の芯から悩ましくこみ上げてくるものを意識させられる。 その何とも言いようのない異様な快感は、頭のなかで考える常識が通用しないと思わせるのだ。 このようなことは行ってはならないことだという禁止を押しつければ、それだけ……、 全裸を縄で緊縛されているという異常さが悦びへつながる不思議へと駆り立てるのである。 自分ではもうどうにも制御できない思いが育ち始めているという感じだった。 だが、それが<あのひと>の前で行われているlことであれば、納得できた。 私の<あのひと>に対する、これが愛するあかしなのだと思えるからだった。 だが、実際にいま起こっていることは、 柱を背にして立った姿勢でつながれていることも同じ、 生れたままの姿にさせられた格好も同じ、 後ろ手に縛られ、乳房をはさんだ縄をかけられ、股間へもぐらされた縄があることも同じだった。 違っていたのは場所だった。 そこは<あのひと>のアトリエではなく、住まいの庭の片隅にある土蔵の二階だった。 <あのひと>が丹精こめて描いてくれる全裸を緊縛された人妻がそこにいるのではなかった。 <あのひと>の優れた才能に隷属する愛のあかしを緊縛姿であらわす創造の場所ではなかった。 自分を縛ったのは<あのひと>ではなかった。 <あのひと>との逢瀬に腹を立てた叔父が私を縛り上げて土蔵の二階の柱へつないだのである。 私は不埒な行いを戒められて折檻を受けさせられているのだった。 それにしても、このような姿にまでされて行われることなのだろうか。 私は羞恥や屈辱よりも激しい悔しさを感じていた。 結婚してわずか二年で夫が病で亡くなり、 すでに実家の両親を失って身寄りのなかった私と息子は、 家督を相続していながら跡継ぎのできない叔父夫婦に引き取られた。 五十歳の家長としての叔父の威圧的な態度に肩身の狭い思いをして辛抱してきたのも、 独り息子の将来を思えばこそのことだった。 家のなかでは何もかも耐えねばならないことばかりだった。 唯一の気晴らしは、少女時代から好きだった美術の鑑賞だった、一月に一度のその外出は許された。 <あのひと>とめぐり会えたことは、私にとって夢のような時間のひとときだった。 それが半年と経たないうちに、叔父に逢瀬の事実を知られてしまったのは、 ふたりがもっとも燃え上がったあの日に肌に残された縄の跡からだった。 叔父はその痕跡を私の入浴をのぞいて発見したのだった。 恐らく、叔父はそれまでにも私の入浴を覗き見していたに違いない。 叔父は狂わんばかりに激怒した。 立派な跡継ぎの子供のある身でありながら、どこの馬の骨ともわからない男と不倫を交わすなど、 一族の恥さらしだと決めつけられた。 <あのひと>とは肉体的には結ばれていなかった。 だが、そのようなことは言い訳にも何もならなかったから、咎められた不埒を泣きながら必死にわびた。 ようやくのこと、叔父は怒りを収めるかわりに私に折檻を受けることを求めた。 子供の手前があったから、私はそれ以上ことを荒立てたくはなかった、承知した。 叔父は私に庭の片隅にある土蔵へついてくるように命じた。 そのときの叔母の何ともいえない恨みがましい顔つきはとても印象に残るものだった。 土蔵の二階へ上がると、叔父は私にきびしく申し渡した。 「おまえは大事な跡取り息子の母親なんだぞ。 おまえの曲がった性根はいま直しておかなければ、これから先、どんな悪い影響を与えるかもしれないのだ。 こんなことをするのも、おまえの息子のためばかりではない、おまえ自身のためでもあるのだ。 おとなしく仕置きを受けるのだ、さあ、裸になれ」 息子のことを持ち出されては、私は言いなりになるほか仕方がなかった。 私は叔父に背を向けて帯を解き始めた。 叔父の視線が吸いつくように私の一挙一動を追いかけていることが意識されると、 血のつながった身内とはいえ、女としての恥ずかしさがこみ上げてきた。 私はあわせを脱いで腰まきひとつの姿になった。 「その腰に巻いているものも取るんだ。 仕置きを受けるほど愚かしい奴が恥ずかしいなどと言えるか」 どうして素っ裸にまでならなければならないのか、理解に苦しんだ。 私は思わず両手で乳房を覆い躊躇していた。 すると、叔父の怒号が背中へ吐きつけられ身体をすくみあがらせた。 「おまえは、わしのことをたいして好いてないかもしれない、それは日頃の態度からでもわかっている。 だが、わしはおまえのことを可愛い娘と同様だと思っているのだ。 わしの気持ちを理解しない、そういう素直でないおまえの心持ちが今度のようなことを起こすのだ。 おまえの身も息子の身も、おまえの亭主が病死したことで、戦死した兄貴からおれが預かったものだ。 おれはおまえの父親と同じだ。 父親の言うことが素直に聞けない娘など、勘当されてあたりまえだ。 わしの言うことが聞けないなら、息子をおいてこの家から出て行け、好き勝手なことをするがいい」 そう言われた私は悲しくて辛くて、こみ上げてくるものを抑えきれず、しくしくと泣きだしてしまった。 両眼から涙をしたたらせながら、腰まきの紐へ指をからめると結び目をといた。 はらりと腰から落ちていく布切れは、恥ずかしさよりも悲しさばかりが感じられるきぬずれの音を立てた。 だが、叔父が黙ったままでいるのは、私のさらした生れたままの姿に見とれていることがわかっていた。 女ざかりのあだっぽい曲線につつまれた熟れた色気を漂わせている肉体に見入っていたからだった。 細い首筋やなでた肩、なめらかな背筋やゆるやかにくびれた腰、 女らしい肉づきをなまめかしいくらいの量感をもって示す尻や、 乳色の脂肪がむっちりとのった太腿が匂い立つような色っぽさを発散しているからだった。 叔父が私の身体に関心をもっていたことは、この家へ最初に来たときから感じていたことだった。 叔父にそう思われるのがいやだった、だから、世話にはなっていても、叔父を好きにはなれなかった。 その叔父がつぎにはこう言ったのだった。 「さあ、仕置きを始める。 縛るから、両手を背中へまわせ」 私は思ってもみなかったことに狼狽した。 心臓が堰を切ってどっと血を送り出したかのように全身が火照った。 素直に応じない私の両腕を叔父は無理やり背中へねじ曲げて、重ねあわせた手首へ麻縄をからげた。 後ろ手に縛った縄はすばやく前へもっていかれ、乳房の上の方へ二度まわされて、背中で縄留めされた。 その縄さばきは、<あのひと>とは全然比べものにならないほど手際がよかった。 すぐさま、二本目の縄も、身動きが取れずにもぞもぞとしているあいだに、 するすると乳房の下の方へ巻きつけられて締め上げられていった。 叔父はこうした行為をするのが初めてではないと思ったときには、上半身はまったく身動きが取れなくなっていた。 「今日はこのぐらいの縄で勘弁しておく。 さあ、来い。ここでしばらくの間、自分の犯した罪深さ、恥ずかしさを反省していろ」 叔父は私を縛った縄尻を取ると引き立てるようにして歩かせた。 土蔵の四方を支えている柱のひとつまで行かせると、柱を背にして立たせそこへくくりつけられた。 全裸に縄を打たれた私の姿を叔父はまじまじと見つめた。 私は恥ずかしさと屈辱と怒りと困惑と不安とで、気を引き締めようとする考えがばらばらになってしまっていた。 麻縄に上下を幾重にも締め上げられている豊かな乳房。 子供を産んでいるとは思えないほどのなめらかな腹部。 熟れきった女っぽい丸みを示した尻。 むちむちとした肉づきのいい太腿。 さらにあからさまになったのは、漆黒の柔らかな毛がふっくらと悩ましく盛り上がっている股間の箇所だった。 叔父はいつまでも見飽きないといった耽溺した顔つきで、舐めつくすような視線を私の裸身へ投げかけていた。 その叔父の視線と眼のあった瞬間、私はあまりの惨めさに顔をそむけ、しくしくとすすり泣くほかなかった。 やがて、未練がましい視線を残しながら、叔父は二階から降りる階段へ姿を消し、 土蔵の引き戸が重々しく開いては閉じる音が聞こえてきた。 金網窓からさしこむほかに光のない薄暗い土蔵の二階に、 後ろ手に縛られた素っ裸のまま取り残された私は、ただ泣きじゃくるしかなかった。 だが、これは私と叔父との新たな関係を作りだす始まりにすぎなかった。 息子のために、もう二度と<あのひと>と会うことはすまいと決心をした。 会えないと思えば、それだけつのる女心であったが、実際に外出はもう許されなかった。 私の現状を尋ねてくる<あのひと>の手紙も、応えなければいつしか遠のいていくのだった。 うつろになった<あのひと>との時間を埋めたのは、叔父との時間だったのである。 それは、私の<あのひと>に対する思いを満たすことは決してなかったが、 私の若い肉体の疼きをいやす行為として存在するようになったことは確かだった。 一度縄で縛られた悦びを知った女は、ふたたび縄の悦びを求めるようになる。 私は叔父にそのことを思い知らされたのだ。 私に対する折檻は、私を調教するものになったのだ。 私は叔父を好いてなどいなかった、いや、まったく嫌いな人間だと言ってもいいくらいだった。 だが、私が叔父の縄に隷属を示すようになると、 彼はいままで以上に、息子に対し、私に対し、金銭的にも態度にも優しさをあらわすようになった。 叔父は私の性根をなおす折檻を理由に土蔵の二階へ連れ出し、裸にして縛りの思うがままを繰り返した。 叔母がこのことを知らないわけはなかった、だが、彼女は恨みがましく思いながらも黙認していた。 叔父と姪の間で肉体的に結ばれる行為が実際あったわけではなかった。 叔母も見返りとして、自由に芝居へ出かけたり、新しい着物を買ってもらったりしていたのだった。 この家は見た目には、何ごともない平穏な家族の生活をあらわしているようだった。 ただ、私が心配したのは、叔父について土蔵へ入っていく姿を子供にだけは見られたくないということだった。 しかし、その心配も、折檻が行われている間、叔母が息子の相手をしているという配慮がなされていたのだ。 今日も私は叔父から折檻を申し渡された。 土蔵の二階へあがるのは、そのときが七度目だった。 <あのひと>と会わなくなってから、すでに四ヶ月がすぎていた。 私は叔父から命じられなくても、あわせを脱いで腰まきを取り去り、一糸まとわぬ生れたままの姿にすぐなる。 この場所では、私は身につけるものをいっさい許されていない境遇の女なのだ。 反発するようなことを言っても意味がない、抵抗するような行為を示したところで意味がない。 反発や抵抗があったところで、何かがよくなるわけではなかったからだ。 むしろ、従順でいることによって得られるものの方がはるかに大きかったからだ。 好きでもない叔父だが、彼の言いなりになっていれば、息子も可愛がられ、その将来も約束されているのだ。 それに折檻だと言ってされることは、さまざまな仕方で縛られるだけのことだった。 叔父がそれ以上を求めてきたらそれこそ大問題だ、だが、そんなことは絶対にない。 叔父が裸の女を見ただけでは、男らしく勃起しない身体になっているのを私は気がついていた。 裸にした女を縛って愉しむことしか性的な満足を得られないというのは異常なことには違いないが、 ひとさまに迷惑の及ぶことでなければ単なる男女の秘めごとであるとも言える。 叔父と姪との間で行われることも異常には違いなかったが、 それさえも、叔父が他の場所で満たすことのできない性的欲望を家内で満たしていることにすぎなかった。 だからと言って、叔父に同情を感じ理解を示しているから、私にそのような考えができるのではない。 本当はこのようなことは嫌だった。 嫌だからと言ってやめられるものなら、すぐにもそうしたいくらいだった。 だが、女に生まれたからには、女として果たさなければならないことがある、それは女だからだ。 私は女で、そのことに自尊心をもっているからこそ、女をあらわすことに喜びを感じるのだ。 叔父に裸姿を縛られることは、もはや単なる羞恥や屈辱を感じるようなことではなくなっていた。 それよりも、むしろ激しい悔しさを感じることになっていたと言う方が正しい。 叔父が縄を見せれば、私は乳房と下腹部を覆う両手を離して背中へまわすだけの従順な女になる。 後ろ手にされた手首が交錯されがっちりと固定されると、かすかな胸騒ぎのように疼いていた感覚が高まる。 ざらついた感触の麻縄が肌へぎゅっと押しつけられ、乳房をはさんで上下へ幾重にも締め込まれていくと、 胸の高鳴りがわかるほど縄で突き出させられた乳房がうごめくのを知るのだ。 もうされるがままの身体になったと思った瞬間、乳首さえもが立っているのがわかるのだ。 縄で拘束された世界へ閉じこもるしかない自分というものを意識させられる。 縛られるという苦痛や屈辱感は熱くなっていく縄の拘束感のなかで溶け出し、 女であることを意識する羞恥心さえぐらぐらにさせられていく。 女の芯から疼くものを掻き立てられているのだと感じると、 自分ではもうどうにもならないもどかしさがつのり、同時に悔しさが沸騰してくる。 この激しい悔しさが惨めで恥ずかしくされた姿を挑戦的になるくらいふるい立たせるのだ。 叔父は思うがままの緊縛の姿を私にとらせるために丹念に縄掛けしていくが、 私がどのように破廉恥な姿態にも応じることのできる柔軟さはその悔しさがあればこそだった。 それが女を支える自尊心だとすれば、その悔しさがもろくも崩れたときは、女もただの雌でしかないのだ。 男は自分の欲望を満たすだけに女を縛り、納得したときにはそれを打ち捨てて去ってしまう。 土蔵を支える太柱のひとつを背にして、私が立った姿勢でつながれるときがそのときだった。 男には自分が勝ち誇っているあかしを女に見せしめる必要があるのだった。 だが、女にしてみれば、自尊心としての悔しさがもろくも崩れ始めるときが始まりだった。 叔父にも身内として明らかな遠慮があったのだ。 彼は決して私を喜びの絶頂まで昇らせてはくれなかった。 だが、<あのひと>はあの絵を描きあげた瞬間、私を絶頂にまで押し上げてくれたのだ。 だから、私の身体と心までも隷属させているのは、本当は<あのひと>の縛りに違いないのだ。 叔父の方が縄掛けのわざにおいては<あのひと>よりも断然すぐれている。 しかし、叔父は裸にし、縛り、眺め、置き去りにしていくだけだった。 柱につながれたままで、いつも置き去りにされる私にとって、 それはもどかしくもやるせない本当に切ない時間の始まりであった。 ひとりとして眺める者のいない土蔵の二階でさらされている女は、 緊縛に封じ込められた固有の世界に居場所を見つけるしかなかった。 私はこみあげてくるやるせない疼きを抑えるために、 自分がこのような目にあわされている物語を作り出して納得させるのだった。 女学生のときには小説を書くようなまねごとをしたこともあった。 私は思い描くことができるのだった。 ここに一糸もつけない恥ずかしい素っ裸をきびしい荒縄で惨めな姿に縛り上げられているのは、 瘤つきの出戻りの後家なんかではない。 そのような生活臭い女が囚われの身になるはずなどないのだ。 財閥の高貴で美貌の令夫人のような境遇の女だけが高い身代金を要求されるために囚われるのだ。 そのような女は同じ三十歳でも、冴えわたる柔肌の白さは育ちの良さを匂わせ、 麻縄を幾重にも巻きつかせている乳房のふくらみも眼にしみいるような美しさだ。 乳首の可憐な薄紅色は叙情的な乙女の匂いさえ感じさせ、 台所仕事などするわけがないのだから、荒れた手をしているはずもなく、 子供を生んでいないのだから引き締まった身体の線を保っているに違いない。 きれいな形をした乳房、可愛らしいお臍、なめらかな腹部。 腰からお尻にかけてくびれていく曲線の優美さ。 品よくぴったりと閉じ合わせた乳色の光沢をはなつ太腿は、 上半身の女らしい曲線の美しさにもまして魅力的な成熟を発散していることだろう。 その上、女の羞恥の中心にある漆黒の繊毛。 それはまるで手入れがなされているように多くもなく少なくもなく、夢のような柔らかさでふっくらと盛り上がり、 触れることを恐れさすような気品のある風情を示しているに違いないのだ。 どんな男であろうと、その美貌の令夫人の全裸緊縛姿の前ではひれ伏すだけで、手を出すことはできないのだ。 美貌の令夫人は土蔵の二階に放って置かれているのではない。 その美しい存在は高貴な生贄として捧げられる、女神のような存在なのだ。 女神になるまでの辛抱なのだ。 だが、実際の私は、もう我慢のできないくらいのもどかしさを女の芯から感じ始めていた。 無意識のうちに太腿の内側をこすり合わせるように身悶えをおこなっていた。 令夫人だって、こんなふうに縛られているだけじゃ嫌なはずだわ。 私は自分を納得させるためにつぶやきさえした。 だが、身悶えをすればするだけ、柔肌を締めつけている麻縄が命でも得たように熱くなって食い込んでくる。 私はむきなって、いやっ、いやっ、と不自由な緊縛姿をくねらせて、 昂ぶってくる甘美で悩ましい疼きを打ち払おうとした。 私にはにじんでくる汗だけが濡れたものでないことがわかっていた。 下腹部をのぞき込むことができるほど首は自由に曲げられなかったが、 女の芯からにじみだしたものが内股へ流れるのを意識できるのだった。 いやっ、いやっ。 私はもう夢中になって、昂ぶらされる緊縛の拘束からわが身を抜け出そうと、 柱につながれた裸身をうねりくねりさせている。 この責め苦を耐えてしずめるまでは、叔父が戻ってこないこともわかっていた。 私は無我夢中で突き上げてくる悩ましい疼きと闘っていた。 どのくらいの時間がすぎたのか、わからなくなっていた。 いつもより叔父の戻ってくる時間が長引いていることは確かだった、何かあったのだろうか。 女の芯からこみ上げてくる疼きは尿意までもつのらせていた。 耐えがたい苦痛だった。 だが、それをこらえることで異様な快感が感じられることも事実だった。 私はその苦しくも悩ましくも痺れるように甘美な感覚に舞い上がっていた。 ついにこらえきれずにほとばしりださせることは、 身体全体を鋭く刺し貫かれでもするように気持ちがよかった。 私はあまりにも自分自身に夢中になっていたために、 自分の姿がまさかひとに見られているとは気づきもしなかった。 だから、自分の浅ましい狂態を見つめている者が誰だかわかったとき、 その驚愕は恐怖に近いものでさえあったのだ。 思わず叫んでいた。 「あっ! だめっ! こ、ここへ来たら嫌っ、あっちへ、あっちへ行っててっ!!」 私の姿を見つめていたのは息子だったのだ。 |
☆NEXT ☆BACK |